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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
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1-2 電脳って何?

まだまだダンジョンのダの字も出てこない。

世界観説明のみで話が進まない―。

「ただいまー。」


玄関を開け、そう呼びかける。

返事はない。いつものことだ。母さんは今頃、夕食の支度に近くのスーパーにでも行っているのだろう。

今日は父さんが帰ってくる。そんな日はいつもこうやって盛大に掃除を行い、その結果僕が帰ってくる頃に晩御飯の準備をしに買い物に出かける羽目になるのだ。

まあ今の僕には関係ない。せいぜい精のつくものを父さんに食べさせて、夜中しっぽりするがいい。今の僕にはやることがあるのだ。

いそいそと自室に引っ込み。いつものようにイヤホンを取り出す。

いつものように、没入(ダイブ)するためだ。


“メタル・ガーディアン”はVRMMO。つまり、ヴァーチャルリアリティーの中でオンライン接続している仲間たちと遊ぶゲームだ。もうちょっと砕けたように言えば、コンピューターで作った一つの異世界に、仲間たちで転生して楽しむ遊びだ。

視覚も聴覚も、触覚も。中には味覚や嗅覚まで再現された電子空間に自分の意識を飛び込ませ、そこでしか体験できない経験を楽しむ。

それがVRMMOだ。

だから当然、仮想現実を五感で楽しむためには、何らかの方法で僕たちの自我をコンピューターと接続しなければならない。それ以外の方法もあるにはあるが、それは物理に訴えることになる。HMDつけて視覚を再現し、イヤホンをつけて聴覚を再現し、全身に触覚を再現するスーツを着て、邪魔にならないような広大な空間を用意する。

それは経済的ではないので、僕たちは自我をコンピュータに接続する必要があった。

脳波を読み取ったり読み込ませたり、物理的に脳と機械を接続したり。方法はさまざま。

僕たちの社会は、その中で物理的な接続をすることを選んだ。

義務教育を終え、さらに二次性徴を終え肉体的精神的に安定した個体にナノマシンを打ち込み、新たな神経網とナノマシン素材の生体電極が耳の後ろに生成される。

そこにデバイスコネクタを接触させ、個人が持つデバイスと接続し、そして機械と脳が接続されるわけだ。


生体電極が耳の後ろに形成されるのは利便性と必要性の結果らしい。耳の後ろは皮膚の動きが首の動きに連動しにくく、形成された生体電極がズレて接続不良を起こしたりといったことが起こりにくいとか。つまり、激しい運動をしながらコンピューターに脳接続をする必要がある人や状況でもちゃんと動くためということだ。

また、生体電極と接続するためのデバイスコネクタの形状も、僕が取り出したようなイヤホン型のほかに、眼鏡型やヘッドギア型のようなものにでき、日常での普段使いに適した形状をとりやすいのも理由の一つだとか。副次的に、長時間の接続でもストレスになりにくいという利点もあったみたい。


そしてそのデバイスコネクタを介し、脳とコンピュータを接続するのが個人用情報端末。つまり、デバイスだ。

デバイスは言ってしまえば、一昔前のスマホやケータイだ。明確に違うのは個人ごとにパーソナライズ化され、本人以外が基本操作以外を行うことは不可能に近いことくらい。

もともとはマイナンバー制度の延長で、個人の情報管理を円滑に進めるためだったらしい。ケータイ一本で役所の申請やら預金借金お支払い、その他行政上の手続きや管理を自動化、省力化するのがその始まりだったとか。

その後ナノマシン技術と脳科学の進歩により脳接続(ニューロコネクト)技術が発明され、個別に構造の違う“自我”同士をオンラインで円滑に接触させるため、オンライン用の共通規格に変換するための“変換機”としての機能も付与されたのが“デバイス”だ。

デバイスの形は様々だが、基本的にはケータイと大差ない。ただ最近では、外部入力をすべて撤廃した脳接続(ニューロコネクト)専用のものが流行りだしているので今後どうなるかはわからない。

性能自体はいたって普通だ。もっとも、一昔前のスパコンと同等らしいが…。まあ、その一昔前の携帯端末も、そのさらに昔のスパコンと同等だったらしいので、これは蛇足か。


まあとにかく、僕たちが仮想現実(VRMMO)を楽しむためには、生体電極とデバイス、そしてそれを繋ぐコネクタが必要だ。

そして、僕はそれを手早く身に着け、ベッドにその身を投げ出した。

天井しか見えない視界に、半透明のグリッドが浮かび上がる。

わずかな時間Loading表示がなされたかと思うと、次の瞬間には天井と自分の間に半透明のウインドウが浮かび上がった。

実際にそこにあるわけではない、拡張現実(AR)だ。デバイスの信号がコネクタを通し僕の視覚野に干渉し、ネットワーク用のインターフェイスがそこにあると錯覚させているのだ。

そのインターフェイスに意識を割き、メタルガーディアンの機動プロセスを実行する。

再び表示されるLoadingの文字。


脳接続(ニューロコネクト)技術は、僕たちに電子世界というもう一つの世界を繋ぐ扉を与えてくれた。

だが、未だその扉をくぐったとは言い難い。

扉の向こうとこちらは、いわば水と空気のようなものだ。

人は水の中では生きられない。水中の酸素を取り込めないため、酸欠を起こして死ぬからだ。

同じように、電子世界の扉のこちらとむこうではその法則の違いから、当初はその扉をくぐることすらできなかった。

だが、人は水の中に入れる。息をつめればその分水中でも活動できるし、酸素ボンベや水中服を着ればさらに長い間活動できるし、さらに規模を大きくすれば水中で生活だってできる。

