#84「偶像遭遇」
あんまり雑談ばっかりしてるワケにもいかないから、とりあえず仕事を始める。爪が長くてキーボードが打ちにくい。帰ったら絶対に切ろう。
そして仕事をしてる間も、川本は横から俺に布教しようと話しかけてくる。ていうかおまえも自分の仕事があるだろうに。
「ホラ、この子なら先輩も知ってるんじゃないッスか? センターだからメディアへの露出も多いし、現役JCだからロリコンの先輩にもピッタリッスよ」
そう言って、開いた週刊誌のグラビアを俺に見せてくる。あんまりロリコンロリコン連呼されると社内での俺のポジショニングにも影響が出るし、何よりウザいこと山のごとし。
仕方がないから、俺はキーを打つ手を止めてグラビアに視線を向けた。現役JCに興味がないワケでもないし。
「この子が吊天井詰恋ちゃんッス」
川本が短くて太い指先で示してるのは、卒業アルバムみたいな集合写真の中で他のメンバーよりも背の低い女の子。確かにCMなんかでも見覚えのある顔だし、川本が言うだけあってかわいい。まあロロロの方が4、5倍かわいいけどな。
「まあボクの推しはこっちのムチムチでバイーンな、鉄砲魚こるくちゃんなんスけど」
「キラキラ苗字のバーゲンセールかよ」
「先輩にそれを言う資格はないッス」
まあ確かに賽河原なんて苗字、俺の親戚以外で会ったことないけど。
「詰恋ちゃんは確かにかわいいッスけど、ボク的にはまだ小さいッスよね。あと7、8年は待たないとストライクゾーンに入ってこないッス」
「さすが、風俗でババア相手に童貞捨てたヤツは言うことが違うねえ」
「アレはお任せにしたら、来たのがババアだっただけッスから。ボクから率先してババアを指名したワケじゃないッス」
途端に渋い顔になる川本。どうやら彼にとってもかなりのトラウマらしい。
もっとも俺からすれば、風俗に行く行為そのものが信じられない。だって18歳以上しかいないんだぜ?
†
その後も川本が懸命にアイドルの布教とチケットの自慢をしてくるせいで仕事が思うように進まなくて、予定よりも大幅に遅れて退社。ロロロ怒ってるだろうなあ。
駅を出て家に向かう途中、人けのない夜道でふいに曲がり角から出てきた人影。
「あの」
話しかけられて俺は仰天した。昼間川本に散々グラビアを見せられた、サソリ沼91億のセンター、釣天井詰恋じゃないか。
さーて、次回の「悪魔幼女が俺の嫁なら世界が敵でも怖くない」、略して「ならで悪魔が判定の敵」は?
かるかじゃ。かばねは今も信徒の家に置いておるが、だいぶおとなしゅうしておるぞ。油性ペンを使った甲斐があったというものじゃ。
次回、「深夜密会」。ぜってえ読むがよいであろ!




