七話
ギグルス国首都、アーシア
夜、怒るアリシアはメアを連れて首都にいた、複数のバトルシア人を奴隷として扱うノースフィアに関係がある、副大統領を問い詰める為に。
「アリシア!、アリシア!、待って下さい!」
メアは怒りのまま国会議事堂に乗り込もうとしているアリシアの手を引き、彼女を引き止めた。
「何よ!、あんたにこの国がどれだけ最低か見せてあげようとしてるんだから、邪魔しないで!」
「邪魔はしません」
「なら黙ってろ!」
「はぁ・・・」
怒り続けているアリシアを見てため息を吐いたメアは彼女をその胸の中に抱きしめる、アリシアは何故抱きしめられたのか分からず、首が動かない為、心の中で首を傾げた。
「そんな怒りながらあなたにとって敵のギグルスの国会に入ってどうするつもりです?、暴れて戦争でも起こすつもりですか?、あなたの帝国的にもまだ戦争を起こすには早いのではありませんか?」
「そうだけど・・・」
「ならまず大統領に会いましょう、今世間を脅かしているノースフィアと副大統領が関係あると話せば、副大統領を追い詰める為に協力してくれるはずです」
「あの男だって私を利用しようとしていた奴の一人よ!、そんな奴の協力なんて!」
アリシアは大統領の協力を得ようと言うメアの意見に反対した。
「ならこのまま馬鹿正直に突っ込んで戦争を起こして下さい、そしてあなたの国にも甚大な被害を出したら良いじゃないですか」
「・・・、分かったわよ、離して」
メアの言葉とメアに抱きしめられ大分落ち着いたアリシアは、メアに離れるよう言った。
「手を、大統領の部屋には入った事があるの、転移で行けるわ」
冷静になったアリシアはメアに手を差し出す、メアがアリシアの手を掴むとアリシアは大統領の部屋に向けて転移をした。
大統領の部屋
「私を暗殺しにでも来たのかね?、皇帝よ」
「それも良いかもね?」
部屋に入るなら嫌味を言って来た大統領、敵の言葉にイラっと来たアリシアは剣に手を掛けるが、そんなアリシアを見たメアがアリシアの後頭部を思いっきり叩く。
「イッタいわね!、何すんのよ!」
「落ち着けって言ったばかりでしょう!、馬鹿ですかあなたは!」
「誰が馬鹿よ!」
「あなたです!」
キーキー甲高く喧嘩をするアリシアとメア。
「私の部屋は喧嘩をする場所ではないぞ、用がないなら帰ってくれないかね」
大統領は静かに喧嘩をする二人にツッコミを入れる、それを聞いた二人はハッとした顔をし、引っ張り合っていた互いの頬から手を離すと、同時に咳払いをし大統領と向き合う。
「あなたの国の副大統領についての話よ」
「ジューベルがどうした?」
「彼はノースフィアに関係しています」
「なんだと?、詳しく聞かせてくれ」
ノースフィアは他国には少々の被害を与えているのにギグルス国には全く何もしない、その事を不思議に思っていた大統領は、ノースフィアについて調べていた、その為副大統領、ジューベルがノースフィアに関係していると聞き食い付く。
「今日ノースフィアのアジトを潰した時の話よ・・・」
アリシアはノースフィアのナスゥリア国のアジトのボスを殺す前に聞いた話を大統領にした。
「・・・、ついて来い、奴と話をしてみよう」
大統領オラセンは椅子から立ち上がると、二人の少女に自分に着いて来るよう言った、二人は頷くと、大統領の先導に従い副大統領の部屋に向かった。
副大統領の部屋
「入るぞ、ジューベル」
オラセンは扉をノックし扉を開けて中に入る、椅子に座って資料を書いていた大統領はアリシアの顔を見て椅子から跳び上がるかのように立ち上がった。
「な、な、何故皇帝がここに!?」
「彼女は君がノースフィアの関係者かもしれないと言う話をしに来てくれたのだ」
「わ、私がノースフィアの関係者!?、あり得ん!」
「嘘ね、私の魔眼は脳波を見れる、今あなたな脳は嘘を言った時の波長を見せたわ」
「!?」
「協力ありがとう、皇帝アリシア」
オラセンは歩きながらアリシアにカマをかけてみようとの提案を受けていた、その為、ジューベルを試してみたが、彼は見事にハマってくれた。
「さて、君はノースフィアの関係者と言う事が確定したが、君はどれほどの立場なのか、話してくれるかね?」
「チッ!、裏切り者の娘め!」
オラセンがジューベルに迫るが、彼はオラセンが迫り切る前に指を鳴らす、すると天井裏から二人の男が飛び降りて来た、地面に降り立った男達はアリシアに斬りかかる。
(この速さ、洗脳バトルシア人!?)
この日洗脳バトルシア人と戦っているメアは二人が洗脳バトルシア人なのだとすぐに理解する、同じく二人がバトルシア人と見抜いているアリシアは、俯きながら杖を取り出すとダークチェーンで拘束してから、魔弾で頭を撃ち抜き、二人を殺した。
「この二人はなんだ!?ジューベル!、私はこんな者達は知らんぞ!、大体お前はあの時だって勝手な事をし、その結果・・・」
「それ以上は言うな!、オラセン!」
洗脳バトルシア人について知らない様子のオラセンは何かを言いかけたが、ジューベルがアリシアの顔を見て焦った表情を見せながら言葉を遮る。
「・・・アンタ、私の顔を見て何に焦ってるの?、大統領?、今言いかけていた事を話して」
「・・・、君は以前会った時、私が君の両親を帝国に向かわせるようエンジェルズに依頼を送ったと思っていたな?、それは違うのだよ、あの依頼をエンジェルズに送り付けたのはジューベルだ、その理由は優れた戦力であった君の両親が軍を抜け、軍の戦力が減った事を恨んだからだ」
「貴様!、話すなと言っただろう!」
「つまり、私のお父さんとお母さんが死んだのはそいつが大元の元凶?」
「ああ、わたしは一人となった君を兵器として利用しようとはしたが、君の両親が帝国に向かうよう命令をした事実はない」
「へぇ・・・」
新たな両親の仇を目の当たりにしたアリシアは俯く、その顔は俯く事で長い髪が垂れ見えなくなった。
(魔力が膨れ上がって行っている!?、マズイ!)
