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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
編成
34/115

3-5 第85号拠点制圧作戦3

出撃す()るぞ、遅れるな!」


そのMULSの集団は最前線で撃破され、再出撃(リスポーン)したばかりのものだった。

現実での知り合い同士で集まった彼らはゲームにおいてもよくつるみ、チームを組んで遊ぶこともしばしば。

今回も例に漏れず、ここにいるMULSの集団はその仲間たちだ。

彼らは個々人はトップと言えるほどの実力は無いが、よくつるむが故の連携の高さで、それなりの実力を持ったチームだった。

もっとも、その全員があまりにも上を目指すことに興味がないために事あるごとによくふざけてスコアを下げているため、それなりの評価しかもらえない集団ではあったのだが。


それはさておき、今回彼らは防衛側でこの洗礼イベントに参加し、そして南西の攻略作戦に参加しているチームだ。

敵陣営は既に前段階作戦である75号拠点の制圧に成功している。となると、敵は陣地を無視してこちらの勢力圏を進軍し、85号拠点の制圧のために側面からの攻撃を行うだろう。


「急げ、敵さんに側面を取られちまう」


というか、それが敵陣営の作戦だ。それを彼らはすでに入手していた。

何故それを何で彼らが知っているかといえば、何のことは無い。ネット上に大っぴらに公開されているからだ。

不特定大多数のプレイヤーに計画を告知するには仕方がなく、またゲームを楽しくするためにわざとそうしている部分もあるためにその情報は広く知られていた。


彼らはその情報と、無人偵察機が確認している敵勢力をマップで確認しながら、次の戦場を決めていく。


「次はどうする。もう敵はのど元まで来てるぞ」


仲間の一人がそう言った。事実、敵はもう85号拠点のすぐそこまでたどり着こうとしている。


「早いな」


リーダー格のMULSが呟いた。敵の進軍速度が予想以上に速い。先ほど拠点を取られたばかりだというのに。

その問いに、仲間の一人が応える。


「攪乱がうまくいってない。戦線が伸びきっているはずなのに分断できてないんだ」


敵はこちらの拠点を制圧せずに進軍している。当然、再出撃(リスポーン)や補給線の起点も後方にあり、そこから前線まで伸びている。

そこを叩けば、敵の最前線は補給と戦力の投入ができずに弱体化して潰すことができ、結果として前線の押し返しができるはずだった。

しかし、それがうまくいっていない。


「何で?ほかの拠点は制圧されていないんだろ?」


敵の戦線の周囲にはこちらの拠点が乱立している。そこから出撃できるので、防衛側は敵の補給線を叩き放題。

地の利はこちらにあった。

攻略側もそれは承知なので、取れる戦術は電撃作戦よろしくこちらを攻略しながら進軍を続け、短期的な制圧を行いつつ目的を達成することに集中している。

当然、補給線自体はおざなりになりがちなので、そう言う意味でも叩きやすい状況だったはずだ。


「ああ、そこから皆出て行っているんだが、どうもうまくいっていない」


仲間の一人がそう言う。


「何でよ」

「どーも、新規組の一部がこっちの増援を押しとどめてるみたいだ」


その言葉に、一同が驚く。


「新規組が?」

「ああ」

「どうやって」

「とことん引きこもって通路を占拠してる。突っ込んだ奴らは袋叩きにして、遠巻きに撃ってるやつらは牽制して近づけない。妙な連中だ。動きは素人なのに連携だけは取れてやがる」


その言葉に、一機のMULSが声をかけた。


「どうする?このままだと突破されるぞ」


返答は早かった。


「前線に出っ張るしかないんじゃないか?後方叩こうにも無理そうなら、前線で戦って押し返すしかないだろうよ」


その言葉に、全員が納得する。

全員で、敵の最前線へと向かっていく。

正確には、最前線のちょっと後方。

そこは最前線ではなく、かつ件の新規組もおらず、そして敵にとってはただの通路であるために重要度も低く、故に防衛設備もない場所。

強襲を成功させるためにここにいるチームだけで攻略しなければならないが、成功すれば戦線を押し返すことができ、またできなかったとしてもこちらへの対処のために戦力を割かねばならず、結果として前線へ戦力の投入が遅れるために友軍の支援になる。


