表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
強化
65/115

4-11 二人とそれを見つめる目


「この辺りに映画館?」

「うん」

「へえ、珍しい」


僕はミコトさんの言葉にそう漏らしていた。

珍しいと言ったのは映画館のことだ。

電脳技術の発達で、僕たちの生活の在り方は大きく変わった。

研究やシミュレートといったものは真っ先に電脳によるテストとしての有用性を見出し、それが当たり前になっている。

テレビもお茶の間から姿を消した。電脳のAR表示で済むからだ。みんなで見る場合も、AR表示を共有すれば済んだ。

そのおかげで、パソコンやテレビが必要なモノは、すべてデバイス一つで済んでしまったのだ。

そして、その影響は映画館といった娯楽コンテンツの類もその例外にはならなかった。

電脳は電脳スペースとして仮想空間を構築することができる。

市街地を作り出すことも可能なそれで、映画館の上映スクリーンを一つ構築することなどそれこそ朝飯前ということだ。

おかげで映画館と同じ臨場感で映像コンテンツを楽しむことも可能だったし、カラオケやライブなどといった音を気にするコンテンツも周囲の気にせず楽しむことが可能だった。

おかげで現実の市街地では映画館などは廃れ、その数を大きく減らしていた。

僕が珍しいと言ったのは、そう言う背景があったのだ。


「なんかこの辺り、電脳化が進む前のお店がたくさん残ってるみたいなの」

「僕たちが生まれた時にはもう電脳は一般化してたもんね」

「うん。今じゃもうないし、回ってみるのもアリかなって」

「まあ、確かに」

「うん。それで、映画館に行ってみようかなって思うけど、大丈夫?」


ミコトさんは僕にそう聞いてきた。


「いいよ。大丈夫。」


僕はミコトさんにそう言った。別に否定する気は無かったし、実際どんなものなのか興味があった。


「よかった。じゃあ、こっち」


そう言ってミコトさんは道を曲がる。その通路を進み、町に並ぶビルの前にたどり着く。

確かにそれはあった。看板にはそう書かれ、予想はしていたが少しくたびれたような外観ではあったが電脳の映画鑑賞スペースによくあるロビーによく似ていたそこは、確かに映画館と言えるのだろう。僕たちは初めて、現実の映画館を目にしていた。


