4-22 アトラトルソード
「ポイントだ!とにかくポイントを寄越せ!」
僕はそう叫びながら、目の前の敵機に剣を振り下ろした。
狙いは敵の肩部。そのジョイント部分であり、狙い違わずその場所へと吸い込まれた。
響き渡る破断音と共に、支持を失い落下する敵の腕部。
僕はそれを確認し、機体を後ろに走らせた。
撃破はしない。そいつは生きた鉄の壁だ。こいつが生きている限り、その後ろにいる敵機は僕を攻撃することができない。
だが、それだけですますつもりは毛頭なかった。
腰から手榴弾を取り出す。狙いは無力化された敵機の向こう側。
僕は機体越しに敵機の向こうへと手榴弾を投げ入れ、距離を取った。
瞬間、爆発。戦果を確認すると、爆風の直撃を受けた敵機がダメージを受けているのが確認できた。
二の腕から先が吹き飛び、大腿部の装甲に穴が開いてMULSが崩れ落ちていく。
撃破はされていないようだが、ダメージで戦闘は不可能なようだ。
狙い通り。この通路の敵はしばらく進軍してこれない。攻撃もできない。
その間に他の場所から押し寄せてくる敵機を倒さなきゃならない。忙しい忙しい。
「あははははは!ポイントが自分からやってくるぞ!」
僕はそう叫んだ。
僕が何をやっているかといえば、何のことは無い。トップランカーに返り咲くために現在進行形で皆からポイントを徴収させてもらっているだけ。
……うん。要はあたりかまわず辻斬りワッショイだ。
サドンデスルームに再び侵入し、そして目につく敵を叩き潰して回っている。
おかげで敵の方からこっちへ向かって来てくれる始末。何度か撃破されてしまった。
ただし、撃破非撃破比率はこちらが上回っており、それは撃破ペナルティによるポイント減少よりも撃破によるポイント上昇の方が上回っていることを示していた。
つまり、このペースならトップランカーへと帰り咲くのも時間の問題というわけだ。おっと
「初心者さんも来てくれたのか」
グラントが姿を見せた。真正面から機関砲を乱射し近づいてくる。
「初心者はあんまり倒したくないんだけどね」
そう言いながら、機体を下に沈ませる。
膝を曲げ、腰を落とし、上へと伸びあがるストロークを稼いでいく。
それは跳躍の予備動作であり、その軌道の先は目の前のグラントだった。
「くたばれ初心者ァ!」
僕はその胴体めがけ膝にある衝角を叩き込んだ。
こちらの動きに驚いたのか大きくのけぞるグラント。それは間違ってはおらず、こちらの攻撃の衝撃を幾分か相殺し、装甲を数枚割るに留めていた。
ただし、抵抗できたのはそれだけだった。
敵はのげぞった勢いのまま、オートバランサーの復元限界を超えたためにそのままの勢いで倒れていく。
逆に僕は、飛び上がった勢いで上に、そして重力につかまって下へと落ちていく。
その先には転倒したグラントがおり、その胸部装甲へと着地する軌道を取っていた。
僕はそれに逆らわず、着地。
意識して衝撃を殺し、脚部にダメージが行かないための措置だ。
代わりに敵の胸部にもダメージは与えられず、撃破は出来ていない。
しかし、それも時間の問題だ。
グラントの上にいる僕の機体は、その質量と高さによって位置エネルギーを持っており、そのエネルギーが敵の装甲を砕くために使われているからだ。
それはさながらスリップダメージとして敵の装甲に蓄積し、割れ、砕けていく。
それはとうとう敵の装甲板をすべて割り、その先にあるコクピットを押しつぶした。
撃破判定だ。え、初心者は倒したくない?今の僕には関係ないなぁ。と、
僕は慌てて手近な場所にある板切れを持ち、掲げた。
元はトラックの荷台部分の外壁であろうそれは、アルミ製のとても薄い板切れだ。
MULSを覆い隠すほどに大きいが、機関砲弾を防ぐには何の価値もないソレ。
しかし、これから起こることに対しては絶大な効果を誇った。
それはすぐさま起こった。
上空から、ミサイルが雨あられと降り注いできたのだ。
それは遠隔躁者のミサイル攻撃だった。乱戦で誤射を恐れて打てなかったが、単機になった隙をついて僕へと襲い掛かってきたのだ。
それらは全て、僕へと向かってきている。逃げる術はない。
そして、僕の掲げたアルミ板へと突き刺さった。
絶え間なく降り注ぎ、その身の持つ破壊のエネルギーを余すことなくアルミ板へと届けていく。
それはアルミ板にたやすく穴をあけ、その先にある僕の機体へと破壊の嵐を届け、しかしそれは叶わなかった。
アルミ板と僕の機体の間にあるわずかな隙間のせいで、そのエネルギーを拡散されてしまったからだ。
