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酒場のエリサ  作者: smile
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エレナ・アランソ

結局翌日にはエリサの洗礼名(ミドルネーム)はリアナ(liana)であったということにして子爵などへ説明がなされた。

頭文字がLであればなんでも良かった、それにあれ程念入りに調べても証拠は無かったのだ、もし信じない者がいたとしても問題はないと判断したらしい。そしてその報告を誰も疑うことは無かった。

こんな所にエルが居るはずもないと口を揃え、もはやエリサのことを気にかける人などほとんど居なくなり、今や街中が建国祭一色に盛り上がりを見せている。


しかし自由に出歩くことはできるものの未だにルイスと会うことは許されていない。

以前のようにラウラさんが持ってきてくれる手紙だけがルイスと繋がっていることを実感できる細い糸だ。


だが、ルイスからの手紙を受け取ると嬉しいものの、以前のように心躍り気持ちがときめくことは無かった。もうルイスのぬくもりを知ってしまってからはこれだけでは満足できない。

会えない日を静かに我慢できるほどエリサの人生経験は豊富ではないのだ。


会いたい…


以前はルイスのことを考え、その声やぬくもりを思い出すだけで幸せな気持ちになれたのだが今は違う、思い出すたびに切なくなり、悲しくなり、そして涙が出てきてしまう。


ラウラさんが帰った後、手紙を握りしめたまま一人ですすり泣くエリサ、声を出すこともなく静かに。

込み上げてくる切なさを我慢できずに…



別に悲しいことが書いてあるわけではない、むしろ私に会うために毎日国王や兄姉達を説得している内容が書いてある、私のために頑張っていることが良く分かる。


だからこそ、切なくなってしまうのだ。


そんなエリサに声をかけることができずキッチンの外で隠れているエレナ。

買い物に行くためエリサを呼びに来たのだが泣いているエリサが目に入り、すぐに隠れたのだった。

「…どうしたらいいんだろう……」ぼんやりと宙を見つめるエレナ。キッチンの中からはすすり泣く声がまだ聞こえている。


……一人で買い物に行くかな?


そう思うもののエリサが城から帰って来たときのことを思い出していた。


…………◇◇………


エリサの手を引き、ひとまずキッチンに入る二人。


エレナは明るい家の中に入ってようやく気がついた。見た所怪我はしていなさそうだが、あれほど綺麗だったブロンドの髪は手入れがされずにボサボサになっている、覇気のない表情に赤く腫れぼったい目に涙の跡。

辛い思いをしたに違いない。


俯いたままのエリサに対しエレナは勤めて明るく振る舞った「あ、エリサさん、今日はコーンスープを作ったんですよ!我ながらうまくできたと思うんです、良かったら飲んでください」


「♩♫♪♫…」エレナは珍しく鼻歌を歌いながらスープを温め直す、確認するように味見をして「よしっ」と小さな声をだす。


温めたパンと一緒にエリサの目の前に置かれるスープはさっき外で嗅いだ匂いとおんなじだ。


スープと一緒にエリサの目に映るエレナの手。それは切り傷や火傷でボロボロになった手だった。スープを一口飲むとやっぱり美味しい。

一人で作っているからと言って手を抜くことだってできたはず、でもこの味はそんな味じゃない。しっかりと手間をかけている、そんなエレナの気持ちが伝わってくる味がする…

「ご、ゴメンね…」掠れるような小さな声で謝るエリサ。


しかし謝られるような事は何も無いと思っているエレナ「?…どうして謝るんですか?」


エレナの問いにエリサは俯いたまま肩を震わせしばらく黙り込む。エレナはそのまま隣の椅子に腰掛け「ふぅ」と一息ついた。


「……エレナちゃんは一人で頑張っていたのに…私…何もしていない…」


「そんな事どうでもいいじゃ無いですか!また明日から一緒に料理を作りましょう、これからは交代じゃなく一緒に買い物に行って、一緒にメニューを考えて! 」今、泣いているかもしれないエリサを見ないように宙を見つめながら明るく話すエレナ「私一人で料理を作ってて思ったんです。ああ、やっぱり私って一人じゃほとんどできないんだって。そして気がついたんです、もっともっとエリサさんと一緒に料理が作りたい、もっと教えて欲しいって…」


以前と変わらず接してくれるエレナ、いやエリサ自身が思っていた以上に慕っていてくれている事が伝わってくる。



「……うん…ありがとう。でも私、なんだかわからなくて…私って誰なんだろうって…」


その言葉にすぐ反論するエレナ、それと同時にエリサの手の上に自分の手を乗せる。

「何いってるんですかエリサさんはエリサさんです!他の誰でもない、私が尊敬する料理人で優しいお姉さんで…みんな大好きなんですよエリサさんの事…」



…………◇◇………


そうだ、私が自分で言ったんだ一緒に作ろうって。


エレナはそろうっとキッチンを離れると、そのまま廊下の突き当たりまで行き大きく息を吸った。


「エリサさーん!!!」


キッチンに届くよう大きな声を上げバタバタと足音を立てながらキッチンに向かうエレナ。


キッチンにいたエリサはビクッとして慌てて涙を拭う、呼吸を整え慌てて笑顔を繕った所にエレナがやってきた。


「エリサさん、買い物に行きましょう!!」エレナはニカッと楽しそうに笑いながらキッチンに顔を出した。


「う、うん」その笑顔につられてエリサも少し自然な笑顔で返した。










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