ルイスとエリサ
ひとまず王国よりラージュ再興のために提示された政策は3つ。
①この先半年の間、関所を通る通行税を取らないこと(これは今まで海賊によって遮断された町との交易を再開しやすくするため)
➁ラージュの特産物である魚介類など漁の促進、貝殻など装飾品の製造促進。そしてそれらを他の地域へ売りやすくすること(船を壊された漁師や装飾品を作る職人が減ってしまったため、落ちた生産量の増加を促すのが目的)
③近隣の町との交易がより安全に出来るように治安維持に努めること(人が増えれば治安が悪くなり、行商人が多く行き交えば野党なども多くなる。すべての商いを潤滑に行い住民の安全を守ることが目的)
連日朝早くから領主の屋敷ではラージュの再興に向けての話し合いが続いていた。先日の海賊残党狩りは幸いにも情報を早く掴んだため一網打尽にすることができた。おかげで特に問題にはされなかった。
しかしこれから経済が回復したのち、新たな海賊だけではなく野党や山賊の類も出てくるだろう、漁の復興は住民達の力で自ずと進んでいる。今は王家の軍が帰ったあとの治安維持が1番の課題とされている。
……しかし領主ら貴族のほとんどが関所の通行税を取らないことに反対、なおかつ海賊が居なくなり商売がしやすくなったのだから税を上げるという案もでているくらいだ。
……なぜここの領主や貴族は自分の事ばかり考えているのだ?
ルイスは上座に座り、いつにもなく険しい顔つきでこの話し合いを聞いていた。
「…………」いつもと変わらない同じような意見を一通り聞いたルイスは小さく溜息をつき一枚の書状を広げた。
「先ほど届いた書状だ」
広げた書状にはこう書いてある『ラージュの町を占拠せしめる海賊を討伐したのち現領主クラウスの処遇はファルネシオ国第3皇子ルイス・デオ・ファルネシオに一任。町の次期領主はルイスにより選別されたし………………………………………… ファルネシオ国王 アルドフIII世』
「今回、貴様らを取り潰してこのラージュを俺の所轄地にしてもいいんだが?……その権限は国王より与えられている」まとまるどころか日に日に拗れていく話し合いにいい加減嫌気がさしてきたところだ、この書状もダラダラと続く話し合いを進めるために用意したものだ。いつものように話を逸らされてしまうことを防ぐためにルイスは少し強引な方法と思ったが話を進めた。
「くっ……う………」その書状を初めて見せられた領主のクラウス及びその親族、側近達は言葉を失い沈黙が続く。
この書状を見せれば何かしら言ってくると思いしばらく様子を伺うルイス。……しかし誰も口を開こうとはしなかった。
………確かに俺の所轄地にしてしまえば今後エリサの料理を食べる機会が増えるかもしれない、それも悪くないな…と、ぼんやりと頬杖をつき考えている……こんな話し合い早く終わらせてエリサの店に行きたいのに…この書状のお陰でもう少し先に進めば良いんだが…
「はぁ」ルイスはまた小さく溜息を吐くと険しい顔つきに戻った。
「では明日までに具体的な対策と予算を用意しておいてくれ」そう言うとルイスは立ち上がりバルサを連れて部屋を出た。
残された領主ら貴族は集まりひそひそと小声で何かを話し始め、ルイスが出て行ったドアを親の仇のような目つきで睨みつけていた。
「なぁあいつらどう思う?」ルイスが唐突にバルサへ質問した。
「はぁ…、先ほどのルイス様の発言は少々キツイ言い方かと…まぁ尻を叩いても動くようには見えませんが……その…」呆れた感じで話すバルサを遮りルイスが続けた。
「いや、奴らの目的は保身だ、今の地位を守るために何かをする可能性がある…警戒しておけ」
「はい!」ルイスの言葉でバルサの表情も険しくなった。
続けてルイスは周囲を見渡した。人気のない通路、誰も居ないと思われるような状況で一人の名を呼んだ。
