両想い
屋敷に戻ると上の空のままキッチンに向かうエリサ。門前でアランが「おかえりなさい」と言っていた気がするが「ただいま」と答えたかどうかも憶えていない。
いつもなら調理時は髪をまとめ上げるのだが今日は下ろしたままの状態で調理を始めている。いつも腰に巻いているサロンもつけていない。
「エリサさん、帰っていたんですね!すいません、すぐに手伝います……って?…それって……」夕食の準備を手伝いに入ってきたエレナが自分の目を疑う。
それはエリサのラフな格好ではなく、すでに下準備をしているその野菜にだ。どこか上の空で調理をしているエリサの脇には大量のタマネギとジャガイモの皮が剥かれていた。すでに昼間ヘルトからもらった野菜の半分近くが剥かれている。
「あ、あのう?今日は…何を作るのでしょうか?」
「ん?…あ、エレナちゃぁん? そうね…何を作ろうかぁ?」
「…………ぇえ?」
………◇◇………
「エリサ…君が好きだ!」
突然の告白にキョトンとした表情で数回目をパチパチさせてルイスを見る。ずっと不安に思っていた一言が今、聞くことができた、そして意外にもその言葉を冷静に受け止めることができている。
こみ上げてくる感情は驚きや感動などとは違った。
いや驚きはしたがそれは冷静に受け止めている自分自身に驚いたような気がする。
それは自分でも理解できている、今この瞬間エリサ自身も同じことを言おうとしていたからだ。ただそれを言う勇気が出せなかっただけで…
そして答えはもちろん決まっている。
でも何故だろう不思議なことになかなか声は出せず、口元は緩み嬉しくて笑っているのに涙が溢れてくる。
息は震え『私もです』その一言がなかなか言い出せない。
まっすぐにルイスを見つめながら震える唇を両手で抑えるエリサ。
「エリサ?…」断られるのか!?そう不安になり一歩歩み寄るルイス。
不安な表情を見せたルイスに対しエリサは震えた声を絞り出す。
「わ、私も…あなたのことが…る、ルイスが…………好きです」
………◇◇………
ついに告白した、両想いだ。
天にも昇るような夢心地に包まれ頭の中はルイスの事しか考えられない。
あれほど大好きだった料理の事が考えられなくなるほどエリサの思考は完全に支配されてしまった。
「あ、エレナちゃん…」虚ろな目と浅い呼吸、紅く高揚したその表情は明らかにおかしい。
「あ、あのう?何かあったのですか?」
「何か?……」
その問いが、まだ一時間ほど前の出来事を鮮明に思い出させる。ボッと何かが燃え上がるような感覚とともに身体中の血液は一気に駆け巡り心臓の鼓動はさらに加速する。エリサの顔はさらに真っ赤に染まり、『はぁはぁ』と浅い息はさらに早くなり服の上からペンダントを握りしめたまま俯向く。
「大丈夫ですか?」すかさずかけ寄りエリサの顔に手を当てるエレナ「少し熱っぽい?…」
心配そうにエリサを見ると苦しそうにも見える「あの、少し休んで下さい。あとは私がやっておきますから」
いや、今日の当番は私だ!そんな訳にはいかないと思い顔を上げるが目に入った光景は大量に剥かれたジャガイモと玉ねぎだった。
あれは自分がやったのか?我に返ったエリサはさすがに自分でもヤバイかもしれないと感じる光景だ。
「あ、うん。少しだけ…お願い……ちょっと休めば大丈夫だから」
「はい!任せて下さい。あ、ちなみに何を作ろうとしていたんですか?」
「??たしか魚を買ってあるんだけど…」あれ?何を作ろうとしていたんだっけ?
「魚ですね!はいはい、じゃ、少し休んで来てください」背中を押しキッチンからエリサを押し出すエレナ。
「よしっ!」と気合をいれ改めてキッチンを見渡す「………って………魚とジャガイモと玉ねぎってエリサさん、何を作る気だったの???」
エリサは一旦部屋に戻るとベットに腰掛け大きく深呼吸を繰り返した。
はぁ、ヤバイ、一人になったら余計に他のことが考えられない。
エリサ君が好きだ
エリサ君が好きだ
エリサ君が好きだ
エリサ君が好きだ
エリサ君が好きだ
頭の中でリフレインするルイスの言葉
「あーーーー!!落ち着け落ち着けーーーおちつけ! 」
う〜なんだろうこの感覚…さっきまで一緒にいたのにもう会いたくなっている。
声が聞きたい
会いたい
う〜
ルイスに
ルイスに………触れたい……
また…
抱きしめられたい……
う〜
考えれば考えるほどキュッと胸のあたりが苦しくなり身体が疼く。
わたし…やばいかも…