十七話
メアの夢
メアは夢を見ていた、アリシアがまだエンジェルズにいた頃の夢を。
『うっ、うう・・・』
朝早く、啜り泣く声を聞いてメアは目を覚ました、隣のベッドを見るとアリシアが両親の写真を見ながら小さく身を震わせている。
(アリシアが泣いている・・・?、あんなに明るくていつも笑顔なアリシアが・・・?)
メアはそれを見て驚く。
『・・・、アリシア?』
メアは泣いているアリシアに恐る恐ると声を掛ける、するとアリシアはピクリと肩を震わせ、暫く経ってから振り返る。
『なぁに?』
振り返ったアリシアはメアが知るいつもの笑顔を見せた。
『い、いえ何でもありません・・・』
メアはアリシアの笑顔を見て泣いていたのか?と聞くことが出来なかった。
アリシアとメアの部屋
「・・・」
目を覚まし身を起こしたメアは隣のベッドを見る、そこにはかつて一人静かに泣いていた少女の姿はない、いるはずがない、必死になって自身の心の闇を隠し続けていた少女は自身の心の闇に呑まれ、今は皇帝となってしまっているのだから。
(・・・あの時、私が泣いていたのですか?、
と聞く事が出来ていれば・・・)
メアは既に理解している、アリシアの笑顔は本当の笑顔であった事は少なく、その大半が偽りの笑顔だったのだと、メアは後悔する、アリシアに一言声をかける事が出来ていれば、違っていたかもしれないと。
「・・・、今更後悔しても遅いですね」
しかし、メアが言葉に出した通り、今更後悔しても遅い、ならメアに出来る事は・・・?。
「アリシア・レイティス、あなたと言う存在が、私が向き合うべき罪です、ならば私は絶対に逃げたりなどせず、あなたと向き合い続ける、そしてあなたの闇を打ち消す光となる、またあなたの本当の笑顔を見る為に」
アリシアの本当の笑顔をまた見たい、そう思うメアはアリシアと戦えるだけの力を得るべく、灯理とリーフィアの元に向かう。
「先輩方、今日もお願い・・・」
「メアちゃん!、これ見て!」
「何ですか?」
「いいから早く!」
メアが稽古を付けて貰いに二人の元に来ると、携帯端末で映像を見ていた二人が慌てて、メアに映像を見せてくる。
「こ、これは・・・!?」
メアが見た映像は、ノースフィアの声明であった。
『我々は間違ったこの世界に対し、宣戦布告をする、その理由はこの世界に宗教など必要ないからだ、我々が愚かな宗教などに頼るお前達を浄化しでやろう』
黒いフードを着て口元だけが見えているノースフィアのリーダーらしき者が、世界に対し宣戦布告をした、リーダーらしき者が最後に怪しく笑った後、映像は途切れた。
「・・・、メアちゃん、浄化ってどんな方法でやるんだと思う?」
「恐らくは・・・」
灯理に質問されたメアは既に考えていた答えを灯理に話して聞かせる、すると灯理は正解だと頷いた。
アトリーヌ帝国、皇帝の部屋
同時刻、ネグリジェ姿でヘッドに縁に腰掛けアルムスにもたれかかるアリシアは、フンとノースフィアの声明を笑う。
「テロをやるつもりよ、あいつら、その時点で戦争をする戦力は無いって事の証明ね」
「そうだな、帝国ですら、ようやく戦争の準備が整い掛けている所、こんな者達に我が帝国と同等の準備が出来ているとは思えぬ」
先代皇帝達の記録を見ているアリシアはアルムスの言葉を聞いて深く頷いた。
「アリシアよ?、この者達をどうする?」
「潰すに決まってるじゃない」
「了解した、クク、お前の仕込みが上手く作動すると良いのだがな?」
「ふふ、そうね、あの仕込みを使いお前達のアジトの場所を丸裸にしてあげるわ、ノースフィア」
楽しげかつ邪悪に笑うアリシアの髪をアルムスは愛おしげに撫でる。
「それともう一つ動こうと思うの」
