2-15 出撃準備
僕はMULSに乗り込む。ここ一週間ずっと続けてきた工程だ。
いつものようにコンピュータを起動し、MULSと接続。
システム全て問題なし。
視界がMULSのカメラとリンク。すぐに外の様子を見ることができた。
はじめに視界に移るのは、野ざらしに駐機されたMULSたちだった。
せめて屋根のある場所に保管したかったが、例のごとく時間が無くて駐機庫の用意ができなかったらしい。
何せ5MのMULSが100機も配備されるのだ。従来の戦車用の車庫でも、それだけの数を収容できるキャパシタは確保されていなかった。
現在駐機場も含めて基地の一角を拡張し、MULS部隊専用の施設を建設中とのことだが、こちらも例のごとく僕らがダンジョンを攻略するまでには間に合わなかった。
まあ、今のところ機体の方に異常は見られないので問題はないか。
それ以外の周囲の状況は、いつもに比べてかなり慌ただしい。
今日は前回ダンジョンが暴走してから丁度一カ月。再びダンジョンが暴走する日だ。
周期的に、今日の朝9時に暴走が確認されるとのことで皆その準備に追われているのだ。
既にいつものことと化してはいるが、万が一殲滅できずに突破されればあとは市街地まで一直線コースな為油断はできない。
「全員、搭乗しているな」
そこまで確認して、ミオリさんから通信が届いた。
ミオリさんは俗にいうジープと呼ばれる四輪駆動車に乗っていた。
その言葉に呼応して、駐機姿勢をとっていたMULSが立ち上がる。
僕も機体を立ち上がらせる。
ダンジョン突入組のA班B班C班。そして予備戦力としてのD班E班F班。
ミオリさんの言葉に、全機が立ち上がることで応答した。
「よろしい。それではA班から順に、車列を組んでついてくるように」
ミオリさんはそう言って、ゆっくりと車を前進させた。
A班がミオリさんの車についていく。
「私たちも行きましょう」
B班の指揮官に選ばれたMULSから通信が聞こえた。機体名は軍デレ教司祭。
山郷さんだ。僕は山郷さんと同じ班に組み込まれていた。
軍デレ教司祭が前進。A班の後ろへとついていく。
僕と他4機のMULSもそれに続いた。
基地内を行進する、30機のMULS。
その車列の先は、ダンジョン包囲網へと続くゲート。その手前にある補給設備まで続いている。
普段はダンジョンを包囲している部隊への迅速な補給のために運用されている場所。
今日は、そこにもう一つの役割が与えられている。
「火器の装備。及び点検を行え。焦らなくていい。万全の状態にしろ」
ミオリさんがそう言う。そして、その言葉と共に、先にいるA班へと補給基地から火器が提供された。
A班はそれを手早く、そして確実に装備、点検を行い。ミオリさんの方へと向かった。
「行きましょう」
山郷さんがそういう。
A班に続いて、僕らB班も火器を受け取った。
補給基地から提供されたのは3つ。
MULS用の20㎜機関砲と、その弾薬を積んだ円筒形の弾薬庫が二つだ。
まず僕らは弾薬庫を装備した。脚部パーツ、大腿に当たる部分の、股関節から伸びる軸と同じ線上にある弾薬庫。今は空のそれを取り外し、20mm弾の詰まったそれを装備する。
そして20mm機関砲を手に取った。
それはMULS用の砲架に装備された、車載用の20㎜機関砲だった。
もちろん、こんなものはゲームの中には存在しない。けど、この形になるのは当然だった。
MULSは現実に無かったが、銃の方は別だからだ。
現実社会の歴史で切磋琢磨された銃器は、ゲームのそれとは積み上げた実績が違う。
そして、わざわざMULS専用の銃を作るよりも、既存のものをMULSに装備できるようにした方が圧倒的にコストがかからない。
そのため、給弾装置や照準装置諸々を搭載したMULS用の専用銃架に、既存の火器を搭載する形がとられたのだ。
僕たちはそれを手に取り、状態を確認する。
照準装置、給弾装置、バッテリ、各駆動部。
