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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
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4-13 自覚ある馬鹿は止めることができない



「やあやあミコトちゃんお久しぶり。何年ぶりだろうねぇ!3月ぶりだねアッハッハッハッハ!」


何とか見つけた開いているファミレスで出会ったその人は、開口一番にそう言った。


「お久しぶりです。相模さん」


ハイテンションなその人にそう答えるミコトさん。知り合いの再会なのだろう。ほのぼのとした光景だ。

ファミレスの店員さんが奇異の目でこちらをガン見している理由がなければ僕も心穏やかにいられただろう。


「おう?見慣れない顔だね。彼氏?」


そう言う男の恰好が奇抜でなければの話だが。


こちらを向いた男の恰好は、一言でいえば成金趣味だ。

大阪のおばちゃんよろしく虎柄の派手なスーツに身を包み、目にはサングラス。口には葉巻、市販のたばこじゃなくてマフィアン御用達な茶色いソレを咥え、そして指や首に金色のアクセサリーをゴテゴテと乗っけている。

はっきり言って趣味が悪い。というか、見方を変えればヤのつく暴力団的な格好に見えなくもない。

そんな人間が見るからに子供な僕たちと席をともにしているのだ。店員たちも目を離せないだろう。


「そ、そんなんじゃないですよぅ!」

「…………」

「フッヒヒヒヒヒヒヒ!」


そんなことを知ってか知らずか、相模と呼ばれた男性の言葉にミコトさんは否定して笑いあう。

僕はとりあえず沈黙で返すことにした。その意味を理解して、目の前の成金男は非常にいやらしい笑い声をあげていた。


「初めまして。和水 樹と言います」

「あ、どうもどうもすみません。自己紹介が遅れました。わたくし、こういうものでございます」


とりあえず格好については無視して、その人が渡してきた名刺を受け取り、確認する。

そこにはこう書かれていた。


「相模 大和。クリエイティブ・ソフトウェアの…、社長さん!?」


僕はそこに書かれていたことに驚愕した。

クリエイティブ・ソフトウェアとは僕たちが遊んでいるゲーム、メタルガーディアンの運営元だ。


「どうも、社長さんです。まあ、僕ちん代表ってだけでただの首切り要員なんだけどね」

「そんなことないですよ。今回も助かってるんですから」

「あそう?じゃ良かった!」

「ミコトさん、ミコトさん」


和やかに話す二人に対して、僕はミコトさんの袖を引っ張ることでそれを止めた。

聞きたいことが山ほどあるからだ。


「何でミコトさんがメールで呼んだら、あのゲームの社長さんが出てくるの?」

「え?だって、お金の話なら相模さんしかできないし。それ以外私知ってる人いない…」

「…えーと、ミコトさんと社長さんの接点が見えないんだけど…」

「?だって私、元々この会社のシステムエンジニアだし」

「あ、」


そう言えばそうだった。

ミコトさんは僕と同じ未成年なのだが、よくよく考えればMULSの制御OSはミコトさんの作で、つまりはメタルガーディアンに少なからず関わっているはず。というかそこはゲームの根幹部分なので主要メンバーの一人のはずだ。

