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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
攻略
102/115

5-20 すべての妨害は吹き飛ばせばいいのだ


翌日。


「罠の可能性が高いわね」


僕に対しての、ダンジョン被害者遺族のメールはすぐさまミオリさんに報告した。

帰ってきた言葉がそれだった。


「やっぱりですか」


僕は驚きもせずに同意した。

何故なら、このいろいろと忙しくなっている時期に、狙いすましたかのように僕を基地の外に誘い出す内容のメールだからだ。


「そうね、仮に本当ならこっちから話が行くはずだから」


おまけにアドレスを公開していないはずの僕のデバイスに対してのダイレクトアタック。

もし本当に僕との面談が欲しいのなら自衛隊や他に相談するのが普通だろうし、僕のアドレスを普通の一般人が手に入れられるとは到底思えなかった。


つまり、このメールは僕をおびき出すための餌である可能性が非常に高い。

じゃあ、誰がこの罠を仕込んだかといえば、それは基地の外で騒ぐ平和団体の方々が一番疑わしかった。他に目立つ輩が見当たらないので他の可能性があってもわからない。


「彼らの狙いはミコトさんじゃないんですか?」

「彼らからすれば、騒ぎのネタになれば何でもいいんじゃないかしら」


ごもっとも。

となると、送られてきたメールに対して僕が取る行動は一つだ。


「とりあえず、このメールは無視しますね」

「そうして頂戴」


無視、ガン無視、存在を認めない。

御断りの返信なんてもってのほか。あーだこーだと断った事実を持ち出してあーだーこーだと喚き散らすのが目に見えた。

だから無視。これに限る。

彼らの相手は警察だ。



翌日。


「どうしました?」


ミオリさんに呼び出された僕は開口一番にそう聞いた。


「まずいことになったわ。これを見て頂戴」


そう言って渡されたのはとあるニュースの一面。

記事になっているのは、昨日話題にあった遺族たちのこと。

当時の状況を聞きたいと、僕に面会を求める内容を政府に訴えたというものだ。


「…つまり、利用されたってことですか」

「そう言うことになるわね」


僕の問いにミオリさんはそう答えた。

おそらく、当の遺族たちは本当に僕と話をしたいだけなのだろう。

ただし、そう行動するに至った根本には基地の外の平和団体の息がかかっているかもしれないが。

それに乗せられたか知らないが、遺族は僕との面談を求め、それを利用して僕を基地の外に引きずり出す魂胆なのだろう。

遺族はその意思をまんまと利用されたわけだ。


「上からも面談に応じるように通達があったわ」

「拒否することはできないんですか?」

「上としては拒否してほしくないみたいね」

「理由はあれですか。政府批判の材料になるから」

「そう、拒否した事実を捻じ曲げて宣伝されるのは嫌なようね」


例え僕自身が拒否したとしても、それを伝えるのは政府であり、彼らはそこを『政府が遺族の意思を踏みにじった』と言いふらす魂胆なのだろう。嘘は言っていないのだ。僕の意思で断ったことを伝えていないだけで。

ただし、それだけで伝わる内容はガラリと変わる。

つまり、政府と自衛隊に対するイメージダウンがその目的だったわけだ。


「仮に会談するとして、会う場所はここなんですか?」

「いいえ。遺族に配慮して、市街地の公民館で行いたいそうよ」


僕は思案する。公共の場所なら下手なことはしてこないだろう。

つまり、手を出すならそこに至るまでの道中だ。


「そこまでの移動は自衛隊の人にしてもらえるんですか」

「それが…、それも遺族に配慮して役所の人にお願いすることになるわ」

「…マジですか」


不安にはなるが、それでも公務員の送迎なら問題もないのか?


「警備に関しては…自衛隊は関与できませんか」

「ええ。ごめんなさい」


僕の言葉にミオリさんは謝罪する。

治安維持活動、いわゆる警察の仕事を自衛隊が行うことは可能だ。

但し、有事という名の戦時下の状況で、だが。

平時において、自衛隊が警備に参加することは難しい。何故なら、それは警察が軍隊に活躍させないために作られたものだから。

簡単に言ってしまえば、軍隊に権限を与えると、よくよく暴走するような状況に陥りやすいからだ。

もうちょっと正確に言うと、暴走した時に止められる存在がいない。鉄砲や戦車を乗り回す軍隊に素人の竹槍で対抗なんてできるはずもないからだ。

その為に止められず、悲惨な結果になることが今までの人類の歴史で証明されている。

その為に軍隊とは別の組織が作られ、様々な制限を付けられた治安維持組織としての警察が作られることになった。

その為、治安維持活動。今回は僕と遺族の面談の警備に自衛隊を配置することはできない。警察を信用していないことになるし、その面子を潰すことになる。

あまり問題になるようなことを、政府の役人ができるはずもないだろうことは容易に想像ができた。


「つまり、僕は公民館に、警察の警備の元、役所の人に送迎されて遺族との面談に向かうことになる訳ですか」

「そう言うことになるわ。お願いできないかしら」


僕はちょっと考える。

正直、罠だと解っているこの状況に飛び込むべきではないことは解っている。

ただし、ここで拒否をしたら今後にどんな影響があるかわからない。

断ったら断ったで何かしらの策を弄してくるだろうことは、一連の行動から容易に予測できた。

ここで面談に応じておけば、少なくとも敵の手を一つ潰すことができる。


「……昨日の件、警察には連絡しましたよね。特定は出来ました?」

「まだ連絡は無いわ。昨日の今日だとさすがに無理みたい」

「送迎中の警備も付くんでしょうか」

「付くわ。あまり物々しくはできないから目立たない覆面パトカーになるけど」

「……わかりました。日時は何時ですか?」


結局、僕はその要求を受けることにした。

正直なところ、身の安全を守れるかといえば不安しかない。けど、警備に関しては警察だってしっかりしているだろうし、警察の目があるのをわかっていて僕をどうにかしようというほど、基地の外の彼らに行動力があるとは思えなかった。

