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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
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4-12 思わぬ被害



そのお店の内装は、徹底してラーメン屋だ。

カウンターとテーブル席があり、店内は油汚れで適当にくすんでいる。

それくらいしか表現のしようもない、良くも悪くも普通のラーメン屋だった。


「いらっしゃい」


まだ客が来ていなかったのだろう、厨房で新聞を読んでいたオヤジが声をかけてくる。


「二人、大丈夫ですか?」

「あいよ。好きなところに座って」


許可が出たのでカウンターに並んで座る。


「メニューはこれね。注文が決まったら言ってね」

「はい」


メニューを見て、結局無難にラーメン二つで注文を決定する。


「はい、お待たせ」

「「いただきます」」


ひとつずつ、僕たちの前に置かれたラーメンにそう言って、僕たちはラーメンをすすった。


「あ、おいしい」


一口食べた感想はそれだった。隣でミコトさんも無言でうなずく。


「ん。豚骨?」

「みたいだね、ただずいぶん食べやすいね」

「たぶん、鳥も入ってる」

「ああ、鶏ガラか」


鶏ガラベースのそれは豚骨独特のコッテリさを薄め、しかし動物由来のそれは確かに豚骨ラーメンとしての自己を主張している。

はっきり言って食べやすくておいしい。味が濃すぎて無理といった人も問題なく食べられるように調整された代物だった。


「麺はまっすぐでちぢれてないね」

「ちぢれてるとスープが絡まりすぎて味が濃くなるんだと思う」

「ははあ、ストレートの方が引っかからずにスープが落ちるから無駄に面にくっつかないのか」

「たぶん」

「なかなかにおいしいね」

「うん」

「お気に召して何よりだよ」


そうして分析を挟みながら食べる僕たち二人に苦笑しながらそう言う店のオヤジ。


「…あんたら、他所から来たんか?」


不意に、僕たちの様子を見てか店のオヤジがそう聞いてきた。


「他所っていうと、県外からですか?」

「ああ、そうだ」

「そうですけど」

「へえ、珍しい。この状況でここに来るなんて。法事か何か?」


その言葉に僕たちは顔を見合わせる。

オヤジの疑問ももっともだ。僕たち二人、傍から見ても未成年だとわかる外見。というか学生真っ盛りの人間のはずだ。

おまけに今は連休も特になく夏休みにはまだ早い。

ダンジョン攻略のために駆り出されているとは普通思わないだろう。


「ん?どうしたんだ?黙っちまって」

「実はその、僕たち仕事でここにきてるんです」

「…仕事?」

「えーと…、徴兵されてダンジョン基地の方でダンジョン攻略にいそしんでます」


僕の言葉に、オヤジは目を丸くした。


「徴兵って、お前達が?」

「ええ、まあ。一応、ニュースにもなってたんですけど」

「あ、ああ。それくらいは知ってたけど。まさか目の前に現れるとは思ってもみなかったぞ」

「まあ、言いたいことは解ります」


オヤジの言葉に同意する。

いくら仕方ないこととはいえ、子供を戦車に乗せて無理やり働かせるってのは、あまりにも荒唐無稽だ。

現実として起こってしまっているのだけれど。


「まあ、そんなわけでして。今日はお休みとれたので町の方に遊びに」

「ははあ、なるほどな。よし!」


僕の言葉にオヤジはそう言うと、勢いよく手を打ち鳴らした。


「育ち盛りなんだからもっと喰え!おっちゃんタダにしてやるから」

「え、いやそんな。悪いですよ」

「いいっていいって。この前魔物がこっちに来た時もあのロボットが来てくれなきゃ孫がえらい目に遭ってたかもしれないしな。これくらい安いもんだ」

「けど」

「いいっての。おっちゃん趣味でやってるようなもんだし、正直もう店たたむつもりだから気にすんな」


オヤジの言葉に僕はミコトさんと目を見合わせる。

その言葉に、ちょっとだけ気になったことがあったからだ。


「おじさん、ちょっといいですか?」

「うん?何だ?」

「この辺り、お店が殆どしまっちゃってるんですけど。なんでだかわかります?」

「あ?あー。ああ、そのことか」

「ええ、来てみたはいいんですけど、どこもかしこも閉まってて気になっちゃって」

「うーん。まあ、商売にならないからねぇ…」


