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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
強化
56/115

4-2 構成


彼女の名前は松本 華蓮さん。永水さんの後輩にあたり、バリバリの自衛官とのこと。

彼女は徴兵されてここにいない。というか、その条件である総合ランキングの100位以内にいた自衛官は永水さんだけだ。


じゃあなぜここにいるのか、理由は単純かつ明快。

彼女は総合ランキングの100位以内にはいなかったけど、れっきとしたMULSドライバーであり、VVRMMMOメタルガーディアンのプレイヤーだったからだ。

別に不思議な話じゃないだろう。永水さんという自衛官でMULSドライバーという事実があったのだ。当然、自衛官の中でプレイヤーが彼一人だけだったと考えるのは無理がある。

そして実際、探したら出てきたのだ。自衛官のMULSドライバーが。次から次へと。


今まで、僕たちが徴兵されるまで黙っていた件についていろいろ言いたい気もするが、まあそれを追及するのはちょっと仕方ない面もあるので強くは言えない。

だってわざわざ言わないじゃん。自分がどんなゲームをしているかなんて。御上に報告してどうするのよ。自分の上司や教師に自分はこんなゲームをしていますってわざわざ報告するのか?しないでしょ。

ついでに言えば、MULSを製造しているという情報そのものが僕たちの徴兵が決まるまで極秘扱いで秘匿されて来ていたのもある。


そのため政府上層部は自衛隊内のMULSドライバーの存在を把握できず、結果として今となって彼らの一部がダンジョン攻略に携わることになったのだ。


今の今まで遅れていたのは僕たちが徴兵されるのに1か月ほどの猶予があったのと同じだ。

彼ら自衛官には自分の所属する部隊がある。そこから人が抜ければ、その代わりを誰かがしなければならない。

おまけに自衛隊はその構成員は20万を超える。そこから一人ひとり選別し、その抜けた穴を埋める必要があるのだ。そのための期間は普通の会社とは比較にならない。

そのため再編作業に追われた結果、今になってやっと彼らがダンジョン攻略に参加することになったのだ。


その中でも一部しか参加していないのも理由はある。彼らの技量に問題があるからだ。


僕たち徴兵されたMULSドライバーは曲がりなりにも総合ランキングのトップ100。数万越えのゲームプレイヤーの中のトップ100なのだ。ランキング入りの条件も合わさって、MULSの操縦に関してはその順位にふさわしいものになっている。僕だってその一人だ。その扱いは平均的なMULSドライバーと同程度以上である自負はある。

そんな存在の僕たちが手を焼く存在なのが、現実に姿を現したMULSなのだ。

挙動は遅いし、ちょっと殴ればすぐに壊れる。ゲームでも決して圧倒できるほど強くない存在であるMULSが、さらに輪をかけて貧弱になっている。

ランキング100位に入らず、その技能も101位以下からずぶの素人までまんべんなく存在する自衛官のMULSドライバーの中で、現実のMULSを扱える存在が一部しかいないというのはある意味当然だろう。


そして、それらの問題をクリアして、MULSドライバーとして僕たちの小隊の一員として行動を共にしているのが件の女性というわけだ。

ちなみに実機に乗れなかった自衛官のMULSドライバーたちは問答無用でMULSの操縦訓練行きである。時間も人手もないからね仕方ないね。

その中でも実機に乗ってダンジョン攻略に駆り出されている自衛官たちは先のダンジョン攻略で壊滅した自衛官たちの遺体の回収任務に回っている。こっちもまあ、仕方ないね。僕たち民間人が骨拾うのは抵抗があるし、雑に扱っちゃう可能性があるからね。


というわけで、僕たちの小隊は僕たちだけで第3階層を探索する羽目になっている。

まあ、所詮1小隊での探索だ。急ぐわけでもないので、地道に第2階層への入り口付近を中心に探索を続けていっている。


「じゃあ、大矢さん。お願いします」


というわけで、周囲の安全が確保されたと同時に、僕は大矢さんにそう言った。


「はいよ。ちょっとどいてくれ」


その言葉を聞き、大矢さんが前に出てくる。大矢さんの特殊技能を使うためだ。

大矢さんの乗る機体は僕たちと同じ百錬だ。現実に存在するMULSがそれしかないのである意味当然ではある。僕とミコトさんのMULSと同じように、足回りの耐衝撃性能を向上させた改修機ではあるが、特徴的なものは何もない。