「な、なに。コレ…」


もっとも、その扉はぴっちりと閉じられ、カーテンがかけられ、見るからに営業していないという様相もしていたのだが。

僕はドアの前に貼られた紙切れに気付く。

そこには、つい最近閉鎖した旨がしっかりと書かれていた。


「つい最近閉鎖したみたいだね」

「ど、どうして…」


ミコトさんはその紙切れを見て愕然としていた。予定が狂ったのだ、まあ混乱くらいはする。


「だ、大丈夫。ほかにもカラオケとか、いろいろあるみたいだし。予定が狂ったけど、そっちを見て回る?」

「うん、いいよ」


素早く立ち直ったミコトさんの提案に応じ、僕たちは別の目的地へと歩みを進めた。


-------------------------------――


「なんで、どうして……」


ミコトさんは僕の目の前でやっぱり愕然としていた。

その原因は目の前にある建物だ。

その入り口はシャッターでぴっちりと閉じられ、そして例によって閉店について書かれた紙切れが貼られていた。

映画、カラオケ、ゲームセンターetc…。今まで回ったそこはことごとくが閉店しており、その中へと僕たちを誘うことは無かったのだ。


「イツキ君。ごめんなさい」


ミコトさんは謝ってきた。


「どうしたの?いきなり」

「だって、せっかく誘ったのに、こんなことになって…」

「まあ、しょうがないよ」

「でも、結局ただ歩いただけになったし…」

「大丈夫」


僕は大したこともないようにそう答えた。

実際のところ、なんかトラブルにはなるのだろうなとは思っていた。

ミコトさん自体、若干引きこもり体質だ。外に出歩くという習慣がないことくらいは容易に想像がつく。

おまけに年の近い男の子と出歩く、つまりはデートになることなど無かったに違いない。

ノウハウが全くないのだ。うまくいくはずがなかった。

まあ、おかげで僕は助かったのだけれど。


「でも…」

「大丈夫だって。正直、ホッとしたし」

「…?どういうこと」

「女の子と二人でデートなんてしたことなかったから」

「で、デート…」


まそう言うことだ。僕だってミコトさんのことは言えない。

彼女いない歴=年齢だ。デートなんてしたことない。

デートプランなんて考えてもいなかったのだ。


「うん。僕はデートの仕方なんて知らないからね。どうしようかと思ってたらミコトさんのプランでこんなになっちゃったし」

「ごめんなさい」

「謝らなくていいって。おかげでミコトさんもデートの仕方知らないのわかったし。おかげでデートににルールなんかないのに気づいたし」

「あ…」

「ね?デートなんて楽しめばいいんだから。ミコトさんも楽しもう?僕は街の探検するだけでも楽しいよ?ミコトさんはどう?」


僕はミコトさんに話しかける。

ミコトさんの表情は最初こそすぐれなかったが、今ではいつも通りの様子に戻っていた。


「あ、うん。わかった。じゃあ、適当にぶらつく?」

「OK。じゃあそれで」


僕たちは歩き出す。

その行く先は決めていなかったが、しかし楽しかった。


-------------------------------------


「ヒュー。樹君ナイスフォローゥ!」

「そのまま路地裏や!路地裏に引きずり込んでイテコマセ!」

「はわわわわわわ、青春だ、青春ですぅ…」


先の樹たちのやり取りを目にし、路地裏に並んだ六つの目の持ち主たちは口々にそう漏らしていた。


「………」


その後ろで、永水は黙ってその三人の様子を眺め、


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


連れてくるんじゃなかったと深いため息をついた。


「お前ら、他に変なことしてないだろうな」


永水の追及に答えたのは椿だった。


「んー。基地の人達に協力を頼んだ以外は黙ってみているつもりでしたよ?」

「…ちなみに、その協力とは一体何なんだ?」

「基地の強面なお兄さんたちにデートにちょっかい出してもらおうかと。樹君はそいつらを打ち倒す。ミコトちゃんその強さに感銘。そのままホテルに一直線!」

「自衛官がそんなことに協力すると思うか?」

「聞いたらみんなで作戦決めてくれましたよ?ホラあそこ」


椿の指さす方向には、私服だが見覚えのある自衛官がたむろしていた。

よく見れば他にも屋上や車の中から、樹たちの方を見てことの成り行きを見守っている。


「後は頃合いを見て作戦決行するだけですね」

「あいつら…」

「みんなやっぱり気になってたんですね。樹君たちのこと」

「……」


永水は答えられなかった。自分もそう思っていたからだ。

未成年で徴兵された少年と国の政策に巻き込まれた少女。それだけでも気になる対象なのに、気づけばお互い気にしあってる。

それが目の前にいて、協力できる状況にある。

それで協力しないというのは、ちょっと思いつかなかった。

そして、そう思った自衛官たちが、今ここに集結していたのだ。


「…はああああああ」


永水は今日何度目かのため息をついた。


「しっかし、よくもまあことごとくデートプランに組んだお店がパタパタと閉店しまくってましたね」

「それだけじゃない。ここら一帯の店舗の殆どは店をたたんで営業していない」

「そりゃまた何で?」

「営業していないだけじゃない。営業する人員がいないんだ」

「ああ、ダンジョンの暴走で皆死んじゃったとか?」

「椿さん。言いたいことは解るが、この場所でそれを大っぴらには言うな」

「あ、すみません」

「…まあ、言いたいことは解るんだが、それともまた理由は違うんだよ」

「じゃあ、どうしてです?」


椿の言葉に、永水はどう説明しようか、少し考える時間を要求した。


----------------------------


「よく見ると、お店殆どしまってるね」

「うん。シャッターだらけ」


ミコトさんと二人で市街地をうろついた僕たちは、そのことに気付いた。

道行く道に繋がる店舗は、その殆どがシャッターを下ろし、営業していないことを主張しまくっていた。

ついでに言えば、人通りも少ない。全くないとは言えないが、市街地の規模に比較すれば平均以下の人通りなのが素人目にわかるほどには出歩く人が少ない。

電脳技術の発達で出歩く人の総数が減ったのも原因だろうが、この状況は異常だと思える程度には少なかった。


「なんでだろう」

「やっぱり、古臭いから利用者が居なくて閉店せざるをえなかったのかな」

「どうだろう?」


僕たちは二人して首をかしげる。

その時、自分の影が自分の真下にあることに気が付いた。

太陽が真上。つまりは正午。

時計を確認すると、確かにその通りだった。


「もうお昼か」

「どこかでご飯食べる?」

「そうだね。あ、けどこの状況じゃ開いてるお店無いんじゃ…」

「あそこのラーメン屋が開いてるけど」


ミコトさんはその方角を指さした。そこには確かに、ラーメン屋があった。

暖簾を掲げ、営業中であることは中から発生する音も含めて理解できる。


「ラーメン屋?」

「うん。ダメ?」


首をかしげるミコトさんに、僕も首をかしげる。


「ダメっていうか、ミコトさんは大丈夫なの?」

「えと、何が?」

「食後の口臭とか、あと服に汚れがついたりとか」

「あ」


一応公言はしないが、これはデートだ。

デートにラーメン屋に行くというのは、その手のプロたちに言わせればどういう評価が下るのだろう。

言われて気づくミコトさんクオリティ。今まで考えもしなかったのはデートに不慣れなミコトさんらしい。


「だ、大丈夫。洗えばたぶん大丈夫!」

「ホントかなぁ」

「そ、それにイツキ君も言ったよね?」

「うん?」

「その、デートは楽しめばいいって」

「……確かに言ったね」

「うん。じゃあ、別にいいのかなって」

「まあ、それもそうか」


ミコトさんの言葉に同意する。


「それに、他のお店が開いてるかもわからないし」

「ああ、うん」


それが目的か。

まあ、実際今からこの状況で他に開いているお店を探すのは面倒だ。

ミコトさんも面倒くさかったのだろう。そこには同意できた。


「じゃあ、ここにする?」

「うん」

「了解」


ミコトさんの了解を得て、僕たちはラーメン屋の暖簾をくぐった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