アルムスに髪を撫でられるアリシアは気持ち良さそうに目を細めつつ、もう一つ動くと言った。
「何をする?」
「それは後のお楽しみよ」
そう言ってネグリジェを脱いだアリシアはその場で手を叩く、するとメイド達が入って来て、アリシアにドレスを着せ髪を整えヒールを履かせる、あっという間に美しき皇帝の姿となったアリシアは、転移して行った。
エンジェルズ
メアが灯理とリーフィアと共にノースフィアの対策について話していると背後に転移する音がした、それを聞いたメア達は振り返り転移して来た者を見て驚く。
「君がここに来るなんて驚いたよ、何をしに来たの?、アリシアちゃん」
転移して来た者はアリシアだった。
「私がこの国に入ってはいけないと言う決まりでもあるのかしら?」
「な、ないけど」
「なら黙ってなさい」
そう言ってアリシアは灯理の隣を通り過ぎメアの前に立つ。
「ボロ負けじゃないですか・・・」
「うっ・・・」
言葉の勝負でアリシアにボロ負けした事をリーフィアに言われた灯理は、涙目で俯く。
「今の声明見たわよね?」
「はい」
「それなら、あなたは私が何をしに来たのか、分かる筈ね?」
「ええ」
アリシアの目的を理解するメアは頷き、アリシアの目を見る。
「私達にノースフィアを止めるのを手伝えと言うのでしょう?、良いですよ、これからテロを起こそうとしている彼等を止めるのは善行です、ならばあなたに協力しますとも」
そう言ってメアはアリシアに向けて手を差し出す。
「交渉成立ね」
アリシアはメアの手を取りニヤリと笑う、そして思う、ゼロのスタイルの力を持つメアの力があればノースフィア潰しは容易に完遂出来ると。
「しかし、私達が協力するのはノースフィアの相手をする時だけです、もしあなたが遺跡を回ると言うのならば、その時は敵対します、分かっていますよね?」
「分かっているわ、遺跡の中であなたの事、うっかり殺しちゃったらごめんね?」
「死にませんよ、私、あなたを救うんですから」
目を合わせ言葉を交わし合うアリシアとメアの間にチリチリと火花が散っているように、会話を聞いていた灯理とリーフィアには見えた。
「それじゃ、作戦会議でもする?」
「必要ないわ、情報が分かれば、私からあなた達に情報をあげる、その時にあなた達は動くだけで良い」
「何ですかそれ、私達はあなたの都合の良い駒ではありませんよ?」
まるで駒扱いだそう思ったリーフィアがアリシアに突っかかる。
「何を言ってるのかしら?、あなた達は私の駒よ?、我が帝国の邪魔でしかない愚か者を潰す為のね?」
「なっ!?、メアちゃん、やっぱりこの子に協力するのはやめよう!」
自分達を駒としか思ってないアリシアの言葉を聞いた灯理は、メアにアリシアに協力するのはやめようと進言する。
「駄目ですよ、先輩、ノースフィアとの戦いに帝国の力を借りれるのは非常に魅力的です、ですから駒扱いされる事程度、我慢して下さい」
「くっ・・・、分かった・・・」
この場のリーダーであるメアの言葉を聞いた灯理はアリシアを睨みながら仕方なしに頷く
「それとアリシア、ノースフィアを相手にする時は私達は味方なのですから、挑発するようなことは言わないでください、お願いですから」
「断るわ、言ったでしょ、アンタ達はただの駒だって、それじゃあね?、駒達、情報が来たら教えてあげるわ」
メアのお願いをアリシアは馬鹿にしたかのような顔で笑いながら断ると、手をヒラヒラと振りながらどこかに向けて歩いて行く、灯理とリーフィアは俯き明らかに怒った様子であるが、この国でアリシアに勝手をさせる訳にはいかないメアは、先輩達のフォローを出来ないまま、アリシアを追う。




