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歩行戦車でダンジョン攻略  作者: 葛原
チュートリアル
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2-6 部隊長の悩み

何ぞいきなりPV伸びたなと思ったら、ランキング入りしていたんですね。

隅っこでちまちまかけていたらいいなと思っていたのでびっくりです。ありがとうございます。評価もらえてにやにやしてます。

喜んでもいいよね?


わーい(*´▽`*)


夜。消灯時間間際。とある一室。


「意外とあっさり受け入れてくれたわね」


そう言ったのは、MULS部隊の管理責任者に任命された、佐倉 ミオリだ。

昼間の説明会のときの、徴兵されたMULS操縦者の反応を見てのことだ。


「徴兵が決まってから一カ月たっていますからね。気持ちの整理をつけてあきらめるには、まあ十分な期間でしょう」


執務机に座るミオリとは別に、その机の前から答える声が聞こえる。

声の主は、若い男性。

No.100。永水 恭介だ。なぜこの男がここへ呼び出されたかといえば、


「あなたも、徴兵されてあきらめたクチかしら?」

「冗談言わないでください。何のために除隊したと思っているんですか」

「元自衛官が自衛隊を抜けて志願して徴兵されるって、ここまでややこしい経緯で徴兵された人間もそうそういないわね。」


この男。元々自衛官なのだ。

大学を卒業して、すぐに自衛隊に入隊。その後紆余曲折を経て車両の整備を任務として、日がな一日クルマというクルマをいじくりまわしていたのが永水恭介という男だ。

その合間にVRMMOメタルガーディアンにのめり込み、No.100の実力と地位を手に入れる。

その後、ダンジョンが出現してからはこの西富士駐屯地に配属され、車両や装備の整備を行っていたのだが、今回の特殊技能保有者動員法を聞くとすぐに除隊願を出して脱柵。つまり、軍から逃げ出そうとしたのだ。

そして現在に至る。


「あのまま隊にいれば、私の席はあなたが座っていたはずよ。どうして逃げ出したの?」


ミオリは聞いた。MULSの運用についてはそもそも自衛隊は専門外なのだ。事実、ミオリ自身MULSの管理責任者としての役割を任命されたものの、どうやって運用すればいいのか全く分かっていない。

その上、徴兵されただけのただの民間人の面倒も見なければならない。一世紀近く徴兵制をなくしていた国では、既に徴兵のノウハウは失われている。

そんな中で、MULSに精通し、さらに徴兵された人たちと近しい立場にある自衛官というのは非常に貴重なものなのだ。

だからこそ、彼には然るべき地位と権限を与え、MULS部隊と徴兵部隊の運営に携わってほしいというのが上層部の意向だった。

だが、それを彼は蹴ったのだ。何故と思うのは変だろうか。


「そりゃ、あのままだとそうなると思ったから逃げ出したんですよ」

「…どういうことかしら?」


つまりですね。と前置きし、永水は自分の考えを語りだす。


「自分を含め、あそこにいるのはランキングで序列を付けられた人たちです。その中で、自分のNo.は100。あの中で最下位です。そんな人間が、あの中のトップになろうとしたらどうなると思います?すべてとは言いませんが、一部の人間は自分の言うことなんか聞かないでしょうね。『最下位の奴の言うことなんて聞けるかよ』ってね」

「それは間違っているわ。選別のためにランキングを使ったに過ぎない。この部隊内では、序列なんてものは無いわよ」

「それが理解できる人間はそもそも序列を盾に好き勝手なんてしませんよ。もちろん、彼らの中にそんなことをしでかす人間がいるとも限りません。ですが、可能な限り危険の芽は摘み取っておくに越したことは無いでしょう。そう考えると、私が彼らの上官として君臨するのは非常にまずいことなのです。彼らをまとめるには、貴女みたいに序列の外にいる人間である必要があるでしょうね」