そこへと向かって進撃した。目の前の通路を曲がれば、その先が彼らの戦場になる。


「よぉーし。いくぞおおお!」

『ヒャッハアアアアアアア!』


気合一発。彼らはその角を曲がった。


通路の先には予想通り、敵の部隊が展開していた。

しかし、こちらへの備えは無く、こちらを認識した歩兵が慌てて声を上げるのが見える。


「敵は気づいていない!このまま突っ込んで暴れるぞ野郎ども!」

『イェアアアアアアアアア!』


うまく言った証拠だ。敵が彼らへ対策を立てる前に、彼らは敵陣に突入。その猛威を振るって敵を大混乱に陥れるだろう。


「前方に敵機!」


仲間の一人が言った。同時に前方から敵機。

数は1。空色の都市迷彩に身を包んだ、見たことのないMULSが飛び出してきていた。

そいつは盾と剣を持ち、こちらへ一直線に突っ込んでくる。

その機体の機種はわからない。少なくとも、公式で配布されているものではない。

そこでリーダー格の男が気付く。それは個人で作ったMULSで、名前が百錬と呼ばれていたことを。

ただ、そんなことはどうでもいい。目の前の敵機は剣しか持たない。

こちらは強襲しなければならない。だから止まれない。引くこともできない。その為、近接武器でも問題ないと思ったのだろう。

だがうかつだ。こちらの機数は6。火器の数も同じだ。

火力が違う。止まる必要もなく、撃って削って、撃破すればいい。

だからそうした。お互いに射線に入らないよう注意しながら、しかし敵機は確実にとらえるために機体を散開させる。

照準、撃った。それは狙い違わずに敵の胸部装甲への衝突コースを取り、そして実際に当たろうとした。

しかし当たらなかった。

何故か?

敵が回避したからだ。

敵は一直線にこちらへローラーダッシュをかけてきていた。しかし、こちらの攻撃が当たる直前、その状態のまま、サイドステップの要領で横へとずれた。こちらの攻撃は敵の横を通り過ぎ、そしてその速度は緩まない。


