五話
コンテナ置き場
アリシア達が殺人鬼のアジトの監視を始めて三時間、日が暮れて来た、この日は戻って来ないのかとアリシア達が思い始めた時、殺人鬼が現れた。
「来た」
殺人鬼はコンテナの中に入って行った、アリシア達は武器を構える。
「ふふ、うふふ」
「シメラ!、興奮しないで!、落ち着い・・・」
「落ち着いてるよぉ!アリシア!」
「あっ・・・」
シメラは戦闘になると異常に興奮し相手が倒れるか、自分が魔力切れになるまで魔法を放つのをやめない、所謂戦闘狂である、彼女が俯いて笑い始めた時点でアリシアは止めようとしたが既に遅く、シメラは爆発魔法を放ち、殺人鬼のコンテナが爆発した。
「なんでアリシアがシメラさんを不安そうに見てたのかがよーく分かりました、・・・奴は生きてるのでしょうか?」
「・・・、この程度で死ぬとは思えないわ」
「あはは!、そうだよね!、この程度じゃ死なないよね!」
アリシア達がコンテナの様子を伺っていると、燃え上がるコンテナの中から殺人鬼が飛び出して来た。
「キヒ!ヒヒヒ!よくもやってくれたなぁ!、ただで済むと思うなよ!」
不気味に笑う殺人鬼は手をクイっと振った、するとコンテナの中から無数のダガーが飛び出して来て殺人鬼の横に整列する。
「これが俺の能力さぁ!、フヒヒ!、エンジェルズの雑魚ども!、死んじまいなぁ!」
「来るぞ!」
「ええ!」
殺人鬼は腕を天に向けてから振り下ろした、すると浮遊しているダガーがアリシア達に襲い掛かって来る。
「シメラ!」
「言われなくてもぉ!」
アリシアとシメラは頷き合い迫るダガーを雷と爆発魔法で叩き落とした。
「メア!、撃て!俺も撃つ!、メッシュ!お前は前に出ろ!」
「はい!」
「おうよ!」
ボスとメアが同時にトリガーを引いた、殺人鬼は二発の弾丸をダガーを犠牲にして防ぐ、メッシュはその間に殺人鬼との間合いを詰め、大剣を振り下ろした。
「グゥゥ!、流石は噂名高いメッシュだ、重い一撃だねぇ!」
「お褒めに預かり光栄だぜ!」
メッシュの大剣を受け止めた殺人鬼は完全にメッシュのパワーに押されており動けない、メッシュはそれを見てニヤリと笑うと、殺人鬼を蹴り飛ばす。
「やるぅ!、流石ね!メッシュ!」
「へん、ザッとこんなもんよ!」
「チィィ、奴相手に力比べは馬鹿のする事だ、ここはスピードだね!」
メッシュに力負けをした殺人鬼は己のスピードを活かすため走り始めた、メアとボスが銃弾を放つが早すぎて当たらない、そして殺人鬼はこちらを撹乱しながらダガーを放って来た。
「シメラ!、頼む!」
「ウフフ!、その早い動き止めてあげる!」
シメラは拘束魔法を殺人鬼に向けて撃つが、避けられた、動きが早すぎて当たらないのだ。
「なら!」
アリシアは雷撃を飛ばし跳んだ、そして殺人鬼の目の前に来ると剣を振るうが、殺人鬼は真上に飛んでアリシアの攻撃を避けた、しかしその真上に動くと言う動作が命取りだった、シメラの拘束魔法が見事命中したのだ。
「か、体が動かない、やってくれたな!、小娘!」
「小娘だってぇ!?、あはっ!、爆破してやろうかな!」
「やめろ、さてこのまま拘束させてもらう、そして沢山の人々を殺した罪を牢屋で償え」
「罪を償え?、俺は楽しい事をしてるだけだ!、何も悪くない!」
「なんの罪も無い人達を人を殺すのが楽しい事ですって?、ふざけないで!、ただの快楽の為に人を殺して良い理由なんてどこにもないわ、あなたは本当に最低な奴よ!」
「最低で結構さぁ!、俺は沢山殺したいもっと殺したい、それだけだからなぁ!」
「ッ!」
殺人鬼の言葉を聞いたアリシアが彼を殴ろうと拳に力を込めるが、アリシアが殴る前にメアが殺人鬼の頬を叩いた。
「あなたには分からないのでしょうね、家族を殺された者の苦しみが、それがどれだけ人を苦しめるのかを!」
そう言ってメアは殺人鬼に銃を向ける、しかしボスがメアに近寄り銃を下げさせた。
「ダメだメア、ここでこいつを殺したらあんたはこいつと同じになる、それにあんたの両親を殺した奴とも同じになっちまうぜ?、やめときな」
「はい・・・」
ボスの言葉を聞いたメアは殺人鬼を強く睨み付けてから身を引いた、殺人鬼はその間にも肩を震わせ笑っていた。
アリシアとメアの部屋
殺人鬼はあの後ボスにより町議会に突き出された、こう言う時だけ動きの早い町議会は殺人鬼が犯した罪を考慮し、死刑判決を彼に与えた、彼はこれからいつ来るのか分からない死刑執行日に怯えながら生きる事になる。
「メア、あなたの両親の話なんだけど、あなたも両親を誰かに殺されていたのね」
「あなたもと言う事はアリシアも?」
「ええ、誰がやったのかは分からないけど十四年前にこの国の首都でね、あなたは?」
「十年前に故郷で殺されました」
「そう・・・、そう言えば聞いてなかったけど、メアの故郷ってどこなの?」
「アルビオン王国です」
「十年前、それにアルビオン王国、もしかしてアルビオンの悲劇に巻き込まれて?」
「はい」
この時アリシアは見た、メアの瞳に強い憎しみの炎が灯るのを、自分にも両親を殺した者への復讐心は確かにある、しかしメアの憎しみの炎は自分の物などより、余程強いとアリシアはメアの光のない瞳を見てそう思った。
「ねぇメア?」
「はい?」
「ううん、なんでもない、ご飯食べに行こ?」
「?、はい」
アリシアは聞こうとした、あなたは仇を見つけたらどうするの?と、しかしやめた、メアの答え方次第では友達でいられなくなるかもしれない、そう思ったから。
心の中に同じ闇を持つ同じ顔をした二人の少女は行先は光か闇か、今は誰にも分からない。
第一部一章、完