「ラウラ、出てこい!」
少し離れた通路から足音も立てずにルイスの前に現れた小柄な女性は、短めで少し青みがかった銀色の髪を持ち一見華奢な体つきに見えた。服装は色あせた赤茶色のシャツに黒いズボンというどこの町にもいそうな地味な格好だ。
彼女は命令がない限り常にルイスの護衛をしている、少し離れたところで周辺の様子を伺いながらルイスが呼べば直ぐにその姿を現わすことになっているのだ。
護衛という立場柄地味で目立たない格好をしているが、無駄な筋肉はつけずに鍛えられ、しなやかそうな身体つきだ。
ラウラ!クラウスの動向から目を離すな何かおかしな動きを見せたら直ぐ連絡をしてくれ!」
「はい、かしこまりました!…………」ラウラが返事をしたあと少し考え込む。
「と・こ・ろ・で、ルイス様はこれからどこに行くんですか〜? もしかしてまたエリサさんのとこですか〜?私、昨日はドキドキしてしまいましたぁ! 好きな人にネックレスを掛けてさしあげるなんて…」ラウラは目を輝かせてからかうようにルイスに詰め寄り上目遣いで顔色を伺う「あのとき空気の読めないアホな兵士が来なかったら良い雰囲気だったんですけどね〜〜〜〜。でもルイス様はどこまで本気なんですかぁ?」
「うっ、うるさい!いいから行け!」人の心の中に土足で入ってくるようなこいつの性格は少し苦手だった、しかしルイスの周りには顔色を伺う人間ばかりだったので、いつしか嫌いではなくなっていた。むしろ今はバルサのように気兼ねしなくて良いので側にいると安心する人間のひとりだ。
「は〜い」ラウラも少しからかっただけのようでルイスの焦る顔を見るとニヤリと笑みを浮かべ反対の方向へ歩いて行った。
外へ出るともう陽が沈みかけていた。今から海に行っても夕陽は見れないと思い二人はこのままエリサの店へ行くことにした。
ルイスもバルサもエリサの店に来ている時は自分の身分を忘れることができた。身分を明かしていないということもあるが、この店ではルイスとバルサという一人の人間として扱ってくれるからだ。その対応がとても新鮮で心地よくも感じる。これも二人が毎日通う理由の一つでもある。
「あ!いらっしゃい」
「やぁ」
嬉しそうに笑顔で挨拶をするエリサといつものように軽く挨拶を交わし慣れた感じでカウンター席に座る。
いつものように葡萄酒と料理を楽しむ二人。すでに数組のお客が来ていていつも通りの賑やかな雰囲気だ。
しかしいつも陽が沈んだ後には大賑わいになるエリサの酒場だが不思議なことに今日はお客が少なかった。ルイス達が来てからは一人もお客が来ないのだ。
「こんな日もあるのよ」とエリサは笑っていたが何か不自然な感じがしていた。
それでも今日も旨い料理を堪能した二人は椅子のもたれかかり満足そうにしている。
いつもと同じようにたらふく魚料理を食べ、葡萄酒を飲む。おまけにお客が少なくてエリサも手が空いているらしくカウンター越しに話も弾んだ。
「そろそろ帰るかぁ、バルサぁ…」
「そうですね〜」
夜も更けて外も静かになったころ、ひとときの安らぎに満足し帰ることにしたルイスとバルサ。
「ごちそうさま、エリサ。しかし今日は何かあったのか?」
「さぁ? でも私達も今日は早く閉めるわ。これじゃ開店休業状態だもの!」エリサはお客が少ないことなど気にもせず入り口付近でも嬉しそうにルイスとの会話を楽しんでした。
笑顔で店を出て数メートル歩いた辺りだった。何処からか「ピィー」と口笛が聞こえる。
その瞬間ルイスとバルサの酔いは一気に覚めた。いや、覚めたというよりほろ酔い気分でいるのは余りにも危険なため周囲に気を配ったのだ。
二人は一瞬目を合わせるとお互い背中を向けあい、持っていた護身用の短刀に手をかけ辺りを警戒し始める。
さっきの口笛はルイスに危険が近づいている時、ラウラが知らせてくれる合図の一つなのだ。