もっと言えば、循環可能な生活空間(アーコロジー)を構築すれば、一生を水中で過ごすこともできる。

人は、生活できる環境を持ち込むことで、存在不可能な場所を存在可能な場所へと変えることができた。

だから同じことをした。物理法則を取り込み世界を創造し、五感を再現することでその世界を体験できるようにし、自我の共通データ化をすることでその体験を万人に普遍的に共有することに成功した。

だが、それはあくまで限定的なものだった。電子世界への扉をくぐるにはいまだ至らず、世間一般にとっては、脳接続(ニューロコネクト)技術はちょっと便利なディスプレイとマウスくらいの認識だった。

VRMMOといったものがあるものの、それらも結局は一つの箱庭の中で、決められたロジックに従ってヴァーチャルリアリティーを体験するというアプリケーションの一つでしかなかった。


電子世界への扉を持っておきながら、その扉をくぐるには至らず、今なお降りかかる課題の山を片付けながら、少しずつその扉をくぐる道具作りに励んでいる。


それが、僕たちの電脳テクノロジーの今だった。


Loadingが完了する。


気を失うように、意識が深く暗転する。

いつもの没入(ダイブ)の感覚。僕はそれに抗わず、電子の海にその自我を投げ出した。



―――――――――――――――――――――――――――――

意識がはっきりしたとき、僕は没入した時とは違うベットの上にいた。

天井は高い。波打ったそれはむき出しのトタン屋根の裏側。

ベッドの質感も堅い。没入したときのフカフカしたそれとは違い、せんべい布団を何度も何度もプレスしてフェルト生地に仕立て上げたかのような感覚だ。

先ほどまでとは違う天井。しかしそれはよく見た天井だ。

体を起こして近くのドアを目指す。部屋中は清潔なれど、僕の部屋と違い事務的でそっけない。普段の僕がうろつくような場所ではないが、勝手はよく知っていた。

ドアをくぐる。そして目の前に飛び込むのは、現実世界には存在しない鋼の巨人。

歩行戦車、通称MULS。

ここは、VRMMOメタルガーディアン、その中のプライベートスペースだった。


このゲームに、散策できる公園や買い物できる店舗といったものは存在しない。

全てのフィールドは歩行戦車MULSに乗って遊ぶための“戦場”のみであり、それ以外にはこのプライベートスペースしか存在していなかった。

運営情報の確認やMULSの装備の売買といったものは、自室の端末やメタルガーディアン用のARウィンドウで行い、プレイヤー同士の交流といったものは端末のチャットか戦場、もしくはプライベートスペースに呼び込んで騒ぐくらいのものだ。

他のプレイヤーとの交流が可能な共用空間といったものは、このゲームには存在しなかった。

もちろん理由はある。単純にデータ容量を抑えるのが目的だ。いざ遊ぶとなったら基本的にMULSに乗って駆けまわるのが普通であり、生身の体といったものは本来必要ない。当然、生身の体で動き回るようなことはこのゲームでは基本しないので、無駄なリソースを割くくらいならいっそ削ってしまえということになる。そんなにお店で買い物したり公園を散策したいならそういったゲームを遊びなさいということだ。

それは仮想空間での自分の体。アバターにも表れており、初期設定のアバターは背格好を似せただけの簡素なテクスチャで構成されたアンドロイドという徹底ぶりだった。

そこまでして“生身”はいらないと態度で示しながら、なぜそれでも“生身”を再現するのか。

その理由は単純明快。MULSに乗っているという感覚を得るためだ。

コックピットの閉塞感、装甲越しに鳴り響く発砲音、振り回されそうになる慣性。

歩行戦車(MULS)に乗っている。MULSを動かしている。その実感を得るためだけに、このゲームに“生身”は再現された。

“生身”の個性も、“生身”の自由も必要ない。歩行戦車(MULS)に乗る実感を得るためだけに“生身の体”を用意されていた。

MULSのため。ただそれだけにしかゲームの容量を割かないその姿勢はいっそすがすがしいといえた。

まあ、代わりといえばおかしいが、アバターやプライベートスペース用の拡張パーツはあほみたいに取り揃えられており、その種類の豊富さから「容量削った意味あるのか?」等と一部で疑問の声が上がったことがあるとか。

尤も、それがゲームへの没入感を大いに引き上げているので、運営の目論見は当たったといえる。かくいう僕も、汎用モデルに迷彩服を施し、プライベートモデルをちょっとした港の倉庫に設定して『ザ・傭兵とその拠点』風にして大いに楽しんでいる。


僕はMULSに近づいた。このプライベートスペースには自分のMULSを展示しておける。

それがどういう意味を持つかといえば、それを自分の目で見、手で触り、肌で感じることができるということだ。

ぶっちゃけるとこのゲーム、MULSに乗って遊ぶのと、Set Upその他にかける時間はほぼ同じという調査が出ており、中にはプレイそのものには殆ど参加せず、装備の切り替えと、自分のMULSの鑑賞だけで満足しているプレイヤーもいる。

自分は殆どできないが、基本的に現実の物理法則に則っているこのゲームには自分で設計したパーツを使って遊ぶこともできる機能がある。それもこの現象に拍車をかけていた。

ARウインドウからMULSのSetUpを開始する。それに連動して、目の前のMULSの外観や武装がころころと変化していく。

僕はしばらくの間、自分のMULSのSet Upと最適化に没頭していった。






読む人がいらっしゃったらありがとうございます。

見切り発車的に始めちゃったから書置きもないよ!失踪するかもよ!

ちなみに今からフラグがビンビン。

俺、この話投稿したらウルトラマンとかレイバーとか見に行くんだ。

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