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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
編成
49/115

3-19 せめてもの手向け



蛍光灯の光が室内を照らす。

屋外では砲声が轟いているが、その空気の振動はこの部屋の中には届かなかった。

ここは研究棟。その中で、パソコンに向かいカタカタとキーボードを叩く女性。

八坂 美冬だ。そのパソコンにはコードがつながれており、それは少し離れた、大きな機材へとつながれていた。その機械には、青く光る宝玉じみた球体が据え付けられている。

それは、骸骨のコアだった。


「ふう、これでセットアップは完了っと。」


エンターキーを押して美冬は呟く。

今やっているのは、コア調査用の専用装置のセットアップだ。

コアは現代におけるコンピューターと同じ役割を持っていると考えられる。骨粉に何らかの指令を出し、出力して自身の肉体として扱うことができるらしいのだ。

しかし、その制御方法は未だわかっていない。何らかの信号を使って骨粉と情報のやり取りをしていると考えられるのだが、その方法がわからない。

目の前にあるコンピュータなら電気信号、私たちがコミュニケーションをとるためなら空気と、それを介した音や声。他に挙げれば、光の点滅による光通信。

こういった感じで、情報というのは、伝えるための媒体が無いと伝えられないのだ。

つまり、骸骨のコアと骨粉も何らかの手段でその情報を何を介してやり取りしているはずなのだが、その媒体が何なのかわからないのだ。


とりあえずわかっていることは、現時点で人類が普及させているあらゆる通信手段に対してコアは無反応であったということだ。

先に述べた電気、電波、音、光、等々。既存の伝達手段では一切反応しなかった。

となると、どうするか?それが、目の前にある装置だった。

既存でも普及してもいない、ならば、未だ実験段階にあるそれを試してみたらどうなるか。

それがこれだ。

傍目にはただの台座にしか見えないが、その中身には高価なプリズムや管、電子機器といったものが所狭しと配置されている。振動にものすごく弱いのでそのためのアブソーバシステムもふんだんに盛り込まれている。

部屋の中に据え付けられる程度の大きさなのだが、その実MULSよりも高価で高度な技術で作られており、それはこの研究棟内部にあるものと比較しても同じだった。

新規設計の一品ものなので仕方ないのだが。


ちなみにこの装置、あの大矢の設計である。ついこの間これが欲しいと要求したら、ポンと設計図を作って渡してきたのだ。


「ホントあいつ、この手のことには強いわよね」


美冬は誰にともなくそう呟く。

実を言えば、目の前の装置じゃなくても、より高性能なものを作ろうと思えば作れたりはする。というか、存在する。

ただし、設置規模が2,3kmあったり、建設に3年かかったりいうことを無視すれば、であるが。

高価ではあるものの量産が効いてすぐに手に入ることができ、故にすぐに制作することが可能で、かつ部屋に据え付けられるほどに小型で必要な性能を満たしたものとなると、それを即座に作れる人間というのはどれだけいるのだろうか。

少なくとも、美冬にはあのバカ以外には存在を確認していなかった。


「あれでMULS狂いじゃなきゃ、今頃結婚の一つでもできただろうにねぇ」


そう呟くが、実際のところそんなことにはならないだろうとも思う美冬。

あのバカがその手の設計に強いのは、結局のところMULSを現実にするためにはどうすればいいかと考え続け、その考えの先に行きついた結果なのだ。

彼がMULS狂いでない場合、あのバカはただの一般人になっていたかもしれない。


「………。もしかしなくても、そっちの方がいいに決まってるわよね」


自分が大矢のことをフォローしかけていたことに対して一人でツッコミを入れる美冬。

いやいや、あのバカがMULSを作らなければダンジョンの攻略は頓挫し、晴れて日本の一部を国連管理という名目で他所の国に占拠されていたのかもしれないのだ。

それを防いだのはMULSがあったからなのは明確で、だからあのバカの存在は結果論だけど必要だったに違いない。


「けどそのおかげで民間人が徴兵されてダンジョン攻略に駆り出されているのよね」


まあ、これに関してはどう転んでもそうなっていた可能性を否定できないのであるが。

どっちにしろ現実であのバカはMULS狂いであり、それはおそらく永劫覆らないのだ。その話は考えるだけ無駄というものだろう。

つまりあのバカはずっと独身というわけだ。美冬と同じというわけだ。


(あ、あのバカと同類なのか…、私。)


その事実に気づき、落ち込む美冬。まあ、恋愛よりも素材に対して関心が向くのは事実なのであながち否定ができないのがより悲しさを引き起こさせて来る。

そこまで考えて、美冬は気を引き締める。丁度装置の初期起動が終わり、テストももう間もなく終了する。終了した。

だから後はするだけだ。


人員の退避を確認し、美冬はパソコンのエンターキーを押した。

低いうなり声をあげて、装置が稼働を開始する。

設計されたとおりに動き、要求された動作を行ったそれは、パソコンへとその結果を転送され、モニターへと表示した。

映し出されたのは、一つの光点だ。

しばらく一つの点のまま表示されていた光点であるが、しばらくするとその光点を中心に、複数の円環が縞模様のように何重にも重ねて表示された。

それは波のようにその円環の数と間隔が変化しており、さながら動物の脈動のようだった。

美冬含め、その場にいた研究員が思わずガッツポーズをする。予想されていたことに対して、結果がその通りであったからだ。

実験は成功だ。美冬はすぐさまパソコンに指示を出し、新たな観測プログラムを走らせる。

他の研究員たちも、各々に与えられた役割のために遁走しだす。

彼らは静かに、しかし慌ただしく動き始めた。


―――――――――――――――――


「さってと、今日の作業も終わり!お疲れさま!」

「うん、お疲れさま」


日も落ちかけて、空の夕日の赤さだけが周囲を照らしている状況で、僕たちはそう言った。

今日のボーリング作業は定時を超えての作業だったため、こんな時間になってしまったのだ。

別に急ぐ仕事ではないのだが、キリのいいところまで続けた結果ここまで遅くなってしまった。

まあ、おかげでこのポイントのボーリングは終了だ。明日たった1時間のためにここへとやってきて、一度戻って新たなポイントへボーリングに向かう手間を考えたらこっちの方がまだマシだろう。

