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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
編成
39/115

OS-1 初心者狩り

今回は本編と関係のない話になります。

それでよろしければお楽しみください。

僕は戦場に立っていた。

場所は適当なリスポンポイント。戦車やMULSに機甲猟兵や歩兵がちらほらと無秩序に展開している。

今いる戦場はさっきまでの戦場じゃない。結局、あの後防衛組は各個撃破され、一日と持たずに戦場のリスポンポイントをすべて制圧されてしまった。

その為、この戦場は新しく再形成され、振出しに戻った状態だ。

当然、攻略組には現段階でベテランは参加できないので、防衛組として参加している。


「さてと、じゃあ僕はどうしようかな」


ハヤテは参加していない。他の仲間も適当に動いている。指揮役も今のところ存在しない。

おかげで皆思い思いに動いている。はっきり言って烏合の衆でしかない。

ただし、僕も人のことは言えなかった。

装備を確認する。

機体は百錬。オプションは無し。装備は近接格闘武器のファルカタ一本。後は盾。

今回の装備はこれだけだ。弾薬も火器も一切持ってきていない。

所謂『舐めプ』というやつだ。相手を侮ってこの程度でも勝てると馬鹿にしているといっていい。

こんな装備で、味方と連携はあまりできそうにない。

ただまあ、これくらいの制限。所謂『縛り』をしないと、初心者相手にはあまりにも酷な話だ。

彼らの殆どは基本的に初期装備。基本的に使いやすさ重視なそれは火力が控えめ。

同数で、棒立ちして打ち合いしても、初心者たちの方が火力負けしてしまうのだ。

だからまあ、ある程度のハンデが必要になってくる。僕の場合は火器の撤廃だ。腰の弾薬庫もカラ。煙幕の類も無い。

よく見ればここにいる皆が何かしらの、そう言った縛りを付けていた。指揮役がいないのもその一環だ。


「さーて、それじゃあ、行きますか」


僕は機体を前進させた。


あたりは閑散としている。発砲音も散発的。まだまだ始まったばかりで敵も味方も会敵していないのだ。

ぼくはその中をひた走る。向かう場所は決めている。

問題があるとすれば、目的の相手がちゃんとやってくるかどうかか。

そこまで考えたところで、目の前で動きがあった。通路の角から飛び出してくる物体。

MULSだ。機種は“テディ“。それが複数。こちらへと向かってくる形で飛び出してきていた。

早い話が、敵だ。

数は6。その全機がこちらを認識したのだろう、その手にもつ火器の全てがこちらを向いた。

僕は通路の角にMULSを飛び込ませ、その射線をビルで遮った。

さて困った。敵の数は6。対してこちらに味方はいない、手にもつ武器は剣が一本。

さすがにこの状態で相手はできない。6門の機関砲の射撃には耐えられない。


「初っ端からまずいことになったな。ここに来るとは思わなかった」


敵集団も思ってなかったのだろう。不意の会敵。しかし無視はできない。

だが味方の増援は期待できない。指揮役がいないので防衛組の間で連携が取れないのだ。


「どうしようかな。さすがに動けないぞ。…ん?」


僕一人ではどうにもならない。そう思った時のことだった。

最初に気付いたのは、地面の振動だ。地鳴りに似たそれは継続し、そして近づいてきていた。

方向は敵集団がいる通路の反対側。つまり、僕の背後にある通路の角の向こうから、

そして、それらが姿を現した。

高さは低い。僕たちMULSの半分ほどの高さしかない。上下に重ね合わせた箱のような形をしており、そして履帯で動き回る。

一言で言ってしまえば、戦車だ。そいつらが通路の向こうから複数やってきていた。

ここで会敵した敵MULSにとっては絶望でしかない。戦車の主砲は100㎜以上の口径を持つ。そこから放たれる攻撃はMULSの装甲など意味をなさない。

真正面からのガチンコ勝負において、MULSは戦車に勝つ要素などどこにもないのだ。それが複数の集団でやってきた。なにをいわんや。だ。


もっとも、今回ばかりはその定義には当てはまらない。なぜかと言えば、やってきた戦車が少々特殊だからだ。

その戦車の一団は。共通の、ある特徴を持っていた。

二段重ねの箱の上部。要は砲塔に当たる部分に、本来あるはずの伸びた円筒形。つまり、戦車が戦車であるために必要な主砲が、丸々全て欠損していたのだ。

別に破損してなくなってしまったわけではない。単純に、それが彼らの『縛り』なのだ。

