食事はみんな一緒に!
エリサはキッチンに戻ると何も言わずいきなりエレナに抱きついた。
「ひゃぁ!?………あのぅ?……エリサ…さん…」
「エレナちゃ〜ん」その顔は笑顔というよりニヤけてだらしないという方が正しい。目尻は下がり、頬は紅く全体的に力が入っておらず、ふにゃけているのだ。それも顔だけではなく身体全体が…
「………?……」何かがあったのは確かだが今までに見たことのないエリサの状態に抱きつかれたまま考え込むエレナ。とりあえず嬉しそうなことだけは理解できた。
「あのね、あのね!」
「はい」
「あのね!」
「…はい!?」
「…ィス…るいす、ルイスがね…いたの!」
「るいす?・・・・ ひぇ?……ルイスって、で、でで、で殿下がですか?」
「ぅん…」
「あれ?で、で、で殿下………ででんか……デデンカ!」聞き間違いに気がつくエレナ。「ひ、ひぁああああ〜〜…………あゎ、あ、ぁわ私…聞き間違えて……ごめんなさい…エリサさん」
「ん〜?なぁにがぁ?」
「・・・あ、いえ。で!どうだったんですか?」目の前の脱力系女子のエリサに名前の聞き間違えなどどうでもよさそうなので何か話ができたのかなど聞きたかった。
「あ、そうだ」急にシャキッとして料理を確認するエリサ。「あのね、これからルイスも一緒に朝ごはんを食べるから、材料足りるよね!?」
「・・・ぇ?………ぇええええええええええええええええ!!」
ありえない、なぜ?いきなり第3皇子ルイス殿下の朝食を用意する事になるなんて?うそ?
え?ちょっと、もしかしてこんな質素な料理を殿下にお出しするの?
「あ、エリサさん!ちょっと待って下さい、殿下の料理はもっと他のものを作った方が良いのでは?」
「え?どうして?」
「え?どうして?って、だってルイス殿下にお出しする料理ですよ!」
「うん、そうだよ。ルイスだよ〜!みんなで一緒に食べるんだ」
「…………ぁぁあ、ダメだぁ話が通じていない…」しかもそんな話をしている間にエリサが全ての料理を仕上げてしまった。
「よし!できたっと、みんなを呼んでくるね!」
「あああああぁ……しかも凄く手早い………」
食事の用意ができたので全員が食堂に集まった。カロンとルーク以外はほとんど下級の騎士達だ、王子と一緒に食事をするという名誉に皆が緊張し固くなっている。エレナは青ざめた表情を浮かべ時折小刻みに震えている、エリサだけが終始にこやかで上機嫌である。
上座にルイスとバルサが座り、その対角の一番端にエリサとエレナが座る。かなり離れてはいるがほぼ正面同士なのでその姿がはっきりと見え時折目が合うのがお互いに嬉しくて照れくさい。
あ…、もしかして私…ルイスと同じ食卓に着くのって初めてだ! くぅ〜〜、嬉しすぎるぅ!!!
エリサはルイスと目が合うたびに顔を赤らめ下を俯く、でも、またすぐに顔を上げるとルイスと目が合いまた俯く。
ルイスも目が合うたびに照れくさそうな表情を見せるのだが、エリサにとってはそれがまた嬉しくて、また視線を戻してしまう。
「では、皆揃ったな。それではみなさん頂きましょう!」エリサとルイス以外は張り詰めた空気の中、いつものようにバルサが食事の挨拶を始める。
「あれ?・・・」そんな中でエリサが隣の席が1つ空いている事に気がつき人数を確認する。誰が居ないのかなど一目瞭然、ラウラがいないのだ。「あ、あのう、ラウラさんは?」
「ラウラ様はどこか近いところで周辺の警備をしているはずです」近くにいたカルロスがすぐに答えてくれた。すると食堂の出入り口の方を見て険しい顔をするエリサ。
ルイスの側近ではあるが護衛役という特別な立場にいるため少し離れたところで周囲の警戒を怠らないのがラウラの仕事であり、それが当たり前なのだ。そして、誰もが気にせず食事を始めようとしたときエリサが立ち上がり叫んだ。
「ラーウーラーさ〜ん!!」
その場の全員がギョッとしエリサを見る。ただルイスとカロンは少し嬉しそうに微笑むが、これはありえない事だった。第3皇子の側近であるラウラを、しかも護衛の任務中にたかが料理人のエリサが呼び出そうとしているのだ。
誰もが出てくる筈がないと思い入り口を見るが、しばらく経ってもやはり出てこない。するとエリサは構わずもう一度叫んだ。
「ラウラさ〜ん!ご飯だよ〜!」それはあたかも母親が遊んでいる子供を呼ぶかのような感じでいとも自然に呼んでいる。
シンっと静まりかえった部屋の中でもう一度叫ぼうとエリサが息を吸ったそのとき静かに現れるラウラ。そして困ったような顔をしてルイスを見た。
「ああ、お前の分もあるらしいぞ席に着け!」ルイスはやれやれといった感じで苦笑いを浮かべたあと、また嬉しそうに微笑む。
ルイスの言葉を意外に思い目を丸くするラウラ、するとテーブルの一番奥でエリサが手招きをしているので奥へと進む。
「ラウラさんの分もあるよ、はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます…」そのままバツが悪そうにエリサの隣に座るラウラだが、その隣にいるフールが怯えている。それに気が付き無視しようと思ったものの「別に、何もしないわよ…」と少し恥ずかしそうにラウラが一言だけ言った。
「ご飯はね、作りたてをみんなで一緒に食べるのが一番美味しいんだよ!」
「はぁ…」
「それにね、朝ご飯はちゃんと食べないと1日元気が出ないんだよ!」
「………」ファルネシオ国に来て約5年、他の兵士はおろか他の王族すらルイス以外の人間とは距離を置いていた。明るい性格ではあるが軽口を叩き遠慮のない言葉を口にすることも多いため、あえて近寄る人間が少ないのも原因でもある。
「・・・いただきます…」