4-27 暴走ゲートキーパー
「すすめ―下僕ドモ―!」
「アラホラサッサー」
ボクの掛け声にそう答え、ボクたちの小隊は目指すは3階層。その先にある、4階層の入り口だ。
僕たちはそこへと向かい、その先にある未だ誰も進んでいない未踏の地へと踏み込むのが目的だ。
何でそんなことをするのかといえば、まあ何のことは無い。
「ふっふっふ、まだ誰も見ていないような情報を真っ先に皆にお届け!これで僕のファンは皆戻ってくるのさ!あはははははは!」
動画の主役を樹に横取りされ、タイマンで負けて注目がさらに横取りされ、未少年の属性とその容姿から樹の人気は右肩上がりで下がるところを知らない。
このままだとMULS界のアイドルの座を樹に奪われてしまう。
それを防ぐためには、より大きなことをして注目を集めるのが一番だ。
現実にMULSがあり、それで行っているダンジョンは今世界の注目の的だ。
チャンスには違いが無かった。
無断行動に記録の不正投稿。今の関たちの行動は後々大問題になること必須だ。
「待っててまだ見ぬ僕のファンたち!すぐにお届けするからね!」
「アラホラサッサー」
しかし彼らの歩みは止まらない。
関はとにかく今を楽しむ主義だった。
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そして目の前に第4階層の階段が見えてきた。
「敵機発見」
下僕の一人がそう答える。見ればその先には骸骨たち。
階段を守るように立つそれらは、今までとは違い手に武器を持っている。
それは剣であり、盾であり、杖であった。
それは関たちにとっては予想外の状況ではあったが、しかし歩みを止めるほどではなかった。
「制圧射撃!敵が辿り着く前にぶち殺せ!」
関にとってもそれは予想外ではあったものの、しかし敵は見たところ近接武器しか持っておらず、それなら射撃武器だけでも対処が可能だった。
後方の杖持ちが気になったが、仮にファンタジーな魔導士キャラでも問題は無いと判断した。
動かれる前に倒せばいいのだ。
関の小隊は横列に並び、すべての火器を敵機へと照準した。
「撃ち殺せ!」
関の声と共に射撃が開始される。
それは確かに開始され、4体いた敵の内、剣を持っていた2体を撃破した。
残りの二体は健在だ。盾を持った奴と、杖を持った奴。
盾持ちは盾を掲げてこちらの攻撃を防ぎ、杖持ちは地面を隆起させて防いでしまった。
「なんてこった、防ぎやがった」
下僕の一人が声を上げる。機関砲の一斉射を受けて残った敵はいなかった。
「あせるな!」関は声を張り上げた。
「リロード急げ!盾に攻撃を集中して、砕け!」
下僕たちは行動した。リロードを行い、再び射撃。狙いは盾持ちの方を優先。
しかし盾は砕けない。
「くそ、何なんだこいつは!」
悪態が聞こえる。探索が進んでいなかったのは知っていたが、こんなのが居るとは思ってもいなかった。
「どうしますか、一度撤退します?」
下僕の一人が聞いてくる。
ここに来るまでにも弾薬は消費しているし、帰りの分もいる。
既定の7割はとっくに切っているので撤退しなきゃいけない。
しかし、引くのは躊躇われた。
今、関たちは無断行動の真っ最中だ。その上で、何の成果もなく帰っては罰しか得るものがない。
何の成果もなく無駄骨を折るのは嫌だった。
しかし、現状では膠着を打ち破れない。むしろ、弾薬がなくなっている分現在進行形で不利になってる。
どうするべきか、関は悩む。
しかし、悩む時間は残されていなかった。
「何だ!?地面が盛り上がったぞ」
「倒れてくる、逃げろ!」
何故か地面が盛り上がり、関たちの近くに壁ができたのだ。
それが何かを考える暇もなく、それがこちらめがけて倒れてくる。
一列に横並びしてした関たちは、それを全員が喰らう羽目になった。
「うわあああああ!」
衝撃に思わず声を上げる。
衝撃が過ぎ去った時、確認できたのは機体の損傷だった。