「ヤバイな……。バルサ!エリサの店から離れるぞ」
「ええ、捲き込んじゃいますからね」
酒場の前は店から明かりが漏れていて外にもランプが置いてあるので明るい、ここを拠点にすれば撃退しやすいがエリサを巻き込むことになってしまうため町の中心街へと向かうことにした。
外は月が出ておらず真っ暗だ、二人は今まで明るい酒場に居たため暗闇に目が慣れていない。しかもエリサの店に行くときは剣を持ってきておらず護身用の短刀のみという最悪の状況だった。
周りに人の気配は感じず波の音しか聞こえない。呼吸を整え五感を研ぎ澄まし集中するルイス。
今なら行けると思い二人が辺りを警戒しながら走り出してすぐだった、一本の矢がルイスの左腕をかすめ勢いよく転んでしまった。
「っ…!」
その瞬間剣を持った数人の男達が二人の前に立ちはだかる、そこはまだ100mも移動ておらずエリサの酒場が見える距離だった。しかも漁港近くのため街灯りはなくルイス達にとって最悪な場所で襲われてしまうこととなってしまった。
「立てるかルイス?」バルサが盾になるようにルイスの前に立つ。
「お前達何者だ!!」
「…………」バルサが叫ぶが男達は何も答えず少しづつ間合いを詰めてくるだけである。
「仕方がない、ここでやるぞ!」ルイスの顔は怒りに満ちていた、誰が送り込んだ刺客か予想がついていたからだ、何よりこの騒ぎでエリサが外へ出てきてしまったら危険だ。ルイスは「ピィ」と口笛で何処かにいるはずのラウラに合図をし一気に騒ぎを納めることにした。
しばらく睨み合いが続いたが先に動いたのは相手のほうだった。
真ん中にいる刺客の一人が短刀しか持っていないことに気がつきルイスに斬りかかる。
そのとき、何処からか小石がその刺客の顔に当てられた。
「っう!」不意をつかれたじろいた瞬間、ルイスが素早く詰め寄り喉元を斬り裂く。
正面から切り掛かったため返り血を浴びてしまったが怒りが勝り全く気にしていない、ルイスは倒した男の剣を奪うと刺客との距離を少しづつ縮めて行く。
正面にいるのはあと4人。他にも弓を射った人間が何処かにいるはずだ、辺りを警戒しながら3mほどの距離を置いてお互い様子を見合っている。
また先に動いたのは刺客達だった、左右両側にいた二人が背後に回り込もうと距離を置きながら動き始めた。
「ヤバイな…」ルイスがそう思ったとき「ピィピィー」とラウラの口笛が聞こえた。
その瞬間、屋根上から弓を射ったと思われる男が落ちてきた。ラウラが仕留めたのだ。
残りの刺客が怯んだ一瞬のすきをつきバルサが右側から回り込もうとしていた刺客に短刀で斬りかかった。
「ズェァアア!!」剣で受け止められたが動きを止める事がてきている。
それとほぼ同時にルイスが地面を蹴った。左側に回り込んできた刺客との距離を一気に詰め寄ると逆袈裟に勢いよく剣を振り上げる。
強烈な一撃だ。ルイスの一撃を受けた刺客は耐えられずに構えていた剣を弾かれてしまった。
ルイスは迷わなかった。今度は振り上げた剣をガラ空きになった刺客の両腕目掛けて振り下ろす。
刺客の叫び声が闇夜に響いた。
ルイスの素早い動きについていけず、刺客は両手を切り落とされその場で崩れ落ちるように跪いた。
間をおかずルイスはそのままの勢いで残る正面の2人に斬りかかる。
手前にいた刺客の剣とルイスの剣が交わるその瞬間ラウラは腕に付けているパチンコで小石を放った、その小石は見事に相手の右手に当たり、相手の剣はルイスによって弾き飛ばされた。すかさず相手の喉元へ剣を突き出し動きを封じると、ラウラは素早くもう一人の背後に回り込むと同時に持っていた短刀の柄で強打し気絶させた。
「ラウラ!バルサを頼む!」ルイスは取り押さえた男達を手持ちの布などで縛りながらラウラをバルサの援護に向かわせた。