なら、今面談に応じておいた方が得だろう。


僕はミオリさんとその後の打ち合わせを行い、そして当日。



-----------------------


「それじゃちょっと行ってきます」


見送りに来ていた大矢さんたちに僕はそう言った。


「気を付けてね」


大矢さんはそう言う。気を付けるの意味は多分いつもとはちょっと違うだろう。


「はい」


僕はそれを理解しつつ、そう応え、


「ミコトさんはよろしくお願いします」


僕は大矢さんにそう言った。

ミコトさんは今も絶賛引きこもり中だ。彼女に関する諸問題も未だコザコザと騒がれており、終息したとは言い難い。

まあ、それでも引きこもりっぱなしというわけでも無く、食事時だけでも部屋の外に出てくるのでとりあえずの小康状態といったところだ。

気にはなるけど、とりあえずは目下の問題に取り組まなきゃならない。


「イツキくぅーん。行ってらっしゃぁーい」


そんなことを考えた矢先に、そんな声と同時に背後からのしかかる人一人分の質量物。


「ぎゃあっ」


関だった。思わず声を上げる。


「ふざけんな、何してんだアンタ!」

「んー。イツキ君のファッションチェック?私服なんて初めて見たよ?中々自分のスタイルを自覚しているみたいだね。ゴツつなく可愛げもなくなかなか無難な…」

「そりゃどうも。あこら襟元に手を伸ばさないでください」

「せっかくだから女装とか興味ない?一緒に来てイベントとか参加しない?」

「誰が着るか!離せ!」


この場の空気の中でよくもまあそんなことがのたまえるな。

両手両足を使ってじたばたと暴れてやる。ちくしょう、地味に振りほどけない。

結局、関が一通り満足するまで体をまさぐられてしまった。


「この…クソ……」

「イツキ君、イツキ君。リラックスリラックス。これから人に会うんだから気を張り詰めないの」


関なりに気を使ったつもりなんだろう。


「…………」


が、ものすごくムカついたので無視してやることにした。

何とも情けない形になったが。僕は用意された車に乗り、面談に向けての遺贈を開始した。

基地の門を抜け、破壊された荒れ地を抜け、市街地の中へと入る。

久々に見た市街地は、今までと変わらず落ち着いた様子だ。


「……?」


いや違う、今まで以上に落ち着いている。

僕はそのことに気がついた。あまりにも静かすぎる。

外に人が出歩いていないのだ。人の気配がないわけではないのだが、一切が出歩いていない。

道を走る道路も極端に少ない。あるのは業者の使うと思われる車ばかりで、いわゆる民間の私用車というものが見当たらない。

どういうことなのだろうか。この街から出ていく人が多い事は聞いていたけど、それにしては減りすぎだ。前に来てから1カ月だが、その期間でこんな状況になるとはとても思えない。


それは僕の知らない状況だった。後で知ったことなのだが、この現象の原因はかの基地外の平和団体のせいだった。

何故かといえば簡単な話で、『自衛隊を容認するお前たちは敵』というわけだ。

『未知の存在に対して暴力で訴えるのは間違っている。対話が必要だ。だというのに自衛隊はそんな彼らを銃で撃ち殺し、住民はそれを歓迎している。何ということだ。そんなことは間違っていると教えなければならない!』

とまあ、そう言うわけだった。

それに対抗しようとするには、今までの住民は減りすぎ、そしてそれを目的にした移住者は多すぎた。

日和見的で多数決主義的な部分が多いこの日本。勢力の大きくなった彼らを止めることは身の危険を晒すことになり、皆関わり合いになりたくなくて出歩くことを控えるようになっていたのだ。



そんなことになっているとは知らず、僕は目の前の状況に疑問を持つ。

しかし、その考えに気を取られる時間はそう残されてはいなかった。


ゴムの擦過音と、遅れて唸るエンジン音。

静寂な街に突如木霊したそれは異常と判断するには十分なものであり、そして対策を立てるには遅すぎた。

音のした方向にを向けば、そこには視界に広がる車両の姿。

今にもぶつからんとするそれは、その予想の通りになる。

激しい音と、衝撃。シートベルトを着けていた僕の体も衝撃を受け、MULSの高度なそれとは違いあまりにも稚拙なシートベルトは僕を衝撃から守ることもできずに僕の体を激しくシェイクした。

いきなりの事態と衝撃に、呼吸が詰まる。僕の頭が回らない。

ただ、今の状況を見る限り、何が起こっているかは即座に判断できた。

コイツラ、何もかもすっとばして直接的な手段に訴えてきやがった。


そう思うが何もできない。クルマのドアが開く。そこから伸びる手は僕を固定するシートベルトを切断し、僕の体を持ち上げ、用意していた別の車に押し込んで発進する。

それは流れるように洗練された誘拐の手順であり、その対象である僕は見事に攫われてしまったのだった。






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