二十二話
ソソンガの町
メアがアリシアの胸に顔を埋めて泣き叫んでいる。
「えっ?」
その時だ!アリシアの腕が動き、メアの肩を掴んだ、メアがアリシアの顔を見ると先程まで閉じられていた目が開いている。
「くっ、許さ・・・ないわ・・・よ、あの女め・・・」
メアの肩を支えに使いフラフラと立ち上がったアリシアはどこかに行こうとするがまた倒れる、メアはアリシアが死んでいない事に驚きつつも倒れた彼女を慌てて助け起す。
「驚きました、心臓を失ったのに死んでないなんて・・・」
「もう一人の私は無理なタイムトラベルをしたせいで普通の吸血鬼の体ではなくなっただけ、通常の吸血鬼は心臓を失ったくらいでは死なない・・・、でもこのままでは灰になってしまう、ダメージを喰らいすぎてるからね・・・」
吸血鬼が死ぬ時、それは体を完全に消滅させられるか、灰になった時に聖水を振りかけられるかだ、アリシアは負けたのは悔しいがピーナがそのどちらも知らなくて助かったと思う。
「私が灰になったら、灰を瓶にでも詰めてもう一人の私の元に届けなさい、同じ血を持つ彼女の血ならば恐らく一瞬で復活出来るわ」
「・・・、分かりました」
「ふふっ、瓶に詰めた私を海に沈めても良いのよ?、そうすればこの世界を支配しようとしている皇帝を永遠に封印出来る」
「友達にそんな事しません」
「フン、甘いわね、折角の私を倒すチャンスなのに」
「倒すつもりもないです、私はあなたの心を救うのですから」
「ふふ、出来もしない事をまた言っ・・・て・・・」
最後にメアに向けて微笑みかけたアリシアは、灰になった、そこに灯理とリーフィアがやって来る。
「その灰、もしかしてアリシア?、今のあの子を倒すなんてどれだけ強い奴がいたんだろ・・・」
灯理とリーフィアはアリシアが灰になっているのを見ても焦らない、その理由はワールドセイバーには結構な数の吸血鬼がいて、その体の特徴をよく知っているからだ。
「さぁ分かりません、復活した後にでも聞きましょう」
メアはバックから水筒を取り出すと中身を捨て中の水気をしっかりと拭き取ってから、灰となったアリシアを水筒の中に詰め始めた。
「先輩方、私を未来のアリシアの元に連れて行って下さい」
「その子を救う事になる事は気に入りませんが、あなたの頼みなら仕方ないですね、行きましょう」
リーフィアがメアに手を差し出す、メアはその手を取る、その瞬間リーフィアは地球に向けて転移し、灯理はメサイヤの中のゼウスを奪われる危険性を考え、メサイヤを回収し機体と共に転移しギグルスに戻してから後を追う。
レベンと愛理の家
「・・・、私め、負けたな?」
ザワザワと胸騒ぎを感じる未来のアリシアは今の自分が負けて灰になった事を察した、今の自分が消えれば自分も消えるだろう、そう考える消えるつもりのない未来のアリシアは自分を助けに転移しようとしたが、その前に水筒を手に持ったメアとリーフィアが部屋にやって来た、灯理が更に数秒遅れて部屋に転移して来る。
「その中に私が?」
「はい、これしか詰めれるものがなかったので、こんな物の中に入れてしまいました、怒るでしょうか?」
「うん確実に・・・」
「よし!、これに詰めた事にしよう!」
そう言って灯理が持って来たのは愛理が貰った高級な仕立ての良いお菓子の箱、要するにこれに詰めた事にして誤魔化そうと彼女は言っているのだ。
「このくらい正直に言いますよ・・・、それではアリシア、お願いします」
そう言ってメアは近くにあった新聞紙を床に広げ、灰となったアリシアをその上に撒く、それを見て頷いた未来のアリシアはナイフを手に取る。
「あの時、見逃して貰った借りがあるからね、助けてあげるわ、私」
そう言って未来のアリシアは指をナイフで斬り、血を振りかける、すると灰となったアリシアから黒い光が発せられ、次の瞬間にはドレスは破れているが、無傷のアリシアが立っていた。
「御機嫌よう、私」
「・・・、ええ御機嫌よう、助けてくれてありがと・・・」
「んー?、聞こえないわねぇ、もう一回言ってくれる?」
「・・・」
小さな声でお礼を言って来る今の自分に聞こえないからもう一回お礼を言えと言う未来のアリシア、それを聞いた今のアリシアはプイッとそっぽを向く、それを見て未来のアリシアはクスクスと笑った。
