5-5 稼げベッセル君
つーぎーのーひー!
目の前には敵が4体。種類は骸骨。
3体は手に剣を持ち、うち1体は追加で盾を持っている。残りの1体は杖持ちだ。
それを確認してから、僕は機体を前進させた。
背後からは援護射撃が始まる。最初の狙いは剣持ち2体。そこへと射撃が開始され、それは胸部へと集中。そこを覆う骨粉を吹き飛ばし、中のコアを露出させ、更に射撃を加えて破壊する。
その間に僕は接敵。標的は盾持ちの骸骨。
敵が手にもつ剣を振りかぶる。僕はそれに応じ、手にもつ盾を前へと掲げる。胴体に触れるほど近づけ、盾の衝撃が胴体の方へ流れるように誘導する構えだ。
そのまま接敵。最初に動いたのは骸骨だ。振りかぶったそのままに、僕めがけて骨粉性の剣を振り下ろす。
それは盾へと振り下ろされ、その衝撃は盾を支える腕、そして胴体装甲へと伝わり、そしてバキリという破砕音が機体越しに聞こえるのが確認できた。
その音は僕に不安を感じさせるには十分だったが、しかし戦闘は継続する。
真正面から受け止められた盾持ちの骸骨は攻撃を受け止められ、動きが止まる。
僕はそこめがけ、稼働させていたローラーダッシュそのままに機体を強引に前進させた。
敵との距離が詰められ、しかし止まらず、最終的に僕の機体は敵と接触。
10t超えの重質量がその意思のままに敵へと突っ込む。軽くなっていてもなお敵の重量はMULSを下回り、自機質量は敵を吹き飛ばすには十分だった。
自身の胴体に衝撃を受け、吹き飛ばされた骸骨は攻撃の余波でその両腕を置いていく。胴体だけが吹き飛ばされ、しかし両腕は慣性の法則にしたがってその場に残ろうとし、そのギャップで引きちぎられたのだ。
たたらを踏み、体勢を立て直す骸骨。その両腕は既に再生し始めている。
しかし、その再生は間に合わない。
吹き飛ばしたことで開いた距離をローラーダッシュで詰めていき、同時に腕を振り上げる。
手にもつ武器は鉄の剣。その質量は骸骨の細い腰を折り砕き、その上半身と下半身を分離した。
四肢をもがれた骸骨はそう簡単に再生しない。
残りは一体。杖持ちの骸骨。
そいつは周囲の骨粉を操り、その質量でこちらにダメージを与えてくる。
それは僕たち全体を一気に瓦解させ得る厄介な代物だが、しかしその攻撃は行われない。
轟く爆音。少し遅れて、センサーが小さな物体を感知する。
それは4枚の回転翼を装備し、4本の足を持った人工物。
ドローンと呼ばれるその人工物が飛んできた方向では、煙がその視界をふさいでいた。
先の爆音の発生源が、そこにいた杖持ちの骸骨ごと吹き飛ばした結果だ。
周囲に敵影無し。これでここは制圧された。
「制圧完了。周辺警戒を頼む」
「はいよ」
「了解ですー」
安全が確保されたのを確認し、永水さんの言葉に大矢さんと椿さんがそう答えた。
残りの4人は倒した敵から資源の回収だ。とりあえず、僕は足元に居る骸骨から急ぎコアを抜き取る。骸骨の胴体に指を沈みこませて抜き取った。…そんなに口を開いて苦しんだフリしないでよ。と、そうだった。
機体の状態を確認する。戦闘中におきた破断音。アレの発信源は僕の機体の表面近く。たぶん装甲が割れたのだろう。
大矢さんから説明があった骨粉性の新型装甲だ。軽いが、割れやすい。
特にこの装甲板は意図的に割れやすい部分があるから特に割れやすい。
何でそんな欠点があるかといえば、この装甲板を長持ちさせるためだったりする。
この装甲板、セラミックスや樹脂に似ているのか知らないが、一度破損するとその損傷が全体に及び、ちょっとの損傷で完全に使用不能になるデメリットがあるのだ。
一枚モノの正面装甲が、端っこがちょっと壊れただけで全体全て粉々に崩れ落ちてしまうということだと言えば、それがヤバい事だというのは理解しやすいだろう。
それを回避するため。装甲板を可能な限り分割し、機体と装甲を接続する下地に金属板を用意して、そこに張り付ける形式をとっている。
そうすることで破損が全体に及ぶことを防いでいるわけだ。
ただこれにもデメリットがあって。金属との接続面でしか装甲を保持していないことになるので、ちょっとの破損で保持部分から剥離。コロリと脱落する欠点が出てきた。
これだと装甲として意味をなさない。
その為、分割した装甲板の隙間に意図的に強度を弱くした同質の装甲材を流し込み、その結合力でも装甲を保持するようにしたのだ。
そうすることで全体の破損を抑制、誘導し、更にタイルの保持力もアップする。ついでに、意図的に分割したことで低下した装甲強度をある程度補うメリットもあった。
その代わり。この装甲、下手に割れてると結合力が落ちてその機能を著しく落とすのだ。
確認すれば、それは予想の通りだった。装甲板に一筋、亀裂が入ってる。修理する必要があるな。
え?できるのかって?
