4-10 お休みだぁ!
探索は順調と言える成果を上げていた。
探索の規模が第1階層、第2階層と同じなら、もうそろそろ第3階層の半分くらいだろうと予想できるところまで地図の作成も進んでいた。
中の様子は相変わらずだ。骸骨と呼んでいる骨粉で骸骨をかたどったゴーレムが跋扈しているくらい。
なので、大した問題もなく探索も進んでいた。
もっとも、問題がないわけではなかった。まあ、正確に言えばまだ出ては来ていないのだけれど。
何度も何度も探索のためにダンジョンへと潜り込んでいくなかで、敵の出現にはある程度の周期があるのがわかってきた。
わかってきたというか、個人的な感覚として一定のリズムがあるという感じなのだが。
たぶん、ポイントごとに存在できる骸骨に制限があるのだろうというのは大矢さんの弁だ。
ダンジョン内は僕たちからすれば非常に大きいが、MULSに乗れば閉鎖感を感じる。骸骨も同じだろう。
通路にみっちり詰まって身動きできなくなればそれはもうただの壁で、骸骨である必要性がないわけだ。
だから、いわゆるゲームのエンカウントみたいなことが起こってしまっているのらしい。
で、それはつまり、敵との遭遇にある程度の予測がつけられるということだった。
そして、その結果わかったのが先に言った問題になりそうな懸念事項になる。
起こりうる問題。それは弾切れだ。
僕たちが現在使っている20㎜機関砲。その弾薬をMULSには腰の弾薬箱に最大で300発前後積むことができる。弾薬箱付きのバックパックを背負えば900発だ。
小隊は六機で一編成なので、その総弾薬量は5400発。
これだけ聞けばなかなかの数ではあるが、骸骨一体につき大体10発前後消費する。
つまりは540体が小隊一つにつき倒せる骸骨の限界だ。
これでもまあ、十分な数だ。問題ない。
と言いたいが、そうはいかない。
僕たちはその攻撃力全てをダンジョン内を進む為に使うことができないからだ。
分かりやすく言ってしまえば、『帰ってくるまでが遠足です』というわけだ。どこぞのゲームみたいに限界まで探索したらアイテム使って町まで一気にとはいかない。
MULSの攻撃力は例外を除いて機関砲の火力に直結する。早い話が弾薬の数がそのまま攻撃力になる訳だ。
それは、弾切れを起こせばその攻撃力を喪失することを意味していた。
おまけにダンジョン内の骸骨は壁面から無限に湧いて出てくる。その質と量は行きのときと同程度。
つまり、帰る分の弾薬も残しておかないといけないわけだ。
ただし、単純に弾薬量を半分。というわけにはいかない。
ダンジョン探索では、単純な弾薬量だけが減っているわけではないからだ。
長時間の探索で疲弊した精神、MULS自体の損傷。
そう言ったものは確実に存在したし、それらの存在は命中率の低下という形で弾薬消費の増加を促進していた。
その結果決まったのが、ダンジョン探索時の弾薬消費量が3割を超えたら即帰投という決まり事だった。
これはダンジョン探索に使う時間を削減したが、代わりに帰投するまでの疲労度も少なくなるというメリットもあった。
もっとも、おかげでダンジョン探索の行きに使える弾薬量は1620発に減り、骸骨を倒せる量も162体まで減ってしまったわけだが。
そして、その限界がもう少しのところまで迫ってきていた。
僕という例外。弾薬を消費しない攻撃手段を持った僕がいることによる弾薬消費量低下と、それによる探索可能距離の増加があっても、覆せない問題だった。
大矢さんは何か弾薬に依存しない攻撃手段を模索しているが、まだ試作すらできない程度には難航しているらしい。
まあ、小難しい話はここまでだ。
今日は週末。ミオリさんが言っていた、部隊運用がシフト制に変わった当日で、僕たちが休みをもらった当日で、
「お、お待たせっ」
僕がミコトさんと市街地デートを約束した当日だった。
「いや、自分も来たとこ」
そんな感じでお決まりのやり取りを行う。実際約束の時間よりも早いのだ。何の問題もなかった。
彼女の服装はシャツにホットパンツという装いで、体の線が細い彼女にはよく似合っていた。
普段はヘリの飛行服の改造品でできたMULSのパイロットスーツ姿がほとんどなので、この格好は、特に足が、非常にまぶしい。
「ど、どうしたの?」
「いや、ミコトさんがそう言う服着るとは思わなかったから」
「…うん。お義姉ちゃんに選んでもらった」
「ああ、なるほど」
「ど、どう?」
「とても似合ってるよ」
