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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
強化
73/115

4-19 下☆剋☆上



「よし、これで10機目!」


そう言って、目の前の中量級MULSの胸部に剣を叩き込んだ。

あれから幾度かの戦闘を行っていたが、幸いにしてまだ一度の撃破もされていなかった。

今回は調子がいい。

機体の各所も問題ない。装甲は連戦でへこたれてきているがまだ使えるし、その下にあるバイタルパートにはその役目をはたして一つの損傷も与えていなかった。


「けど、そろそろ不安か。一回入りなおして回復させるか。わざわざ撃破される理由もないし」


このスペースから離脱して、再度入りなおせば機体は新品の状態で再出撃される。

だから僕はその為に離脱ポイントまで撤退しようと機体を向けたところで、


「ん?」


何かが変わったのを感じた。

いや、確かに変わったことがある。


「戦闘が止んだ?」


そうだ。今周辺で戦っているはずのMULSたち。その彼らの射撃音、爆発音、撃破音。

そう言った戦闘音が響かなくなったのだ。

この空間でそんなことは普通ならまずありえない。

つまり、何かが起こってる。


「急いで撤退した方がいいかも」


事の異常性に気付いて、さっさと撤退しようと離脱ポイントへ向けて機体を向ける。


「…ん?」


そして、そこに一機のMULSが存在していることに気付いた。

機体色は白い。体格は軽量寄りの標準型。

手にも肩にも、それは武器を持っていなかった。

肉付きのよくなった骸骨と表現すればぴったりだろうか。

僕はその機体を確認し、


「……!」


背筋を凍らせた。周囲を確認する。

そしてすぐに確認した。目の前の機体と同じ機種が、僕のいる場所に繋がる通路、そのすべてにいることに。


「マジかよ、この状況で!?」


その様子に、彼らの狙いが僕であることを確信してそう嘆く。ただし、嘆いたところで現状は変わらない。

これが徒党を組んだMULSの集団ならここまで嘆かないし、恐れもしない。まあ、運がなかったと諦めるか、ポイントが来たと喜ぶくらいだ。

だが、こいつらは別格だ。こいつらが僕を襲う理由は明確だし、こいつらは決してあきらめない。


目の前の一機が動き出す。

僕めがけて、一直線に。それと同時に、見えるMULSの全てが僕めがけて突進をかけてくる。


「オメガ11。イジェークト」


わざわざオープン回線でそう呟き、自分の存在を僕へと強調して。


「クソ、クソ、クソォ!」


そう叫びながらも、僕は敵に対して行動を決めていた。

腰から取り出す手榴弾。僕はそれを目の前のMULSに投げつける。敵はそんなことを伊にも返さず、突撃。

僕はそれをわかっていた。容赦なく爆破。

その爆発に圧され。そのMULSは撃破判定を受けた。

ここまでは想定通り、そして、そこから先も想定通りだ。僕は機体を前進させる。

瞬間、轟音が前方から轟く。

撃破されたはずの敵MULSが爆炎を上げてひときわ大きな爆発を起こした。

その衝撃は僕の機体にも到達するが、しかし距離があった為構わずに突き進む。

僕は後方の敵なぞ目にもくれず、敵を撃破してフリーになった通路を突き進んだ。

通った先にはまた枝分かれした通路があり、そして。


「やっぱりかよ!」


先ほどと同じMULSが、やはり同じように僕めがけて突進をかけてきていた。


「ちくしょう、オメガナンバーズが目を付けた!」


僕はそう叫び、逃げるために動き出した。


-----------------------―――


今戦っている同一機種のMULSの集団。

それが乗っている機体の名前は。桜花という。

名前は前大戦で日本が作った自爆特攻戦闘機のそれをそのまま使っているらしい。

中量級の機体で装甲は殆どなく、代わりに積載量がそれなりで、かつその重量を背負ったまま運動性能がそこそこを維持できるのが特徴だ。

その特徴から、本来の役割は敵の攻撃が届かない後方で荷物を持って移動し、弾薬や装甲の耐久力の回復を主に行うような後方支援機として設定されていた。

実際、その目的で使うユーザーもそれなりにいる。コンセプトが優秀なのだ。

ただ、この機体を本来の目的で使うユーザーは少数派だった。


その特徴を本来のそれとは違う目的で使う輩が出てきたのだ。というか、名前からしてそうなることを運営も予測していたのだろう。こちらが本来の使い方ではないのかというやつもいたりする。

