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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
チュートリアル
11/115

2-7 結果と提案


消灯時間間際、場所は食堂。


テンツクテンツクテケテケテンテン♪


そんなコミカルな音楽が脳内に鳴り響く。

その音楽に合わせ、ミョイコミョイコと、目の前には小さな人形が机の上でちょこまかと踊っていた。

踊っているのは百錬と呼ばれた、昼間に説明のあったMULSで。それをもとに、尺度を変え軽くデフォルメしてフィギュア化したものだ。

フィギュアといっても、プラモでもロボットでもない。そこに実態は存在しない。

AR表示されたデータモデルだ。


電脳テクノロジーが普及するにつれて、フィギュアやプラモといったスケールモデルは、その姿をデータ化という形で変化させてきた。

そちらの方が、ニーズに合っていたからだ。場所は取らず、AR表示すれば現実にも持ち込むことができ、ポーズもモーションも音声も思いのままに設定できる。

企業からしても、データーさえ作ればそれだけで済むので、樹脂やら金型やらといった金のかかるものを削減できた。

プラモ界の大手では、「プラモは作るのが好きなんだ」といった人向けに電脳スペースでスケールモデルをわざわざ自分で作成する用のキットデータも売り出され、実体のあるものは完全に趣味のものとして高価なものになっていた。


そういった、電脳プラモ化した、百錬と呼ばれたMULS。そいつが目の前で、集団で、面白おかしく踊っている。


僕が動かしているわけじゃない。モデルも僕は作っていない。作ったのは、リアルMULSの人と呼ばれているらしい、この百錬の製造者。


「ふははははは。踊れ踊れぇー。にんぎょうどもー」


大矢 光彦と呼ばれた馬鹿は、何故か僕の目の前でそういいながら百錬のデフォルメ人形を動かしていた。

目の前のチビ百錬は一糸乱れずバラバラに、けど統制のとれた動きでダンスを踊る。

そして曲に合わせてグルリと大きくターンし、曲の終わりと同時にチビ百錬たちは動きを止めた。


「これにて終幕。どうよ、楽しかった?」


僕に話しかける大矢 光彦。


「その顔。大丈夫なんですか?」


僕は光彦の発言を無視し、そう尋ねた。

その顔は、某アンパンのヒーローもかくやといった感じに、パンパンに腫れ上がっていたのだ。正直、プチ百錬たちよりもそっちの方がよっぽど気になる。


「あ、これ?大丈夫。説明会が終わった後に美冬にリアルで折檻されただけだから。自業自得」

「自業自得がわかっているなら何であそこまでふざけられるんですか。あなたは」

「イタズラや悪ふざけっていうのはね。罰も含めてワンセットなんだよ」

「訳がわかりません」


あっはっはっはっはと、少々グロテスクに見えるその顔で朗らかに笑う光彦。正直、怖い。


「まあ、それはいいとして。どうしたんですか?」

「ん?ああ、このでーたろいど百錬くんの事?いやあ、苦労したよ?なんせ今まで作ったことないからね。ネット見ながら四苦八苦してようやく-」

「あ、それはいいです。…何でそこまで露骨に悲しそうにするんですか。」

「せっかく作ったのに」

「美冬さんにでも見せればいいじゃないですか」


そしてその顔を更に腫れさせればいいんです。もちろん口にはしない。


「いやまあ、そっちも気にはなりますけど、僕に何か用事なんですか?」

「謝罪だね。個人的な理由だけれど」

「謝罪?いったい何に対してですか?」


昼間の説明会でふざけまくった件に関しては僕一人に謝罪することでもないので違うはずだ。

何に対してだ?