ここ2,3日放置していたボーリングマシンも分解してコンテナに収納し、アームを伸ばして背部装備(バックパック)としてしっかりと固定する。

それを確認して、僕たちは帰途へとついた。


「ミコトさんもだいぶスコップの扱いに慣れてきたよね」


僕は基地に戻るための口慰みとしてミコトさんに話題を振った。ここ最近、地均し含めたスコップによる土木作業の殆どを僕に代わってミコトさんが行っていたのだ。

その目的を聞かれれば、練習と言う他ない。僕がそれをやっても練習にもならないし、ミコトさんにやる気があったので、ならばと好きにさせていたのだ。

おかげで最初は不安があったものがここ数日でだいぶん上達し、ゲーム向けのデータモデルなら近接格闘もできるというところまで来ている。

もっとも、殴って腕を壊さないというだけで、戦術的な意味での近接格闘能力は全く考慮されていないのだが。


「うん、樹君の、おかげ」

「はは、どういたしまして」

「これで近づかれてもバッチリ」

「うん、何にとは聞かないけど、そこまではまだ無理だからね?」

「……うん」


どことなく満足げだった声が、僕のツッコミで一気に落ちてしまった、本当にこの人は…。


「ミコトさん。本当に、僕がいないからってダンジョンに飛び込んでいかないでよね?」


僕はそうミコトさんに釘を刺す。来週にはダンジョンが暴走し、その後再び僕がダンジョンに潜ることは説明してある。


「樹君だけずるい」

「命令無視して突っ走るような人間は軍隊からすれば問題児だからね。うかつに仕事任せられないでしょ。誰がとはあえて言わないけど」

「だ、誰だろうね」


そう言いながら、器用にMULSの頭でそっぽを向くミコトさん。一応、自分のやっていることに対して自覚はあるらしい。

だからと言ってまたすると明言している以上、油断は一切できないのだが。


「まあ普通なら頼まれても断ってるけど、今回はやることがやることだから、ね…」

「うん…」


今回の仕事はダンジョン内で行方不明になったMULSドライバーの捜索だ。

つまり、僕がダンジョン内で落とし穴にかかった時に巻き込まれ、そして死んでしまった山郷さん含むチームメイトの遺体の回収任務だ。

それには永水さんたちのチームが担当することになり、その案内役として参加することになったのだ。

ミオリさんは終始納得がいかないようだったが、結局は折れてくれた。


「やっぱり行く、の?」

「うん。一回だけだけどチームだったし。あの時、僕たちは置いていくしかできなかったでしょ。仕方なかったと言え、できるなら自分の手でそのけじめはつけたいから」

「大丈夫なの?」

「大丈夫、あの時とは違って落とし穴にハマる危険はないし、敵の攻撃も単体ならMULSにダメージは追わせられない。何より仲間がいる。死ぬことはあり得ないよ」

「そうじゃなくて」

「え?」

「…あの人たちが死んで、一カ月。当然、その状態のままなんてありえない」


ミコトさんの言葉を頭の中で反芻する。

解っていたことだ。人の体は生モノだ。白骨化という通り、ミイラ化処理でもしてない限り、いずれその血肉は腐ってしまう。

1年も経てばダンジョン内で見たとおりに骨だけの状態にもなろうものだが、一カ月でそこまで行くかといえば、否と答えるほかない。


「そんな状態の、あの人たちを、ちゃんと見れるの?」


ミコトさんはそう聞いた。

たぶん、直視に耐えられない状態だ。それでも行くのかと、ミコトさんは聞いているのだ。


「それでも、僕は行きたい」


ミコトさんの問いに、僕はそう答えた。


「…」

「正直、見れるかどうかは解らない。けど、だからと言って無視できない」

「……」

「あのままほっとけば、ずっとダンジョンの中で晒されるだけだ。いずれ風化して、あの場所までたどり着いたMULSに踏みつぶされ、周囲の骨粉と同じ状態になって見分けがつかなくなるかもしれない」

「……」

「立場が逆なら、僕が同じ状況なら、それでいいと思えるか?暗い洞窟の中で、腐った肉にまみれ、風化して、誰にも知られずただ放置されて忘れ去られるのを」

「……」

「それを考えると、僕には彼らを無視できない。せめて、太陽の下で、ちゃんと埋葬してあげたい」

「……そう」

「うん。だから、僕はあの場所にもう一度行きたいんだ。あの時生き残った僕ができる、彼らに対するできることだから」

「…わかった」


僕の言葉に、ミコトさんはそう相槌を打つ。

バリケードのゲートが、すぐそばに見えてきていた。


すまんの、今週末いろいろあって執筆できなんだ。金曜の更新できないかも。

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