ショウタイム
フェイルさんとの挨拶が済むとルイスは他の人達を紹介してくれた。
料理を作っていた男性はディック、短髪で明るく笑顔が素敵な好青年といった感じだ。ピアノを弾いていた女性はアニタ、赤くて腰まである長髪、かなり細身の体型でゆっくりと物静かに話をするおとなしそうな女性だ、私と同じ年齢らしい。そしてつい先ほど後から現れた男性がクラース、口髭に甘いマスクを持ちとても丁寧な話し方をするので渋い大人らしさを感じる。そしてクラースが店に入って来た途端に店内にいた女性達が黄色い声を上げてざわつき始めたので驚いた、どうやらファンの女性が毎日のように来店しているらしい。おかげで私達と話をしているあいだ店内の女性に睨まれっぱなしだった。
店員はこれで全員だ。4人揃った所でアニタさんの弾いていたピアノのリズムが速くなり、今までの落ち着いた曲とは変わりアップテンポでリズミカルな音楽が店内に響く、そしてお客様達が手拍子を始める、そして…
エリサの目の前を酒瓶が宙を舞う。
「ひゃっ!?」目を見開き後ろに仰け反るエリサ。しかも空ビンではなく中にはお酒が入っている!
エリサの目の前ではフェイルがお手玉のように酒瓶をくるくると回しながら宙にほうりなげている。何をしているのかわからず呆然としていると今度はエリサの頭上を酒瓶が飛んでいく「ひぇ?」振り向くと客席にいるクラースがそれを一本、二本と受け取り同じようにくるくると宙に回しながら女性が座っているテーブルのグラスに注いでいく、すると今度はカウンター端にいるディックへ酒瓶が飛んでいきそこでもグラスに注がれていく、今度はピアノを弾いているアニタの所へも投げられるとアニタは片手でピアノを演奏し数回宙を舞った酒瓶は勢いよくフェイルさんの所へ戻ってきた。
今度はフェイルさんが数種類のお酒を混ぜ合わせると勢いよくシェーカーを振る。
カッコいい…
エリサが見惚れているあいだにカクテルグラスに注がれていくお酒。
スッと差し出されるグラスとフェイルさんの笑顔「改めて、初めましてエリサさん、ようこそバリエへ!これは《アンシャンテ》初めましてという意味の名前を持つカクテルよ」
「…ありがとうございます」初めて見る光景に口は間抜けに開いたままだ、いつの間にかアニタさんの演奏は静かな曲に戻っていて、クラースさんにお酒を注いでもらった女性達はうっとり顏でお酒に酔っているのか何なのかわからなくなっている。
「なぁ俺に出てきたこのお酒は何か意味があるのか?」ルイスも興味深そうにフェイルに尋ねる。
「うふふ、それわねぇ…《アモーレ》…愛よ!」
「な?」急に赤面するルイスを見てフェイルはニヤニヤとしている「じゃ、二人のアモーレに乾杯!!」いつの間にか注がれていた自分のグラスを手に私達をからかうように場を盛り上げる。
この人って…やっぱり
ラウラさんと同じだ……
恥ずかしさと嬉しさの入り混じった幸せな感覚。初めて感じるこの気持ちに二人で赤面しながらグラスに口をつけた。