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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
チュートリアル
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2-2 デメリット


「今頃、彼らは現地入りしたころかな」


ぼんやりと空を流れる雲を眺めながら、ひとり私はそうつぶやいた。

ここはとある建物の屋上だ、ちょっと仕事をさぼってここにいる。

今頃階下では私を探していることだろう。その程度には私の持っている役職は重要だ。


「それは、ダンジョン攻略に駆り出されたゲームプレイヤーたちの事ですか?」


不意に、私一人しかいない屋上で、別の人物の声が聞こえた。


視点を下に、声の聞こえた後ろに振り返ると、そこには一人の若者。

ラフなジャケットにジーンズ。手にはカメラと、外見はいかにもなザ、ジャーナリストだ。

おそらく、仕事もその通りだろう。


「きみは誰だい?ここは関係者以外立ち入り禁止だよ?」

「フリーのジャーナリストです」


ほらやっぱり。


「ああ、名刺は出さなくていいよ。いちいち覚えていられないからね。それより、どうやってここに来たのか知りたいね」

「壁を登ってきました」

「きみは忍者の末裔かね」


「そうかもしれませんね」と、笑う若者。


「私に取材かい?」

「ええ、先ほどの"彼ら"の件について」


彼ら。とは、ダンジョン攻略に駆り出された人たちの事だ。


「……答えられる範囲ならね」

「よろしいのですか?」

「そのために来たんだろう?」


まあ、今となってはバレたところで大差ない。どうせ国民は知ることになるのだ。


「では早速。今回の特殊技能保有者動員法の件です。今回はMULS操縦技能に限定されていましたが、これは別の技能にも適用されますよね。今後、そういったことはあるんでしょうか。」

「無いね。絶対に無いとは言えないけれど、今回みたいにどうしようもない場合以外ではないと思うよ。」

「それは何故。」

「したくないからさ」


順を追って説明しようか。


「まず、国家として経済的な問題がある。」

「それは、徴兵した人員の服や食料などの、維持費用とかのことでしょうか」

「それもある。けど、他にもね、目に見えない損失があるのさ」

「それは何?」

「彼らをそのまま働かせていた場合の税収」

「…。」


私は話を続ける。



―――――――――――――――――――――


今回徴兵された彼らは誤差と例外があるものの、平均25歳くらいの若い世代だ。まあ、仕事を覚え始めて成長し始めたころだろう。そんな時にいきなり徴兵されて、会社を辞めることになってみなよ。

そこで仕事のノウハウは失われてしまうし、その間は国が税金で養うことになる。そしてそれが過ぎればどうなるとおもう?

無職さ。会社からすれば、せっかく育てた人材を失うことになる。


「しかし、兵役を終えてから再雇用すればいいのでは?」


仮に兵役の期間を2年と定めたとしても、その2年でキャリアを積んだ人間と、すべて忘れて一から育てなおさなければならない人とでは生産力に差がありすぎるよ。

おまけに、そのころには彼らは20代後半。中には30を超える人も出てくるだろう。30歳近い人間を雇用するくらいなら、20歳の若い新人を育てなおした方が会社としてはお得だね。教育に払うコストは同じなのに、それがペイされる期間は10年ほどの差があるんだから。そりゃ、より長く稼いでくれる人間を雇用するだろう。


おまけに兵役で教育した人員も、2年間で失う羽目になる。専門的な教育も、その短期間では無理だろう?そんなことをするくらいなら、若いころからやる気のある人間を防衛大学にでも入学させて、より高度な教育を施して働かせた方がずっとお得だね。


徴兵される人は無職になり、企業は人材を失い、国は無駄な努力をする羽目になる。三者が三者。みんな損して楽しくないね。


「それでも、国防に関してはそんなことは言っていられないのでは?」


君はジャーナリストなのに、変わった考えを持っているね。

それは、自衛官の数が減って防衛力が低下することを言っているのかい?だったら杞憂だよ。まず、自衛官が減ることは無いと言えるね。


「何故です?誰だって死にたくない。軍人になりたくない人間は大勢いる」


軍人にならなきゃ経済的に困窮して生きていけなくなる人間もいるんだよ。自衛官になればとりあえず生きていける。資格を取得するための教育とチャンスも与えてくれる。資格を取って、そのあと社会で活躍するという選択肢をとるしかない人間っていうのは、少なからず存在する。

自衛官の志願者が減るってことは、あまり考えなくていいね。


「経済が縮小すれば、困窮して食い詰めた人が軍門を叩くと。経済が活性化したら当てはまらないのでは?」


その時は経済競争に負けた人が入ってくるだろうさ。何より、高度経済成長期。いわゆるバブル時代には公務員が給料の安さで馬鹿にされていたんだよ?その時代に自衛官の少なさが問題として起こったのかい?ニュースになった?聞いたことないね。


「……。」


他にも、やりたくない理由はまだまだあるよ?徴兵された人の士気は低いだろうね。どれだけ役に立つだろう。手に持った銃を乱射するかも。軍規に反した行動をとったり、それが原因で一世紀近くよその国との外交問題になったりするかもね。その責任はだれが取るの?

この国の総理大臣さ。いつ爆発して自分の政治家人生を白紙にするかわからない爆弾を抱え込むようなモノ好きがどれだけいるかね。


何より。いいかい君。何よりだよ。国民の生命と財産を守るためにある国家と自衛隊が、その国民に銃を持って戦場に立てって言うのかい?それじゃあべこべだ。


自衛隊の存在意義が疑われる。いらないじゃないか。自衛隊が。


「しかし、それこそあべこべです。今回の特殊技能保有者動員法は、その国民を危険にさらす行為だ。それを、自衛官の前に出す行為を、国はしていることになります」


その通りだ。


―――――――――――――――――――――


「ではなぜ、この法案を通したのですか。あなたの言っていることは矛盾している」


目の前の男はそう私に追及した。

さんざん徴兵のデメリットをあげつらっておきながら「やっぱり徴兵するYO!」と態度で表したのだ。まあ追及もされるだろう。


「仕方がなかった。時間がなかったんだ。」


彼の苛立ちがわずかに感じるが、そう答えるしかないのでそう答える。


「…具体的には、どういうことでしょう。」

「その前にお茶でも飲む?タバコ吸う?」


私は少し話し疲れたので休憩したいのだけれど。


「お構いなく。飲み物は持ってきていませんし、タバコは吸いませんので」


あ、そう。まあいいか。時間もないし。


「じゃあ、続きを話そうか。」



ごめんなさーい。少し短いでーす。その分次が長いでーす。

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