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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
攻略
104/115

5-22 責任の取り方


——とある掲示板にて


XXX:名無しのストーカー

ようお前ら。ちょっと聞け。暇つぶしに無線聞いてたら面白いの聞こえたからここカキコ。


XXX:名無しのストーカー

御託は良いから内容はよ言え。


XXX:名無しのストーカー

ベッセルきゅん拉致られた。


XXX:名無しのストーカー

ホワイ?


XXX:名無しのストーカー

話題のベッセルきゅんが攫われちゃったぜ。しかも警察の護衛の中から堂々と。


XXX:名無しのストーカー

どういうこっちゃ。


XXX:名無しのストーカー

もうちょい詳しく。


XXX:名無しのストーカー

ベッセルきゅん、徴兵被害者遺族との面談のために基地を出発。

移動中に交通事故。

実は計画的な犯行でしたー。別に用意した車にベッセルきゅん拉致ってGO。警察車両は他の車に足止めされて追跡不可。見事ベッセルきゅんは警察の警備の外に拉致ザウェイ。

今ココ


XXX:名無しのストーカー

キチガイ捨て身の拉致大会


XXX:名無しのストーカー

自己った奴、邪魔した奴は?


XXX:名無しのストーカー

知らん。捕まったんじゃない?


XXX:名無しのストーカー

つか何でベッセル拉致ったし。


XXX:名無しのストーカー

知らん。ちんまくて無抵抗そうだったから?本人に聞け。


XXX:名無しのストーカー

いやまあ、確かに形だけは非力だけどさ。


-------------------------------―――



「警察からの連絡は?」


いらいらしながらも、ミオリは永水にそう訊ねる。


「未だありません」

「そう」


永水の簡潔な言葉にミオリもそう返すが、内心はそれどころではない。

罠かもしれないと知っていても、それが政府の要望だったとしても、無理をしてでも止めればよかった。

そう思うが、しかしそう思うのは過ぎたことでしかなかった。


警察の目の前で意図的な事故と誘拐。

面子を踏みにじられた警察は目下全力でイツキと誘拐犯の現在地の特定を行っているが、結果は芳しくない。

コンビニなどの監視カメラを通して追跡そのものは順調らしいのだが、どうにも複数回の車両の変更していたらしく。かつ、移動の様子を何度もカメラに映すことで監視カメラからの映像による逃走経路の特定と確認作業を何度も強いられていた。