できるんだな、これが。
「蓮華さん。修復お願いします」
「あ、はいはい。今行きますね」
僕は蓮華さんにそう言うと、機体をその方へと進ませた。
蓮華さんの乗るMULSには、僕たちと少しだけ装備が違う。その際の部分は背面、バックパックだ。
そこには2本のアームが伸びる、メカニカルな装置がついていた。
蓮華さんはこちらへと近づいていくと、上へと伸びていたアームを倒し、機体前方へと傾斜させる。
その先端にはノズルがついており、それが装甲の亀裂部分へと向けられた。
ノズルの先端から霧状のモノが噴射される。そして、噴射された物質が装甲の亀裂の周囲とその内部に入り込み、その亀裂を覆い隠してしまった。
噴射が終わる。盛り上がった装甲部分を触ると、既に固まり指が沈み込むことは無かった。
これが蓮華さんが装備する新装備。リペアユニットだ。
僕の装甲がどうやってできているかといえば、それはこのダンジョンから回収された骨粉を、専用のナノマシンで溶かし、一つの大きな結晶体に作り直すことで出来ている。
つまりはナノマシンさえあればこのダンジョン内ならどこでも材料は作れる訳だ。
「じゃあナノマシンプラントと補修材の塗布装置があれば現地で装甲の補修ができるじゃないか」そんな思想の元で作られたのがこのリペアユニットというわけだった。
そう言い這っているのは大矢さんだけどね。
実際のところ、ゲームの方でも修理技能持ちという存在が居るのだ。機体の損傷ログから損傷状態を無効化することで元の状態に戻すというチートじみた存在で、金属装甲だろうが剥がれ落ちた積層セラミックス装甲だろうが修復してしまう存在が。
元々がどこかのチートが持ち込んだ代物だったのが、運営が面白そうだからと導入したとかいう噂もあったりする代物でもある。
大矢さんのことだから意図的に再現したくて作ったとか言いかねないんだよな…。もしかして僕の新型装甲もそれが目的…。いや、考えないでおこう。問題は無いわけだし。
何故蓮華さんがメカニックになったかといえば、単純に彼女のゲームのときの役割がそれだったからだ。なら、彼女に任せましょうと言うことでやってもらっている。
今回は試験的な意味合いがあるので僕だけがその新型装甲板だが、この探索での成果次第ではで全体に普及するかもしれない。というか、今のところ不具合がないのでそのまま採用されるだろう。
その時は彼女のようなメカニックを各小隊で割り振る必要がある。
各小隊が一つコンテナを潰すことによる資源の回収量の目減りが懸念されるだろうが、全体としては現地で修復ができるというメリットが勝るからだ。
あ、当然だが装甲の耐久力を回復するだけなので、MULSの駆動部分、メカニカルな部分の破損は一切回復しない。当たり前である。
「回収は終わったか」
「あらかた終わりました」
小隊長の永水さんにミコトさんがそう答える。
めぼしい資源は確かに回収されていた。
「大矢さん。どうですか?」
それを確認して、永水さんは大矢さんにそう聞いた。その視線は大矢さんに向き、その大矢さんの視線は僕の方を向いている。
その意味は解るだろう。僕の乗っている機体が原因だ。
「イツキ君。どんな感じ?」
「装甲が割れやすい以外は問題ないです。機体の方に異常はありません」
僕は大矢さんの言葉にそう答える。実際、予想よりも装甲の脆さが気になったが現時点では問題にはならなさそうだ。
「じゃあ、本番行けそうか」
「はい」