両肩損傷、腕が上がらず、銃が使えない。
それが全員だ。
つまり、誰も攻撃できない。
「!」
そのことに気付いたが、しかし手遅れだった。
盾持ちの敵がこちらめがけて突っ込んできた。
それはもう片方の手に持った剣を掲げ、下僕の一気に振り下ろす。
それは装甲に阻まれたが、予想外に重い一撃は装甲に大きな打痕を残し、機体を打ち据えた。
撃たれた機体は吹き飛ばされ、動かなくなる。
死んではいないようだが、あれではもう行動は不可能だ。
敵の攻撃は続く。他の機体にも一撃を食らわせ、次々に擱座させていく。
気づけば残ったのは関の機体だけだった。
「う、あ…」
その敵は関めがけて剣を振り上げる。狙いは目の前にいる関の機体。
「うわああああああ!」
剣は振り下ろされた。
衝撃、後方に弾かれ、しかし脚部は追いつけずに上半身が後ろへ逃げる。
それを復原することはできず、機体は後方へと倒れた。
辛うじて関に意識はあったが、しかしそれはむしろ悪い事であったかもしれない。
何故なら、敵が再び剣を掲げたから。
その眼孔の向く先は関だった。
「っ!」
関には叫ぶ余裕すらない。とっさに目を閉じ、センサーとのリンクを切り、来る衝撃に備えるしかできなかった。
そして届く、何か巨大なものが衝突する音。
「…?」
そして関はそこに疑問を感じた。
音は聞こえたが、しかし衝撃は伝わらなかったのだ。
何故、そんなことが起こる?
関は恐る恐る目を開く。センサーとのリンクを繋ぎなおす。
そして、機体の外の状況を知ることになる。
衝撃の音が鳴ったのは、やはり敵の剣が何かにぶつかったかららしい。
しかし、その音の発生源は本来ここに居るはずのものではなかった。
それはMULSだった。特徴的な張り出した肩に大型の脚部、コクピットはそれに比して小さい。そいつが一機、そこにいた。
その機種は関の乗っているものと同じ百錬。
そして、手には剣を持ち、その剣と盾を以て敵の攻撃を防いでいたのだ。
剣持ちのMULSドライバーは、現実には一人しかいない。
「泥棒猫…?」
その呟きは、しかし樹には届かなかった。
樹が動く、それに応じて敵も。
剣の間合いまでお互いあとずさると、お互いが剣を振ったのだ。
敵は縦に、樹は横に。
お互いの剣の軌道は相手の剣に合わせるためのもので、実際にそれは行われた。
剣と剣がぶつかり合い、大きな音を響かせる。
ぶつかりあう剣と剣。
しかし、その剣を振った目的を達成したのは樹の方だった。
剣の横を殴られ、敵の剣は大きく外へと流れていき、樹の機体には届かなかった。
更に言えば、敵の横に流れた剣はそれを持つ腕も引っ張り、剣の持つ腕を外へと流していた。
樹の目の前にあるのは、がら空きの胴体だった。
樹は機体を前へと進ませる。開いたスペースに強引に機体を割り込ませ、敵が盾でその間を防ぐことを阻止した。
リーチ的に樹も剣を触れないが、しかし攻撃手段は残されていた。
樹が盾を持つ方の腕を引き、前へと打ち出す。狙いは敵の剣を持つ腕。
殴られた腕はその衝撃を吸収することができず、砕け、その先にある剣を地面へと落とす羽目になった。
残ったのは盾だけだ。しかし、それを構える時間は与えない。
敵の腕がなくなり、空いたスペースを使って樹が剣を振ったのだ。
それは何の邪魔もされることなく敵の胸部へと吸い込まれ、その先にある敵のコアを砕いた。
途端に敵は形を失い、物言わぬ骨粉へとなり替わる。
目の前の敵が撃破されるのと同時に、別の方向で爆炎が挙がる。
そちらの方を確認すると、そこでは杖を持った骸骨のいた場所だった。
そこにも、そこ以外にもその敵はおらず、先の爆発音がそれを爆破した音だと推察することができた。
目の前の敵機は瞬く間に殲滅され、そして視界の端には樹とは別のMULSが向かっているのが見えた。
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「……」