一回当たりの確認時間はともかく、それを何十と繰り返すことで特定の遅延を行っていたのだ。


「他の様子はどうなっているの?」


永水にそのほかの様子を聞く。

この混乱に乗じて、他の勢力が悪さする可能性があった。


「今のところは何も。ですが、少々やばい事になりました」

「つまりどういうこと?」

「ネット経由で、イツキ君が攫われたことを彼らが知りました」

「彼ら」

「徴兵組です」


他のMULSドライバーにもイツキが攫われたことがばれたらしい。


「彼らの様子は?」

「今のところは何も。ただ、今後どうするかはわかりません」

「そう。とりあえず様子だけは見ておきましょう」

「………」


ミオリは簡潔にそう言い、意識を別のものに向けた。

永水はその様子を見て何か言いたそうにしていたが、しかし言葉を飲み込み何もいわなった。


「外の様子は?」


それは基地の外にいる一般人たちであり、それはマスコミや平和団体のモノだった。


「マスコミの一部は気づいたみたいですね。現地に移動を始めている人たちが居ます」

「平和団体の方は?」

「まちまちですね。気づいているのかいないのか。ただ総じてここに留まっています」


外の様子は変わらない。もしくは予想の範囲内。


「………警察からの連絡は?」

「ついさっき聞いたばかりでは?落ち着いてください」

「それは、…そうね。ごめんなさい」


永水に指摘され、イスに深く座りなおす。

しかし、座った所で今度は思考のループに陥る。

上からの指示とはいえ、危険性を指摘していたイツキに面談を受け入れさせ、結果として彼を危険な目に遭わせていた。

その後悔が彼女の中で渦巻いていた。

攫った相手から連絡も来ないこともそれに拍車をかけていた。


「とりあえず、今のところイツキ君は大丈夫ですよ」

「何の根拠があってそんなことを」

「殺すつもりならイツキ君はあの時点で死んでますから」


何を言っているのかとミオリは驚いたが、しかし同時に納得した。

人を殺す。それは自衛官の仕事の一つである。

殺せるうちに殺す利点をすぐに考えられる職業だった。


「攫っている以上、殺すつもりはないということね」

「そう言うことです。ひとまずは安心ですよ」


永水に言われて、少しだけ落ち着きを取り戻すミオリ。

外の動きはもどかしいほどに動きは無いが、それは悪化もしていないということだった。

そのことに気が付いて、とりあえず様子を見るという選択肢が取れることでようやくミオリの心にも余裕というものが生まれつつあった。

そこに、一本の電話が届く。内線で、相手はMULSの整備に関わる部署。


「どうした」

「MULSが一機、単身でダンジョンに向かいました!」


誰がと言葉を続ける前に、部屋の中に転がり入る人影が一つ。

その人影の名前は大矢。


「やられた!油断した!」


慌てる様子にミオリは嫌な予感を感じる。

そして、その予感は決して的外れではなかった。


「ミコトが部屋から脱走した!」


-----------------------――――


「……ん?」


ここ最近引きこもりっぱなしだった私は、そんななかで普段とは違うとの様子にふとそんな声を上げた。

様子がおかしい、というか、騒がしい。

窓の隙間から外の様子を伺うと、そこには紺色の角ばった制服を着た見知らぬ人。

それはよく見る警察の制服であった。それが何故かここにおり、ミオリさんと話している。


「何かあったのかな」


少しだけ興味がわいた。

デバイスを接続し、ネットと接続。

関連する情報がないかとザックリと探して回る。


「……え?」


そして見つけた。目の前の状況に関連するとあるスレッドのある一文。


「イツキ君が、攫われた?」


そこには今日イツキ君がダンジョン被害者の遺族と面談を行う予定であり、そしてその移動中に襲われたことが書かれていた。

乗っていた車両からイツキ君だけを抱え込み、別の車両に乗せ換えて攫って行ったらしい。


「何でそんなことに?」


疑問に思った私の元に、ちょうどといっていいタイミングでメールが届いた。

あて先は不明。文面もタイトルも無し。

ただ画像データだけが送付されてきていた。


「見ろっていうの?」


疑問には思ったが、結局は開いた。

その中身を目にしたとき、私の目は見開き、そして呼吸は止まってしまった。


「イツキ君!?」


映されていたのは、両手を縛られ、真正面からこちらを睨み付けてくるイツキの姿だった。

おそらく、人の目をカメラにしてデバイスで記録した代物なのだろう。つまりはこれを撮った人物であり、それはイツキ君をさらったグループからの映像。

それをわざわざ私に送り付けたというその意味するところは―----


「―私のせいだって言いたいの」


コイツがこうなったのはお前がMULSなんて作ったからだと。そのせいでイツキが徴兵されたのだと。そして徴兵されてここに居るからこんな目に遭っているのだと。

攫った彼らは、私にそう言いたいのだろう。

文面こそ何も書かれていないが、しかしそう予測するには送られた画像で十分だった。


「あ、は。あはっ、あはははははは………」


思わず笑い声が挙がる。そして、それにつられて涙が流れる。

笑ってる、笑うしかないだろう。嘲笑だ。人を馬鹿にするための笑いだ。


「あははははははははは……」


そして、その嘲笑の対象は、私だ。

子供のころから嫌われ、批判され、そしてそれでも認められたくて、自分がやったことだと胸を張りたくて作ったプログラムはゲームとして広まったが、それはダンジョン攻略のための兵器として転用され、そしてそれに熟達したゲーマーは使えるからと徴兵され、そして何人かが既に死んだ。

全部、私の行動の結果だ。その結果人が死に、そしていまイツキ君が攫われた。


私のやったことは無駄でしかなかった。いや、無駄どころか悪化させた。自分のエゴを満たすためのただの自慰行為でしかなかった。

そんな馬鹿な私だ。自覚できるほどの馬鹿な私なのだ。嘲笑の的になっても仕方がないし。そして自分がそれに加わっても仕方がないだろう。


「………行かなきゃ」


ひとしきり笑った後、私は立ち上がり、窓枠に手をかける。

送られてきたメールにはメッセージがある。

一つはさっき言ったこと。私のせいでこうなったと批判するためのメッセージ。

そしてもう一つはそれを伝えてからの、これからに関するメッセージ。


要はこれを送り付けた人物はこういっているのだ。『責任をとれ』と。


イツキ君たちが徴兵され、そしてここで命にかかわる重労働を課せられることになった責任を取れと。

彼らはそう言っているのだ。

ちょっと前なら、そんなこと言われてもどうしようもなかっただろう。今まで通り、イツキ君たちと一緒にダンジョンの深部に向けて探索を続けていくしかできなかったに違いない。


しかし、今は違う。

ダンジョンの深部を確認し、そしてその最奥にボスがいることも確認している。

後はそれを倒すだけ。


敵をたったの一体、倒すだけ。


窓を開き、そこから外に躍り出る。

後は簡単だ。格納庫まで行き、MULSに乗るだけ。

そしてダンジョンの深部で敵を倒せば万事解決だ。

私一人での戦闘、生きて帰れるかわからない。そもそも倒せるかもわからない。

だけど、そんなことはどうでもいい。

やるべきことはただ一つ。


彼らよりも死地に赴き、彼らの負担を可能な限り減らすこと。

それが私の責任の取り方であり、望まれたことだった。


後はそれを実行するだけ。


地面に降り立ち、格納庫めがけて歩を進める。


自分の責任を果たすために。



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