4-14 武装の現状
さて、デートが失敗に終わった。と言っていいかわからないが、翌日。
今日僕たちは待機になる。
ダンジョン内で敵の間引きや資源の回収を行っている部隊や、ダンジョンそのものに異変が起きた時に即応するための予備兵力というわけだ。
というわけで、僕たちはMULSに乗って日がな一日ぼーっと突っ立ってるのが今日のお仕事です。終わり。
というわけにはいかないんだな。
整備したMULSの試運転やテスト諸々。MULSの全機をダンジョン攻略に駆り出していたせいでなんだかんだ前倒しになっていたその他いろいろをする羽目になっているのだ。
今日待機組になった小隊は、そのすべてをこなすために奔走するハメになったのだった。
というわけで、僕たちもそのもろもろの内の一つをこなすためにとある電脳スペースへとお邪魔していた。
その空間の名前はおなじみサンドスペース。
以前来たことのある状況と内容は同じで、ここでMULSに関するテストということになる。
んで、そのテストの内容はどういったものかといえば。
「じゃ、とりあえず現状で考えた弾薬非消費型の武装を公開するので、皆さんの感想をお聞かせくださいっと」
大矢さんがそう言った。
今日の僕たちの仕事は、MULSに使用する弾薬を消費しない形の攻撃手段を得るために開発された諸々の性能評価ということになる。
大矢さんが説明し、その評価を全員で行うというわけだ。
大矢さんの説明が始まった。
「今回の武器開発についてはまず仕様の決定から始めなきゃいけなかったので、複数のコンセプトに分けて設計してみました。まずはミコトの持つものをご覧ください」
そう言って、僕たちはミコトさんの乗るMULSに注目する。
その手に持つ武器には見覚えがあった。僕がミコトさんと最初にあった時に持っていた、例のグレネード砲だ。
「これは極力弾薬の消費量を減らす方向で設計したものになります。口径は84㎜。現状では遅延式のりゅう弾砲を打ち込んで骸骨の上半身を吹き飛ばす装備になります。今まで10発ほど打ち込まなければいけなかったものを一発で済むようにした装備というわけだな」
「メリットはどうなります?」
「メリットとしては単純に継戦能力の増加かな。ほかには普通の銃と同じ感覚で扱える点。あとはいろいろな弾薬を打ち出せるように設計してるから、煙幕でも焼夷弾でも何でも打ち出せるのが特徴になるよ」
「じゃあ、デメリットは?」
「まず連射が効かない。そこまで遅いわけじゃないけど、今使ってる機関砲みたいな連射はできないし、一発一発ごとに引き金を引かないといけない。一発外した時のリスクは大きくなる。あと、弾薬量そのものは減ったけど、弾体の大きさそのものは大きくなってる。つまりは搭載量そのものが減ってしまっているんだな。それでも機関砲よりはマシなんだが、10倍20倍の効率向上が得られるわけじゃないな」
「効果は確実に出てくるけど、劇的な変化は得られないってことですか」
「まあそう言うことだね。何か質問は?…無いみたいだね。じゃあ次。椿さんの装備をご覧ください」
僕たちは椿さんの乗るMULSを見た。
そこには大きく武骨な銃身を持ったライフルを構え、コンテナを背負ったMULSが立っていた。
「椿さんの分は電磁投射砲。つまりはレールガンになるね」
「レールガン?」
永水さんは大矢さんの言葉に聞き返した。
「まだアメリカくらいしか実戦配備していないし、それも維持メンテナンスが大変だと聞いてましたが」
「まあそれについても説明するよ。とりあえず、こいつは弾薬の搭載量を増やしたモデルになる。腰の弾薬庫には飛翔体の細い金属杭だけを搭載すればいいから、火薬分のスペースを減らすことができるんだな。そんでまあ、今まで実用化できていないこれの構造を説明するとなると…。まずは電源はMULSの崩壊炉のエネルギーを回してる。出力的にはこれで問題がないんだな。機関部もまあ、大出力を出すためのコンデンサが積まれているくらいで規模がでかいだけで一般的なレールガンのそれと大差ない。普通のレールガンだ。これくらいはまあ、先進国ならどこでも作れる。だけど、レールガンはどこも採用していない。永水さん。なんでだかわかります?」
「砲身が溶けるからですよね。弾を打ち出すためには飛翔体に電気が通らないとなりませんが、その為には砲身と飛翔体が接触していないといけません。その状態で超高速にまで加速すると接触面で摩擦が発生し、その熱と電気抵抗の熱が合わさって砲身が溶けます。そして歪んだ砲身は飛翔体との接触不良を起こし通電量の低下つまりは威力の低下を引き起こします」
「はいその通り。永水さんありがとうございます。アメリカのレールガンがメンテナンスに四苦八苦してるのもこれなんだよね。砲身のメンテナンスが難しいんだ。んで、こいつはその点を克服したものになる。銃身の部分を見てくれ」
言われた通り、椿さんの持つレールガンの重心を見る。そこにあるのは武骨な鉄塊だ。ついでに言えば、砲口に当たる部分もない。
「砲口が見当たらないですね」
「お、樹君よくわかったね。こいつは砲身じゃなくて、砲身を作る鋳造装置になる」
「鋳造装置?」
「その通り。この装置は金型になっていて、二本のレールが掘られてる。発射直前に水銀をその型に流し込んで液体窒素で固体化。それを砲身にして飛翔体を発射するわけだ。まあ早い話、砲身は溶けるものとして、その都度作り直せるようにしたのがこのレールガンの特徴ってことになる訳だ。これなら威力を維持したままメンテナンス性を確保できる」