関はコクピットの中で黙っていた。
今、関たちは地上への帰還の真っ最中だ。
もっとも、関たちは機体を破壊され、自力での帰還が不可能になったのでコクピットだけになるが。
これはMULSの仕様だ。MULSはコクピットブロックを共通させており、破壊されればこれを強制排出することで搭乗者を逃がすという設定が残されている。
仮にこれが動作しなくても、首の後ろ側に当たる部分のパーツを破壊することで、機体からコクピットブロックを抜き取ることもできた。
ゲームにおいてそれらは存在があるだけの死に設定ではあったが、しかし百錬にも実際に搭載されていたのだ。
生身で運ぶよりもかさばるが、しかし万が一落とした時などを考えると、ドライバーの保護ができるコクピットブロックの状態で運んだ方がよかったのだ。
「…あの」
そんな関のところに、通信が届いた。
確認すれば、それは関を運んでいる機体からだ。
声は若い女のもの、というより女の子。
たぶん、例のMULSのOSを作ったとかいうやつのことだろう。
関は彼女にあまり興味は無かった。ネクラな地味子な存在は関にとっては脅威にならず、どうでもよかった。
が、無視するほどのことでもなかった。
「どうしました?」
「大丈夫ですか?」
関はそれをただの世間話と認識した。
「大丈夫だよ。機体は捨てる羽目になったけど」
「それは、その、ごめんなさい」
「何で謝るんだよ。僕の自業自得でしょうが」
「あ、はい…」
「ミコトさんだっけ?MULSのOS作ったからか何だか知らないけど、何でもかんでも自分のせいにしないでよね」
「あ、う…」
「君自身はそれで満足かもしれないけど、それで迷惑被るのはこっちなんだから」
「ご、ごめんなさい…」
関の言葉に再び謝るミコト。
「……」
再び沈黙が訪れる。
「…一つ、聞きたいことがあるんだけどさ」
話しかけたのは関の方だった。
「はい、何ですか?」
「何で樹は僕のことを助けてくれたんだ?」
関は疑問を口にした。
剣持ちの百錬は樹しかいない。つまり、あの時の百錬は樹だ。
「僕の都合で勝手に突っかかってたのに、助ける理由が見当たらないんだけど」
一応、関としても自分の行動の意味を理解していたつもりではある。
樹にとってそれがただの言いがかりでしかないのを知っていた。
だからと言って無視できなかっただけなのだ。
ただ、それは樹からすればたまったものではない。迷惑ばかりで利益もない。
で、ある以上。助ける道理も意味もなかった。
「別に見捨てても問題なかったんじゃないの」
というか、見殺した方が後々問題もないかもしれない。
それはする理由がそこまでなかったかもしれないが、しかししない道理も待たなかった。
ついでに言えば、助けに行く分だけ自身の身を危険に晒す。
何もしないのは罪じゃない。それを天秤にかければ、わざわざ助ける道理もなかった。
関の言葉にミコトの返答は無かった。
しかし、しばらくして返事が返ってくる。
「助けたかったからじゃないですか?」
「…助けたかったから?」
「はい。確かにまあ、その。貴方がめんどくさい人なのかもしれないんですけど」
「悪かったなめんどくさくて」
「す、すみません。でも、その…それは樹君にとっては助けないって判断するための材料にはならなかったんじゃないでしょうか」
「助けない理由が無かった?」
「たぶん…。貴方を助けたかったんじゃなくて、助けられたから助けたんじゃないかと」
「ふうん…」
「率先して人を見殺しにできるほど、私たちは冷徹になれません」
最期の言葉に関は返事をしなかった。
関の興味がミコトから外れたからだ。
関はとあるデータを呼び出した。
それは先ほどの戦闘の映像記録であり、関が自身で録画しておいたものだ。
そこに映るのは、剣を掲げ、敵を粉砕した百錬の姿。
それはとても荒々しく、今までは憎しみも抱いていた。
しかし、関にはどこか美しく見えた。