全てが一瞬の出来事であった。バルサと対峙している刺客には明らかに焦りが伺える。
「バルサさ〜ん、だいじょ〜ぶで〜すか〜?」ラウラがからかうように近寄ってきたため一旦離れ距離をとる刺客。
その隙に相手を牽制しながら気絶させた刺客から奪った剣をバルサに手渡す。
「ありがとよ!でもこいつ意外と手強いぞ…」
「も〜、猪みたいな相手に正面からぶつかったらダメですよ〜」
「よ、余裕だなぁ、オイ…」
最後の刺客は大きく息を吸うと渾身の力で切りかかってきた「ふんっ! はぁっ! 」バルサは近づく事が出来ず大きく後ろに退いた、すると瞬時にラウラの方へ向きを変え切りかかっていった。
ラウラは足下に転がる石ころに目をつけ、それを男の顔面に目掛けて蹴飛ばした。男は大きく振りかぶって踏み込んでくるタイミングに合わされたため避ける事が出来ない、どんな鍛錬を積んでいたとしても正面から顔めがけて石が飛んでこれば一瞬目を閉じたり顔を背けてしまうものだ。この男も例外では無かった。
そしてラウラにとって一瞬でも目を背けた男の剣を避けるのはとても容易いことだ。
ラウラは男の懐に飛び込み剣を振り下ろしたその腕をつかんだその瞬間、男の体が宙に舞った。
「っ!?」刺客の男は状況が理解できないままその視界には星空が映った、次の瞬間地面に激しく叩きつけられ「ぅヴっ!」と言葉にならない息を吐き気を失ってしまう。
身体の小さいラウラは相手の力を利用して一本背負いのように投げ飛ばしたのだ。
「相変わらず弱いですね、バルサさんは」ラウラは笑顔でからかう様に言う。
「………」なんだか無性に腹がたったが剣術が得意ではないバルサはなにも言い返せなかった。
「ラウラ、警備の兵を呼んできてくれ!こいつらを連れて行く!尋問は後だ」ルイスはエリサに気がつかれる前にこの場を離れたかった。
しかしあれだけ暴れたのだ、夜中とはいえ徐々に周りがザワつき始めている、窓を少しだけ開けて覗き見る者、物陰から様子を伺う者、遠くから聴こえる話し声、建物からは明かりが漏れ始めている。
しかし焦るルイスを尻目に案の定エリサ達も出てきてしまった。
「何かしら?外が騒がしいけど…」エリサが外へ出ると少し離れたところに人が数人倒れていて剣を持った人間が数人立っているのがわかった。
「っ!?…」状況はすぐに理解できた、背筋が凍りつく様な嫌な感覚、鼓動が早くなっていく…しかし剣を持った人間がルイスだとわかるのにそう時間はかからなかった。
「…ぇっ!?…る、ルイス!?」慌ててルイスのもとへ駆け寄り、落ち着いて辺りを見回す。
「エリサ……」ルイスはどう説明していいかわからず視線をそらし黙っている。
状況から理解できるのは数人の男とルイス達が闘いその男達を捕えたといったところだ。
「エリサさん、すいませんが傷の手当てなんてお願いできますか?」バルサが訪ねてきた。
「っ!ルイス、怪我を…」エリサはルイスの左腕の傷に気が付き、さらに慌てる。
「あ、あぁ、大丈夫だ」ルイスは戸惑ったまま左腕をおさえた。
「エリック、セヴィ!治療箱を用意して!早く!」叫ぶエリサ。そしてルイスの手を引き店に連れて行こうとしたがここを離れようとしない。
「ルイス、ここは大丈夫だ、これだけ野次馬がいればもう手出しはしてこないだろう、後は俺が見張っている、手当てしてもらって来い」バルサはそう言うとエリサに軽く会釈をしてお願いした。
「迷惑をかけてすまない…」店に戻るとルイスはまず謝った、手当てしてもらっていること、今日、店の客が少なかったのはあいつらが人払いをしていた可能性があったこと、今はただ謝ることしか思いつかなかった。
「うん…」しかしエリサは何も聞かないでいた、いや、聞いていいものかどうか思案していたのかもしれない。
…………傷の手当をするエリサとルイスの間にしばらく無言の時間が流れる。
