1 転生
気が付いたら真っ白い空間の中にいた。
………厨二病な訳じゃ無いぞ?
電波人間やイっちゃってる奴な訳でもなく。
説明しようが無い、本当に目が覚めたらあたりが真っ白だったんだ。
それも白い部屋じゃない、言葉通りの空間だった。
周りを見回してみても…良く分からないな。
閃光弾でも見続けてるんじゃないかと思うくらいに視界が真っ白に塗り潰されてるし、そのせいで距離感は無いし、目の前に壁があるのかずっと遠くまで続いているのかさえ分からない。
……なんかここにずっと閉じ込めたら洗脳とか出来そうだよな……
……ゴホン、まぁそれは置いといて、だ。
そんな空間が360°広がっている。
足元でさえ真っ白いし。
宙に浮いてるのか?これ。
ただ、俺の身体だけは視界に入るし、手を動かそうとすれば動く。
どうやら、俺の身体はいつも通りのようだ。
……………だんだん平衡感覚も無くなってくるな。
考えていても仕方がないか。
そう考えて、一歩踏み出そう(?)とした所で。
『その必要は無いぞ』
「!!!!!!!!!!」
聞こえて来たのは老人の声。
なんかこう、しわがれてはいないものの、年季を感じさせる声だ。
ついでに言えば、なんかもんのすごい威厳を纏ってらっしゃる。
うーん、威厳というか、オーラが凄いというか?
あ、言ってること一緒か。まぁ、うん。そんな感じだ。
あーびびった。まじびびった。
誰だよ!?
『わしは神じゃ』
……はあ。
そうっすか。
振り返ってみたらすごい髭のたっぷりなお爺さんが立って居た。
髭のつき方は……サンタだな。
全身白くて、なんかこう、神々しさが凄い。
でも、惜しい。赤い冬服を着てれば完璧だった……!
…威厳たっぷりなのは変わらない様だが。
「……いつの間に来たんすか?」
『ほう?あまり驚かないのじゃな、こちらが驚いたわい。
大抵の人間は神と聞くと恐れをなし、ひれ伏してくるものじゃが。
……ああ、いつからいたかと問われれば、最初から、じゃのう。
見えるようになったのは今さっきじゃ。』
………おおう。
どうやら神様とやらは凄い存在らしい。
他の人にとって。
俺?そりゃまあ、神様なんて信じてなかったから。ひれ伏せと言われても。
というかどこが驚いたんだ?
素振りがなさ過ぎて今度はこっちが驚いたわ。
ところで、だ。
本当に聞きたいのはそんな話じゃない。
「何故俺はここに居るんだ?」
俺は普通に学校から帰ってきて寝たはずなんだ。
寝てる間に死んだのか?
いや、でも俺は至って普通の男子高校生だったし、健康体だったぞ?
家で火事でも起こったのか……?
そうだ、明晰夢という可能性も無くはないか……。
……それにしては変な夢見すぎだろ俺。
『いや、夢ではない。
其方が居たのは地球じゃったが、そもそも其方の魂は異世界のものじゃ。
それも、かなり高い能力を持つ魂じゃ。
おそらく前世、なんらかの手違いで輪廻がずれてしまったのじゃな。
このままだと世界の均衡が崩れてしまうのでな、異世界、エナロルクに転生してもらおうと思っての。』
正直、突拍子が無さ過ぎて言ってる意味がわからないんだが。
とりあえず、異世界が存在すると?
『そうじゃ』
で、転生以外に手段はないのか?
『そうじゃ。
……敢えて言えば今のまま転移は出来るがの。
まず確実に黒髪黒眼は目立つのじゃ。
今から異世界に行っても馴染むのに苦労するじゃろうな。
異世界では日常生活で魔法を使うからの、そなたの歳で魔法が使い方を知らない人間はいないのじゃ。
それに身分証明も出来ないからの。
デメリットしかないのう。』
そうか……ちなみに転生を拒否するとどうなるんだ?
『数年経てば2つの世界ごと破滅するのう』
………。
つまり、俺に転生以外の選択肢はない、と。
『そうなるのう』
最初から拒否権なし、って事か。
2つの世界共々道連れっていう選択肢も無くはないんだが、絶滅か死者は無しか、って問われたらそりゃあ後者を選ぶだろ。
「………解ったよ。
そうだ、俺が転生した後、地球での俺の扱いはどうなるんだ?」
『存在しなかったことになるのう』
……まぁ、周りの奴らに迷惑かけないならいいか。
そもそも俺の親は既に他界してるし、そんなに未練はない。
「それで、俺はどうすれば良い?」
『随分と即決じゃのう?
まあよい、特にやることは無いのう。
輪廻を元に戻したいだけじゃからな。』
「そうか、ただ生き直せば良いんだな?」
『そういう事じゃ。
そうじゃ、言い忘れていたが、転生者は多少、素質やスキルを決めることができるのじゃ。
今後の人生に関わる事じゃ、ゆっくり決めるとよい。
時間制限などは無いからの。
転生先はそなたの世界で言う、剣と魔法の世界じゃ。
ステータスの概念もあるのでな、それも忘れずに決めることじゃ。』
剣と魔法の世界、魔法があるのか!
……ちょっとテンションが上がって来たかもしれない。
いやまあ、男子高校生ですから!