それはHEAT弾に代表される爆発物に対して非常に有効な防御方法であり、シュルツェンと呼ばれているそれと同じ働きをしていた。
僕は手に持ったアルミ板を捨てる。それはボロボロだが機体はノーダメージ。まだまだ戦える。
センサーに反応。新たな敵機。
僕はそこへと向かっていった。
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もうどれくらいの敵を屠っただろうか。
時間からすれば一時間も経っていないだろう。しかし、その間に倒した敵は決して少ない数ではなかった。
そして、その時がやってくる。
「…攻撃が止んだ」
敵が襲い掛かり、ミサイルが降ってきていた現状が、いきなり凪のような静けさへと変わっていった。
それは敵が引いていったからであり、ミサイルは誤射を恐れて発射できないということだった。
そして、それはある一つの事実を突きつけていた。
「……来たか!」
センサーに反応。白い装甲に身を纏った、軽量寄りの中量級MULS。
それは肉好きの良い骸骨のような様相をしており、まっすぐにこちらへ向かって生きていた。
それは確認できる通路の全てからやってきている。
機種の名前は桜花。自爆特攻仕様に改造されたそれを操る彼らの集団の名前はオメガナンバーズ。
僕を爆殺し、ただの一般兵へと引きずり下ろした張本人たちだ。
僕はそれが来たことを確認し、口の端を吊り上げた
待っていたのだ。ここまで派手に暴れ、騒ぎを起こしたのはこいつらを呼ぶためだった。
ポイントが増えていくのは確認できているはずで、それをこいつらが放っておくことはあり得なかった。
だから僕はこいつらを待っていた。僕がトップランカーとして君臨するためには、こいつらをねじ伏せていく必要があった。
ただし、彼ら相手には僕の得意な近接格闘はできない。敵の自爆に巻き込まれるからだ。
それを防ぐには銃がいるがしかし僕は持ってきていない。
だが、対抗策はしっかりと持ってきていた。
僕は剣を構えた。
その剣は、ゲームでよく使っていたファルカタでも、現実で使っている鉄板に穴をあけた簡素な剣でも無かった。
それは大矢さんに僕が頼んで設計してもらった新たな武器だった。
刃は片刃で、それは特に特徴のない、普段僕が使っているものとの差異は無い。
僕はそれをひっくり返す。刃が僕の方を向き、そのまま殴れば峰打ちになる構え方だ。
峰の先端には簡素で、しかし頑丈なパーツが取り付けられており、それはMULSの指とそう変わらない原理と構造で動いていた。
それがこの剣をこの剣として特徴たらしめている存在で、これから行うことの重要な部分になる。
僕は腰からあるものを取り出す。それは球状の鉄塊であり、それはMULSにとってはボールのようなサイズをしていた。
僕はそれを、剣についているパーツに取り付ける。指と同じ構造のそれは、近づけられた鉄球を挟み、しっかりと固定した。
これで準備は完了だ。僕は剣を構え、振りかぶる。
狙いは正面最前列の特攻MULS、桜花。
僕はそいつめがけ、剣を思いっきり振り下ろした。
剣が振り下ろされる。その先についた鉄球も、その勢いで加速される。その加速は、手で投げるよりも早かった。
腕を起点にして行われる回転は、その起点からの距離が延びるほど物体の速度を上げる。
円の半径が伸びれば円の長さは大きくなり、回転する速度が同じなら一回転するために必要な距離を確保するため、より早く動かなければならなくなるからだ。
それはてこの原理に従って腕に更なる力を要求していたが、しかしそれはMULSのパワーで容易に賄うことができるモノだった。
剣を振り、その先にあるパーツに開放の指示を出す。
指示に従ったパーツは固定していた鉄球を離し、拘束を解かれた鉄球はその速度で敵めがけてすっ飛んでいく。
剣の長さの分だけ、速度を上げた鉄球。
それは速度に見合った破壊力も内包しており、冷蔵庫を高層ビルから落とした時とほぼ同じ威力を持っている。
それが鉄球の小さな範囲に集中しており、それは桜花の装甲を抜くには十分すぎるほどの威力を持っていた。
胸部を破壊され、大爆発を起こす桜花。
その効果は予測されていたものではあるが、事実として結果に出たのは今回が初めてのことだった。
手にもつ剣は、アトラトルソード。和訳すれば、投槍器の剣。
それは先端の射出機に固定されたものを腕の力で加速させ、開放することで遠くへとモノを飛ばす代物であり。
格闘武器を持ったまま、遠隔攻撃の手段を獲得する武器だった。