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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
編成
42/115

3-12 悩み


そこは静かな場所だった。

外の重機の駆動音や発砲音、それに人の動く喧騒のような音と隔絶され、低い何かの駆動音だけがその部屋を響かせていた。

白衣を着た人たちがそこらを闊歩しているが、残念ながら知り合いはいなかった。

ここは研究棟。ダンジョンや、そこからもたらされた素材の類の研究を主とする施設の集合体だ。

材料学者の美冬さんに呼ばれたので、今僕はここへと来ていた。ここでの用事が終われば、今日も今日とてボーリングの日々である。

無断で入るわけにもいかなかったので、手近な研究員の一人を呼んで美冬さんの元へと連れて行ってもらう。

そこでは美冬さんが何か砂の塊のようなものに液体をかけ、混ぜ合わせて固めているところだった。


「こんにちわー」

「ああ、いらっしゃい。悪いわねわざわざ」

「いえ、別にいいですけど…。あの、何やってるんですか?」

「ああ、コレ?ナノマシンで金属を結合させる実験ね」

「…どういうことです?」

「ああ、そうね。…砂鉄を一つの鉄の塊にするとき、普通は溶鉱炉で溶かして固めて鉄の塊に仕上げるわよね」

「ええ、製鉄ですよね」

「そう。そして、今やってるのはナノマシンでその工程を再現しようとしているってこと。金属結合をナノマシンで行って、砂鉄を鉄の塊にしようとしているのね」

「へえ、なんか面白そうですね」

「面白いだけじゃないわよー。成功すれば製鉄所なんて危険で大規模な設備を使わずに製鉄ができるようになるし、熱による性質の変化も起こらないし、生成した鉄の品質やムラが小さくなるの。早い話が低コストで高品質な金属の塊が生成できるようになるのよ」

「へえ、なんかすごいですね」

「そうよ、ただ問題もあるのよ」

「問題ですか?」

「ええ、ものすごく時間がかかるの」

「時間が?」

「そう。時間。ナノマシンの持つエネルギーだと、どうしても金属を結合させるのに時間がかかるのよ。お酒とかと一緒ね。細菌とナノマシンの違いがあるけれど。今のはどうにかしてその時間を短縮できないかの実験ね」

「へえ」


なかなか面白そうだ。


「あの、イツキ君。そろそろ用事の方、聞いた方がいいんじゃない?」


ついてきていたミコトさんに注意された。そうだった、今日ここに来たのはそれが目的だった。


「そうだった、で、美冬さん。呼び出したのって、これを見せるためですか?」

「違うわよ、ついてきて」


そう言い、美冬さんは歩き出した。僕はミコトさんと顔を見合わせ、それについていく。

ついていった先にあったのは、ちょっと厳重なセキュリティを施された扉の前だ。


「あの、僕が入ってもいいんですか?」

「構わないわ。さあ、入って」


美冬さんが促した。僕はその誘いに乗り、扉をくぐった。

そこにあったのは、一抱えほどもある巨大な球体だ。

青く光るそれは何かのゲージのようなものに固定され、内側から暗い光を発していた。

僕はそれを、ダンジョンの中で見たことがある。


「コア、ですか?骸骨の」

「そうよ。貴方が持ち帰ってきたものよ」


敵から抜き出し、弾薬庫にしまっておいた骸骨のコア。それを脱出の際に抜き出して運んでもらったのだ。これは、その時のものということになる。


「話というのは、コレのことですか?」

「そうよ。とりあえず、今の段階でわかっていることを言うわ」


そして、僕は美冬さんからこのコアについて、今わかっている分の説明を受けた。

材質は、非破壊検査で調べたものによると、ダンジョン内にある骨粉とまったくおなじもだと予測されるらしい。少なくとも、データ上はそれと全く同じ結果が出てきたのだとか。