「・・・、あなた達に借りができたわね」
そっぽを向くアリシアは横目でメア達をチラリと見て借りが出来たと言う。
「良いですよ、気にしなくて」
「あなた達が気にしなくても私が気にするのよ、何故なら私は誇り高き帝国の皇帝、他人から施しを受けたのなら、借りを返さなければ皇帝の名が廃る、でも、私、借りの返し方なんて分からないの、どうすれば良いのかしら・・・」
そう言ってアリシアは不安げな視線をメアに送る。
「・・・」
メアは不安げなアリシアに近付く、するとアリシアはピクリと身を震わせた、メアはそれを見て優しく微笑みかけるとその胸にアリシアを抱きしめた。
「借りを返したい、その気持ちだけで良いんです、それだけで私達は嬉しいのですから」
「そう・・・なの?」
「はい」
「私には・・・よく分からないわ・・・」
アリシアは何故か流れ始めた涙を隠すようにメアの胸に顔を埋める、メアは涙を流すアリシアの心を癒すためにも優しく抱きしめ頭を撫で続けた、未来のアリシア達は優しくその様子を見つめ続ける。
「・・・、失態よ!、何をやってるのかしら私は!、これは最大の失態よ!」
メアの胸の中で泣き続けていたアリシアはふと正気に戻り、メアを突き飛ばすと部屋の隅に行き、失態だ!失態だ!と一人で騒いでいる。
「まぁまぁ」
遠く離れてしまったアリシアとの距離を少しだけ詰めれたと思っているメアは、アリシアに近付くとポンポンと肩を叩く、するとアリシアは猫のような動きでその場から飛び退き、シャー!とメアに威嚇する。
「猫ですかあなたは、ほらおいで?、また抱きしめてあげますから」
「・・・お断りよ!」
「・・・」
ツーンとそっぽを向きお断りだと言うアリシア、メアはこちらを向いていない事を良い事に、アリシアに近付くと、自分からアリシアを抱きしめた。
「なっ!?、何よ!」
「ふふ、なんでもありません、ただあなたを抱きしめたい、それだけです」
そう言ってメアはアリシアの背中を優しく撫でる。
「やめて!」
しかしアリシアはメアを突き飛ばし、メアを離させた。
「私を裏切ったあなたが、私に近付こうとしないでよ!」
俯いて泣きながらそう言ったアリシアは、部屋から出て行った。
「追わない方が良いのでしょうか・・・?」
メアは未来のアリシアに彼女を追わない方が良いのか聞く。
「ええ、一人にしてあげて」
「分かりました」
同一人物である未来のアリシアの意見を聞いたメアは、アリシアを追わない事にし、暫くの間この場所に戻って来るかもしれないアリシアを待つ事にする。
「そういや、何に詰めたのか聞かれなかったね」
「・・・、今のうちに隠しておきます」
「そうしておきなさい、水筒になんて詰めたって言ったら、私、絶対に怒るから」
「はい」
レベンと愛理の家近く
行く当てもなく、アリシアは自分にとっては異世界であるアメリカの住宅街の中を泣きながら歩いている、少し見渡すだけで、アリシアにとっては不思議な形の家や車が見えた。
「?」
涙で濡れる瞳で顔を上げるとそこには信号機、青と赤の表示が出ているが、ギグルスにあった信号機とは仕様が全く違う為意味がわからず首を傾げる、その為、赤信号になった所で渡ろうとするが走って来た車にクラクションを鳴らされビクリと肩を震わせる。
「何よ!うっさいわね!」
クラクションを鳴らして来た車にアリシアは文句を言うが、運転手は聞いておらずそのまま去って行った。
今の出来事のお陰で涙が止まったアリシアは今度は青信号になってから歩道を渡り、またブラブラと町中を歩く。
「ママー?またあの人、お姫様みたい、でも服破れてる・・・」
「そうねー」
「・・・」
前から歩いて来て隣を通り過ぎた親子の会話を聞いたアリシアは自分の服を見て破れているのに気付く、異世界で魔法を使っているのを見られるのはマズイだろうと思ったアリシアは物陰に入ると、魔法で服を先程の親子の母親の方が着ていた、Tシャツとジーンズと言う格好に変えた。
「これで良しと」
この格好ならこの世界でも違和感がないだろう、そう判断したアリシアは道を行き都市部に出た、そこには沢山の車と人々、アリシアは初めて見る異世界の都市部に驚き、呆然と見つめる。
