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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
強化
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4-18 カノンダンサー


新人二人が元気に殺しあっている最中。


「さーて今頃あの子たち二人仲良く殺しあってるんだろうけど、僕もお相手探さないとなぁ」


僕は僕で戦う相手を探すためにこの市街地を走り回っていた。


ここまで空間がでかい理由は明記されていないが、僕たちは1対1で戦うことを想定していて、他との戦闘でお互い邪魔にならないようにということだと考えていた。

まあ、それでも徒党を組んで戦うやつらもいないではないのだが。言い換えればそいつら全員倒してポイントにできるということでもあるので撃破されたやつ狩りたい奴が殺到し、いつの間にか大乱闘MULSブラザーズなことになることが殆どだった。

なので、基本は1体1で戦うのが一応のマナーになっている。

んで、それが僕の現状に至っているのだ。


「出会った奴らは既にお相手見つけてたからなぁ」


敵は何度か見つけていた。

だが、出会った端出会った端から戦闘中で僕が入り込む余地がなかった。

おかげで今になっても戦う相手が見つからない。


「あーもう誰でもいいからかかって来いよ!」


いい加減探すのも飽きてそう叫んだとき、ようやく僕のお相手が見つかった。

進行方向に敵機だ。


「ようやくお相手か、しかも軽量級、僕と同じストライカー」


機体は極軽量級でとにかく軽量を追求した機体だ。速度特化、運動性能特科のそれに追いつく機体は存在しないことで有名で、ユーザはその機体を使いこなせるかを無視したらそれなりに多い。

その代わり、その性能を出すために極端な軽量化を行っており、MULSの中では最軽量。機体強度は最弱となっている。

その機体は、武器に近接武器を選んでいた。鬼金棒のようなそれはMULSでは異色の両手で使うものであり、その質量で殴り潰すのに向いている。

その速度で急速に肉薄し、持ち前の運動性能で棍棒を振り回し、その棍棒の威力で敵を撃破するという戦術を使うのだろう。

理屈は通る。理屈は通るのだが、


「カモだな」


僕はそう評価した。

そんな僕の評価もつゆ知らず、目の前のMULSは僕の機体に対して真正面から殴りかかってきた。

普段は奇襲でもするのだろうが、僕の武器は剣と盾。同じストライカーなら銃口を気にしないで戦えるのだ。

それは僕も同じ、全速で前進し、距離を詰める。

お互いに距離を詰め、そして武器の有効範囲に入った時、敵は武器を振り下ろした。

それは振り下ろす機動であり、僕いるコクピットを狙った一撃。

両手持ちのリーチによる先制攻撃だ。それはただ振り下ろすだけじゃない。自身の機体を急制動させ、減速。棍棒の質量は慣性に従って前に逃げ、その勢いを利用しての一撃だ。

機体は速度が乗っている。今から止まっても、もう間に合わない。

だからさらに踏み込んだ。最高速度に乗っているMULSが、前方に跳躍する動きをすることで一瞬だけさらに加速。

それだけで十分だった。

僕の機体は一切の減速をしなかった。

MULSでの格闘戦において、基本全速でぶつかったとしても、交戦範囲になると必ず減速する。

何故なら敵機と激突するからだ。それはトラック同士の衝突事故のような様相になり、機体ダメージは免れない。

だから、格闘戦の衝突ポイントになると基本的に機体を減速させる。

だが、今回僕は減速しなかった。

するとどうなるか?