性質としては、先の戦闘でのデータ通り、骨粉を操る能力を持っているらしい。

ただ、その方法はまだ解明されていないのだとか。磁気的なものではないし、今のところ考えられるもので骨粉を動かしているのではないということだ。

他にも、ゴーレムの制御中枢としての機能もあるのは間違いないのだが、こちらも例の如く何を媒体に制御を行っているのか皆目わからないらしい。


「つまり、今のところは殆どわかっていないと」

「そうなるわ。で、今回君を呼んだのもそれにかかわることなの」


美冬さんはそう言った。


「どういうことですか?」

「簡単に言うと、サンプルが少なすぎていろいろな実験もできないのよ」


ミオリさんの言わんとすることはこういうことだった。


「つまり、サンプルとしてもう少しコアが欲しいのよ」

「それは、僕に採って来いということですか?」

「違うわよ。どうやったら採れるのか知りたいの。普通に撃ち殺したんじゃ取れないのは今までの結果でわかっているでしょう?」


コアを壊さないと骸骨たちは死なない。コアを壊したらコアを採れない。

銃撃で安全に骸骨から採取することは不可能だった。

じゃあ何故僕がそれを取り出すことができたかといえば、


「骸骨たちを殴り潰して、コアだけにして回収しただけなんですけど」

「やっぱり、殴らないとダメかしら」

「一体ずつ相手にして袋にするなら、できないこともないと思いますよ」

「本当?」

「ええ、手足を吹き飛ばしてダルマにして、安全を確保した後近づいて、無防備なその胸部からコアを抜き出せば、安全に取り出すことができると思います」

「そ、そう」


若干引き気味にそう答えた美冬さん。いやまあ、言いたいことはわかる。

骸骨が生物なら、生きたまま心臓を抜き出すようなものだ。しかも、安全のために四肢をもぎ取ったうえで。

うん、スプラッター。


「ちなみに、骸骨が単独でいる状況ってあったかしら」

「僕が確認する限りでは、そんな状況にはなったことが無いです。ただ、一体だけにするのは問題ないんですよ」

「やっぱり、問題があるとすればコアの摘出かしら?」

「というより、問題なのは骸骨の再生ですね。骸骨たち、どうも欠損部位を周囲の骨粉を取得して補う性質があるみたいなんです。ダンジョン内は全て骨粉で構成されていますから、あまりちまちま削り取るようなことしてると…」

「いつまでたっても終わらない、と。となると、やっぱり殴って引きずり出すしかないわけね」

「はい」


僕は肯定した。今のところ、骸骨からコアを採るのはそれしかない。


「わかったわ。じゃあ、ミオリさんにそう言って採集できるか聞いてみないといけないわね。ありがとう、イツキ君、わざわざ来てもらっちゃって悪いわね。」

「いえ、こんなことで良ければいつでも。むしろまたここに来てもいいですか?」


僕はそう聞いた。ここには見たこともない機械がいろいろあるし、面白そうだった。


「いいですよ、イツキ君なら歓迎です。いつでも来てください。ただし、」

「ただし?」


そこで美冬さんは言葉を止め、ちょいちょいと僕の背後を指さす。


「じーっ…」


そこには、半目でこちらをじとっと見つめるミコトさんがいた。美冬さんが小声で言う。


「あんまりほっといちゃダメですよ。すねちゃいますから」

「…美冬さんも、僕とミコトさんにくっついて欲しいんですか?」

「あたりまえじゃない。かわいい義妹(いもうと)だもの」


美冬さんははっきりとそう言った。

そのまま僕は、ミコトさんを連れて外へと出ていった。

僕はその間、美冬さんの言葉に頭の要領を取られていた。


結局ここでもミコトさんとくっつけと言われてしまった。

別に、そのことそのものについては嫌じゃない。まあ、ミコトさん自体はまあ、そこそこ可愛いし?まあ一緒にいて嫌な気持ちにもならないよ?

人の話を聞かずに危険なことに巻き込まれていくのも、僕はそれについていくと決めたからそれもデメリットにはなり得ない。

統合すれば、まあ、別にいいかもしれない。そう言う結論になる。

じゃあ何が嫌なのか、今の今までそれについて考えていたが、最近になってようやく納得いく答えを見つけた。


消去法なのだ。その思考が。


僕以外に年の近い子がいないから。端的に言ってしまえば、それ以外の理由がない。

僕である理由が、それだけしかないのだ。

言い換えれば、僕以外にも誰かがいれば、別にそいつでも言い訳だ。

そんな状態で付き合えと言われて、はいわかりましたと言えるほど、僕は能天気じゃなかった。

彼女そのものに不満はない。付き合うこと自体は構わない。

ただ、外からそう望まれたから付き合うというのは、何か嫌だった。


と い う か 、だ。


何で僕はこんなことで悩まにといけないのか。

僕がここに来たのは仕事のためだ。

だというのに、何で僕はここで自分の色恋についてあーだこーだと悩んでばかり。


「何で僕がこんなことで悩まないといけないんだ」


あれか、僕はここにいる限り、そのことについて悩まないといけないのか。

僕はふと後ろを向く。


「? どうしたの?」


そこには首をかしげて不思議そうにこちらを見るミコトさん。


うん、一緒にいて嫌じゃない。別に付き合ってもいいかなと思ってる。

だからこそ、こんなどうでもいいことで悩んでいるのだ。嫌なら嫌ときっぱり断ればいいだけの話だから。

というか、むしろこんなことで悩む羽目になったのは、大矢さんが大声で馬鹿なことを喚き散らした結果なのだ。

あれさえなければ僕はこんなに悩むこともなかったのだから。


「馬鹿はいつも余計なことしかしないなと思って」

「あ、あはははは…」


僕の言葉にミコトさんは乾いた笑みを向けた。


「あ、いたいた二人とも、ちょっと持って行って欲しいものがあるんだけどさ」


そして当の大馬鹿は、そんなことも気にせず僕たちへと話しかけてきていた。


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