二十三話、暗黒龍バハムート
ノースフィアによる初めての攻撃が行われてから十五日の月日が流れていた、この十五日間、ノースフィアの攻撃はなく、アリシアはそれを好機として闇の遺跡を周り、自身の力を十九段階目まで解放していた。
皇帝の寝室
アルムスは後半月後に自身の妻となる、スヤスヤと眠る少女を見つめていた。
「私の事が好きでも寂しさは消えていないか・・・」
愛理の言葉を聞き心境に少し変化のあったアリシアは、アルムス達に自分の気持ちを話していた、それは十五年掛けて作られた孤独感がどうしても消えてくれないのだと言う事だ。
「お前はやはりシアに似ているよ」
シアとは十一年前に亡くなったアルムスの前妻でニアの母親だ、十一年前にアルムスは移動中に交通事故に遭っており、その時の事故で戦闘能力と妻を失っていたのだ、そして前妻シアもどこか寂しそうな様子を感じさせる女性であった。
「だからこそ、私はお前を愛したのだろうな・・・」
そう言ってアルムスは眠るアリシアの頬に触れる。
「お休み、アリシア」
アリシアの頬から手を離したアルムスは横になり、夢の世界に旅立って行った。
中庭
「来なさい、レグルスフレイム、エピオノール、オベロウス、イーグレイム、そしてライアーンにスーレウム!」
アリシアは現在契約をしている六体の魔の者を呼んだ、レグルスフレイムは炎を発する巨大なゴーレム、エピオノールは青色のサソリ、オベロウスは赤い巨人、イーグレイムは黄色いフェニックスだ。
「やぁご主人、何か用かい?」
イーグレイムがアリシアに用を聞いてきた。
「ええ、私はこれより力の完全開放を行うわ、それにより私はメアに少し劣る程度の力を手に入れれるわ」
「素晴らしいっ!、ではないかっ!、剣や魔法の技量ではアリシア殿の方が圧倒的に上っ!、少し出力が劣る程度っ!、問題ではあるまいっ!」
言葉の最後が尻上がりになる変な喋り方をするオベロウスが、メアより少々出力が劣っても問題ではないと言う。
「そうね、あの子が技量を身に付けるまでは私があの子に負ける事はなくなるでしょう、それは今の時点でも言える事だけどね」
実際、メア達は宣言通り闇の遺跡を回るアリシアの邪魔をしてきた、しかし、十五段階目まで力を開放した時点でアリシアはメアに傷付けられる事はなく、余裕でメアを打ち倒せるようになっていた、その為、アリシア自身もメアに負ける事は暫くはあり得ないと思っている。
「ただ、ゼロのスタイル使いの出力の高さを舐めてはいけないよ?、アリシア」
「分かってる、油断はしない」
「それなら良いわ、アリシアちゃん、さぁ、彼に会いに行きましょう?」
レグルスフレイムが言う最後の闇の者、その名はバハムート、初代皇帝ゾフィディアが一番信用していた魔の者にして、最高の実力を持つ漆黒の龍だ、帝国の国旗に描かれている龍もバハムートの姿を描いた物であり、帝国の象徴とも言える龍である。
「ええ」
最強の龍に打ち勝ち、力を完全なものとするつもりのアリシアは力強く頷くと、アルムスが探し場所が判明した二十箇所目の闇の遺跡に、イーグレイムに乗って、一人向かって行った。
最後の闇の遺跡
イーグレイムから降りたアリシアは最後の闇の遺跡の前に立っている、暫く遺跡を見つめていたアリシアは意を決して遺跡の中に入ろうとするが、背後から航空機の音がした為、振り返るそこにはアリシアがいつ現れても良いように上空にいてアリシアが帝国から移動した瞬間にこの場所に移動して来たのだろう、かなりの速度でこの場所に急行するメサイヤがいた。
メアはメサイヤを着陸させると、仲間と共に機体から降りてくる。
「ねぇメア、私にあなたはもう勝てないのを十分に理解させてあげたと思うのだけれど?」
今のアリシアは、メアの事をアンタではなく、あなたと呼ぶ、これも愛理の話を聞いた結果の変化の一つだ。
「そうですね、悔しいですけどその通りです、でもあなたが力を手にすれば、戦争を起こそうとしているあなたを止める事が難しくなる、だから止めるのです!」
そう行って剣を引き抜いたメアは仲間達と共にアリシアに攻撃を仕掛けるが、それを見て冷たく笑ったアリシアは六体の魔の者を全て召喚した。
「あなた達の相手はこの子達にして貰うわ、私を止めたいのならば、まずはこの子達を倒してみせなさい」
メア達の相手を六体の魔の者に任せたアリシアは、メア達に背を向けると闇の遺跡に入って行く。
「くっ!、みんな!、一刻も早く彼等を打ち倒しアリシアを追いますよ!」
「おう!」
メア達は六体の魔の者との戦いを始める。
闇の遺跡、内部
己の力が完全なものになると言う高揚感に包まれているアリシアは、足早に長い通路を進み、扉の前にまでやって来た、早速扉に触れ魔力を吸わせると扉が開く、アリシアは開いた扉を通り部屋の中に入った。
「お初にお目にかかるわね?、バハムート」
「あぁ・・・、待っていたよ、ゾフィディアの子孫よ、さぁ、契約の儀を行おうじゃないか、私をお前に屈服させてみろ」
「ええ」