当たり前だが、そんな人物を会社で囲わない理由もなかった。

そのことに今まで考えが至らなかった。

そのことに気付いたミコトさんは、見る間に目を半目にさせていく。


「…イツキくん?」

「ゴメン。ミコトさんがスーツ着て会社に行く姿が想像できなかったから…」

「まあミコトちゃん在宅社員で接点僕くらいしかないんだけどね。ぶっちゃけ樹君の想像は間違ってないよ。ミコトちゃん引きこもり」

「相模さん!!」

「ンナァーッハッハッハッハッハッハ!」


相模さんはそんなミコトさんをからかって遊んでいた。


「…ミコトさんが社長さん呼びつけたことに僕びっくりなんだけど」

「まあ、それは少々事情が特殊だからね」

「どういうことです?」

「俺、大矢ッチと友達なんだ」

「…マジですか」

「それがマジなんだ。だからまあほら」


そう言って相模さんは自分の恰好を見せびらかすように両手を広げて見せる。


「まともな神経してたら、こんな恰好をしたいとは思ないんじゃない?」

「…わざとそんな恰好できたんですか」

「うむ、成金スタイルで決めてみました」

「なんでわざわざそんなこと…」

「お金がないと成金にも成れないからね」

「いや、言われれば確かにそうなのですけど」

「まあこの服大阪の量販店で買ったし、アクセサリーも金メッキの安物だし、タバコはコレ自作の見かけだけだしで全部パッチもんなんだけどね」

「おいコラ金の話どこ行った」

「んっはっはっはっはっは!」


目の前のおちゃらけ男にとうとう我慢できずにツッコミを入れてしまった。それに対して大笑いで返す相模。

何というか、それだけで大矢の同類というのはなんとなく想像がついてしまった。


「あれですか、大学とかで知り合ってそのまま会社立ち上げたとかですか?」

「お、鋭い。まさしくその通りだね」


僕の問いに相模さんはそう答えた。敬語?この手の輩が敬語を求めてないのは大矢さんのおかげでよく理解させられてるよ。


「大学で意気投合して、会社作って、みんなに夢と希望を与えてお金巻き上げられたらそれでよかったんだけど、気が付いたらこんなことになっちゃった」

「まあ、まさか国のやることにかかわるなんて思ってもみなかったでしょうしね」

「まあそうだねぇ。誰がゲーム作っててリアルなダンジョンの攻略に使われるなんて思うよ?」

「思いませんよね。普通」

「ねー。そう思うよねー。まあ愚痴ってもどうしようもならないんだけどさ」


そこまで適当に話をしたところで、さてと相模さんが区切って本題に入ることにした。


「んで、俺を呼びつけたのは資金運用の委託についてだっけ?」

「はい。お願いしたいんですけど」


パチモン成金ファッションを脱ぎ、ワイシャツと眼鏡をかけたまあ外見だけなら普通の恰好になって相模さんはそう言った。ズボンの虎柄は机の下に隠れているので見た目だけはまともに見える。


「具体的にはどんな事をしてほしいの?」

「大雑把に言って、この辺りの地域の活性化につながるようなことをしてほしいんです」


僕たちは街の現状をかいつまんで説明し、その解決に向けて何とかしてほしいことを使えた。


「うん、いいよ」


それに対しての答えは、意外にあっさりしたものだった。


「え、いいんですか?」

「いいよ?というか、むしろさせてくれるの?」

「どういうことです?」

「つまりだね…」


相模さんが言うにはこういうことだった。

ここには自衛隊基地がある。

そこには自衛官がいて、彼らはダンジョンから離れられない。

そしてダンジョンからは資源があり、それを運ぶための人員が必要となる。

ここに共通する事項は、どちらも人が居るということだ。

人が居れば、そこには衣食住が必要になり、また彼らはここを離れることはあり得ない。

つまり、彼らはここに居付き、金を落とすということだ。

それは一時的なものではなく、ダンジョンが存在する限り。つまりはほぼ無期限に続き、人の入れ替えはあっても人数の変化はまず起こり得ない。

そして彼らが金を落とすのに都合のいい場所は、この市街地以外にありえないのだった。

そこに資金を投入し金を消費するような環境を整えてしまえば、今まで以上の経済圏が出来上がるという理屈な訳だ。

そして、そこに早期から関わることができれば大きな利益を上げることができるというわけだった。


「ついでに言うなら、絶対に失敗しようがないからね。そんなところに他人のお金で介入出来ておいしい汁がすすれるとか断る理由がないんだよね」

「言いたいことは解りますけど表現の仕方は考えてください。誤解を生みますよ?」

「わかってていってるんDA!」

「だろうと思ったよコンチクショウ」

「フヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」


相模さんは僕をからかってひとしきり笑った。


「ふひひっ。というわけで、準備できてるならすぐにでも始めるけど、どうする?」

「…じゃあ、お願いします」

「おっけー。じゃさっくり手続き済ませちゃいましょうか。契約書作るからサインお願いね」


というわけで、さっくりと手続きを行い、僕とミコトさんの両方から資金の提供を受けた相模さん。


「よし、じゃ今から始めるからこの辺りでお暇させてもらうね。ミコトさん、未成年だから樹君のこと押し倒したりしないようにね?」

「相模さん!」

「あははははははははは!じゃあのー!」


最後の最後にそう言って、相模さんは嬉々としてファミレスから飛び出したのであった。


「面白い人だったね」

「うん。お兄ちゃんの同類」

「自分で言ってたもんねぇ」

「うん」


なんか妙に疲れた。大矢さんとは別のベクトルで変な奴だった。

そのまましばらく、頼んだお茶を飲みながら待ったりする。


「うまくいくかな?」

「たぶん大丈夫」

「そうなの?」

「あの人のお金に関することは間違ったことないから。アレだけ自信満々に言ってるならその言葉通りで間違いない」

「成程」


この様子なら、たぶんうまくやってくれるのだろう。


「これからどうしようか」

「…どうしよう」


僕たちはお茶を飲みながら途方に暮れた。そもそもここに来たのはミコトさんとの実質的なデートのはずなのだ。それが気付けば町の復興のために市街地への資金投資に関する打ち合わせになってしまっていた。

まあ時間つぶしにはなったけど、デートの時にすることじゃなかったよな。

かといって他にすることもなく、考えているうちに飲んでいたお茶も底をつく。


「…帰ろうか」

「うん」


結局はそう言う結論になってしまった。


「ごめんなさい。せっかく誘ったのに、何もなくて」

「まあ、ここまで何もないとは思わなかったよ。仕方ないんじゃない?次はちゃんと下調べして計画立てて来よう?」

「うん」


ミコトさんは肩を落とし、僕もどうにかやりようがあったんじゃないかと感じながらも、肩を並べて基地への帰路につく。


僕もミコトさんも初めてのデート。

それは成果のせの字も見当たらないほどの見事な失敗で終わるのだった。


あ、市街復興に関わる成果を上げたじゃないかって?


デートとしての成果じゃないからノーカンでしょ。


市街の再開発が可能になりました。

開発を進めることで人口が増え、装備開発や獲得資源量の増量が見込めるようになります。

また、投資した資金の利息が発生します。開発が進めばその獲得量も多くなりますので、資金に余裕があれば積極的に開発していきましょう。


ゲーム的に言えば、こんなフラグになるのかなと。

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