男は皆、ロマンを持ってるもんだろ。
それにしても、自分で決められるのは有難い。
自分が行きたい道と正反対の能力しか持ってない、なんて事にならない訳だ。
『これを見るとよい。
転生してからの変更は出来ぬから気をつけるのじゃぞ。
素質は生まれた時点で変更は出来ぬ。
スキルは努力次第で出現させたり進化させたり出来るのう。
どちらを選ぶにせよ、努力せねば育たぬ事は一緒じゃがな。』
目の前に薄青い、半透明のウインドウの様なものが音も無く展開された。
………格好いい…!
っと、そんな事考えてる場合じゃない。
神様の話を聞く限り、選ぶのは素質を優先した方が良さそうだな。
それに言葉から察するに、素質がないと使えないスキルも有りそうだし。
そう考えつつウインドウを確認する。
残りポイント:180P
このポイントの中でやりくりして決めろ、って事か。
まぁ、考えてみれば納得のシステムだ。
そりゃ無限に選べる訳がないし、スキルとか素質とかによって質も変わってくるだろうから、個数で決めるとなると難しそうだ。
多分、それぞれで必要とするポイントが決まってるんだろう。
で、これは多いんだか少ないんだか。それとも統一なのか?
『其方はポイントが相当多いのじゃな、驚いたわい。
10P単位で増減するんじゃが、70P位までしか見たことが無いからのう。
さっきも説明したように、そなたの持つ魂は能力がかなり高い。
じゃから、もともと持つポイントが多かったのに加え、齢は17、じゃったかのう?
その分が加算されているんじゃろうな。』
………相変わらず驚いた様子の無い……。
まあでもラッキーではあったな。
ポイントが多いって事は人より多くの能力を持てるって事だ、有効に使わせてもらおう。
とりあえず素質の方を選択して、一覧表に目を通していく。
欲しいのは……剣と魔法の世界って言ってたから、戦闘力は確保しておくべきだな。
勿論ロマンが半分以上占めてるけど。
いよいよファンタジーって感じだ。
最初に説明書きらしいものが書いてあったから、それを読んでみると、どうやら素質には基本ランクがあるみたいだ。
下からC、B、A、Sで、それぞれ
C…ちょっと得意。
B…持ってる事で違いがはっきりわかる。才能あり。
A…かなりの才能を持っている。
S…天才。
くらいの意識だそうだ。
ランクを上げることにポイントが必要になる仕組みらしい。
見てみると……かなりの数あるな。200くらいか?
色々な分野があるから当然なんだけどな。
芸術系やら物加工系になる気はないから、ざっと目を通して使えそうなのを絞っていく。
使えそうなのは……この辺りか。
[体術の才能]5P(最大20P)
体の動かし方に関しての才能。
[武術の才能]5P(最大20P)
武術全般、戦闘に関しての才能。
[魔力操作の才能]5P(最大20P)
魔力の使い方に関しての才能。
[魔術の才能]5P(最大20P)
魔術に関しての才能。
[全属性所持]10P(固定)
属性全てを所持出来る。
[成長補助]20P(固定)
レベルが上昇しやすくなり、上昇時のステータスアップに補正が掛かる。
[スキル成長補助]20P(固定)
スキルを獲得、レベル上昇しやすくなる。
……さっきも考えた通り、今選ぶべきなのはスキルよりも素質、だよな。
となると、うん、足りるな。
7つ全部取ればいいか!
全部で130P、残りは50Pだ。
『……そんな極端な構成は初めて見たのう……。
スキルとて取っておけばかなりの力になるのじゃぞ?
大抵の人間は半々くらい、精々40ポイント程度じゃ。
………まぁ良い、そなたの人生じゃからな。口出しはせぬ。』
あ、やっぱりか。
まあいいだろ、損はしなさそうだし。
よし、次はスキルだ。
……こっちはレベルが1から10まであるらしい。
素質の才能シリーズは習得のしやすさとかに補正が掛かるのに対して、スキルは行動自体に補正が掛かるそうだ。
スキルも細分化されて更に大量にあるから、またざっと目を通して候補を挙げた。
こっちは50Pしかポイントを割けないし、絶対にとっておきたいスキルだけにうまく絞らないとな。
気になったスキルはこの辺りだ。
[鑑定]5P
人、物の情報を知る事ができる。レベルに応じて情報量が変わる。
[ステータス偽装]5P
鑑定された時、ステータスを偽装する。鑑定のレベル以下だと看破される。
[並列思考]5P
並列思考が出来る。レベル1つにつき1つ思考回路が増える。
[ステータス強化]10P
ステータスを底上げする。レベルにより倍率が変わる。
うん。やっぱり偏ってるな……。
いいんだ、目指せ大器晩成型、だからな。
この4つは有用そうで、スキル習得が難しそう、というかどうすればいいか分からなかったから選んだ。
剣術とか属性魔法とかはやってればスキル取れそうだったからな。
そうだな、まず[鑑定]と[ステータス偽装]は使えれば上がりそうだから、それぞれ1レベルずつ。
[並列思考]は2レベルにしとくか。戦闘の時にある程度あった方が役立ちそうだ。
で、残りは[ステータス強化]にして、3レベル。
『それで決定かのう?』
「ああ、これでいい。」
『では転生をしてもらうぞ、そなたが目覚めるのは5歳の時じゃ。よいかの?』
てっきり0歳から意識があるものだと思ってた、小さい頃は殆ど何も出来ないだろうし、俺が演技するにしても多分相当不気味な子供になるだろうからかなり有難い。
「助かる、ありがとう」
『では行くの。良い人生を送るのじゃよ。』
その言葉を認識した瞬間、視界は暗転した。