激しく咆哮を上げるバハムートを見てアリシアは剣と杖を構える、そして駆け出すとまずは挨拶として、バハムートの顔を蹴り上げた。
「グゥゥ!、素晴らしい蹴りだ!、流石はゾフィディアの子孫だな!」
バハムートはアリシアの蹴りを褒めると自由落下中のアリシアに向けて口からブレスを放った。
「ふふ」
アリシアは剣に魔力を纏わせるとその場で回転をし、ブレスを打ち消した、そして地面に着地をしたアリシアはダークライジングマグナムを、バハムートに打ち込む。
「はぁ!」
バハムートは腕を振るってマグナムを打ち消すと、巨大な剣を召喚しアリシアに向けて振り下ろす。
「ツゥゥ!」
振り下ろすスピードの速さに動けなかったアリシアは剣と杖でバハムートの剣を受け止めるが、振り飛ばされ壁に激突する、壁に激突したアリシアは口から血を吐いた。
「うぉぉ!」
バハムートは更に壁に激突したアリシアに向けて蹴りを放つ、蹴りを避けることの出来なかったアリシアが壁の中に埋まる。
「はぁはぁ・・・」
たった二回の攻撃を受けただけで大ダメージを負ったアリシアは、バハムートを流石はゾフィディアの相棒だと認める、そして自身も相棒として彼が欲しくなった、邪悪な笑みを見せるアリシアは体を奮い立たせ立ち上がると、バハムートに斬りかかる。
「ハァァァ!」
「うぉぉ!」
アリシアとバハムートが同時に剣を振るい、二本の剣がぶつかり合い衝撃波が部屋の中を破壊する、二人はそんな事など気にせず、アリシアはブラスター、バハムートはブレスを放ち、アリシアがどうにか打ち勝った。
「やるなぁ!」
アリシアのブラスターを喰らいダメージを受けたバハムートは、アリシアを掴むと地面に叩きつけた、そしてアリシアを何度も踏み付ける。
「くっ!、ううう!」
バハムートに踏みつけられどんどんとボロボロになり血だらけになるアリシア、それでも恨みを晴らす為に力を求める少女は、バハムートが足を振り上げた瞬間に腕を振りかぶり、全力の斬撃で振り下ろされたバハムートの足を押し返した。
「くっ!」
足を押し返されたバハムートの姿勢が崩れる。
「これで終わりよ!、ダークライジングブレイカー!」
闇と雷の大剣を出現させたアリシアは、天井を破壊させつつ大剣をバハムートに向けて振り下ろす、その巨体からブレイカーを避ける事が出来なかったバハムートはまともに斬撃を喰らい、地面に倒れた。
「くっ、ククク、俺を倒したか、ゾフィディアの子孫よ、いやアリシアよ、お前を認めよう、そして完全なる力に目覚めるといい!」
自分を打ち倒したアリシアを認めたバハムートはアリシアに向けて手を向ける、その瞬間、アリシアの手のマークが19から20にへと変わり、アリシアの力は完全なものとなった。
「ふっふふふ、あははは!、凄い凄いわ!、これが完全な私!、この力があればこの世界は私のものにできる!」
圧倒的となった自身の力に酔いしれるアリシアの元に、メアがやって来る。
「遅かったのですか・・・」
バハムートが倒れており、アリシアが楽しそうに笑っているのを見たメアはアリシアの力が完璧なものになった事を察した。
「ええ、私は完全な私となったわ、残念だったわね?、メア」
笑うのをやめメアの方を見たアリシアはメアに近付く。
「ふふ、でもこれで私を邪魔する理由はなくなったわよね?、メア?」
「そう・・・ですね」
アリシアが全ての闇の遺跡を攻略したのならば、確かに今の所はメアにアリシアを邪魔する理由などない、なのでメアは苦々しそうな表情を見せつつ頷いた。
「そっ、なら私とあなたはノースフィアを潰すまでの暫くの間は完全に味方ね?、ふふっ、よろしくね?メア」
アリシアは微笑みながらメアに手を差し出す。
「・・・、よろしく」
メアはその手を取り握手をした。
「それじゃ、先に行っておいてくれる?、少し彼と話があるの」
「はい・・・」
メアは悔しそうな表情を見せながら部屋から出て行く、それを見送ったアリシアはバハムートの方を向く。
「ふん、俺との話などないのだろう?」
「勿論」
「なら帰るぞ」
「ええ」
バハムートとの話があるとアリシアは言ったが、メアを部屋から追い出す為の建前である、主人が自身との話などないと言ったのを聞いたバハムートは魔の者達が住まう空間にへと消えて行った。
「さて、戦争の準備をもう一つ完璧にしましょうか」
右手で杖を構えたアリシアは龍脈の解放をし、戦争の準備をまた一つ済ませる。
遺跡、入り口
「待たせたわね」
「いえ」
遺跡から出て来たアリシアはメアの待たせた事を謝る、メアはそれを聞いて首を振った。
「それで?、どこに行くんだ?、アリシア」
「帝国よ」
「俺達を帝国に招き入れても良いのか?」
「構わないわ」
メア達を帝国に招き入れたとしても、たった数人で何か出来るとはアリシアは思っていない、その為招き入れる事に何の躊躇もないのだ。
「それじゃあ行きましょう?メア」
「はい」
アリシアはメアに行こうと言いメアが頷く、再び手を繋いだ二人はメサイヤに乗り込み、帝国に向かうのだった。
第二部、五章、皇帝と闇の遺跡編、完
次回からはノースフィアとの戦い編です