当たり前だが、衝突だ。

敵の胴体に衝突し、衝撃で跳ね飛ばす。

僕の機体の質量は余すことなく敵機へと伝えられ、その質量差により跳ね飛ばされた敵機は近くのビル壁に激突した。

衝突した胴体装甲は砕かれ、中のコクピットが押しつぶされたのが確認できた。

当然、撃破判定だ。


僕がカモだといった理由がこれだ。


格闘戦において、機体の質量は武器なのだ。


たぶん、このプレイヤーは他のゲームに慣れていて、武器のスペックが全てだと考えていたのだろう。

軽い機体、早い機体で肉薄して、必殺の一撃を叩き込む。剣の先っちょさえ当たればデータ処理で大ダメージ。

スキルやステータスが全てで、アバターがどれだけの勢いでぶつかってきてもノーダメージ。

そんなゲームもやっていて、その感覚が染みついていたのだ。

ただ、このゲームにはそんなパラメーターなんか無かった。

全ては物理法則が支配し、機体の質量さえ武器になる。

そんなゲームで、軽量級の機体で格闘戦は背中から切りかかりでもしない限り勝てるものじゃなかっかった。

真正面からぶつかれば、こんな感じでその質量差で轢き飛ばされるからだ。



「さて次、どこかにいいの――――」

「ふははははは。そこの百錬!手すきだな!」


次の獲物を探そうとしているときに、そんな通信が入ってきた。

見れば、一機のMULSが近づいてきていた。


そのMULSの外見は、一言でいえば戦車だった。

戦車のように履帯を履き、それは中ほどでさらに分かれて四つの履帯を装備している。

その上部には砲塔に似た上半身が鎮座しており、その肩部あたりから二門の短砲身の主砲がこちらを照準していた。

その姿を見る限り、誰が見ても戦車という外見をしていた。

これでもMULSだ。人外機乗り(ゲテモノライダー)に分類され、履帯型MULSと呼ばれるカテゴリの中のさらに戦車型MULSと呼ばれているものだ。

その人外機でも履帯型は3割近くのユーザーが居て人外機の分類では一番の人気を誇っており、その中の戦車型もそのさらに半分くらいのユーザーがいる程度には人気だ。


「見たことのない機体だ。おまけに四肢にあるはずのマルチコネクターがない。つまりは規格外のMULS。ということはたぶん、全部自作のオリジナルか。へえ、珍しい」


実戦にまで投入できる機種は極端に少ないが、それをする人は少なくない。大矢さんの百錬もその一つだ。

目の前のこいつも、そう言った輩の一人なのだろう。


僕はその敵機に呼びかけた。ゲームにおいて通信によるコミュニケーションはあるが、トラブルの元にもなるので使用するのは味方同士の場合のみ、敵との通信は基本禁止がマナーになってる。

まあ、今回は決闘の申し出だろうし、問題は無いか。


「通信で呼びかけるなんて珍しいですね」

「俺は気にしないからな。それで、暇なら相手してくれないか?」

「まあ、いいですよ」

「よぉーしありがとう!このドレッドノートで殴り潰してやる!」


そう言って相手は通信を切った。それと同時にその履帯で接近してくる。

その速度は速い。まあ、純粋な戦車でも時速70kmは軽く出す。それよりは軽量なMULSであれば何をいわんやというところだろう。

ただ、敵は主砲を撃ってこなかった。


(必中距離まで近づくつもりか?)