あっさり言ってのけた僕の言葉に赤面するミコトさん。かわいい。
「ちなみに、その服着たいと思った?」
「絶対ヤダ。恥ずかしい…」
予想通りの言葉に苦笑する。何というか、とても彼女らしかった。
そんな話をしているうちに、待ち合わせ場所に一台の車がやってくる。
「おはよう。ちょっと待たせたかな」
僕たちの小隊長、永水さんだった。ダンジョン基地から市街地までは距離があり、僕たちにはそこまで行く足が無かったので永水さんにお願いしたのだ。
そんな永水さんの服装は野戦服。俗にいう迷彩服だ。
「永水さんは迷彩服なんですね」
「まあ、クセでね」
「クセ?」
「自衛官が休暇で外出するときは制服でっていう決まりがあるんだよ」
「そうなんですか?なんでそんなことに?」
「簡単に言ってしまえば、私服の自衛官が門から出入りしていたら面倒なことになる訳よ」
「?」
「民間人から見れば、そこらの一般人が基地内に自由に侵入してるように見えるってことだな。『あれ?あの人たち何で自由に出入りできるの?』って」
「ああ、制服なら自衛官が出入りしているって一発でわかるわけですね」
「そういうこと。だからホラ」
そう言って助手席にある紙袋を見せる。中には私服だ。
「門を出るまで制服で、門を出てから私服に着替えるのが通例なのさ」
「成程」
「私たちもそうした方がいいんですか?」
「そんな指示は無いからしなくていいよ。止めはしないけど」
永水さんはそう言った。
「さて、じゃあそろそろ出発しようか」
「あ、はい」
「よろしくお願いします」
そう言って車に乗り込み、一同は市街地へと出発した。
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「じゃあじぶんはここで。帰るときはデバイスで呼んでくれればいいから。もしくはタクシーで帰るか」
「はい、ありがとうございました」
永水の言葉に樹たちはそう言い、市街地へと歩き出していく。
永水はそれを見送り、適当なパーキングへと車を止める。
「さてと」
そう言って、永水は歩き始めた。
向かう先は先ほど樹たちが歩いていった道。
「さあミコトがんばれミコトそのままホテルに行くまでがデートだぞ」
「そのためにもちゃんと決めたとおりにデートをするんですよムード盛り上げてそのままバージンロードまで一直線ンンンンンー!」
「ドキドキ、どんなことになるのだろう…」
「お前ら何やってんの?」
その物陰で騒いでいた三つの人影に対して話しかけた。
人影の正体は大矢、椿、蓮華の三人だった。
「な、永水さんっ。え、ええとこれはそのええとあの」
「うん?そんなの決まっているじゃない。妹がちゃんとデートをうまくできるか見守ってるんだよ」
「ついでにあっちなアッチッチなことにならないか虎視眈々と狙ってるんですよ」
「要はストーキングか」
「「そうともいう」」
「す、すみません…」
胸を張って言う馬鹿二人と謝りながらもやめられない蓮華。
その様子に永水は深くため息をついた。
「というか椿さん。お前樹君にアレな感情持ってたんじゃないのか」
「恋愛感情は無いですよ?肉欲はありますが」
「…お前ら人の色恋以前に自分のことどうにかした方がいいんじゃないの?」
「まあ私とそう言う関係になろうって人いないしね」
「自分の恋愛楽しむより他人の恋愛見てる方が面白いですから」
「自衛隊生活に出会いなんかありません。あっても気づいてくれません」
「こいつら…」
口々に言う三人に呆れる永水。
「どっちにしろ個人のプライベートだろ。あんまり詮索するな」
「「「…はぁーい」」」
永水の言葉に、三人は渋々承諾した。
「ちなみに、そのデートのプランはどういうものなんだ?」
「えーとそれはですね…」
何気なしに聞いた永水に、嬉々として応える椿。
「お前ら、こっちに連れてこられて街に来たことあるか?」
説明を聞いて、永水は最初にそう聞いた。
「そう言えば、無いですね」
「行く理由なかったからなぁ」
「私も来たばかりですし」
「成程な」
口々にそう答える三人に、永水はそう答えた。
「何か問題があったんですか?」
「問題というかだな。あー…」
椿の言葉に言葉に詰まる永水。
「ま、見た方が早いか。ちょっとついて来い」
そう言って、三人を引き連れて歩き出した。
ダンジョン攻略といいながら一切攻略している描写がないぞー。
MULSが動く描写がないぞー。
書きたぁーい。再来週までデート編だけど…。