邂逅
正直に言いましょう。多分続かないと思います。完全にふと思い浮かんだだけのオナニー小説です。
ネタバレをすると、主人公の中に居る怪物によって徐々に主人公が飲み込まれ、最終的に完全に化け物と化した主人公をヒロインがトドメを刺す物語が書きたかったんです。
私はほのぼのが好きなんですよ。もし続くとしたら最後の最後にそうなったとしても結構ほのぼの化すると思います。
───最近、同じ夢を見る。
うおおおん、と。大穴を強風が通り抜ける様な音を視る。
うおおおん、と。まるで狼が遠吠えをしているかのような重音を幻視する。
そこは、氷と炎が共存する矛盾の世界。
立ち上る炎が凍りつき、炎の氷柱とでも言える物が至る所に聳える。時折、氷から炎が噴き出す不思議な世界。
月は無く、太陽も無い。空からの光は無いのに、世界はどこまでも広がっているのが見える。
そして、氷と炎がせめぎ合う大地にはどこまでも続くような鎖が、自分が立つそこよりもずっと前からずっと奥まで伸びて居た。
不思議な世界だった。
生命の息吹は無く、けれど力の息吹は溢れるように。
世界は矛盾し、自分に与えてくる感覚は無だ。
熱くも暑くも冷たくも寒くも無い。自分がその場に立っていることすら曖昧で、下手に意識を手放してしまえば、そのまま自分という存在が消える気がして。曖昧な自我を足踏みをすることで、「動いている」という事実を糧にどうにか保っていた。
動いている、とは自己の確認だ。自己が在るという事実を明確にするためのものだ。動いてる事実さえあれば、「動いている自分」を止まっているときよりもずっと認識続けられる。
いつもなら、そうやって時間を過ごす事で世界から目がさめる。この世界から浮上し、現世に自分を戻すことが出来る。
───とはいえ、現世にいる事も苦痛でしかなく、なれば此の世に引きずり込まれた方がマシなのではないか、と思わなくもないのだが。
「───それなのに、どうしてまだ貴方は残っているのです?」
珍しい、この夢に変化が起きた。静かで冷たい、女性の声が後ろから聞こえた。いや、女性というには少々幼げな声だ。
足踏みついでに、自分は背後を振り向く。
「初めまして、枯れ木の燃え残りの様な弱きヒトよ」
女の子、だ。年寄りの白髪では無い、自然的で神秘的な真っ白なセミロングの髪。
人形の様に均整の取れた、美しく儚げな顔に在る蒼い瞳と、薄い桃色の唇だけがほんの少しの彼女の色だ。
薄く白い布に身を包んだ、女性的な丸みを僅かに帯びた細身の身体。布に覆われず外に晒された強く握れば折れてしまいそうな細い腕や足は、顔と同じく陶器の様に真っ白な肌。それは、まるでかつて見た───
「───それ以上の連想はやめておいた方が良いでしょう。貴方が、まだ死にたく無いというのなら」
頭の思考を断ち切る様に、少女の涼やかな声が頭に入り込む。
はっと思考から浮き上がると、眠たげに細まった蒼い瞳が自分を見つめていた。
「なるほど。どれだけ精神力が強いのかと思えば、そうではないのですね。逆なようです。生命力が弱過ぎて、引っ張られる力が弱いのです」
なんの話だろう、と聞く前に、再び少女は口を開く。
「話を戻しましょう。そんなにも貧弱で、弱々しく、そんなにも現実が辛いのに、どうして貴方は踏みとどまっているのですか?」
眠たげな顔の人形のような少女。彼女は、その氷のように固まった表情のまま首をこてんと傾げた。
「辛いのでしょう?苦しいのでしょう?貴方は彼らと違って、意思を表出できない。誰にも相談できず、誰からも嫌われて、それでも彼らを恨めずただ自らを責める貴方は、この世の誰よりも息苦しいでしょう」
───そう、そうだ。
何処にも居場所が無かった。何処にも自分が欲するモノは無かった。逃げる事も出来ず、戦う事も出来ず、自分はただ、世界の理不尽に叩かれ続けていた。
───けれど。
「───アナタは意思を表出できないと言いました。けれど、それは違うのです。違うのです。わたしは、生き続けることこそ、彼らへの嫌がらせなのだと考えているのです」
奴らは言う。お前はまだ生きているのかと。奴らは言う。早く死んでしまえばいいのに、と。奴らは表情を歪ませて言う。お前なんて産まれてこなければよかったのに、と。
───だからこそ生き続けなければならない。彼らの表情を歪ませる。それだけが、自分の生き続ける目的なのだから。