「徴兵されてここに連れてこられたこと」

「それについては仕方がないでしょう。決まった時にはすでに手遅れだったんですから」

「だからといって納得できるものでもないでしょ。わざわざ説得に応じてくれたのにこんな結果になるなんて思ってもなかった」

「…?僕があなたに説得された?いつの話です」


僕の言葉に、腫れた顔でキョトンとする光彦。


「気づいてないの?て、ああ、そうか。あの時は顔変えてたもんな」


光彦は一人納得すると、自分の姿にAR表示を重ね合わせた。

白い髪に、白い服。黄色い肌が白くなる。


「アンタ…」


30手前のオッサンに変換されているが、その姿は僕の徴兵が決まる1日前。僕にランキングを下げて、結果的に徴兵から逃げるよう指示したあのアバターの少女のものだった。


「ヤッホー。異世界の門番、ミツヒコチャンだよー」

「オッサン化した状態でそんなギャルっぽい仕草されてもキモイだけなんですけど」

「あっはっは。的確なツッコミをありがとう」

「なんでネカマになって僕の前に現れたんですか」

「そりゃあ、オッサンよりも、若い女の子の方が話を聞いてもらえるだろう。こんな恰好した状態で君に同じことをしたとして、まともに話になったかな?」


想像してみる。女装したオッサンが『お前は死んだ』と言いながら散々ふざけた挙句、ランキングを下げろと要求してきた場合。


「無理ですね」

「だろう?」


即答できた。コイツもそれを自覚できていた。

まあ、それはそれとしてだ。


「なんで僕は徴兵されたんですか?あの後、ランキングはちゃんと下げましたよ?」

「うん。それは私も確認した。ただね、あの後、トップランカー内で対戦を行った人がいたみたいでね。その人たちが相打ちして機体を完全に破壊しちゃったんだよ」

「……。成程」


その言葉に。僕は納得できた。

VRMMOメタルガーディアン。その総合ランキングが実質的にアリーナのランキングというのは前に説明したと思うが、その理由については説明していなかったと思う。

何でそんなことになるのかというと。実はこのゲーム、機体を撃破された時のスコアペナルティが非常に重いのだ。

フリーミッションであれマルチフィールドであれ、撃破されたら一律でスコアが下がる。それも大量に。その結果、生存性がこのゲームの評価の基準となっているのだ。

そんな中で、一対一が基本のアリーナは、当然だが勝ち続ければ撃破もされずにスコアは保持されるうえ、不測の事態で撃破されるといったことが滅多にない。

その為、生存率の高さから必然的にアリーナのランキングが統合ランキングとして機能することになっているのだ。

そして、撃破された時のスコアペナルティは、ランクが入れ替わるどころではなく、いくつも下がるほどには大きい。

もうわかっただろう。上位のランカーが撃破されたため、必然的に僕は繰り上がりでランキング入りしてしまったのだ。


「いやほんとにごめんよ。まさかわざわざランキングを下げてもらったのに、その好意をを無駄にするようなことをして」

「まあ、仕方ないですよ。予測できなかったことですし」


というか。今気づいたことだが。


「なんで僕を助けようとしたんです?アレは独断だって言いましたよね」


そうだ。あの時、この人は独断で権限の私的利用をして僕のことを徴兵から逃がそうとしていた。

なぜ、わざわざ僕を逃がそうとしたのだろうか。


「ああ、それ?君が未成年だからさ」

「…?たったそれだけの理由ですか?」

「たった。って。君ね、それ十分な理由だと思うよ?」

「よくわかりません」


どういうことだろうか。


「未成年は子供だ。保護されるべき存在だ。そして、君は学生だ。勉強するのが本分だ。君には勉強する権利と自由がある。徴兵はそれを奪う行為だ。だから助けようとしたんだ」

「学校には行ってますけど。自由時間はほとんどMULSに乗ってましたよ?遊んでいたのは違いないんじゃないんですか?」

「それは問題じゃないよ。勉強するしないにかかわらず、君には勉強できるという自由と権利があったんだ。それを行使せずに遊び呆けるのも自由だけれど、遊んでいるからってその権利を奪っていい理由にはならないんだよ」

「そうですか…。わざわざありがとうございます。」

「お礼を言われるわけにはいかないよ。結局失敗したんだし」


そう謙遜する光彦さん。行動が大馬鹿なだけで、倫理観はどうやらまともではあるらしい。

僕は、光彦さんの評価を上方へと上げていた。


「で、お詫びといってはなんだけどさ」

「はい?」

「代わりに私が勉強を教えようと思うけど、どうかな?」


光彦さんはそう提案した。


「それってどういうことです?」

「いや、そのまんまだよ。徴兵されて勉強の機会を奪われたのは事実だから、私が代わりに教えようかなと。まあ、数学と物理が主になると思うけど」


その提案に、僕は少し考える。


「…。それって、MULSの操縦に役に立つこともあるんですよね」

「そりゃ勿論。何に役に立つかまで詳しく教えられるよ。何せ、MULSの開発者の一人だし」

「じゃあ、よろしくお願いします」


僕は即答した。MULSを効率よく動かすという、自身の単純な欲求と実務的な必要性に従って、この人に教えを乞うことは有意義だと判断したのだ。


「そうかい。こちらこそよろしく」


そう言い、手を差し出してくる光彦さん。

僕は差し出されたその手を握り返した。


「ふははははは。高校生と夜の家庭教師役ゲェーット」


僕はその手をひねりあげた。


「ああっ、痛い、痛い!冗談が過ぎましたゴメンナサイ!」


この悪ふざけがなければ、もっとまともなんだろうけどなぁ。


この馬鹿の悲鳴を背景に、僕はそう思ったのだった。





まだダンジョンに入らないのかと思うじゃろ。

僕もそう思う。けど気ままに書いていきます。


追記。よくよく考えたら子供は設定的に電脳化できてないからARプラモとかできませんね。完全に大人向け。…ッハ!


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