つまり、彼らは初心者に対してのハンデとして、主砲を撤去してこのゲームに挑んでいるのだ。これではMULSを撃ち殺せない。


もっとも、だからと言って敵のMULSの集団の敗北は覆らないわけなのだが。

僕は心の中で合唱する。彼らの未来を、僕は昔経験したからだ。


戦車の集団は敵のMULSへと突き進む。敵集団は機関砲で応戦する。

馬鹿な奴らだ。100㎜以上の砲の火力のドツキ合いが戦車戦の基本なのだ。そんな豆鉄砲が戦車の装甲に効くものか。

戦車は構わず付き進む。そして、とうとうそのすぐ近くにまでたどり着いてしまった。


さてここで問題だ。今の戦車に大砲は載っていない。当然、火砲による攻撃なんてできもしない。

じゃあ、どうやって攻撃するのだろうか。

答えは今目の前に。


『あそんでえええええええ!』


野太い声が響き渡った。戦車に乗ってるプレイヤーの声だ。

そして彼らはMULSに接触し。そしてそのまま突き進んだ。

そう、それが彼らの攻撃手段。早い話が体当たりだ。

傍から見る分には、羊の群れが人に襲い掛かるようにも見えるだろう。ほほえましく見えるかもしれない。

だが、たかが体当たりと舐めたらいけない。戦車の重量は40tを超える。対してMULSの総重量は平均10t。どう頑張っても30tはいかない。

で、それだけの質量差がある物体がぶつかってきたら、MULSはどうなるのか。いやまあ、今目の前で起こるわけですが。

MULSは轢き倒された。僕は通路から出て、その様子を確認する。

こうなったらもう勝てない。彼らには今から地獄が待っている。

え?今が地獄?

ははははは。こんなんが地獄な訳ないじゃないですかー。

そしてそれが始まる。


最初に響いたのは、何かが砕ける音だった。

よく見ると、戦車がゆっくりと前進しているのがわかる。

そして、その先に敵MULSが倒れているのも。

先ほどの音は、その倒れたMULSの足に。戦車が乗りあげて砕けた音だ。

戦車の重量は40tを超える。MULSでは、その質量を支えるだけの強度は確保されていないのだ。

ゆっくりと、ゆっくりと前進し。MULSをべきべきと砕きながら前進する戦車たち。

中のMULSドライバーは逃げられない。手足のセンサーが次々と反応を消失していく感覚をまざまざと感じさせられながら、センサーの上を履帯の列が這いまわっていく。

それを、コクピットの中で体験しつつ、コクピットを砕かれるまで続けられる。

はっきり言おうか、トラウマにしかならんわ。


『あははははははははははは』


戦車の乗りたちが野太い声で高笑いを上げる。飼い主に群がる大型犬の如くたかるそれは、傍から見たらこんなことになっているのか。

もしくは、獲物に群がるアリの群れか。

僕は、名もなき新規ドライバーに合掌した。願わくば、これで心折れないでいてほしい。


「……ん?」


そこで、センサーが異常を検知。微細な振動が背後から続いてくる。

この反応はさっき感じたものと同じものだ。つまり…。

僕の背後から、先ほどまで僕がいた通路の角から何かが飛び出した。

戦車だ、識別が敵を示すそれは、砲塔の先からしっかりと主砲を伸ばし、こちらへと向けていた。

かのMULSの救援に来たのだろう。戦車は背後の攻撃には非常に弱い。そこまで考えて回り込んできたのか。

そいつは僕がいたことには気づかなかったらしい。若干戸惑ったようだが、先にこちらを倒そうとしたのだろう。主砲をこちらへ向けようとしていた。


(ああ、ダメダメ。この距離でそれは悪手だ)


僕は心の中でそう評価しながら、戦車へ向けて一歩前へと踏み出した。

ガァンという音と共に、僕の足に敵の主砲が阻まれる。

敵の主砲の内側に僕のMULSはある。これで敵の砲撃はこちらに届かないのだ。


(残念でした。次は何をしてくれるのかな?)


いやまあ、分かっているんだけどね。

敵は車体をこちらへと向けた。

轢き潰すつもりだ。当然だ。今の敵戦車にはそれくらいしか残っていない。

けど残念。僕はさらに一歩踏み込む。


「判断が遅い。」


敵の車体がこちらを向いた時には、既に僕は敵戦車の横へと機体を逃がしていた。


戦車は無限軌道。要はキャタピラーで駆動する。これは普通のタイヤよりも機動性が高く、超信地旋回を行うことでその場で方向転換することができる。

ただし、MULSの機動性はその上をいく。それは何故か。脚があるからだ。

無限軌道とタイヤ。その二つは一つ共通する法則がある。それは、常にその軌跡がつながっているということだ。

タイヤが通った時、その軌跡は曲線で全てつながっている。

無限軌道が通った時、その軌道は不規則でも、全てつながっている。

じゃあ、足で歩いた場合、その軌跡はどうなるか?

