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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
チュートリアル
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2-1 現地入り

「皆様見えますでしょうか。あのバスに乗り込んでいるのが、今回の特殊技能保有者動員法案。事実上の徴兵制にて動員された方々となります。」


駅を出てから自衛官に案内されて、バスに乗り込もうとした矢先の事だ。

マスコミが出張ってきて、僕らの様子をカメラに映そうとしているのだ。

その中のアナウンサーの一人が、こちらの方を見る


「あ、目があいました。お国の為、がんばってくださーい!」


能天気にカメラに向かって笑顔を向けながら、そんな言葉を投げかけてくる。


「何が国の為だ。偽善者共。」


誰にも聞こえないように。僕はそう罵った。


1か月前、件の法案、特殊技能保有者動員法案が議会にて可決された。

自衛官に要求される技能を持つ人間がいない、もしくは不足する場合、民間から動員して補てんする法案だ。


例えば、物資の輸送にトラックの運ちゃんが必要なら動員。

有事の際に避難民の輸送のために、船舶関係の免許を持っている人や航空機パイロットが必要なら動員。

医者が必要なら動員。と、こんな感じだ。

今回の場合は特別法のため、MULSの操縦技術を持った人間に限定されるのだが。


まあ、事実上の徴兵制だ。当然、世論は反発し、メディアもこの法案を通した政府を糾弾した。

が、それも一週間ほどのことだった。


理由の一つとしては、徴兵されるのが、いわゆる“ゲーマー”というものだからだろう。自分が徴兵されるわけでもなく、また接点もない人間であるのが大勢であるが故の“完全な他人事”であるのに加え、非生産的なものに没頭しているという、いわば「こいつには不幸になるだけの理由がある」といえる、ある種の免罪符が彼らの中にあったからだ。


そしてもう一つの理由が決定的だった。


ダンジョンから採取された素材が未知のものであり、また有益なものであると発表されたからだ。

自分には関係のない人間が従事するうえ、そこで発生する利益は程度の差こそあれ自分たちに還元される。


国家のためになるのだ。その国家の構成員である自分も含めて。

だからこその“国家の為”。便利な言葉だ。そこに僕の利益が入っていないのが最高にクールだ。


これから僕が住むことになる。自衛隊の駐屯地が見えてきた。


『ゲーマーなんてただのゴミ。国の為になるんだから喜んで死ねばいい』


ちょっと前、目の前で言われた言葉。

国の為に働かされる人間にかける言葉がそれか。


僕は、自衛隊の駐屯地の門をくぐった。


その駐屯地の名前は西富士駐屯地。

別名、“ダンジョン基地”

対ダンジョン防衛用に新たに作られた駐屯地だ。


その様子はどういったものかといえば、よくある一世紀前にあった世界規模の戦争に視点を当てた映画に出てくる前線基地のような感じだ。

弾薬や食料を乗せた車両がひっきりなしに出入りし、自衛官が各々の目的のために走り回る。履帯に耕された地面がささくれだち、仮設住宅を繋げてできた兵舎や指揮所などが設置されている。

一年もたっているからか、映画よりは整った感じはするが、まあ、そんな感じだ。


ここはダンジョンの入り口から半径1kmの円形にできた包囲網に隣接しており、ダンジョンを完全に包囲するために必要な人員と、ライフル弾程度では効きもしない魔物を相手に対処可能な車両やヘリ含む兵器群。それに迫撃砲その他兵器類。それらすべてをこの駐屯地一つで管理し、また兵器類の予備部品やその保管場所や整備場所。またそれらの試射訓練用の射撃場、演習場も備えた大規模軍事拠点と化している。

この国唯一の“前線基地”でもある。


先ほどから定期的な雷鳴が連続して鳴っている。どこかで大砲が複数で砲撃しているのだ。

そんなことができるのも、この駐屯地特有といえる。他では周辺住民に配慮してそうそうポンポン打てるものではない。


そんな場所に、僕は連れてこられていた。まあ、ダンジョンに対処するために連れてこられたわけだから、当たり前の話ではあるのだが。


「MULS操縦者の皆様は、受付に案内しますのでこちらについてきてください!」


バスを降りた僕たちは、そういう係員に誘導されて、数ある建物の中の一つに誘導される。

受付を済ませて案内された部屋に入ると、そこにはすでに受付を済ませたほかの人達が集められていた。老若男女がほどほどに集まっている。若と男が圧倒的に多い。

長机にパイプ椅子が並べられ、そこに番号が振られた紙がおいてある。

テレビとかでたまにある、ダム開発とかの民間に向けての説明会場とか受験の試験会場みたいな。そんな感じだ。


僕は彼らを何の感情もなしに見る。ここに僕の知り合いはいない。

事前の説明の通り、僕はNo.99の紙が貼られた席へとつこうとした。


「やあ、こんにちは。」


その時、隣の席から声をかけられた。


それは男性で、20歳は過ぎているだろうが、30歳は過ぎていないだろう。その中間の青年だ。

彼の前にはNo.100の紙が貼られていた。


「こんにちは。」

「若いね。いくつ?」

「ナンパですか?」

「うん、ちょっと落ち着こうか。」


そっちの趣味があるのかよ。

無言で、可能な限り距離を取ろうとした。


「待って。ねえ待って。お願い。弁明させて。悪かった、悪かったから」

「・・・本当にそっちのケはないんですね?」

「ないから。ホントそんなつもりで言ったわけじゃないから。信じて」

「じゃあ何でそんなこと——」

「そりゃ、どう見たって君、高校生くらいじゃないか。そりゃ、子供が戦場に立たされるなんて疑問に思わない方がおかしい」

「―――まあ、そうですね」


言われてみれば、である。


「今年で17になります。元、高校生ですね。」


今じゃ中退して自衛官(仮)ですけどね。


「あ、やっぱり。名前は?」

「…あの、先に教えていただきたいのですが。」

「ああ、ごめんごめん。自分の名前は長水(ながみず) 恭介(きょうすけ)