僕たちの疑問に、オヤジはそう呟いた。


「どういうことです?」

「ああ、つまりはだな―――――――」


-------------------------------―――


僕たちの背後で扉の閉まる音がした。

ラーメン屋で食事を終え、ついさっき出てきたのだ。

結局あれから餃子だチャーハンだといろいろ食わされ、そのくせ代金はびた一文も受け取らずに追い出されてしまった。

食べ物はどれもおいしかったが、僕たちの表情は決して明るくは無かった。

この辺りの店舗が軒並みしまっている原因がわかってしまったからだ。


「まさかダンジョンが原因だったとはなぁ…」

「うん……。」


その原因はダンジョンにあった。

ダンジョンは一年前に出現し、周辺一帯を人モノ問わず破壊しつくしていった。

その破壊の境界線は、僕たちが市街防衛のために飛び出して、骸骨たちを殴りまくったあの場所だ。

その時破壊された建物は修復されず、取り壊してダンジョンと市街地との緩衝地帯として野ざらしの荒れ地にされてしまったのだ。


つまりはあそこから市街地へ骸骨たちは侵攻したことは無い。

だから市街地は安全安心。今日も元気に経済活動!


というわけにはいかなかった。


まあ、未だ骸骨こと魔物たちが侵攻していないだけであって、それは結局自衛隊とそれを動かす政府の動きが迅速だったからに他ならない。

つまりは残った市街地も魔物の脅威にさらされている状況なのだ。

実際、ついこの間基地から骸骨の突破を許し、骸骨による市街蹂躙リメンバー一歩手前の状況までなっていた。

僕たちがいたから被害こそ無かったものの、その魔物に蹂躙されうる状況だという現実が、この土地を苛んでいたのだ。

おかげでこの土地を捨てて別の場所に移住する人が出現し始め。この土地の人口減少を引き起こしていた。

そのトドメに先の魔物の突破だ。

今までは基地があるからとそれを理由に留まっていた人たちも、今回の件で今いる場所も決して安全ではないと理解させられてしまったのだ。

その結果、市街地の人口流出は止まらない。むしろ拍車をかけていた。


農家といった土地を離れられない人たちも、結局は手放して出ていく人が多い。

特にこの辺りは酪農。要は牛や鶏といった畜産物を扱う一次産業従事者たちなのだが、一昔前にあった原発事故でも起こった風評被害と同じことが各所で起こり、作っても売れない状況になっている。

おまけにダンジョンが出てきたのがその農地の密集していた場所であり、そこをダンジョン対策のために手放さざるを得なくなっだ農家もいる。

さらに悪いことに連日起こる砲撃音が家畜のストレス増加に拍車をかけ、鶏たちは砲撃音で死ぬ始末。

そんな状況で作られた農産物が、質として高いわけもなかった。

この土地は既に農地として機能することができなくなってしまったのだ。


そしてそれは直接取引で安く買いあげていた地元の飲食店も直撃し、結果として出来上がったのが目の前のシャッター街。というわけだった。


「どうにかならないかな」


ふいにミコトさんがそう呟いた。

ミコトさんの考えはなんとなくわかる。僕たちで何とかしたいわけだ。


「ミコトさん、さすがに無理だよ」


ただし、僕たちにもできる限界はある。骸骨を殴り倒すことはできても、ここを離れていく人たちの心をつなぎ留めておく手段は持っていなかった。


「けど、結局はここで生活できないのが問題なんじゃないの?」

「そうなんだけど、特に仕事がないのがヤバいんじゃないかな。ここで生活するだけの生活費が稼げないなら、結局は出ていくしかないんじゃない?」

「お金の話なの?」

「そうとは言わないけど。ここで生活するには最低限それがないと、どう頑張っても生活できない」

「……」

「僕はいくらか持ってるけど、無限じゃないし、ばら撒いても効果がない。株とかそんな話なんだろうけど、僕にはそのノウハウないし、僕には無理だ」


僕はミコトさんの言葉にそう言った。

結局はそう言う話だ。政府が被災地に支援を行うのと同じことを、僕たちもすればいい。

その為の資金自体は十分かわからないが、ある。ただ、それを扱うノウハウがない。


「……株の話なの?」

「…たぶん、そうなると思う」


ミコトさんは僕の言葉にそう聞いてきた。


「じゃあ、何とかなるかもしれない」


そして、ミコトさんはそう言った。



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