答えは、足跡ができる。言い換えれば、その軌道は常に点で表される。

それがタイヤと脚の違いであり、強みだった。

その強みとは何か?簡単な話だ。


(戦車も車も常に前後進しかできない。けど、MULSはそれに縛られない)


サイドステップ、バックステップ。それらを使って、瞬時に臨む方向へと移動することができる。それはMULSにしかできない機動だ。戦車でも、望む方向へと車体を向けなければ、そこへたどり着くことは叶わないのだから。

だから、近接戦で、しかも単機の戦車がMULSに勝てるはずがなかった。

その戦車は僕へとどうにか向こうとするが、そんなことを許すつもりは当然ない。

ある程度付き合った後に、僕は剣を振り下ろした。

戦車の上部は薄い。振り下ろした剣は上部装甲を叩き、砕き、撃破判定を与えた。


「ふぅ…」


一息つく、味方の戦車は既に敵MULS部隊を全滅させて、次の戦場へと移動を開始していた。


「さて、お目当てのあの人たちはどこにいるかな?」


僕はそれを見送り、目当ての敵を探す。

そして、しばらく後にその情報が上空の無人偵察機からもたらされた。

その距離はあまり遠くない。急げば間に合うかもしれない。

僕は急いでそこへと向かった。


――――――――――


急いで向かった先には、まだお目当ての敵がまだ残っていた。

それらは通路の一角を占拠しており、一機のMULSが足止めされていた。


「相変わらず、引きこもって出てこないのか」


それは僕が出会った初心者のMULSの一団だ。

僕は近くにいたMULSに近づいた。


「大丈夫ですか?」

「おう?ああ、大丈夫だダメージもない。ただご覧のありさまだ。突破できない」

「みたいですね」


僕はそのMULSの武装を確認した。こいつは—


「パイルバンカーですか」

「ああ、ハンデにはちょうどいいだろ」


つまりこの人も格闘技能持ち(ストライカー)だ。できれば後一機ほしいところだ。


「無事か?今どうなってる?」


そこへ丁度良く、もう一機のMULSがやってきた。何とその機体は百錬だった。ただしその両腕は別の機種の物に換装され、格闘用のものすごくゴツイものに変更されている。両手には、メリケンサックのお化けのような鉄拳(ナックル)が腕を覆う形で装備されていた。

僕たちは顔を見合わせ、口角を吊り上げた。


少しの打ち合わせを行い、僕たちはそのMULSの集団へと突貫する。


隊列はバラバラ、散開し、それぞれが邪魔にならないよう考えて突撃する。

当然、近づけまいと敵からの射撃が殺到する。

その火線は、一機のMULSに集中していた。各個撃破の定石だ。だがさせん。

そのMULSは速度を落とした。そして、その前に僕のMULSが壁になる。

そうして僕に射線が集中したら、今度は残った一機のMULSが僕の前に壁になる。

その間も、斜線を切るための回避機動は行っている。それを繰り返す。

そうなると、敵は僕たちに攻撃を集中できなくなる。そうすることで3機のMULSの装甲を有効活用し、敵へと肉薄する。

それが狙いだった。3機のMULSが6機のMULSに襲い掛かる。


最初に僕が切りかかった。胸部を狙い、振り下ろす。撃破判定。

もう一機に襲い掛かろうとしたら、その機体はパイルバンカーで胸部を刺し貫かれていた。

僕らにとってのパイルバンカーは、MULSの装甲を貫き、内部に可燃性ガスを注入し、点火して爆破させるというえげつないものだ。

だから、その敵は爆発した。

僕はそれを見ながら、もう一機に切りかかる。今度は大腿部を砕き、擱座させてから胸部を砕いた。

その間に、もう1機のMULSが倒される。そいつは残った仲間のもう一人、鉄拳(ナックル)を装備したMULSだ。

そいつは両手の鉄拳で敵を殴打していた。機体の速度そのままに、敵MULSに自身の機体重量と勢いを乗せて振りぬく。それは胸部に吸い込まれ、そして吹き飛ばした。

そいつは既にもう一機も撃破していたらしい。近くの建物へと吹き飛ばされ、撃破されたMULSが見えた。

残るは1機。僕たちは譲り合いなんてしない。

誰が先に殺すかだ。

僕たちは、残った1機に殺到した。


-------------------―――


「ふいー、殺った殺った」


僕は満足げにそう呟いた。

かの引きこもりMULS集団を叩き潰した後のことだ。既に先ほどの二人は既に別の戦場に移動している。

結局、最後の一機は鉄拳(ナックル)装備の百錬乗りに持っていかれた。僕以上の勢いで肉薄し、その勢いで吹き飛ばしてしまった。

しょせん僕は99位。彼らは当然それ以上だ。トップランカーは伊達じゃないということか。くやしい。

まあいいや。目的は達成できたし。

僕が今回防衛組に参加したのは、ぶっちゃけて言えば彼らを叩き潰すためだ。


「引きこもってちゃダメだからね」


彼らは引きこもってあまりにも消極的な戦い方しかしなかった。それを悪いとは言わないが、決して正しい事でもなかった。

状況が状況なら。そのせいで仲間の足を引っ張るかもしれないのだ。

おまけに、前に出ないMULSなんてあまり価値がないものだし。

今回みたいな状況はよくあることだし、対応できない彼が悪い。

そして、MULSに乗るならそれができないといけなかった。

僕はそれを教えたかった。できなきゃ邪魔でしかないから。


「まあ、後は彼ら自身だけどね」


それに気づいて改善するか、改善できずに二の舞になるか。

そこまで僕は関知しない。それも含めて彼らの努力に期待する。


「さて、次はどの子を殺ろうかな」


僕は機体を前進させた。


て言ってるけど実際今までに無関係な話もしてるよね。

まあ細かいことは気にしない方向でー。

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