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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
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4-4 とばっちり


「きゅう…」


目の前で青年(仮)が伸びている。

ミオリさんが、話が進まないからと興奮した彼(?)を昏倒させたのだ。


「まったく、この馬鹿者が」

「ミオリさん、この人なんなんですか?」

「この人の名前は関 竜也。貴方達と同じで、徴兵されたMULSドライバーね」

「いや、そういう意味じゃなくて、僕のことを泥棒猫って…」

「ああ…」


僕の問いに、ミオリさんは少し遠い目をした。


「…一週間前、魔物が基地外まで突破されたのは覚えているわね?」

「まあ、実際に対処に向かいましたからね」

「その時、あなたたちが外でやった活躍が録画され、ニュースにあったことも知っているわね?」

「ああ、ありましたね、そんなこと」


僕はミコトさんと共に、ミオリさんからついと目をそらす。

あの時、西富士駐屯地ことダンジョン基地の外に突破した骸骨たちを迎撃しに真っ先に迎撃に出たのはミコトさんで、それを追って二番目に飛び出したのは僕だ。

そして、そんな僕たちの活動が、個人のデバイスや視野記録といった方法で簡単に録画できるようになった昨今の中で、見逃されるはずもなかった。

つまり、いつの間にか映像として記録され、ニュースの場を賑やかすことになっていたのだ。


ダンジョン基地内でしか活動せず、ダンジョン内でしか活動しない陸戦兵器、MULS。

アニメでよくある人型有人ロボット兵器がそこにあるのに、今の今までニュースでは話題に起こすための絵になるモノは配備直後のMULSの納品時の映像くらい。その活動のほとんどはダンジョン内であり、当然マスコミにその映像を撮ることはできなかった。

つまり、話題にしようにも話題にするための絵が手に入らない状況だったのだ。そんな状況で彼らに注目していたのは、同じMULSドライバーくらいのものだった。

そんな中、MULSが動く絵が撮れた。しかも、市街防衛のためというヒロイックな条件の下で、だ。

MULSが骸骨たちの前に立ちふさがり、突撃していく姿。

それを迂回して民間人の子供を襲おうとしていた骸骨を横からひき潰して守り、瞬く間に5 m超えの化け物を屠っていく姿。

そして最後にはMULSと戦車が増援に駆け付け、基地から漏れた骸骨たちを殲滅していく姿。

そんな絵になる映像が手に入ったのだ。しかも、人的被害がないのでどんな取り上げ方をしても問題ないおまけつき。


マスコミ各社がそれを見逃すはずがなかった。


おかげで瞬く間に情報は拡散。一週間も経ってない今もニュースを開けばその映像記録がでかでかと流されている。

まあ、内容はアレだけどね。『資源に魔物が混入!自衛隊の杜撰な管理体制!』とか、『徴兵された民間人、市街地で暴れる』とか。ああ、あとは「民間人を真っ先に戦わせる自衛隊、その存在価値は!?」とかもあったな。

もっとも、僕たちの活躍をテレビでヒロイックに報道しているのは当のマスコミたちで、SNSで「こいつら批判する気ねーだろ」とツッコミを入れられる始末なのだが。

おかげで世論の方は僕たちの行動に肯定的だ。うまくいったからの結果なのだろうが。


幸いにしてMULSは完全密閉、中に乗っている人は外からは見えず、僕たちが独断で突っ走ったことは基地の外にはバレていない。バレていたらいろんな意味で今以上の大騒ぎだ。

まあ、おかげで僕たち先行した2機のMULSの犯人探しが行われているのだが。


「それで、それと目の前の彼(?)と、どうつながるんですか?」

「この馬鹿はダンジョン内の活動記録を動画配信サイトに投稿したのよ」

「…ええー…」


僕は思わず足元の青年(仮)を見る。その声には呆れが含まれていた。


僕たちは軍人だ。民間から意思尊重を許されず強制的に徴用された結果だが、定義上僕たちは軍人になる。

そして、MULSは軍事兵器であり、ダンジョン攻略はれっきとした軍事行動だ。

何が言いたいか?


MULSに乗ったダンジョン攻略の行動記録なんてものは、個人の勝手でネットに流していいものじゃないってことだ。


戦車や装甲車の装甲の厚さを調べようとしたら、悉く曖昧な表現ではぐらかされていることに気が付くだろう。

これは何も、誰も彼もが適当に調べているからそうなっているわけではなくて、意図的にその情報を秘匿されているからだ。

当たり前の話だ。その装甲の厚さがどれだけかわかれば、それに対抗するための攻撃力がどれだけかを計算することができる。その数値をもとにその戦車や装甲車に有利な兵器を作ることができる。そして、その逆はない。