「成程」
「ただまあ、問題も多い。まず一つ目。椿さんそれ持った感想は?」
「めちゃくちゃ重いです!」
椿さんが叫んだ。
「まあというわけで、砲身部分に鋳造装置を詰め込んだからものすごく重くなってる。おまけにその鋳造装置がデリケートでちょっとでも歪んだらそれで使用不能になる。それ以外にも気化したりこぼれた水銀による汚染は無視できないし、その分の補充のためにコンテナの一部を水銀タンクにしないといけないんだよな。というわけで、使えないこともないんだが、採用するにはまだまだ改善点が多すぎてる状態だ」
大矢さんはレールガンについてそう締めくくった。
「そんでまあ、次は消費した弾を再利用する形で実質的な消費量をゼロにする方式を検討してるんだが、これがちょっと難航気味でね」
「難しいんですか?」
「うん。これの構造って早い話、弓と矢なんだよ。弓で射って戦闘後に回収して再利用する形だね。これ真っ先に思いついたんだけど、うまくいかなくてね。なんでかは実物を見ればわかるよ。蓮華さん。お願いします」
僕たちは蓮華さんの乗るMULSを見た。手にもつ武器は、MULSスケールのクロスボウだ。
蓮華さんはクロスボウに矢をつがえ、訓練用の石柱へ照準してその矢を発射した。
狙いは違わず石柱に的中。先端は埋没し、石柱にひびを入れることに成功した。
ただし、
「矢が曲がっちゃいましたね」
「まあこうなるんだよ。MULSの規模になると質量が大きくなって威力が上がるんだけど、代わりに強度は据え置きだから矢じりから羽から全部鉄で作ってもこうなっちゃうんだよね。じゃあ壊れないように太くしようとしたらだ。蓮華さんお願いします」
「はい」
今度は極太の矢を取り出し、クロスボウに装填して発射する。
「撃ってすぐに落ちちゃいましたね」
「まあこうなるんだよ。矢の質量が大きくなりすぎて、弓のバネじゃあ遠くまで飛ばせなくなっちゃったんだ。これじゃあ使えない」
「矢の形じゃなくて、鉄球とかじゃダメなんですか?」
「その質問は、なんで弓矢が鉄球を打ち出さないのかって疑問と同じになるんだが。結局そっちのほうが効率がいいからだな。弦からはずれて暴発する危険もあるし、現状ではそれは無理だ」
「普通の弓じゃダメなんですか?」
「試してみるかい?蓮華さん」
「はい」
今度は弓を取り出し、構える。
指はワイヤーを離れ、弓のバネが矢を加速し、そして―――
「あ、」
張られた弦が胸部に当たり、その衝撃で矢があらぬ方へと飛んで行ってしまった。
「まあこうなる。MULSの構造上、胸部が大きく前に張り出すからね。両手で半身になるまで引き絞る弓だとその出っ張った胴体部が邪魔になって射る以前の問題になっちゃうんだ」
「成程。つまり」
「まだまだ要検討というわけだね」
大矢さんは弓矢についてそう締めくくった。
「そんで最後。飛翔体を使用しない攻撃手段の構築だ」
「具体的にはどういったものです?」
「それについては永水さん。お願いします」
「了解」
そう言って永水さんが持ち上げたのは、SFでメカめかしいアニメチックなライフルだ。ユニ○オオオオオンとか叫びそうな、アレだ。
永水さんはそれを石柱に照準し、引き金を引く。
独特の効果音とともに砲口からは光の粒子があふれ、石柱へと殺到し、そのエネルギーをまき散らして飛んで行った。
残ったのは、ビームが飛んで言った部分がごっそり溶け落ちた石柱だけだった。
「まあご覧の通り、ビームとかレーザーとか、重力視線照射装置とか。そう言うのだな。消費するのはエネルギーだけ。崩壊炉の出力と相談になるけど、一切弾薬を消費しない武器になる」
「けど、問題があるんですか?」
「もちろん。こいつはもう開発以前の問題だよ」
「どういうことです?」
「まだまだ研究段階で実用化は無理なんだよ。永水さんが持ってるのも、結局はこの電脳空間用に結果だけ出力するように作られた他所のゲームの武器をそのまま持ってきただけだしね。可能性としては残っているけど、実現するにはまだまだ先になりそうだ」
「つまり、無理と」
「まあそう言うことだね」
大矢さんはビーム兵器についてそう締めくくった。
「あとはまあ、弾薬を消費しない近接武器についてだけど、これについては人類の歴史があるから武器そのものは豊富に用意できる。ただまあこれは皆ご存じのことで、樹君」
「はい」
僕は全力で手にもっていた棍棒を振り上げた。
途端に響く破断音。それは僕のMULSの肩から響き、棍棒を持った手は力を失って重力歩行へと引かれ落ちていった。
「まあこんな感じで、MULSの方が格闘戦を想定していなかったから現状だと使える武器は限られている。使うにはMULSそのものの強化が必要になってくるね。あと、それをするには敵の目の前まで接近する必要がある。ストライカー以外には扱えそうにないのが欠点だ」
大矢さんは近接武器についてそう締めくくった。
「んで、これが現状になります。まあ早い話、いろいろ考えたけど実現するにはまだまだ課題が多くて解消の見込みもないのが問題だね」
大矢さんは総評としてそう言った。
「というわけで、みんなでそれぞれの武器を触ってみて、レポートを出してください」
今日はダンジョンに異変はなく、その作業に集中することになった。