(私の世界とこんなに違うものなんだ・・・)
異世界観光を楽しみ始めているアリシアは、楽しげな様子で町を歩く。
ワールドセイバー地球支部近く
地球支部に用があった愛理は支部から出る、その用とは未来のアリシアの心臓の件について聞く事だ、しかし何も進んでいないと言われた愛理は少し落ち込みながら支部から出ると、アリシアが歩いていた。
「!?」
愛理は思わず二度見する、愛理の視線に気付いたアリシアは愛理を見て固まる、その理由は最大の敵と出くわしたからだ。
「何をしてるの?」
愛理はアリシアに近付くと何をしているのか聞いた、アリシアは仕方なしにこの世界にいる理由を話した。
「そっか・・・負けたんだ、それで復活する為にこの世界にいる未来のアリシアの血を貰って復活したんだね、体、大丈夫?」
「ええ、問題ないわ」
「そっか、なら良かった」
とある店を見つけた愛理はアリシアを手招きする、アリシアは首を傾げてから愛理について行く。
「ここのホットドッグのお店はさ、何代にも渡って続いてるお店なんだ、私のお婆ちゃんも通ってたお店なんだよ?」
「それがどうかしたの?」
「なんでもないさ、ただあなたに美味しいものを食べて欲しいなって思ってね、おじさん二つお願い」
「はいよ」
ホットドッグ屋の店主は注文通り二つのホットドッグを愛理に手渡す、受け取った愛理は片方をアリシアに渡す。
「さっ、食べよう?」
「ええ」
アリシアはホットドッグを一口食べ目を見開く、たしかにとても美味しいのだ。
「えへへ、美味しいでしょう?」
「ふ、フン!、こんな物、私の城のシェフなら!」
「意地っ張りだなぁ」
意地を張るアリシアをクスクスと笑った愛理は美味しそうにホットドッグを食べる、アリシアもホットドッグを食べ進めあっという間に食べ終わった。
「アリシア、一つだけ言っておくね?」
「何よ」
「君は独りじゃないよ」
「・・・、違うわ、私は独りよ、小さい頃からずっとね」
そう言ったアリシアの瞳は暗い。
「本当にそう?、じゃあ君が思ってるアルムスって人への想いは嘘なんだ、好きじゃないんだね?、それにアイリーンやニアって子も好きじゃないのにあなたの娘にしたんだね?、」
「・・・、好きよ、アルムスの事もアイリーンの事もニアの事も・・・、それでもどれだけ好きだと想っても私の中の寂しさは消えないの、どうやっても・・・」
「そっか・・・」
愛理は寂しそうに俯くアリシアを抱きしめる、アリシアは嫌がりはせず愛理を受け入れた。
「ねぇ・・・師匠、私、どうしたら良いの?、分からないよ・・・」
愛理に抱きしめられるアリシアはまた泣き始める、その姿は幼い子供のようだ。
「そうだねぇ、君を想ってくれるみんなを受け入れれば良いんじゃないかなぁ」
「・・・、それってつまり、メアを受け入れろって言っているの?、私を裏切ったアイツを?」
「うん」
「そんなの無理よ・・・」
先程、メアに抱きしめられていた時、アリシアの中には確かにメアを受け入れても良いかもしれないと言う気持ちはあった、しかしすぐにホテルの中での会話がフラッシュバックし、その想いは憎しみの炎に焼かれて消え失せてしまった、だからこそアリシアは思う自分にメアを受け入れる事なんて無理だと。
(この子を救えるのはやっぱりメアだ、その為にはこの子がメアを許せるようにしてあげないといけない、でもどうすれば良いのかな・・・、私にもまだ分からないな・・・)
愛理は涙を流すアリシアを抱きしめながら、アリシアがメアを許せるようになる方法を考える。
レベンと愛理の家
愛理はアリシアの手を引き、家に戻って来た。
「お帰りなさい、アリシア」
メアが一番にアリシアを出迎える。
「帰るわよメア、ノースフィアを放っておかないわ」
アリシアはメアに手を差し出し帰ると言った。
「はい」
メアはその手を取り二人は手を繋ぐ、メアはアリシアと手を繋げたそれだけでも嬉しく思う。
「師匠、今日はありがとう」
「うん、いつでもおいで」
「うん」
愛理は礼を言ってくるアリシアに近付くと頭を撫でる、アリシアは愛理に撫でられて柔らかく微笑むと、メアと共に転移して行った。
「愛理さん、ありがとう」
「良いんだよ、もう一人のあなたの心を救う為さ」




