#83「不審後輩」
知らない間に人外にされてても、社畜ライフは止まってくれない。いつも通り満員電車に乗って、いつも通り出社する。
「おはよう」
席に着くと、席が隣の後輩である川本がさっそく俺の異常に気付いた。
「どうしたんスか先輩、その目」
川本は24歳彼女なし、小太りメガネスポーツ刈りの典型的非モテ男子。業界的にヲタ要素の強い社員は多いんだけど、それをテンプレみたいに濃縮したのがこいつだ。
「えーと、カラコン入れたから」
「ふーん、そうなんスか。あっ、それより見てくださいよ先輩」
川本は深く追求する様子もなく、サクッと話を進めてきた。単に自分が話したいだけなんだろうな。
「これこれ。チケット取れたんスよ」
そう言って見せてきたのは、コンビニで発券したみたいな地味なデザインの紙片。川本いわく何らかのチケットらしい。
「サソリ沼91億のドームライブッス。これ取るの大変だったんスよ」
「サソリ沼……?」
「えっ、先輩サソリ沼知らないんスか? あの国民的アイドルグループを!? 先輩ひょっとして非国民ッスか?」
川本が未知の生物でも見るみたいな目で俺を見る。勝手に人の国籍をはく奪するんじゃねえ。
「いや、名前は聞いたことあるよ? テレビでもたぶん何度か見てると思うし」
「その程度ッスか! ボクなんてCD 100枚近く買ってるし、握手会だって毎回行ってるッスよ!?」
「それはおまえが異常なんだよ。だいたいCDだって100枚も出してねえだろ」
シングル100枚出すなんて、もはや大ベテランの領域だ。
「違うんスよ、先輩何もわかってないッス! 同じCDでも通常版の他に初回限定版が3、4パターンあって、それぞれ聴く用と保存用と布教用を買ってたら、100枚なんてすぐッスよ、すぐ!」
こいつはただでさえそんなに高くない給料を、どれだけアイドルにぶっこめば気がすむんだよ。
さーて、次回の「悪魔幼女が俺の嫁なら世界が敵でも怖くない」、略して「魔法の嫁が世界で怖い」は?
かばねだよー。かばねもー、よこく、するー。でもー、よこくって、なにー?
じかいー、「偶像遭遇」。ぜってえ、よめー。