こちらが躱せない距離に入るまで撃つつもりはないらしい。こちらとしても都合がいい。

正面からローラーダッシュ。ただし時折フェイントをかけて敵の照準を揺さぶっていく。

そして、敵の射撃位置に近づいたであろう距離まで近づいたときに、僕はMULSの軌道を直線的に、最大速度で肉薄していく。

その直線の向きは敵の位置を通るものではなく、その横を大きく通り過ぎるものだ。

見た感じ敵の主砲は車体の真正面以外は撃つことができないようだ。それ以外だと、反動でひっくり返りかねないからだろう。

こちらを照準するためには車体そのものを動かす必要があり、敵からすれば僕の軌道はゆっくり横にスライドしているように見えるのだ。

その状態で精密な射撃はできないはずだった。

そして、その通りになる。

敵は結局一発の砲弾も撃たず、僕の接近を許したのだった。


「くたばれ!」


機体を敵機の後ろまで回り込ませ、その叫びと共に、僕は剣を振り下ろす。

敵の砲口は明後日を向いているこの距離なら外さない。

その軌道はまさに敵の胴体へと吸い込まれ、そして阻まれた。

履帯のスカートに当たる部分が、僕の剣を受け止めていたのだ。

その挙動は、まさしく腕だ。


「やっぱり変形したか」


戦車型MULSの特徴だ。砲撃形態とMULS形態で変形機構を持っている機体が多い。

この機体にも、やっぱり変形機構があったのだ。

僕は剣を引き、距離を取った。

そんな僕は置いておいて、戦車は変形を続けていく。

履帯は接触面がへり、四肢として起立し四足動物の足のようになる。

スカート部分は腕となり、砲塔は上半身に。

そして、その砲塔から頭部が姿を現した。


「うん?」


僕は首を傾げた。

その車体の後方からこちらを見据えて、頭部がにょっきりと生えてきたのだ。

普通なら前に掲げた主砲の間に生えてくるはずだ。

そう思う間にも、敵機は変形を続けていく。


腕はそのまま旋回し、後方へと向いてこちらへ拳を向けている。

主砲は基部ごと変形し、その砲口を下へと向けた。


「なんてこったい。あべこべなのか」


何ということだ。このMULS、戦車としての正面が、MULSにとっての背面だったのだ。


「…また変わったMULSを造りましたね」

「ふはははは。格闘戦用にわざわざ作ったからな!」

「わざわざ重量級で?無駄じゃないですか?」

「それは今から知ればいい。行くぞ!ベッセル!」


そう叫ぶと、目の前のMULSは履帯を回転させた。

僕は動かない。その間に、敵の意図を探る。


(何で重量級のMULSで格闘戦を?)


そうなのだ。軽量級のMULSで格闘戦を行っても勝てないが、重量級のMULSで格闘戦を行っても勝てないのだ。

何故ならその質量が機体の鈍重さを引き起こすから。

重すぎて動くことができず、敵を殴るにも近づけないのだ。

ならなぜわざわざ重量級の機体で格闘戦専用の機体を作ったのだろう。

敵のMULSの腕はさながら鉄の板だ。たぶん、アレそのものが武器なのだろう。武器を持つように作ってはいないし、実際に持ってない。

格闘戦用というのは嘘じゃないらしい。

だが、重量級の遅さでは格闘戦は困難を極める。遅くて近づけない。

じゃあ何でそんなことを言った?


(……あの主砲は何のためにある?)


ふとそう思った。あの短砲身の大口径砲。

一発も撃たなかったアレは僕の腕で撃たせなかったのか?

あるいは、わざと撃たなかったのか?

というか、格闘戦用だろう。何故主砲がある?


敵の、背中についている主砲を見る。

それは機体の下方向を向いていた。

さながら、よく見る空を飛ぶ人型兵器についているバーニアのような―――


「……っ!!」


全身の毛が粟立った。即座に後退。そして横へと滑らせる。

それと同時に敵が主砲を発射した。

それは敵を攻撃することを目的としてはいなかった。


(その反動で、MULSを前方に吹き飛ばすためのモノか!)


その通りになった。敵のMULSが浮き、こちらへとカッ飛んでいく。

20トン越えの重質量が高速で迫ってきたのだ。

ついさっきまで僕がいたところを通り過ぎて、着地。

履帯をまるで半人半馬のケンタウロスのような挙動をさせて着地。緩くドリフトしながら正面をこちらへ向けた。


「ほう、よく見破った!」


敵MULSのドライバーがそう答える。


「…それくらい、余裕ですよ」


僕は虚勢を張った。実際のとこは、築かなければそのまま轢き殺されていた。


「あっはっはっはっは。そうかそうか」


僕の答えを聞き、楽しそうに笑う敵ドライバー。


「じゃあ本気で殴り合おうか!」


そう言って、敵は再び突っ込んできた。

僕はそれを躱す。正面から相手はできない。

遅さが重量級MULSの弱点だったのだ。その弱点を克服したMULSと僕の中量級MULSは、先の僕と軽量級MULSとの関係と同じだ。

ぶつかればこっちが負ける。

おまけに、敵の武器はその腕だ。

指は無いか簡略化。それはさながら鉄の塊であり、リーチはないが手を壊さないためにハンデのある標準的なMULSと違って、MULSのパワーをそのままこちらにぶつけることができる。