誰だろう。


「こっちじゃわからないよね。Name“アトラス”って言います。」


そう自己紹介をする長水さん。Name“アトラス”。メタルガーディアンでは広く知られている名だった。


「…軍曹とも呼ばれていますよね。」

「うむ。お前たちはワシが育てた。」


全国ランキング100(トップランカー)の中で、名前を覚えられるというのはそれだけすごいことであり、特に彼はその中でも飛びぬけて特異であった。

ランキング争いというのは結構、熾烈だ。10位くらいから下はその100位の中でもランキング内の変動が激しいし。その下の50位から100位くらいはあっという間にランキング外に弾かれる。

だから、NO.で個人を特定されるというのはそのNO.を維持できるという意味で。それはすごいことであるし、出入りの激しいNO.100で認識されるというのは特異なことだった。

全国ランキング100(トップランカー)入りするには、まず彼を押しのける必要があり、結果として、トップランカー入りの登竜門。トップランカー入りするとはどういうことかを教える鬼軍曹として、メタルガーディアンを楽しむ人々に広く親しまれていた。

そして、つい先月。僕は彼を倒してトップランカー入りを果たし、徴兵されたのだ。


「君のお名前は?」

「和水 樹といいます。Nameは“ベッセル”です。」

「そうか、よろしく。」

「あの、どちらでお呼びすればいいですか?」

「どっちでもいいよ。あ、それじゃ面倒くさいか。名前で呼んで。」

「わかりました。長水さん。」

「こちらこそ、よろしく。和水くん。」


差し出された手を握り返した。

握手を交わす。


「あれ、もしかして軍曹ですか?」


そんなところに、また新しい青年が声をかけてきた。


「はいはい。軍曹ですよ。」

「やっぱり軍曹も徴兵されたんですね。」

「もちろん。二桁No.までだったら徴兵されずに済んだのにね」

「またまた。徴兵枠に入っていてうれしかったんじゃないんですか?」

「ばれたか。」


あっはっはっはっは、と朗らかに笑う若者二人。そこ笑う所?


「あの、お知合いですか?」

「「ぜんぜん?」」

「…よく見ず知らずの赤の他人といきなり仲良くなれますね」

「大なり小なり境遇は同じだからね。あ、私の名前は山郷 八雲といいます。」

「あ、よろしくお願いします。和水 樹です。あの、同じ境遇とは?」

「ここにいるみんな、程度の差はあれ自分の生活を捨ててここに連れてこられたってことさ」


八雲さんはそういった。


「私の場合、会社を辞めざるをえなくなった。仕事よりもお国が大事ってね。会社のみんなで送別会。万歳三唱で送り出されたよ。そんなに出てってほしかったのかね。」


ははははは、と乾いた笑い声をあげる八雲さん。

それにつられてか、別の人が声を上げる。


「内定決まったのに。今回の件で白紙です。徴兵が終わったらどうやって生活しよう。」


別の人が声を上げる。


「会社立てたら赤紙がキター!手元に残ったのは借金だけ。アハハハハハハハハハ。」

「株で儲けて、あとは悠々自適にニート生活と思ったら…」

「畑の管理、どうしよう。」

「嫁と子供に見送られてきました。また会えるか……。」

「リア充死ね!」

「爆発しろ!」

「今すぐ脱柵しろ!」

「わ、私だけ酷くないですか!?」


いつの間にか、部屋の中は、自分の生活がどう変わったかを嘆く愚痴大会と化していた。

ここに連れてこられたとはいえ、理由は『ダンジョン攻略に必要だから』の一点張り。詳しい説明は、未だ説明されていない。

そのあたりの鬱憤も溜まっているのだろう。

ますますヒートアップするMULSドライバー(僕たちは自分たちMULS操縦者のことをそう呼ぶ)の皆様方。


(これ、収拾つくのかな)


そう考えていると、出入り口から一人の女性が入ってきた。

身長はそこまで高くない。せいぜいが160。僕と同じくらい。

緑色の制服。陸自の制服に身を包んだその人は、部屋の状況を一瞥すると、一度息を吸ってから―


「静粛にっ!」


その身の丈からは想像もつかないような大声を放った。

一瞬で静まり返る室内。


「みなさん。席についてください。」


先ほどとは打って変わって落ち着いた、けどよく通る声で女性が言う。その声に従って、各々が割り当てられた席へと座っていく。

いつの間にか、徴兵されたMULSドライバーは集まっていた。


制服を着た女性がみんなの前、教卓の前に立つ。


「みなさん。はじめまして。私は皆さんの取りまとめ役。はっきりいますと、上官になる、佐倉ミオリといいます」


女性はそう自己紹介した。佐倉さんは続ける。


「今回の件。今までの仕事や役割を、強制的に奪う結果となったことを謝罪させていただきます。すみませんでした。」


そう言って、彼女は頭を下げる。


「しかし、今回の件は必要なことだったのです。ダンジョンの攻略には、皆さんの協力が不可欠です。疑問に思うこともあるでしょう。事実、私たちはまだ重要な情報を公開していません」


彼女は一息入れる。


「まずは、なぜ皆さんがここへと呼ばれる結果になったのか、それをお話ししようと思います」


そして、説明会か始まった。



これから彼らが徴兵された理由が語られます。

まだまだダンジョンへは入れません。

この章で入るかな?多分入らないだろうなぁ。


あと没ネタ

「黙れ偽善者ども」

「やらない善よりやる偽善」

「おまえはなにもやってねえ」

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