「なっ!?」


驚愕するが、それでも体は動く。再照準。射撃。やはり回避される。


「こいつ…っ!」


一筋縄ではいかないらしい。少なくとも、目の前の敵機は個人の技能は彼らよりもはるかに高いことが分かった。

だが、しょせんは単機。数の前にはそれに意味はない。

だから打つ、撃ち続ければいつか当たる。

事実、そうなった。相対距離が縮まっていくにつれ、敵の回避は追いつかず、命中弾が見えてくる。

装甲を抜くほどのダメージは稼げていないが、問題ない。

敵は近接武器一本のみ。接触し、通り抜ければもう敵に攻撃をするチャンスは無い。

追撃するために失速すれば、それはこちらの狙い撃ちの的にしかならない。

まともに相手をする必要はないのだ。近づけず、通り抜ければそれでいい。


だからそうする。見る見るうちに距離が近づく。

敵は彼らの中央へと突っ込んできた。

彼らは即座に隊列を組みかえ、敵が通過する位置に穴をあける。

敵はそこへと侵入し、そしてリーチが足らずに攻撃できず、すり抜けていく。


そのはずだった。


最初に異変を感じたのは耳だった。何か、重質量がぶつかる音が聞こえた。

次に、本来なら敵のMULSのいた位置に、居るはずのそれがいないことに気付く。

そして最後に、マップの中から、味方を示す6つの光点が、5つに減ったことに気付いた。


そして、そこでどんな状況になったのか判明する。

反応の消失した味方がいた位置に、2機のMULSがいた。

片方は味方で、胸部から板状の何かをはやしている。そして、その板はもう一機のMULSの手から生えていた。

それは剣だ。そして、それを持ったMULSは敵だった。

敵は、どうやってかこちらへ肉薄し、そして味方が餌食になったのだ。


「ゆんたん!」


撃破された味方の機体名(Name)を叫ぶ。既に反応は無いため、返信もない。

ゆっくりと、敵MULSが剣を引き抜いた。

それと同時に、地面へと倒れ伏す一機のMULS。

全員が、脚を止めていた。敵MULSがこちらを向く。

その表面はMULSのオイルを返り血のように浴び、紅い双眸がこちらをじっと見つめてきていた。


「っ!撃て!殺せ!」


掛け声と同時に、残った全機で射撃を開始。敵MULSを無視して突破することはもう頭に無かった。

こいつはここで倒さなければならないからだ。たとえここで無視して敵戦線を打撃しても、この一機が前線にたどり着いたら意味がない。それだけの腕をこいつは持っている。

ここで倒し、再出撃(リスポーン)させ、前線への復帰を遅らせる。それが今の最善だ。

だからそうした。敵機の足は止まっている。距離を取って打ち続ければ、必ず倒せる。

しかし当たらない。敵はサイドステップし、こちらの射線を切ってくる。

問題ない。敵は回避しかできない。近づけないなら、撃ち続ければいずれ倒せる。

こちらへ来るにはローラーダッシュが必要だ。が、それには欠点がある。初速が遅いのだ。MULSを加速させるには時間がかかる。その前兆がわかれば、引き打ちも容易だ。

敵が回避をやめた。命中弾が増え、敵MULSがうずくまる。

諦めたのか、耐えているのか、分からないが。何もしてこないのは好都合だ。

射撃を開始する。そして、それに敵は反応した。

敵は立ち上がる、全身を使い、その機体を引き起こす。

そして、敵が何をしてきたのかを知ることになる。


「跳んだぁ!?」


そのMULSは跳んだ。両足を地面から離し、確かに宙を滑走する。

驚く暇は与えられない。敵MULSは手近なこちらのMULSの懐へと飛び込んだ。剣を持つ手は、既に振りかぶられている。

振り下ろした。胸部がひしゃげ、マップの光点が消失する。


「ロリコン紳士!」


二機目がやられた。奥歯をかみしめながらも、足を止めた敵へと照準、射撃する。

しかし避けられる。敵MULSはバックステップし、その勢いで胸部から剣を引き抜き、そしてこちらの射撃を回避した。


「クソがこいつ何者だ!」


射撃を行いながら聞くが、誰も答えられない。

その間にも、敵は身を沈ませ、再び跳躍。


「変態仮面!」


更に一機撃破された。残るは三機。

だがこちらも馬鹿じゃない。散開していた二機と集まり、弾幕を張る。

近づけなければそれでいい。近づいてきたとしても敵は一機。振る剣は一本。跳躍して強襲し、倒せたとしても1機だけしか倒せない。

3機集まれば、2機残る。残った機体で絶対に倒せる。


「来るなら来い。ぶち抜いてやる」


そう呟いたこちらに対し、敵のMULSの行動は明快だった。

こちらから距離を取り、離れたのだ。


「…何だ、逃げたのか?」


思わずつぶやく。敵は殴らなければこちらを倒せない。何故、敵は離れた?

答えは横からやってきた。アラートが鳴り響き、そして衝撃が機体を襲う。


その方向は、彼らが強襲しようとしていた敵の補給線だ。

そこにはMULSが展開し、こちらへと向けて射撃を開始していた。

敵MULSは味方の展開を確認し、邪魔にならないように退避したのだ。

こうなったらもう、彼らに勝つ術はない。それでも、応戦する3機のMULS。


そこへ、一度引いた敵MULSが突っ込んできた。

火力が分散し、対応できなくなったところで突っ込んでくる。

戦術的には有効だが、される側としてはたまったものではなかった。

同時に、どこか遠くで大きな爆発音が鳴り響く。直後に通信。


『敵の攻撃で85号拠点が孤立した!繰り返す。85号拠点が孤立した!』


その通信は作戦が失敗したことを示すものだった。敵の勢いを止められず、85号拠点からこちら側へとつながる通路を爆破され、封鎖されたのだ。

これでこちらから85号拠点への戦力の投入ができなくなった。反対の西側も同じだろう。

繋がっているのはは敵の制圧した75号拠点と反対の95号拠点のみ。後は戦車同士のガチンコ勝負か。

今までこらえていた味方の2機が、敵の射撃で撃破された。そして、目の前には剣を持ったMULSが突っ込んでくる。

その姿勢は驚くほどに低く、しかしバランスはとれていて転倒しない。

その手の剣は、既に振り上げられ、こちらへ振り下ろされていた。


「っち。やるじゃないの」


男は呟く。

そして撃破された。


うおおおおおおおおお(困惑)

PVが、PVが今までになく増加しているー。


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