「なら、私の補佐として動けばいいのではないかしら」

「自分はそのような訓練を受けていません。その場合、自分ではなく、専門家に任せた方がよいと思います」


すました顔でそう答える永水。

まるで台本を読んでいるかのような淀みなさは、逆にミオリを疑問に思わせた。


「なら、今から教育を受けてもいいんじゃないのかしら?どっちにしろ、貴方にはこの部隊の運営に関わってもらうわよ」

「申し訳ありませんが、自分にはダンジョン攻略という任務を既に受けています。そのうえで部隊の運営に回る事はできません」

「部隊長権限で貴方を私の補佐にしてもいいのよ?」

「…。」


長水は押し黙る。


「本当の事を言いなさい。別に懲罰したりしないから」


そうミオリは言葉をかける。

しばらくして、深いため息とともに長水は口を開いた。


「自分は自衛官でした。」


ミオリは頷く。


「自衛官なら誰にでもいえる事でしょうが。隊に入った以上、人を殺すことも、民間人を守るために死ぬことも、覚悟はできています」


ミオリは頷く。


「だからこそ、民間人を自分の手駒にして戦場に送るようなことはしたくないんですよ。これが、徴兵対象に自分がいなかったならまだ理解もできましたけどね。」

「なぜ、そう思うの?」

「おかしいじゃないですか。自分も彼らも、条件は同じ。だというのに、自分は自衛官だからという理由で部隊の運営という、いわば後方へと下げられる。自分には受け入れられません」

「それが一番彼らのためになるとしても?」

「理屈の問題じゃあ無いですから。自分は彼らと同じです。だから、同じ扱いを受けるべきです。それが道理ってものです」

「無理を通しても?」

「無理を通せば、確かに道理は引っ込むでしょう。ですが、それは言い換えれば、道理を無視したら無理が出てくるってことなんですよ。彼らの立場になってください。肩を並べて戦うはずだった仲間が、自衛官という理由だけで安全な場所に送られ、自分たちは危険な場所に送り込まれる。まるで死地に送り込まれる特攻隊だ。お前たちは死んでもいいって言外に言っているみたいだ」

「……」

「もちろん、そんなつもりはないでしょう。ですが、その行動を見れば、そう言っているように見えても仕方ないでしょう?それは、どれだけ違うと言葉で言っても、心には絶対に消えない傷として残ります。それは後々、取り返しのつかない形で帰ってくることになりますよ。もちろん、最初から全滅させる前提ならそのかぎりではありませんけどね」


永水の言葉に、ミオリは言葉を返せない。


「上はどう言って来ているんです?彼らに死ねと?」

「そんなはずがないでしょう。そう、わかったわ。貴方には、彼らと共にダンジョン内部の探索を行ってもらうわ。変なこと言って悪かったわね」


ミオリの言葉に永水は満足そうに頷く。


「ありがとうございます」

「ただし、」


その言葉と共に退室しようとした永水を、ミオリはそう言って引き留める。


「…。何でしょう」

「ダンジョンの攻略を行っていない間は、私の補佐として動き回ってもらうわよ。彼らと共に戦うのが必要だというのなら、この駐屯地内で動く分には問題ないでしょう?」


ミオリの言葉に、永水はどうやってその要求を蹴ろうか思案した。

機械をいじるのは嫌いではないが、その為に大量の事務仕事に忙殺されるのは嫌なのだ。

だが、この場を切り抜けるうまい言葉は見つからない。

苦し紛れに言葉を放つ。


「あの、ダンジョンの攻略には心身ともに消耗すると思われるのですが」

「元自衛官がそんな軟弱なこと言わないの。ちゃんと休息は取らせるから安心しなさい」

「……イエス、マム」


ミオリの言葉に、ただそういうしかなかった。


「はい。じゃあよろしくね。で、話はちょっと変わるんだけど」


話を続けるミオリ。長水は困惑する。何かほかに話すことはあったのだろうか。


「あのバ…大矢さんの件だけれど」

「バカの件ですね」

「やめなさいそう言うのは」


コホンと一度仕切り直し、ミオリが聞く。


「思ったよりも、彼に対してMULS乗り達からの風当たりというか、批判?みたいなものかしら。とにかく、大矢さんに対する『恨み』みたいなものが無いのがちょっと気になってね」