「…意外としっかりした薬が揃っているんだな?」時間が経ち、傷の手当てをしてもらうとルイスの気持ちも落ち着き始めた。改めて治療箱に目を向けて少し驚いた様に尋ねた。
「うん、仕事柄手を切ったり怪我や火傷も多いからね…」怪我をする事が当たり前の様に話すエリサ、手当てをしてもらっているその手をよく見ると切り傷や火傷の痕が沢山あった。
「そうか…君は頑張っているんだな…」
エリサはなぜ襲われていたのか相手が誰なのか何も聞かなかった、そしてルイスは何から話していいのかわからず、ただエリサに迷惑をかけてしまったとそれしか考えられないでいた。
「よし、これで大丈夫よ!また明日にでも傷口を消毒した方がいいわ、そんなに深い傷じゃ無かったから安心したわ」
「ああ、ありがとう」ルイスも少し安心し、治療してもらった腕をさする様に抑えながら微笑んだ。
「ルイス様!!」店のドアが勢いよく開けられ数人の兵士がルイスの周りに駆け寄ってきた。
「…へっ?」突然のことと兵士たちの慌てぶりにエリサが驚き後ずさりする。
「ルイス様お怪我をされたと!傷口をお見せください」
「いや、大丈夫だもう治療してもらった」
「いや殿下にもしもの事があったら困ります、お見せください」
「本当に大した傷じゃない、今日はいいから明日にでももう一度消毒してくれ」
「あ、あの…ルイス?この人達は…」エリサが困った様に尋ねる。
「女!殿下に向かって失礼だぞ」一人の兵士がルイスを呼び捨てにしたエリサに向かって詰め寄ってきた。
「え?……」慌てるエリサ。
「やめろ!!彼女は俺の親友だ、手当てもしてもらった」ルイスがそう言うと兵士は何も言わず不満そうにエリサを睨みながら退いた。
嫌な空気が立ち込めてきた…ここにいる全員がルイスを見ている、兵士もエリックもセヴィも、そしてエリサも…
「ふぅ〜………」少し間をおきルイスは小さな吐息を漏らした。
もう全部話すしかないのか…
ルイスは立ち上がりこの状況で何も説明しないのは無理だと感じた。
「エリサ…俺の名前はルイス・デオ・ファルネシオ」静かに口を開いたルイスの名を聞いてエリサが驚いた。
「今回、俺は海賊の討伐軍を率いてここラージュへ来たファルネシオ国第三王子のルイスだ………さっき襲ってきた連中はおそらく現領主クラウスの刺客だろう、今ラージュを再興するための意見がまとまらなくてな…ちょっともめているんだ…迷惑をかけてすまなかった、そして身分を隠していて…」そう言うとルイスはエリサの前に行き頭を下げた。
一人の町娘に王子が頭を下げている、兵士達は戸惑いざわつき始めた、もちろんエリサも信じられなかった。
ルイスが王子?
突然すぎて理解できない。
ただ呆然と立ち尽くし無意識にルイスにもらったネックレスをシャツの上から握りしめていた。
その後ルイスと兵士達は何か話をしていたがエリサの耳には何も入らなかった、カウンター奥の壁にもたれ掛かりぼんやりと店内を見ている。その姿にルイスは気がついていたがどんな言葉をかけていいのか思い浮かばない。
くそっ、最悪だ…
ルイスは騙していた様な結果になったことを悔やんだそして自分が王子として産まれたことを今日ほど嫌に思ったことはなかった。
しばらくしてルイスが外へ出るとバルサとラウラが心配そうに待っていた。
「話したのか?」ルイスが不機嫌になっていることに気が付きバルサは察しがついたらしい。
「ああ…」ルイスは一言返事をしただけで何も話そうとしない、いつも口うるさいラウラもおとなしくしていた。
騒ぎが収まり、野次馬も消え閉店した酒場にはエリサが一人だけ残っていた。カウンターの奥で一人うずくまり涙が止まらないでいた。
声を殺して一人で泣いているエリサ、この時初めて自分の中に産まれていた感情の意味をはっきりと理解した。
私…
ルイスが好きだ…