じゃんけんで相手の出す手がわかるようなものだ。つまり、勝負にならなくなる。全負け確定。

だからこそ、軍事兵器の情報というのは基本的に秘匿される。軍艦がその持てる速度のすべてを出して移動しなかったり、火砲の最大射程で射撃しなかったり、よその国の戦闘機が領空を侵犯しても、すぐに迎撃に出なかったり。そうやって、兵器の持つポテンシャルがどれだけあるのかを分からないようにしているのだ。

まあ、この国の全戦力を国土の半分に移動させるのに要する時間とかは既にバレちゃってるらしいけど。

とにかく、それは僕たちの乗るMULSだって例外じゃない。MULSの性能、所持する火器の性能、あとはまあ、必要ないかもしれないけどダンジョン内の地図や敵の情報。

全部秘匿されるべき情報だ。


つまり、ダンジョン内の活動記録なんてものは、それらが一纏めで手に入る軍事機密の宝石箱というわけだ。

だからこそ、ダンジョン内の活動記録はミオリさんに提出して、個人で扱うことは禁止される。

それは徴兵され、ここに来た時に説明されたことだった。

説明を受けていたはずなのだが…。


「この人、流しちゃったんですか…」

「ここしばらくの生活で慣れが出た結果でしょうね。本来なら入隊と同時にそのあたりの教育も行うのだけど、貴方達にはそんな暇無かったから」

「やっちゃってもいいさと流しちゃったと…」

「徴兵制の弊害ね」


志願者で構成されていない。自衛官としての自覚がない上に望まぬ境遇に追いやられたことに対する反発心などから、どうしてもモラルや規律の面で正規の部隊よりも劣ることになるわけだ。

ついでに言えば、僕やミコトさんの独断先行もか。あ、ミコトさん目をそらした。


「それは理解しましたけど、それがなぜこの人が僕を泥棒猫呼ばわりすることに繋がるんですか?」


もっとも、それは僕と関さんの接点を伝えるには無関係だと思うのだが。

そうだ。関と呼ばれるこの男、こいつに僕が泥棒猫と呼ばれることに、いったい何の意味があるのか?


「それについては、まずこの男が流した動画を見た方が早いわね」


その質問に対し、ミオリさんは記録データを僕へと送ってきた。


――――――――――――――――――――――


「はい皆さんお久しぶりでーす下僕どもー」


動画が始まって最初に受け取った情報は、その声だった。

動画のコメント欄は『待ってた』や『うp乙』など、動画投稿者を歓迎するコメントが次々と流れていく。


「前回の投稿から約2か月。僕が徴兵される直前が最後の投稿でしたね。あれから今までいろいろありましたが、ボクは元気にザコ共を粉砕し続けていまーす」


その声に対し、コメント欄は『無事でよかった』『心配してましたー』と安堵の声を上げている。


「さて、今日はいつもと違って生放送ではなく、録画したものをお送りしています。何故だかわかります?ヒントは今映している映像をよーくご覧になってください」


そこで動画に映されている映像を注視する。映されているのはMULSのメインカメラの映像。下にMULSの胴体上面の装甲が見えている以外は仄かに青く光る狭い空間の中だ。狭いと言ってもMULS基準であるが。


「実はここ、現実にあるダンジョンの中です」


その言葉に、コメントが一瞬だけ途絶え、そして今までの数倍以上のコメントが猛烈な勢いで流れていく。

動画投稿者の関はそうなることを予測していたのか、わざと答えずに時間をおいて次の言葉を放った。


「はい、皆さんお気づきでしょう。今回はリアルにあるMULSを使ったリアルなダンジョン攻略の体験レポートを流していこうと思いまーす。動画が生放送じゃないのはそれが理由ですね。ダンジョン内からだと電波が届かないんですよー」


その言葉とともに、動画は驚きと歓喜の声で満たされる。ミオリさんの捕捉によると、この辺りで情報が拡散して、動画の再生数が跳ね上がったらしい。

画面が切り替わる。先ほどと同じMULSのメインカメラの映像だが、先ほどとは違い一機のMULSが画面中央に立っている。

おそらく目の前にいるのは関さんだろう、下僕と呼ぶ他の僚機のMULSドライバーにカメラマンを任せ、自分はレポーター気取りのドキュメンタリー風味でお送りするつもりらしい。


「というわけで、ここで話してばかりもつまらないから、早速ダンジョンの攻略を始めていきたいと思いまーす。それではイクゾー下僕ドモー!」

『アイアイサー!』


そして、いつものことなのだろう、言いなれた感じでその言葉を発し、彼のMULS小隊はダンジョンの攻略を開始した。

内容の方はまあ、僕たちがいつもやっているのとあまり変わらない。全員が機関砲装備で、全員で射撃を行っているくらいか。

その合間合間に状況の説明や敵の解説などを行っていく。流石はMULSドライバーの中で断トツ人気のv-tuver。視聴者を飽きさせない工夫が随所に見える。


そのまま面白おかしく動画は続き、シークバーから動画の終わりが近づいていた。


(…?普通の動画だよな…?)


