舞踏会の夜
レミ第一王子に呼ばれたミレーユが会場に戻ったのはもう舞踏会が終了する間際だった。
「あ〜、もう終わりの時間だなぁ。何か食べるもの残っているかな?」レミに呼ばれた話は急を要する内容だったのでミレーユは気持ちを落ち着かせながらも少しだけ急いでいた。
兄の王位継承が決まった。これはすでに多くの国民と貴族たちも待ち望んでいた嬉しい報告だ、ただ発表が二週間後の建国祭にするとは…もう少し余裕が欲しい。しかも問題がもう1つあった、ここに来てグライアスが国境付近に兵を集めているとう…戦争を始める気か?まだ休戦条約が3年残っているはずなのに…
ただの挑発?……なら良いのだが…
舞踏会用のドレスの裾を捲し上げ足早に進む。
会場に戻ると丁度ルイスとカミーラが終わりの挨拶をしている。無意識にエリサを目で追ってしまい楽しそうに微笑んでいる姿を確認した。
会場に戻ったところをカミーラが気がつき中央へと導かれ頃合いを見て終了の挨拶をした。
未だにざわざわと盛り上がりを見せており今回の交流会も無事に成功したのだと感じることができる、そして安堵のため口元が緩み肩の力も抜けた。詳細は後でカミーラに聞けば良い。
その後、会場がお開きになっても今宵縁のあった男女はその余韻に酔いしれ会場の彼方此方で語らいを続けている。
ルイスはエリサを送るためにそそくさと会場を後にした。後でルイスにも話を聞こう、そう思っていたときコルベール子爵がダニエラ夫人と共にミレーユの前に現れた。その険しい顔つきは何かのトラブルがあったことを察するに十分だった。
「ミレーユ皇女殿下、お伺いしたいことがございます」
「ああ、どう致しましたかな?子爵殿」さっき力の抜けた肩が再び強張ってくる。
「率直にお伺い致しますミレーユ皇女殿下。ファルネシオ国はスタンフィード家と繋がり何をお考えなのですか?」
??何を言っているのだ?拍子抜けどころか見当違いな質問にミレーユらしからずキョトンとしてしまった。鳩が豆鉄砲を食らうとはこんなことだろうか?
少し無言の間を置いて「あ、ぁははは!真剣なお顔で何かと思えば…はは…随分酔われているようですな、まさか子爵殿がそんな冗談を言うと…は…?」
いくら笑っても表情1つ変えないコルベールを見て何かおかしいと感じるミレーユ。
「? 冗談では…ない?と…」
「はい、その様子ですとご存知ではないのですか?」
「いったい誰のことを言っているのだ?我々はスタンフィード家などと関わりあうつもりはない」
「ではルイス殿下の連れていた女性は何者でしょうか?」
「はぁ?エリサのことか? あいつはルイスが拾って来た田舎娘だろう、まさか彼奴の事を言っているのか?」
「ええ、まさにその田舎娘のことです」
「はは、笑えない冗談だぞ!コルベール子爵」くだらない冗談にしか聞こえず声のトーンを下げ鋭い目つきをするミレーユ。
「では彼女の名前を言っていただけますか?」ダニエラ夫人が強張った表情で前に出る。
「うん?あいつは…エリサだろう?エリサ…」その次が分からず考え込むミレーユ。しかし思い出せるはずがないミドルネームもファミリーネームも聞いていないのだから。
「彼女の名はエリサ・エル・アイーダ」そう言ったダニエラの顔は強張ったままだ「彼女が自分でハッキリと私にその名を言いました、ファミリーネームは違いますがエルの名を継げる者はスタンフィード家に縁のあるものだけ、何より北方に多いい鮮やかなブロンドの髪。しかもどうして彼女をルイス殿下がお連れしているのか?レミ王子ならまだ話がわかりますが…」
その名を聞いて唖然とした、不意にも数秒だが開いた口を閉じる事すら忘れていた。
「まさか?彼女がスタンフィードの?」
どう言う事だ?ルイスは何も話してこなかった。いや、彼奴も知らないのか?そもそも気がついていないという方が合点がいく。
しばらく考え込むミレーユの前に一人の初老の男性が近づく「何やら聞き捨てならないお話ですな」白髪に白い口髭を持った男性は背は曲がっていないものの杖をつきながらにこやかに話しに入って来た。
「レミュール男爵、いや、これはまだハッキリとは…」
言葉を濁すミレーユを遮るレミュール「その話、もし本当であれば私の息子も関わっている可能性があります。無関係では済まされない内容ですな」
バルサか…
クソっややこしいことになって来た…
「コルベール夫人、もう少し詳しくお聞かせ願いますか?」グライアスと兄の王位継承で頭がいっぱいなところに新しく問題が飛び込んで来た。ミレーユは肩どころか全身に緊張が走りその顔には余裕など微塵も見えなくなった。