特に問題はない。
「問題は?」
山郷さんが聞いてきた
「特にありません」
僕たちはそう答えた。
その答えを確認し、山郷さんは先行したA班の元へと向かった。
そこはダンジョンの正面から伸びる一本道、その終端にあるゲートを右折し少し進んだ所。
そこは土が盛られスロープのようになっており、それはダンジョンをぐるりと一周するバリケードの上に繋がっていた。
バリケードはさながら現代の城壁だ。
それは巨大な魔物の突破を防ぐための、古典的にして有効な対抗策だった。
城壁の外には堀も掘られており、ここを突破するのは困難だろう。
城壁の上には戦車や機動戦闘車といった機動兵器が僕たちと同じように。待機しており、その砲口をダンジョンへと向けていた。
また、車両のほかに銃座も設置され、機関砲がそこかしこからダンジョンを睨み付けていた。
僕たちの後方から、残りの班が城壁の上へと昇ってきた。
「よし。全員そろったな。」
それが全機そろったのを確認して、ミオリさんが口を開いた。
「では、作戦の再確認を行う。これよりダンジョンの暴走を鎮圧したのち、MULS隊はダンジョンに突入。一時間制圧したのち、撤収だ。わかっているな?」
「はいっ!」
ミオリさんの言葉に、僕らは簡潔にそう答えた。
「よろしい。では、ダンジョンが暴走するまで待機だ。ダンジョンに突入する前に待ちくたびれるなよ」
それを最後に、通信が終わる。
ダンジョンの暴走まで、あと1時間ほどだ。
MULSたちは直立したままだ。だが、コクピットの中では各MULSドライバーたちが思い思いに時間を潰しているだろう。
僕はこの時間を利用して、機体の状態を確認することにした。
機体は百錬。オプションは一切なし。システムはすべて正常に稼働中。
武装は20㎜機関砲が一門。あとは反対側の手に均質圧延鋼板でできた盾。
普段の戦車用の積層装甲よりは心もとないが、百錬の腕ではこれ以上の重い装備はできないので仕方がない。
後は近接武器のファルカタを装備できればいつもの装備だったのだが、さすがに使う予定はないので装備していない。
ちなみに、山郷さんはちゃっかり近接武器を持ってきていた。鉄板を張り合わせて作ったものらしく、基地の人に頼み込んで作ってもらったらしい。
もっとも、持っては来たものの使う気は無いらしく、『お守り』代わりのつもりとのこと。
まあ、その距離に近づける意味もないし、その上で近づかれたときは半ば詰んだようなものだからそんなものだろう。
それ以外の細かい状態もチェックする。全て正常。それでおしまい。
……。終わってしまった。
まだ5分も経っていない。これ以上の必要なことはすでに終えているし、ゲームをして時間をつぶす気にはなれない。寝て過ごすのも当然無理。
これからあと約50分、どうやって時間を潰そう。
「………」
思いつかなかった。
思いつかなかったので、とりあえず外の空気を吸うことにした。
コクピット上部のハンドルに手をかけ、上へと押し上げる。
後部ハッチとは別に設けられた上部ハッチが、頭部を基部ごと動かして開かれた。
最初に目に入るのは、太陽の光と、透き通る青空だった。次いで緑の碧さと、草や朝露の香るにおいが僕の五感に訴えてくる。
今日は非常に良い天気だ。季節は春になったばかり。
気温は少々低いものの、日の光が温め、その加減が非常にいい気分にさせてくれる。
非常に牧歌的で、のどかな雰囲気を醸し出していた。
もっとも、視線を下に向ければそこには砲が列をなし、一時間の後には硝煙の香りと砲声が絶えず轟くことになるのだが。
だというならば丁度いい。あとちょっとで味わえなくなるというのなら、存分に堪能しつくしてもいいかもしれない。
僕は時間の潰し方をそう決めた。
上半身をMULS胸部の上面装甲の上へと投げ出し、可能な限り楽な姿勢で今を楽しむ。
僕の一時間は、そうやって潰れていった。