真正面から殴り合っても勝てそうになかった。


「そらぁっ。そらそらそらそらそらぁっ!」


敵の通信が届く。調子に乗っているのが、分かる。


「っく!」


だけど、今は避けるしかできない。一撃を入れても、たぶん装甲は砕き切ることができないし、こちらは隙を晒すので撃破される。

今は耐えるしかなかった。


―――――――


何度目の突撃を躱しただろうか、ほぼほぼ反射的に躱すようになっていたその時。


「…?」


僕は首を傾げた。

敵が突撃を行った後、急制動をかけたのだ。

スライディングし、こちらを向いているが、再びの突撃はしてこない。

どうしたのかと思う間もなく、敵が通信を開いてきた。


「どうしたオマエやる気あんのか!」

「……?」


僕は敵の言葉に、首を傾げた。

実際僕は攻撃しない。回避に専念で攻撃できない。

だが、MULS戦においてそれはやる気のない行動だとは思われないし、勝つまでやるのが通例だ。

コイツの発言の方がおかしかった。

何が目的だ?

そう考えた時に、敵がわからないように後退しているのに気づいた。


「やる気出せよお前、突っ込んで来いよ、やる気あんのかお前!」


そう言いながら、何故下がる?また突撃してくればいいのに、相手の方が優勢なのだから。

今度は敵の主砲を見る。そこでふと思い出す。

アレはバーニアじゃない。砲だ。たぶん空砲、火薬を詰めた“弾”でカッ飛んでいく。

その為には弾がいるのだ。それがなくなれば、突撃はできない。

つまり、


(弾切れか!)


その考えは正しかった。


「そんなにやる気ないなら帰るぞ。次の相手探すからな!」


そう吐き捨てて、敵は僕に背を向けた。

逃げるつもりだ。僕は敵めがけてローラーダッシュ。

それを認識したのか、敵も履帯を回して逃げ出した。

だが、さすがに重量級のMULS。その速度は僕の乗る機体よりは遅く、あっという間に追いつかれ、僕はその背にあたる戦車の車体の正面のようなそこに乗り込んだ。


「おい、降りてくれよ。次の相手、探せないだろう?」


妙なイケボイスに変えて、そのドライバーは言う。


「やだなあ、まだ決着はついてないですよ?」

「背中を見せた途端に襲い掛かるなんてなんて卑怯なんだ!」

「アンタが勝手に背中見せたんでしょうが。弾、切れたから逃げるんでしょう?」

「…お願い、見逃して?」


目の前の敵機の哀願。


「…あは♪」


僕はそれに笑顔を見せた。


「お願いだから、後生だから!他の相手を探すからぁ!」


それが通信越しに聞こえたのだろう、必死に命乞いをするドレットノート。

だけど僕は容赦しない。

手にもつ剣を振り上げる。


「貴方の相手はボ☆ク☆だ♪」


僕はそいつに対して笑顔でそう答え、手にもつ剣を振り下ろした。


-------------------――



某所、某掲示板


XXX:名無しのMULS

お?おい、お前ら、見ろよコイツ。


XXX:名無しのMULS

あん?ベッセル?


XXX:名無しのMULS

ベッセルっていうと、例のトップランカーか。


XXX:名無しのMULS

せやな。公式のフィールドには出たのは洗礼イベントの時くらいか?」


XXX:名無しのMULS

だったはず。それ以外は紛争地帯とかのポイント変動なしの空間でちょくちょく見かけたくらいか?


XXX:名無しのMULS

今そいつどこに居んのよ。


XXX:名無しのMULS

サドンデスルーム


XXX:名無しのMULS

ああ、自分以外は全部敵の皆殺しステージか。おあつらえ向きだな。


XXX:名無しのMULS

だろ?どうする?


XXX:名無しのMULS

どうするって、決まってるだろ。


XXX:名無しのMULS

やっぱり?


XXX:名無しのMULS

おうよ。オメガナンバーズ、出撃だ。








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