その使い方はごく簡単だ。


その積載猶予で詰める限りの爆弾をバックパックに詰め込み、その運動性能で敵に肉薄。

そして爆発。相手は死ぬ。


自爆特攻MULS、桜花の誕生の瞬間だった。

そして、その自爆特攻MULSのみを運用する集団をオメガナンバーズと呼んでいた。


彼らの目的は至極単純だ。


『ポイント保持者は全部殺す』


このゲームにおいて、競争の基準はランキングポイントで統一されている。

一応、アリーナや集団戦闘などで類別はされているが、基本的となるポイントは統一だ。

そして、ポイントは撃破されると大きく減少する。一機二機、敵を撃破したくらいじゃ回復しない程度には大きく下がる。

これが何を意味するかといえば、生半可な腕ではポイント保持者になることはできず、ほとんどのプレイヤーはランキングポイントゼロになるということだった。

そうなると、ポイントゼロのプレイヤーにはポイント保持者に対してある種の嫉妬が発生する。


「俺はポイントゼロなのにあいつはポイント保持者だ。うらやましい妬ましい」


こういうことだ。

ただ、まともに戦っても勝てない。ポイントホルダーは生半可な腕では成れない。

そんな輩に、桜花は厄介な手を差し伸べたのだ。

彼らポイントゼロプレイヤーは撃破されても失うものは何もない。ポイントはマイナスにはならないので、ポイントが最初からゼロの彼らには問題がない。

近づけさえすれば、後は自爆すればいい。そうすれば爆風で大ダメージ、生存は困難だ。

仮にそれで生き残っても、虫の息のプレイヤーを放っておく理由がない、他のプレイヤーが撃破してくれる。

そうすればポイントホルダーのポイントは減少だ。何回か繰り返せば、彼らと同じポイントゼロプレイヤーに早変わり。


自分が上に行けないのなら、相手を引き釣り下ろせばいいじゃない。

そう考える輩が出てきたのだ。


その内、複数の桜花が徒党を組んでポイントホルダーに突撃し始めた。その効果は大きく、その手のプレイヤーはこぞって徒党を組み始める。


そうして出来上がったプレイヤーはいつしか「オメガナンバーズ」と呼ばれ、ポイントホルダーに自爆特攻を仕掛ける集団として名をはせるようになっていた。


オメガナンバーズは特定のトップや組織、チームを持たない。今僕を襲っている目の前の敵機も、普段は自分のMULSに乗って鉄砲背負って殺し合いをしている。

オメガナンバーズは概念なのだ。ポイントホルダーを自爆に巻き込むという。その思想を持つプレイヤーたちの旗印。

それが彼らという存在だった。


彼らを止める手段は無い。背中から撃つわけでも無いのでルールには則って行動しているし、彼らの突撃を正面から受け止めてなお生き残る猛者もいる。

というか、彼らはある意味、トップランカーに対しての洗礼なのだ。


俺たちを蹴散らせなけりゃ上を目指す何でできないぞ。と。


その建前で、彼らは集団で襲い掛かってくる。

僕は彼らの行動をとがめることはしない。というか、出来ない。

何故なら自分もやったことがあるから。

実際にやってみると、楽しい。何とも言えない楽しさがある。

確かにこれはやめられないだろう。


「うおおおおおおお!来るなクソがああああ!」


いま、それが僕に返ってきているのだけれど。


僕の後方には無数の桜花。全員が爆装だ。

僕は離脱ポイントめがけて逃走中。そこにたどり着けさえすれば、こいつらからは逃げられる。

手榴弾は全て使い果たしたので残ってない。残るのは剣だが、それで切りかかったら嬉々として自爆するだろう。

今の僕に攻撃手段が残されていなかった。もう逃げるしかない。


「とつげきいいいいい!」

「ばんっざああああい!」

「ほんと楽しそうだなお前らあ!」


桜花の数は今なお増え続け、僕との距離をじりじりと詰めてきている。

それなりに動けるというのは伊達じゃない。百錬は中量級だが、それを上回る機動性を桜花は持っていた。


彼我の速度差では、逃げ切る前に爆殺だ。


「ち、ここでダメならもう手がないぞ!」


僕はそう叫ぶと、手にもつ剣を上へと放り投げた。

方向は真上。慣性の法則にしたがって僕と速度を等しくしていたが、やがて失速して後ろへと流れていく。

同時に重力に引かれて下へと落下。


そこにいるのは、追って来ていた桜花の集団だった。

その一機の胴体に。剣が接触。

切っ先を下に向けたそれは、敵を撃破するのには十分な威力だった。


撃破され、倒れる桜花。それだけにはとどまらず、背負った爆薬が作動。大爆発。


それは隣にいた桜花にも被害を起こした。撃破判定。そして爆薬が再び作動。

あとは繰り返しだ。誘爆が誘爆を呼び、瞬く間に勢いを失っていく桜花の集団。

狙い通りだ。


「あーっはっはっはっはっは。残念でした!さようならー!」


もう離脱ポイントは目の前だ。僕は逃げ切りを確信した。

そんなことを考えていた僕の機体は、横からやってきた爆風で大きくバランスを崩す羽目になった。


「!?」


何が起こったか、考える暇はない。

反対側から、もう一撃。その爆風に晒された僕のMULSはバイタルにまでダメージを負う。

そしてさらにもう一撃。

センサーが最後に拾ったデータには、桜花がそこにいたことを知らせていた。


暗転。次に認識したのは、そこがMULSを格納できる広さを持った暗い空間。

リスポンポイントだ。つまり僕は撃破されたのだ。


「…ちっくしょー。」


僕はそう唸る。何が起こったが気づいたのだ。

僕が戦わず、離脱しようとしていたのは気づいていたのだろう。その進行方向を予測し、先回りして罠を張っていたのだ。

僕はそこに飛び込んで、撃破されたというわけだった。


「あとちょっとだったのになぁ…」


僕は更にそう呟く。その声は元気がない。

僕はもうあきらめていた。


視界が光で四角く切り取られる。再出撃(リスポーン)だ。

このサドンデスルーム。ポイントを保持したまま部屋を出るには指定された離脱ポイントまでたどり着かないといけない。

むりやり出ることもできなくはないが、その場合は今まで蓄えた分のランキングポイントも含めて全て破棄されてゼロポイントになる。

ようは今までの努力がパァになる訳だ。

それを防ぐためには、何が何でも離脱ポイントまでたどり着かないといけない。

ただし、それはもう絶望的だ。


四角く切り取られた光の先は、先ほどと同じサドンデスルームの戦場。


そしてそこには桜花がおり、僕をしっかりと見据えて待ち構えていた。





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