焦り
ミレーユによって城に連れてこられたエリサは閉じ込められるように城の一室に案内された。
そこは40平米はあるだろうかかなり広くトイレも室内にある。大きな窓からは陽が差し込み少し蒸し暑い。ここに来るまでに幾つかの階段を上った、窓から外を眺めると20mくらいはあるだろう木々が下に見え鳥たちが同じ目線を羽ばたいている。
当たり前だったがドアは開かない。
完全に隔離された状態を理解したエリサは部屋に入っても不安な気持ちは拭えないでいた。そんな気持ちの中ドアの向こうで叫ぶ声がした。
「エリサ!」ルイスの声だ。
「ルイス!?」慌ててドアに駆け寄るもそのドアは外から鍵がかけられビクともしない。
ルイスが開けてくれる!そう期待が高まるのも束の間ドアの向こうで口論と激しい物音が聞こえた。
「そこをどけ!」ドアの前で警備をしている3人の兵士に向かってドスの効いた低い声を出すルイス。
「も、申し訳ございません殿下。ミレーユ様の指示がない限りここを開けることはできません」怯えた兵士の1人が声を震わせながらドアの前に立つ。
「俺が開けろと言っている!」警備を無視して前に進むルイス。しかし残りの2人の兵士に両脇を抑えられる「貴様ら、何をしているのかわかっているな!」
ルイスがそう言った時にはもう右腕を抑えていた兵士を振り払い蹴飛ばしていた。
「ドガッ」と激しい音とともに数メートル吹き飛ぶ。
すぐさま左腕を抑えている兵の頭を右手で掴むと突き上げた自分の右膝に叩きつける「ゴッ」と鈍い音とともに声を上げることもなくその場に倒れこむ兵士。
ルイスはドアの前で怯えるもう1人の兵士の胸ぐらをつかもうとした。
しかしその手が届こうとした手前でその手はしなやかな棒状の何かで弾かれた。
「おやおやいけませんよルイス様」
弾かれた手の痛みも気にせず声のする方に目を向けると鞭を持った柔和な笑顔の男性が立っている。
「カミーラ!…」その名を呼んだまま睨み合い対峙する2人。そして先に口を開いたのはカミーラだ「すいません、ルイス様。ここはミレーユ様の命令が無いと開けられないのです」
「俺が開けろと言っている」
「いやぁ〜、そう言われましても命令ですので」
「俺が命令する、開けろ!」
「ええ、そうおっしゃると思いました。でも…ミレーユ様から力尽くでも開けるなと命令されておりますので…」カミーラはルイスに向かい鞭を構える。
腰に帯刀はしているが流石に場内で剣を抜けば王子とはいえ懲罰もあり得る、何よりエリサを部屋から出すどころではなくなってしまう。
無言のままルイスが素手で身構えたときドアの中から声が聞こえた「ルイスさま〜?」
「ら、ラウラか?」部屋の中にはエリサ1人だと思っていたため驚くルイス。
「ハーイ、そんなところで暴れないでください。う・る・さ・い・で・す」
「…いきなり姉さんを蹴飛ばした奴に言われたく無いな…」
「………」少し気まずそうな顔をしたラウラ「いちおう…私がここに居ますのでルイス様は頭を使ってここを開けてください!」
頭を使ってというところを強調して言ったため嫌味にしか聞こえなかったがラウラが一緒だとわかると安心し少しだけ冷静になれた。一呼吸置いてからドアに向かうルイス「エリサ聞こえるか?」
「う、うん…聞こえるよルイス」エリサはすがるようにドアに身体を寄せ震える声を必死に堪える。
「こんなことになってすまない。必ず出れるようにする、待っててくれ!」
『待っててくれ』その言葉はまだドアが開か無いことを意味している、残念な気持ちと諦めにも似た小さなかすれる声で「うん」と答えることで精一杯だ。