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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
攻略
92/115

5-10 本攻略、第4階層


目の前には敵が4体。

剣持ちが2、盾持ちと杖持ちが一つずつ。

ここ最近見慣れてきた、4層以降のレギュラーパーティーだ。

いつもなら僕は前に出て盾持ちの迎撃を行うが、今回はそれをしない。

何故なら、新装備のアトラトルソードを持っているからだ。

横列を作って作戦に沿った照準を各員が行う。

各機の狙いは、カタパルトを装備した椿さんが杖持ちを狙撃。僕以外のほか3機は剣持ちを狙う。大矢さんの乗るMULSは待機。不測の事態が起こった時の予備火力。

残った僕はやっぱり盾持ちだ。


攻撃が開始される。3門の機関砲が火を噴き、剣持ちを解体していく。

椿さんはまだ撃たない。杖持ちを守るように、盾を持った骸骨が立ちはだかっているからだ。そいつは僕の獲物でもある。


僕は剣を振った。

手に持った剣は振り回され、加速と共に遠心力がかかっていく。

先端にはマニピュレータがあり、そこには鉄球が固定されていた。

これが今回の僕の攻撃だ。最適なタイミングを見計らい、そのマニピュレータを開放。そこに固定された鉄球がすっ飛んでいく。

テストついでの練習の成果もあり、狙いは正確に盾持ちへと向かっていく。

その盾持ちの骸骨もそれを認識し、盾で受け止める構えを見せた。

その盾は地味に強力だ。機関砲弾を防ぎ、はじき返す強度を持っている。

ただし、今回放った鉄球は、砲弾にはない“重さ”があった。

高速で投げつけられた鉄球はその盾に接触した。

受け止めた盾は一瞬たわみ、その攻撃を吸収したかに見えたが、しかしそれは叶わなかった。

最大限たわみ、衝撃を吸収しなお受け止めきれなかったエネルギーにより、鉄球は沈み、盾にヒビを入らせ、そして粉砕して抜けていった。

その先にあるのは、剣持ちとなった骸骨だ。

その骸骨に攻撃を防ぐ術は無かった。胸部に接触し、その上半身がはじけ飛ぶ。

盾で威力を削がれたのか仕留めるには至らなかったものの、行動不能に追い込むことはできたのだ。

瞬く間に取り巻きを撃破され、孤立したのは杖持ちの骸骨ただ一体。

骨粉操作による攻撃をこちらに行う前に丸裸にされたその個体に待っているのは、既に照準を付けていた椿さんによって放たれた、高速の鉄球だった。




「制圧完了」


永水さんは短くそう答えた。

ここは第4階層。そこでの戦闘の一場面だ。

ここの敵は、基本的に第3階層の最深部で戦った個体ばかりになる。

すなわち、盾持ち、杖持ち、剣持ちの3種類だ。

基本的には剣持ちが多い。あと、盾持ちと杖持ちは単体では遭遇しない。

戦闘における最大単位は第3階層で出会ったそれが一番厄介だった。

つまり、杖1、盾1、剣2の4匹小隊。杖持ちはこの編成でしか遭遇しなかったりもする。

まだまだ第4階層の入り口付近でしかないので、奥の方は解らなかった。他の階層は素手ばっかなので参考にならないのだ。


そして、今日から第4階層の本格的な探索が始まることになっていた。

この間までもここにきて討伐はしていたが、新種の敵や調査をメインにしていて探索はしていなかったのだ。

理由はもちろんある。


「じゃあ、回収は任せて自分たちは周辺警戒を頼む」

「了解です」


その言葉と同時に、後方から新たにMULSの集団がやってきた。

数は6。つまりは一小隊。


「ヤッホーイツキ君。流石だねぇ!」


その内の一機が通信で呼びかけてきた。

その声の主はホモ女装MULSドライバーのものだ。

つまり関さんである。

この小隊の参加が、僕たちが4層攻略を始めるための理由だった。

この間話題に上がっていた、全滅時のドライバー回収のための後詰め部隊というわけだ。


MULSが壊されても中のドライバーが死ぬことに直結しているわけではないが、しかしMULSから降りれば死ぬ。そのMULSが撃破されれば動けない。

動けず、救助が間に合わなければ当然死ぬ。

第3階層以上の素手の骸骨しかいない場合なら、予定時刻に戻らないことを確認して捜索隊を編成してからでも十分に間に合う状況だが、3層最深部。及び4層ではMULSの装甲にダメージを与えられる個体が確認されている。

つまり、撃破後短時間で救助されなければ間に合わない状況というわけだ。

その全滅時に僕たちを回収し、地上まで逃げ帰るのがこの小隊の役割だった。

彼らの主武装は機関砲のみ。遠隔躁者(マリオネット)といった支援機もいないが、地上への生還のみが目的となる為に短時間の火力だけは優れるそれはデメリットにはなりえなかった。

