食事は一緒に!
ルイスが振り向きエリサと目が合うと誰もが息を飲み、応接間は静寂な空気に包まれる。
ただ、湿った生温い風が二人の間を吹き抜けるだけだ。
そして信じられないといった顔をしたままルイスが口を開いた「エ、リサ?」
その声を聞いて嬉しそうに、でも今にも泣きそうな顔をして「…うん」と一言だけ答えるエリサ。
そんな二人をバルサ、ラウラ、カロンの三人がニヤニヤと面白そうに見ている。その三人にルイスが気がつくと、すぐさま振り向きバルサの頭を思いっきり叩いた。「ガッ」と鈍い音とともに「イテッ!」と当たり前の反応を見せるバルサ。
「いきなり何するんだよルイス!」
「……夢じゃないんだな?」殴った拳が痛いことを確かめるように自分の手をみつめるルイス。
「ん?ああ、本物だ。ったくホントに痛え……人の頭で試すなって」
「くすっ…はは、あははは!………ほんとうに、本当にルイスなんだね!」突然の再会に混乱はしたがバルサとルイスの子供のようなやり取りが懐かしくて、我に返ったエリサは涙目のまま笑い始める。
今、自分の目の前にルイスがいる、ルイスの声が近くで聞こえる、その声が、その驚いた顔も、私の笑い声につられて笑っているその顔も、全てがこのジメジメした空気を吹き飛ばし色鮮やかな世界を連れてきてくれる。
「ははっ…」少し照れた顔を見せるルイスだが直ぐに険しい顔をする。
「もしかしてお前ら3人ともグルだったのか?」
「うっ…」カロンの顔がひきつる。
「ぁ…」ヤバイと思い逃げようとするラウラ。
「ゴンっ!」「ボフッ」ラウラにはゲンコツ、カロンにはボディブローを軽く当ててスッキリするルイス。
そして申し訳なさそうに反省するバルサ、ラウラ、カロンの3人。
「いやぁ、お前を驚かしてやろうかと思ってな!」叩かれた頭を押さえながらバルサは変わらず悪戯っ子のように笑う。
そう言うバルサを睨むように見るルイスだったが、内心は嬉しくもあり、照れ臭くもあり、無事にたどり着いてくれた安堵と様々な感情が入り乱れ、時折エリサを見ては赤くなり、バルサを見てはお礼を言いたいような、怒りたいような気持ちになる。そんな気持ちを隠すようにちょっとだけ呆れたように話す。
「しかしお前、もしもの事があったらどうするんだ?まったく!」
「あ、大丈夫だよルイス!何も無かったし、とても楽しかった。バルサさんのお陰でここまで来れたんだよ」そんなルイスを見てエリサが口を挟む。何よりルイスと話がしたいのだ。
「一応なルイス、なるべくカロンにはエリサさんの側に居るようにお願いしておいたんだ。カロンがいれば何があっても安全だろう?」言い訳のように話すバルサ。
バルサの言葉を聞いて道中でのカロンの行動の意味がやっと理解でき納得するエリサ。
……あぁ、そういう事だったんだ、買い物のときいつも馬車を出してくれるのはカロンさんだったし、何かあると近くに居たのはそういう事だったんだ…
しかし、まだ何か腑に落ちない表情を見せるルイス。「エリサ、ほんとうに危ない目に遭わなかったかい?」
「うん、本当に大丈夫だよ」
「……わかった」
「くすっ、でもカロンさんもグルだったとは思いませんでした」そう言いながらもカロンが意外とイタズラ好きなところはわかっていたので軽く笑って流すように話すエリサ。
「いやぁ、面目ない…」
「いや、ちょっと待て、お前らもしかして、毎日エリサの料理を食べていたのか?」
まさかという表情を見せるルイスに対してニヤリとする3人
「ああ!」当たり前だろうという表情のバルサ?
「はい〜」いつものように目を細めて笑顔のカロン。
「あぁぁ、昨日食べたパスタは最高でしたね〜」天井を見上げ幸せそうな表情のラウラ。
「なっ!ラウラまで?……」
ルイスが驚いたので、すかさず追い打ちをかけるように笑みを浮かべて続けるラウラ。
「くすっ、ハーブティーも最高に美味しかったですよ!ねぇエリサさん」
「え?いや、あ、ありが…とう…」急に振られたので思わずお礼を言うエリサ。
「ああ、ショックだ…まさか他の兵士たちも毎日食べていたのか?」
「ああ、当たり前だろう」とバルサ。
「くすくすっ、いつも一人で美味しいものを食べていた罰ですよぉ〜」ラウラが満面の笑みで嬉しそうにルイスを揶揄う、それもとても楽しそうだ。
「なにぃ〜!」
「ヒィ〜エリサさん助けて〜」すかさずエリサの後ろに隠れるラウラ。
「きゃぁ、あ、ちょっとラウラさん?」
本当に楽しそうにしているラウラを驚いたように見るカロン。
ラウラさんのこんな顔を見るのは初めてだ、いつも献身的に殿下へ仕える反面、殿下以外の人間とは距離を取っていたのに…
そして今度は不思議そうにエリサを見た。
「あぁ、もう!」エリサが振り向きラウラを羽交い締めのように抱きしめ捕まえる。普通なら素人のエリサの動きなど簡単に避けれる筈なのにいとも簡単に捕まってしまう。その場にいるエリサ以外はその不自然な出来事に驚いた。「ラウラさん、昨日ルイスに報告をしに行った時に私がいるってどうして話してくれなかったんですか?」そして完全に油断をして捕まったラウラも驚いていてキョトンとしているのだ。
「あ、え?あ、ああっ!だってその方が面白いじゃないですか」抱きしめられたまま子供のように大人しくしているラウラ。
「もぉぅ………でも、ありがとうございます!」ラウラをそっと放すと、改めて頭を下げるエリサ。「お陰でこんな私がバリエに来る事が出来ました、そして、そして…ルイスに…また、会えました…」瞳を潤ませながら 何度もお礼をいうエリサ。
嬉しそうなエリサを見れて、皆がとりあえず良かったと安堵をしたところでバルサが口を開いた。
「なぁルイス、このまま朝飯を食べて行けよ!エリサさん人数増えても平気かい?」
「はい、もちろん!」エリサはものすごく嬉しそうに返事をした。今までに見た事がないような幸せそうな笑顔と一緒に。
そしてルイスは少し照れた様子でぶっきらぼうに返事をした。「当たり前だろう!食べる!!」