二話
朝、客室
鳥の囀りが聞こえてくる心地よい朝、メアが目を覚まして身を起こした。
「ん、うーん・・・、!?」
身を起こして目を開けたメアは隣を見る、するとそこには心地好さそうに寝息を立てるアリシアがいた。
「ん、あらおはよう、メア、昨日は気持ち良さそうにしてたわね?」
「!?」
何故アリシアが自分のベッドにいるのだと焦るメアは、目を覚ましたアリシアの言葉を聞き完全に混乱する。
「な、な、な、な、な、何を言ってるんです!?、私達何もしてませんよね!?」
「いいえ?、したわよ?」
「な、何を!?」
「一緒に気持ち良くこのベッドで眠ったじゃない」
「あー、そう言う・・・」
ここでようやくアリシアに揶揄われているのだと理解したメアは、ホッとため息を吐く、アリシアはそんなメアを見てクスクスと笑った。
「・・・」
メアが一人安心していると、アリシアはベッドから降り手を叩く、するとメイド達が入って来てアリシアを着替えさせ始めた。
(もう完全に王様なのですね、アリシア)
この光景を見て友であった少女が一国の王なのだとメアは再認識する、そして幼い頃の自分も同じように着替えさせられていた事を思い出し懐かしくもなった。
「ありがとう、朝食を用意しなさい、二人分ね」
着替えが終わり部屋に備え付けられている椅子に座ったアリシアは、メアを手招きし椅子に座るように促してから、メイドに朝食を用意するように言った、それを聞いたメイド達は会釈すると朝食を作る為に部屋から出て行く。
「あの・・・、アリシア、これから灯理さんかリーフィアさんが来て、私の鍛錬をしてくれるのですが、お庭を借りてもよろしいですか?」
「好きになさい」
「ありがとうございます」
「その代わりあなたが鍛錬する様子を見せて貰おうかしら」
「良いですよ」
メアはアリシアが自分の手の内を探る為にも、自分の鍛錬の様子を見たいと言ったのを理解している、それでももう一度友となりたいと思っている少女に隠し事はしたくない、だから拒否しなかったのだ。
「何?」
アリシアの事を考えていたメアはついついアリシアの顔をジーと見つめてしまっていた、それに気付いたアリシアは不思議そうに首を傾げる。
(少し前なら顔を見つめるだけでも嫌そうな顔をされたのに・・・、愛理さんのお陰ですね、本当にありがとうございます、師匠、後はこのチャンスを活かすだけです)
「ふふ、なんでもないです」
愛理の言葉を聞いてからメアへの態度が明らかに変わっているアリシア、愛理がアリシアに話したその内容を灯理から聞いているメアは、今のアリシアなりに自分に歩み寄ろうとしてくれているのだと思い、愛理に感謝する。
「陛下、そしてメア様、朝食をお持ちしました」
暫しの無言の時間、アリシアは窓から見える空を見つめ、メアは着替えをしていると、メイド達が部屋に戻って来て、朝食を机の上に置いた、メニューはハンバーグを挟んだサンドイッチにコーヒーだ。
(あ、朝から高級ですね、さすが皇帝・・・)
「ありがとう」
メアが朝食の高級さに驚いていると、アリシアはサンドイッチを手に取り、食べないの?と言った視線をメアに送ってくる、それを見たメアは椅子に座り直し、アリシアと共に朝食を食べるのだった。
アトリーヌ城、庭
前日はお茶会をした庭にメアはやって来た、手を繋ぎましょう?と言って来たアリシアと、手を繋ぎながら、そこにキョロキョロと周囲を見渡す一人の金色の九尾がやって来る、灯理だ。
「取り敢えず、魔力を探ってここまで来たけど、その子がいるって事はここは帝国なんだね」
「そうよ、不法侵入者さん?、普段なら即刻逮捕するけど、何もしなかった事感謝なさい」