そして、その後詰め小隊に彼らの小隊が割り振られたわけだった。


なんだかんだリーダーがランキングトップ3、チーム戦力ではランキングトップだろうこの小隊は単純な戦闘力だけなら頼りになると言えた。

盾持ちに対して不安はあったが、小隊中2機が椿さんと同じカタパルト装備なので何とかなるのだろう。


「懲罰は終わったんですね」

「嫌なこと言わないでよん」


僕の嫌味も無視して関さんはそう言った。

この人たちが今日まで遅れたのは懲罰のためだった。流石に死ぬ危険のあるダンジョン深部まで無断で突撃し、更には乗っていたMULSを全損させて命だけ残して帰ってきたのだ。

無罪とするには少々問題がありすぎた。


「さすがに延々とトイレ掃除を繰り返させられるのは堪えたよ」


まあ、その内容はトイレ掃除1週間なのだが。


「この一週間でボクはトイレ掃除のプロになりそうだったよ」

「そのままプロになればよかったのに」

「んもう、イツキ君のいけずぅ」


妙にくねくねした言葉で言わないで欲しい。というか回収を早くしろ。


「新しいMULSは調達できたんですね」

「そうだよ。中古品だけどね」

「中古品?」

「自衛隊の人達に割り当てられた分から回したんだって」

「…ああ、成程」


関さんの言葉に僕は納得した。

彼らのMULSは2機目に当たる最初に支給された機体は第3階層最深部で破壊され、そのまま放置だ。MULSにはほかのMULSの胴体を回収する能力は無い。

胴体部の破壊は死と同義だったために生産量が少なく、予備の数機しか残っていないはずだった。

6機分をどこから捻出したのかと思ったら、成程、自衛隊からか。


それはダンジョン攻略に参加している自衛隊のMULSドライバーのことだった。

MULSは元々ゲームの中の存在だ。電脳化処理をされているという条件があるが、それ以外は何もないと言っていい。

そう、自衛官でも問題なく遊ぶことができた。

その腕の質はピンキリで、ランキング入りしていたのは永水さんしかいなかったが、それでも現実でMULSを動かす腕を持っていた自衛官は少なからず存在したのだ。

そんな彼らに回された機体から、関さんの小隊へとMULSを廻したということなのだろう。

今のところ、自衛官のMULSドライバーはダンジョン内で死んだ自衛官の回収作業に追われている。僕たちにそれをさせるわけにもいかず、また少数での作業では時間がかかるのは明白だった。

そしてその回収任務は緊急性が無いと判断され、より重要だと関さんたちに配備されたというわけだった。


MULSを取り上げられた税関の皆様にはご愁傷様である。その理由が目立ちたがりの独断暴走というのがさらに情けない。

それを引き起こした目の前の馬鹿には少しでも反省してほしいものである。


「あ、鉄球はこっちにください。もう一度使いますから」


そのまま回収作業に入っていった関さんのチームに僕は言う。

僕の投石器や椿さんのカタパルトは威力を目的としたものではなく、消費した鉄球を回収して再利用するためだ。彼らが持って行っては再利用ができなかった。


「ああ、それについては問題ないです。こっちで回収しますので、切れたらそれごと交換するように言われてます」


鉄球を回収していたMULSドライバーは、僕の問いにそう答えた。

なんでも、背面に搭載した弾薬庫の一つが空で、そこに入れるようになっているのだとか。

使うのは僕の大腿部にある弾薬庫から消費される。弾薬庫は同じものなので、僕の弾が切れれば回収された鉄球を入れる弾薬箱はいっぱいになる。

そうなったときに、弾薬庫ごと交換することになっているらしい。

成程、確かにそっちの方がロスも少ない気がする。

MULS一機に当たり大腿部につけられる弾薬庫は二つなので、仮にそのうちのひとつが弾切れを起こしても戦闘中に困ることは無い。その後に交換すれば無限に戦える。


「成程」


地味に理に適ってる。


「あ、この下僕、僕の許可なくイツキ君と話して!」

「フヒィごめんなさいブヒィ!」


そこに関が割って入る。


「いや、あんたの許可なんていらないでしょこのこのホモ変態」

「あ、僕ホモじゃないんでそこ訂正お願いします」

「なんでそこで素に戻るんだよ!?」


関の変化に僕は声を荒げた。


「いやお前ら、真面目に働け?」


僕たちの喧騒は、永水さんにそう言われるまで続いた。


周囲ではミコトが狼狽え、椿がその様子を録画していたり。


あ、あけましておめでとうございます。今年もお楽しみください。

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