ただし、僕たちと同じ装備とはとても言えなかった。


最も特徴的な部分は、両肩に何か長方形のものが装備されている点だろう。両腕に装備しているのはそれだけであり、両手にはスコップ一本持っていない。

その長方形の物体はMULSの肩に乗せるように前後方向に伸びている。一見して何かのコンテナのように見えるし、実際のところその予測は違わない。


「んじゃ、行くぞい。…ダンジョンの棺桶、発射ぁ!」


大矢さんの掛け声とともに、その肩のコンテナが開き、そこから何かの物体が発射された。

数は6つ。コンテナの中身をすべて吐き出したらしい。

その形状は球形だ。内部のプロペラで飛行し、僕たちの前の通路を飛行して、その先の曲がり角の向こうへと消えていく。


大矢さんがダンジョンの棺桶と称した件の球形飛行体。正式名称は「ボール」という。僕が生まれる前から開発されて、運用されている自衛隊の装備品だ。

その役割は何かといえば、一言で表せば無人航空機(UAV)というやつになる。ラジコンとか、ドローンとか、そういうのだ。

球形の内部にプロペラとフィンが装備してあって、そのプロペラで推進力を得、フィンで自機の制御を行っている。一般的なドローンのそれとは形状が独特なのは否定できない。

自衛隊が独自に開発した装備で、他のUAVと違う点は安さとタフさになるだろう。

本体構造そのものは市販の素材を使用し、調達が容易で非常に安上がり。

そのくせ、機体の制御と飛翔翼膜を兼ねた球形のシェル構造とフレーム構造が内部のプロペラやフィンといったものを守るので壁面に全速でぶつかったくらいじゃびくともしない強度を持つ。

おまけに、その球形構造と内部のプロペラを利用して、球体そのものを使って自力で転がっていくことが可能だ。

まあ早い話、こういった閉所や障害物の多い環境で非常に使い勝手のいい装備というわけだ。実際、震災時などで人の立ち入りが危険で、しかし探索の必要がある場合などで大活躍している。

なんかあったらとりあえず飛ばして偵察兼囮としての利用にとても使い勝手のいい装備なのだ。


そんなボールをここで何で発射したか。まあ、普通に偵察のためだ。

ダンジョン内は何が起こるかわからない。というか、ダンジョン内で真っ先に落とし穴に引っかかった僕からすれば、何の根拠もなしに何もないとか考えられない。

先に敵がいるだけならまだましな方で、落とし穴に引っかかって孤立して死んでダンジョンを構成する骨粉の一部になりかねない。

だから、僕たちが進む前に偵察を行っているのだ。

そのために大矢さんは僕たちの小隊に編入されていた。


それをおかしいと思うだろうか。まあ、普通におかしいと思うだろう。

第1階層、第2階層の探索に参加しないで、何で第3階層から偵察のために大矢さんが必要になったのかと。

確かにそうだ。実際、第1階層も第2階層も大矢さんは偵察に参加していない。


じゃあ何故第3階層では大矢さんが必要になったのか。

そこで要求されるのが、大矢さんの持つ特殊技能になる。


特殊技能“遠隔躁者(マリオネット)”。大矢さんの行動を見てその技能を推察できるだろうが、ドローンをはじめとした無人装置の遠隔操作能力を持ったプレイヤーをそう呼ぶ。

彼らの主な役割は主武装のミサイルによる遠隔攻撃だ。主に両肩のハードポイントに取り付けられたミサイルを使い、その火力で味方を援護する。

早い話が後方支援系の特殊技能だ。


彼らの特色はその能力が地形や距離に影響されない、されにくい点にある。

自身の持つミサイルはどれだけ距離が離れていても届きさえすればその火力を十全に発揮するうえ、たとえ障害物があっても迂回してたどり着くことができる。

その障害物が味方であっても有効だ。なので、狭い空間での戦闘などで味方が邪魔で射線が通らないといった場合でも味方を迂回して他の味方の邪魔にならない場所から必要な場所へと火力を投入することができる。


