はじめての……XXX
外は降り始めた雨が激しく窓を叩き大きな音をたてている。それとは逆にシンっと静まりかえった部屋の中で一言も発しないエリサとルイス。…ただ自分の息使いと鼓動だけがはっきりと聞こえていた。
夜の宿屋に2人きり、それだけで身体は火照り緊張して思うように考えることができない。
この火照りはお酒の酔いなのか別のものなのか…
うまく考えられないのも酔いのせいなのか別のものなのか…
わからない…
ただ隣にはルイスが…
隣にはエリサが…
座っているという事だけが理解できている。
濡れてしまった服もそのままで、並んでベットに腰掛けたままのエリサとルイス。
お互いに目を合わせることもできず俯いたり、何も無い天井を見上げたり、時折激しく降る雨を窓越しに見たりしていた。
しばらくして静かな部屋の中で、不意にエリサが立ち上がる。
「…エリサ?」
「あ、うん、タオルか何かあるかなぁって…髪、拭きたい…かな…」ルイスと目を合わせないように話すエリサの声はいつもより小さく静かに、そして震えているようにも聞こえる。
「あ、すまん! 気がつかなくて」慌ててルイスも立ち上がりエリサを追うが慌てて顔をそらされてしまう。濡れた髪が垂れ下がり顔にかかっているため、その表情は見ることができない。
……ぁ…怒っているのかな?……成り行きとはいえ2人きりで宿屋に入るなんて…
ルイスが戸惑っているうちにエリサは奥からタオルを二枚見つけ一枚をルイスに渡した「…る、ルイスも拭いた方が…」顔を背け視線はそらされたままだ。
「ああ、ありがとう」
またすぐに無言の時間が流れる。
どうしよう…そうルイスが思った時、窓が明るく光り輝く、それとほぼ同時に『バリバリバリッ』と激しい雷の音と振動が部屋に響きわたった。一瞬エリサの身体が『ビクッ』と強張りシーツを強く握りしめる。
「だいじょうぶ…か?」
「う、うん、少し驚いただけ…」
一言だけ会話を交わすもののまた無言の時間が流れ、次に雷がなってもエリサは驚いたりせず変わらず俯いたままでいた。
「す、すまなかった。その、こんなことになって…」ルイスが座ったまま窓を眺め小さな声をだす。
しかしエリサには何を誤っているのかわからなかった。
ラージュのこと?それはもう既に謝られているし済んだこと。そもそもルイスのせいではない。それともこの雨?これは誰にもどうすることもできない。
え???わからない…
「ルイス?…」何を謝っているのかわからず顔を上げるとルイスと目が合う「あ、あの何を?」
部屋に入って初めて合わせるエリサのその顔は怒っている顔では無かった。顔を赤らめ恥ずかしそうにしているが、どちらかといえば嬉しそうでもあり楽しそうな目をしていて、でも…その潤んだ瞳がどうしようもなく可愛らしい。
怒っているわけでは…ないのか?「あの、その、いや…さ、寒くないか?」
乾ききっていない髪が色っぽく、服も濡れていて身体のラインが良く分かってしまい視線のやり場に困って目が泳ぐ。
「うん、大丈夫。最近暑かったから、ちょうどいいくらい…」
いつもより静かにそしてゆっくりとエリサは話す。その表情と声を聞いて怒っているわけでは無いと確信できたルイスはやっと安心することができた「ああ、そうだな…」
「雨、すごいね……あ、ラウラさんはどうしているかな? 近くで護衛しているんじゃ?」
「それなら大丈夫だ、ここの宿屋の主人もラウラ達と同じなんだ。まぁ彼は情報収集がほとんどだけどな… ラウラはオレ達がここに入ったことを確認した時点でどこか雨をしのげるところに移っているはずだ」
「そう、よかった。まさか雨の中外にいるんじゃないかと思って…」
「そういえば、あいつ、妹みたいって言われて文句を言っていたぞ!私の方が年上なのにって、でも…嫌そうではなかったがな」
「はは、年上なんだよね……なんだか素直で可愛く見えるんだ。……だけど、初めは凄い変な人って思ったんだよ」
「ああ、俺も初めは何だこいつは?って思った!でも気兼ねしなくて良いんだ裏表がないからわかりやすい」
「うん、そんなところはルイスに似てる」
いつもより物静かだが笑顔で話すエリサとまた目が合う、しかしすぐにスッと視線をそらされてしまう。
……エリサ?…やっぱり怒っているのかと思い不安に感じるルイス
エリサの鼓動は急速に速まり恥ずかしくてルイスを直視できないだけだった、ついさっきまで気持ちを後押ししてくれた酔いは雨に濡れて完全に覚めてしまったからだ。
今はだめだ!見ないでほしい、何故だか…ちょっと…いや…すごく、恥ずかしい。
また無言の時間が流れ、激しく降る雨音と雷鳴だけが室内に響いている。しかしエリサはそれ以上に激しく脈打つ自分の鼓動しか感じていなかった。
でも…
ドクン!ドクン!…激しく刻み始めるエリサの鼓動。
くぅ……また身体が疼く。しかもいつもより激しく。
「…はぁ…」自然と漏れ出す吐息。
私は……
スッとルイスの左手に手を添えるエリサ。
「……?」その行動を不思議に思うが優しく握り返すルイス
うっ…どうしよう…握り返されてしまった…私は…私は…何をしたいんだ?何も考えられない、でもこの手の先にルイスがいる、いてくれているんだ!
並んで座る二人の距離は少しずつ縮まり、時間をかけてじわりじわりと近寄っていく。汗で滲む手のひらを気にもせず何度も何度も握り返し強く握りしめあう。そこにいるお互いの存在を確認するかのように…
二人の距離はさらに縮まると腕と腕が触れ合う。
お互いの温もりが伝わってくることに安心し、もっと近くにいたい、この温もりをもっと感じたい、そう強く思わせる。
そして肩と肩が触れ合うと、さらにもっともっと寄り添っていく二人。
エリサの…
ルイスの…
温もりが伝わってくる…
お腹の脇も太ももからもお互いの体温を感じるほど寄り添う二人。
エリサの頭がルイスの肩にもたれかかるようになったときルイスがエリサの方をゆっくりと向き始める。
お互いに一言も喋らず雷雨の激しい音の中エリサもゆっくりとその顔を上げルイスの方を向いた。
お互いの鼓動が伝わるほど密着し、お互いの息遣いが聞こえるほど目の前に相手の顔が近づいている。
もうためらいも何もない、むしろこうしたかった。
惹かれ始めた二人の距離は一気に縮まりもう止まらない、そのままゆっくりと触れ合う唇と唇。
「んっ…」エリサの身体が一瞬強張り握っていたその手に力が入る。
もう止められない、これが…
これが…
私の選んだ道だ…
そのまま絡み合うように抱き合い全身でその温もりを感じあうエリサとルイス、お互いの熱い息使いだけが聞こえるなか、夜はゆっくりと時間を刻んでいく。
…………♡…♡…♡…………
二人はシーツの中で寄り添いながら微笑みあい、雨が上がっていることに気がついた時はもう、静かな夜明けを迎えようとしていた。