帝国の監視網は厚く、灯理が転移して来た時点でアリシアにどう対応するか連絡が来ていた、それを聞いたアリシアは何もせずここまで通せと言っていた。
「はいはい、ありがとうございます、皇帝陛下、それじゃメア、今日も鍛錬しよっか」
「はい」
メアが頷いたのを見た灯理は左手に持っていた木刀をメアに放り投げて渡す、メアは木刀を掴み右手で握ると構えた、灯理もそれを見て木刀を構え、二人はメアの剣術を磨く為の打ち合いを始める。
(流石は愛理さんの弟子って所かしらね、そっくりそのままの剣術だわ、そしてメアの剣術も似て来ている、まっこうやって毎日鍛錬してるのでしょうから、似るのは当たり前だけど)
二人の鍛錬の様子を見るアリシアは自分の剣術と灯理やメアの剣術の比較を始めた、自身の剣術は大元はメッシュの剣術だ、今は亡き彼の剣術はアリシアの父オーグルから教わった正当な騎士剣術だ、その為アリシアは知らず知らずのうちに父の技を引き継いでいたのである、ボスにアリシアを鍛えても良いがその事を伝えるなと言われていたメッシュが教えれなかった為、アリシアは知らない事だが。
対するメアの剣術は久城家が久城明日奈と言う元時の神である女性から引き継ぎ続けて来た、喧嘩スタイルな剣術である、四肢全てを使い、急に殴ったり蹴りを繰り出したりするこのスタイルは、敵にとってはどう攻撃してくるか全く予想が付かない為、かなり強い。
「メア、魔力は使っちゃダメだからね!」
「分かってます!」
久城家の喧嘩スタイルな剣術を磨く為にもメアは魔力を使うなと二人の先輩に言われている、魔力を使えば身体能力を上げる事が出来、相手よりも身体能力が高くなればゴリ押しが通じる、しかし剣術を磨く為のこの鍛錬でゴリ押しをしても技量は上がらず無意味な為、魔力や使用は禁止なのだ。
(魔力を使わないと、メアはどうしても技量で負けて不利になるのね、まっまだ剣を使い始めてから半年も経っていないのだから、仕方ない事だけれど)
長年、剣を握って戦い続けて来た灯理は魔力を使わないこの鍛錬ならメアを余裕で圧倒出来ている、対するメアは自身の攻撃を全て防がれ灯理の攻撃は全て受けてしまうという悪循環に陥ってしまう、どうにか攻撃を当てようと、灯理の懐に踏み込もうとしても、容赦のないアッパーが飛んで来て顔に命中し、無理矢理に下がらされる。
(でも確実に技量は上げている、この調子ならいつか私にも追い付くでしょうね、なら追い付かれないよう、私も鍛錬をする、それだけよ)
アリシアはメアに負けるつもりはない、だからこそ自身も鍛錬をし、更に強くなろうそう思った。
「よし!、今日はここまで、お疲れメア」
「はい・・・、お疲れ様です」
鍛錬が終わったようだ、肩で息をするメアは尻餅を着く、灯理はそんなメアを労い、ペットボトルの水を放り投げるとメアは受け取りゴクゴクと水を飲む。
「確実に良くなってるよ、だから頑張ろうね、メア」
「はい!」
先輩に良くなっている、そう褒められたメアは嬉しそうにする、それを見て灯理は優しく微笑んだ。
「メア、終わったのなら私に付き合いなさい、帝都を案内してあげる」
「分かりました、行きます」
「おっいいねー、私も行っていい?」
「まぁいいけど?」
「やったね!」
アリシアに着いて来てもいいと許可をされた灯理は尻尾を振りながら嬉しそうにする、メアはそんな先輩を見てクスクスと笑いながら立ち上がると、アリシアに向けて手を差し出す。
「それじゃ行きましょう?、アリシア」
「ええ」
アリシアは恐る恐るだが、その手を取り二人は手を繋ぐと、灯理と共に帝都に出掛けて行った。