メアはアリシアの魔力が膨れ上がって行くのを感じ、大統領の前に立つ、次の瞬間、アリシアの魔力が爆発し、部屋の内部をズタズタに破壊した。
「・・・」
アリシアの魔力が収まるといつの間にか現れていた三人目の洗脳バトルシア人が倒れる、アリシアを討つために隠れていたが、アリシアの魔力が膨れ上がるのを感じ、主人の盾となる為飛び出したのだ。
「良くやったぞ!、ゴミめ!」
「ゴミ・・・ですって?」
自分を庇ってくれたバトルシア人にゴミと言ったのを聞き、更に怒ったアリシアは顔を上げる、その顔は完全に怒り狂っており、目が紅蓮の炎のように光っている。
「ヒッ!」
アリシアの怒りを感じたジューベルは怯える、アリシアは剣を影の中から取り出すとジューベルに向けて斬りかかった。
「ヒィィィ!?」
激しい怒りの形相を見せながら迫るアリシアを見て、悲鳴を上げたジューベルは転移し逃げ果せた、アリシアの剣が虚しく空を斬る。
「ッ!、あああああ!!」
ジューベルを殺せなかったアリシアは再び魔力を撒き散らし怒りの叫び声を上げる。
ノースフィア本部
「よくも、よくも!!、裏切り者の娘めぇ!」
ノースフィアの本部に逃げて来たジューベルは壁を殴り怒る、そこにエルセームがやって来た。
「これはこれは総司令殿、如何致しました?」
「皇帝に私の正体がバレた!、すぐにでも、私がノースフィアの関係者だと世界中に公開され指名手配されるだろう!、チッ!、裏切り者の娘のせいで私は一切の身動きが出来なくなった!、許せん、許せんぞぉぉ!」
「状況は把握しました、ならば私どもが皇帝を討ち、我等があなた様のあの女への恨みを晴らして見せましょう」
「当然だ!、このままでは愚かな宗教になどに頼るこの世界を変える事が出来なくなる!、その一番の障害であるあの女はいち早く排除すべき存在だ!」
「分かっております、お任せ下さい」
エルセームはジューベルに頭を下げると、ノースフィアの資金源の一つであったギグルスの代わりに最大の資金源となる、とある国に連絡を掛けた。
副大統領の部屋
「はぁはぁ・・・」
魔力を撒き散らし続けある程度落ち着いたアリシアは息を整え続ける、そこにメアが近付き手を握った。
「ねぇ分かったでしょう?、メア、ただ軍を辞めただけのお父さんとお母さんを恨み、帝国に行かせ殺させたこんな国を許しちゃいけないって」
「・・・」
落ち着いたかと思ったら涙を流すアリシア、メアは不安定な彼女を抱きしめた、すると少女はメアの胸の中で声を上げて泣き始める。
「・・・、ジューベルの行方を私も調べよう」
大統領は泣くアリシアにジューベルの行方を探すと提案して来た、それを聞いたアリシアはメアの胸から顔を上げ大統領を睨み付ける。
「お父さんとお母さんを殺しただけじゃなく私を兵器にしようとした、こんな国の大統領の手なんて誰が借りるものですか!」
涙を流しながら叫んだアリシアは大統領に背を向けると転移して行った。
「アリシアはああ言いましたが、私から協力をお願いします、あなたの国の情報力と帝国の情報力があれば、かなり有利になると思いますので」
「分かった、何か分かれば君の端末に連絡しよう」
「はい、取り敢えず、この国を調べてください、三つもアジトがある時点で本部もある可能性が高いです」
「了解した」
大統領の協力を得たメアは帝国に向けて転移する。
皇帝の寝室
メアはニアやアイリーンにアリシアの居場所を聞き、この寝室にいると聞いたので部屋に入る、するとベッドの上で泣いているアリシアを見つけた。
「アリシア?」
メアに名前を呼ばれたアリシアは顔を上げる、その顔は涙でぐちゃぐちゃだった、そんな彼女を見たメアはゆっくりと近付くと頭を撫でる。
「メア・・・、メア・・・」
メアに頭を撫でられるアリシアはメアに抱き着くとメアの名前を何度も呼ぶ、その姿は幼い子供のようだ。
「大丈夫ですよ、アリシア、私がそばにいますから、だから安心して下さい」
「うん・・・」
弱々しくメアの言葉に返事をしたアリシア、メアはそんな彼女の髪と背中を優しく撫で続ける、するとアリシアは安心した様子で眠りに就いた。
「メア様、お母様の事ありがとうございます」
「良いのです、今日はこのままアリシアと共に眠りますね?」
「はい、お願いします」
メアにアリシアを任せたアイリーンは、小さく会釈してから部屋から出て行く。
「メア?、メア?、どこ?」
アリシアの手がメアを探し彷徨い、それを見たメアは彷徨うアリシアの手を取る、するとアリシアは安心したように健やかに眠り始める。
「絶対にあなたを独りになんてさせませんから、だから安心してくださいね、アリシア」
アリシアの隣で横になったメアはアリシアの手を優しく握りながら、孤独な少女と共に夢の世界に旅立って行った。