「どういうことですか?」

「極端な話、彼がいなければMULSは現実に出てこなかったのでしょう?だから、その。何て言えばいいのかしら。『お前がいなければ徴兵されずに済んだのに』って」

「ああ、MULSを実現しなければ必然的にMULSを動かすための彼らも徴兵されなかったわけですから。その逆恨みですね」

「そういうこと」

「ありえませんよ」


長水は即答した。


「…即答できるものなの?」

「できます。絶対にあり得ません」

「どうしてかしら」

「別に、彼一人だけがMULSを開発していたわけじゃないですから」

「…そうなの?」


ミオリは驚愕した。まさか他にも同じことをしていた人がいたとは思わなかったのだ。

しかし、永水にとっては驚くことでも何でもない。


「電脳のおかげですよ。電脳空間なら、基本的に何でもありですから」


永水はそう言った。


現実でMULSを開発しようとする場合、それはもう大量の障害が山のようにやってくる。

物理法則の壁はもちろんのこと、材料そのものを用意するための手間と金。作成に必要な機材や作業スペースや金。パーツの作成にかかる時間と金に。失敗を恐れない心と、開発を再開するためのやっぱり金。

とにかく金、いやいや障害がとにかく多い。

だから、個人が現実で開発する場合は企業の援助か企業そのもののプロジェクトとして立ち上げるくらいしかできそうにないし。その中でMULSを作るというのは、趣味でしかないため当然企業は手を貸さない。

実質的にできる人間はいないだろう。


しかし、電脳があればその障害が全て解決する。

電脳で設計(イメージ)すれば、すぐにそれは形になる。設定をいじれば形にしたデータを変えずに材質のみを変えることができるし、あとで修正するのも思いのまま。

失敗だって恐れなくていい。たとえ爆発しようが押しつぶされようが、しょせんはデータなので絶対に死なない。安全、安心ここに極まれり。

お金ももちろんかからない。


そんなわけで、電脳空間なら時間と根気さえあれば、それこそ物理法則もわからない子供でも設計、開発が可能になる。


そんなものが、MULSドライバーに渡ればどうなるか。


結果が大矢をはじめとした、MULSを個人で研究、開発するコミュニティの発生だ。

彼らは個人個人で、思い思いの嗜好(フェチズム)に従って、MULSの一部分一部分を好き勝手に開発していた。

勿論、統制なんて取れていない。自分の欲望の赴くままだ。


だが、それをまとめようとした人間が何人かいた。

その一人が大矢だ。


大矢だって百錬をすべて自力で開発したわけではない。他の同志が開発したテクノロジーを流用し発想を流用し、何度も練り直して形にしていったのだ。


MULSを現実(リアル)に。


その欲望が、彼らを動かしていた。

そして、その中から。大矢のMULSが一番現実的と採用されたに過ぎないのだ。


「仮に大矢が作っていなかったら、同じものを別の人間が作っていたでしょう。誰がやったかの問題であって、どうあがいても自分たちは徴兵されていましたよ」

「そういうものかしら」

「少なくとも、MULSの開発は止まりようがなかったと思いますよ」


永水は続ける。


「仮に自分たちが恨むというなら、ソフトウェアの方でしょうね。ハードは複数人が集まっていますけど、そっちは一人で作ったって噂ですから。まさしく『お前がいなければ』ってやつです」


永水はそう言った。




人の歴史って基本的に能力の普遍化が行われると劇的に変わると思うのよね。


産業革命で生産力が普遍化し、銃の発達で兵士の質が普遍化し、SNSの発達でメディアのあり方が普遍化し。

ITの発達で中身を知らなくてもモールスを打てたり解読したりできるようになっているのが今の社会。

作中みたいに電脳、VR技術がが発達すると、いったい何が普遍化するんでしょうね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] メカヲタ感が出てきてるwww [気になる点] もっと恨み辛みありそうだけどね。
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