僕は動画を見ながら、そう思った。

いや、極秘情報を解説付きでわかりやすく説明しているという点でいえば完全なアウトコース大問題待ったなしなのだが、僕を関さんが泥棒猫呼ばわりするには程遠い。というか、未だに接点が見えてこない。


僕は疑問に思ったが、その疑問は動画の残りの方に待っていた。


「さて、そろそろ時間も迫っていますし、目の前のザコさん潰して本日の投稿を締めとさせていただきたいと思いまーす。ミトケヨミトケヨー」


動画的にもう終盤も終盤。目の前の、あと二体となった骸骨を潰して今回の配信を終えようとしたときに、それは起こった。


T字路となっていたその突き当りに二体だけ残った骸骨。関のMULSが銃を照準し、骸骨へと今正に打ち込もうとしたその時、T字路の向こうから何かが飛び出してきたのだ。


それはMULSだった。両手を地面から引き離し、手に持った長い板切れを振りかざし、その進路はT字路にいた骸骨へと向いている。

それは跳躍であり、文字通りの意味で骸骨へと跳びかかり、手にもつ剣で切りかかろうとしているところだった。


それはそのまま予測された通りに骸骨の胸部へと吸い込まれ、中にあるコアごとその身を破砕、四散させた。

それだけに飽き足らず、両足を接地させ、振りぬいた勢いをそのままにローラーダッシュ。

超信地旋回にも見えるが、腰の軸は動いている。ローラーダッシュと機体の位置を調節して旋回しながら、もう一体の骸骨へと向かっていく。

着地し、剣の勢いそのままに体を回し。その勢いのままもう一体の骸骨の元へと向かったのだ。

機体が一回転する頃には、その機体は確かに骸骨のそばへとやってきていた。

手にもつ剣の切っ先は、先の骸骨を破砕した時からの勢いを一切緩めることは無く、そして確かにもう一体の骸骨へ向かう軌道を取っていた。


再びの件と骸骨の接触。それは先ほどと同じようにコアに到達し、そして骸骨の体を弾け飛ばした。


二体の骸骨を砕き切ったそのMULSは、そんな骸骨には一瞥もくれず、そのまま直進してT字路のもう一方へと向かっていく。

それを追いかけて、仲間なのだろう5機のMULSが追いかけていく。


後に残ったのは、いざ撃とうとした姿勢のまま固まった関さんと、それを取り巻くチームメイトだけだった。


「ぼ…、」


関さんが口を開く。


「僕の獲物がぁー!」


関さんが絶叫し、そこで動画のシークバーは終端にたどり着いた。


-------------------------------



動画が終了した時、何とも言えない空気が室内に充満した。

そして視線が集中する。


その視線の行き着く先は、僕だった。


その視線は決して非難するようなものではないが、しかし呆れたような視線だった。

ダンジョンで攻略を行う、剣を獲物にする格闘技能持ちのMULSドライバーは僕しかいなかった。

つまり、あのMULSのドライバーは僕だ。ついでに言えば、動画の状況にも心当たりがあった。


この間、ちょっとした機体の不備を直すためにダンジョン攻略が遅れたのだ。大した時間じゃなかったが、その時のロスを埋めるために急いでいた。

その時、通路に立ちふさがった骸骨を通り抜けざまに切り捨てたのだ。

あの動画の状況は、その時の物だろう。

少々気まずくなりながらも、その視線の中で僕は口を開いた。


「あー、つまり、関さんが僕のことを泥棒猫呼ばわりされてるのは…」

「僕のための動画だったのに、最後の最後で全部持って行かれたからだよ。おかげで君に注目が集まって動画投稿者たる僕がそっちのけ。文句の一つも入れたくなるってもんでしょ」


僕の言葉を遮り、いつの間にか回復した関さんがそう答えた。そしてミオリさんにひっぱたかれる。


「つまり、関さんがここにいるのは、その件に関する説教だったと」

「そう。そして、その時に貴方たちが戻ってきたということになるわね」


なんともタイミングの悪い。

そう思う僕たちを置いて、ミオリさんは地べたに転がってる関さんに視線を向ける。


「とにかく、ダンジョン内部の動画投稿は厳禁。わかったわね」


ミオリさんは関さんにそう言いつけた。

それに対して関さんは、


「あはははははは。嫌だなあ。ボクから動画配信をとるなんてありえないですよ」


そんな事実など知ったことかと、あっけらかんと笑いながらその要求を突っぱねた。


本日何度目かの、何かをひっぱたく音が室内に響いた。


うん。とりあえず。


完全に自業自得じゃないか言いがかりも甚だしいわボケ。


口には出さないが、僕は心の中で目の前の関をそう罵っておいた。



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