永水さんの言葉にそう答えた。
今までの戦闘はいわばテストだ。新しくなった僕の機体が実戦で通用するかの小手調べ。
今日の探索の目標は別にある。
「じゃあ、杖持ちの鹵獲に入る。皆、役割は頭に入っているな」
永水さんの言葉に全員が頷いた。
そう、今回の作戦目標は杖持ちの骸骨の鹵獲。コアの奪取だ。ついでに、持っている杖の無傷での回収も含まれている。
何でそんなことをといえば、手ぶらの骸骨との差異を調べるためだった。普通の骸骨と同じかもしれないが、差異がない可能性も否定できなかった。むしろ違う可能性の方が高いかもしれない。
それは以前から頼まれていたのだが、剣持ちはともかく、杖持ちのコアの回収が困難だったので今の今まで先延ばしになっていた。
剣持ちは近接で僕が無力化したうえで回収という手順が使えるのだが、杖の方は周囲に剣持ちが居たので近づけなかった。手間取れば骨粉で攻撃してくるので時間をかけることができず、なので大矢さんがドローンを使って爆薬を運び、爆破することで倒していた。
なのだが、そうするとコアも杖も何もかも粉々になるので回収することができなかったのだ。
その為、今回はそれ専用の作戦を組んで行動する。
「最初はいつもと同じ。剣持ちを攻撃、2体を確実に撃破する。対処するのは俺と、ミコトさん。蓮華。」
「はい」
「はい」
「盾持ちに対処するのは椿だ。良いな?」
「任せてください」
そう言って椿さんは手持ちの獲物を掲げる。
それは以前テストしていたカタパルトだ。ちょっとした鉄塊を打ち出すことができる。
これもテスト用の一丁だ。問題なさそうなので後々全員に配備されるだろう。
「椿が攻撃。盾を粉砕、あるいは攻撃で体勢を崩したら俺達で攻撃。仮に攻撃が通用しなかったら大矢さんの遠隔攻撃で爆破する」
「わかった」
そして残るのは僕の役割。
消去法でやることは解るだろう。
「イツキ君は杖もちに肉薄してこれを無力化してくれ。他には目もくれるな」
「わかりました」
というわけだ。
コアに傷を付けずに攻撃できるのは僕しかいないので、必然的にそうなる。
早い話、厄介なのが間に立ちふさがる盾持ちの骸骨とその他二体なので、これを速攻で撃破して僕と杖持ちのタイマン勝負に持ち込むための作戦な訳だ。
僕一人敵陣に食い込むことになるけど、無理だったら大矢さんに諸共爆破してもらえばいい。全滅させれば危険はないし、生きて帰れる。
生身で戦わないというのは、こういう時便利だったりする。
僕一人に負担が集中しているような気がしないでもないが、その分売り上げの割り当ても多くもらっているのでリスクをかける価値はある。
そう、お金になるのだ。昨日気づいた僕の将来に対する答えがこれだ。
『将来に稼ぐ手段がないのなら、今稼げばいいじゃない』
僕たちのメインの稼ぎはダンジョン内から回収した資源だ。特に、骸骨のコアや、剣や盾の残骸、無傷のそれ等は高く買い取ってもらえる。月に億越えで稼ぐことだって夢じゃない。
そして、その回収には近接攻撃はとても都合が良かった。
だから今稼ぐ稼いで稼いで稼ぎまくって、徴兵が終わったら悠々自適なニート生活をすればいい。
その為には元手となるものが要る。つまりは敵のドロップ品だ。杖持ちのコアはとても高く売れるだろう。
「よし、では移動。接敵したら作戦開始だ」
永水さんの言葉に伴って僕たちは移動を開始する。
得られるだろう報酬を胸に思い描きながら、僕もそれに続いていった。