つまり、単位面積に対して投入できる火力の限界を引き上げることができるのだ。


もっとも、そのためにMULSの持つミサイルは機動性優先で威力、射程ともに現代にある車載用のそれとは圧倒的に劣っている。

まあ、安全な場所で標的を確実にぶっ壊すためにあるものと、銃弾飛び交う戦場でミサイル背負ってついて行って、味方に一切傷をつけずに敵だけをピンポイントでぶっ殺すためにあるものとではその運用思想と要求される発射プラットホームそのものに違いが出る。MULSに合致したものがそれだったというだけの話なので、それが悪いというわけではないのだが。


他の仕事としては、今の大矢さんがやっているように無人機を使った偵察も入るだろう。

専用の偵察機や、無い場合にはミサイルをぶっぱなし、それらの持つセンサー類を利用して、索敵を行うのだ。

索敵というものは重要だ。先に敵を発見できれば、できる戦術の幅が大きく変わる。

罠を張る、待ち伏せする、先に見つけることで得られるメリットはあっても、デメリットがない。

何より、自分たちがそれらのメリットを敵に与えないという、最も大きなメリットがある。


遠隔躁者(マリオネット)がいれば、無人偵察機を使って広範囲の索敵ができるうえ、自分たちの姿を隠した状態で索敵ができる。

彼らがチームにいるだけで、そのチームの戦闘力を跳ね上げることができるのだ。

もっとも、ミサイルや無人偵察機は比較的重い武装になるのでMULSの運動性が損なわれるうえ、その扱いにはMULSドライバー自身の処理能力を少なからず使用する。

MULSの操作と遠隔躁者(マリオネット)の技能の同時操作は難しいのだ。なので、正面切ってのガチンコ勝負には苦手な面がある。


集団での攻撃的な支援行動に特化しており、ワンマンフォースな単騎駆けは無理。

それが遠隔躁者(マリオネット)だ。


そして、それの持つ広範囲の索敵能力が要求されたため、大矢さんがここへと連れてこられたというわけだ。

第1階層に関しては基地から直接無人機を投入することができた。

第2階層では罠にはまった自衛官たちの遺したデーターで賄うことができた。

しかし、第3階層から先は未知の領域で、データーが落ちていることも、地上から無人機を投入することもできない。

必然、MULSに搭載し、現地まで運んで偵察機を飛ばす必要性があり、ゆえに遠隔躁者(マリオネット)の技能を持つMULSドライバーが必要だったため、大矢さんが参加するというわけになったのだ。


僕たち徴兵されたMULSドライバーの中から選抜できなかったのかと思わなくもないが、残念ながらその中で遠隔躁者(マリオネット)の技能を持った人員はいなかった。

先も言った通り、遠隔躁者(マリオネット)は基本的にMULSの操縦にハンデがある。僕たちが徴兵された基準は、その性質からMULSの操縦技能がものをいうため、ランキングの100位に入ることができなかったのだ。


というわけで、大矢さんは嬉々としてダンジョン攻略に参加している。武装的には丸腰で。

MULSのおかげで比較的安全だけど、そもそもダンジョン攻略は死の危険が付きまとうのだが大矢さんはわかっているのだろうかと考えたり、百錬の開発を進めたりしなくていいのだろうかと思ったが、大矢さんが言うには「問題ない」とのこと。


MULSの開発は今現在、停止中なのだそうだ。理由は末端部品の開発が済んでいないかららしい。

大矢さんはMULSの開発者ではあるが、MULSを構成するモーターや油圧シリンダーの開発者じゃないということだ。

MULSを強化しようにも、そのための新たな技術や理論、それを利用した部品がないので現状以上を望むことができないのだとか。


だからってダンジョン攻略に参加する必要があるのかとツッコミどころがあるのだが。

まあいいや。大矢さんだし。


通路の向こうからボールが飛んで戻ってくる。

狭くて地下で電波の利きが悪いので自動操縦による偵察だったが、問題なく戻ってきた。問題なく探索と攻略が可能になったという証拠だ。


というわけで、僕たちはこの編成でダンジョン攻略に参加する羽目になりましたとさ。まる。


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