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酒場のエリサ  作者: smile
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戸惑い

 

陽気な音楽と楽しそうな声がが遠くから聴こえ、街中は賑やかで穏やかな空気に包まれていた。

そんな街中の傍でルイスとエリサは顔を赤らめ、アンネとバルサはそれを優しく見守っていた。

全員が幸せそうな顔をしている、自由になった喜びを街の全ての人達が感じている。おかげで毎日がお祭り騒ぎだ。


 そんな祭りのように賑やかな街の中を、慌てた様子で一人の兵士が走ってきたかと思うとルイスの前で膝まずいた。


「ルイス様、街外れの廃墟に海賊の残党が隠れている模様、急ぎご指示を」その兵士の言葉は大きくハッキリとした口調で、そして少し早口だった。


 賑やかな街の中で膝まずく兵士は余りにも不自然で周りの人達が気にし始めている。

「ゎわっお前街中で…」周囲の視線に気がつきバルサが急いで兵士を立たせようとする。


「そんな事を言っている場合ではないのだ」兵士は焦っているようで少しムッとなる。


「今、海賊…って…」エリサは『海賊』という言葉をハッキリと聞いた。

 その言葉は外へ出るだけでも危険だった日々をエリサに思い出させるには十分だった。その瞬間エリサの頭の中を恐ろしい日々が一気に駆け巡ったのだ。

 酒場という場所柄、海賊達と顔をあわせることも少なくなかったため何度も何度も海賊には恐ろしい思いをさせられた、幸せな気持ちが一転し、急に身体中の血の気が引いていくのがわかり小刻みに身体が震えてきた。

海賊がまた現れた…そう思うと急に恐ろしく不安な気持ちに襲われ何も考えることができない。


ルイスは怯えるエリサに気が付き優しく微笑む。「大丈夫、この町は俺たちが守るから」小さな声だったがハッキリと優しい声だ。そう言うとルイスはその兵士と共に足早に行ってしまった。


 バルサは慌てて、また夜になったら店に行くとエリサに告げ、後を追いかけた。


 さっきまでの幸せが嘘のようだった、普段何かあっても気丈に振舞っていたが急な事情に気持ちがついていけず不安な気持ちが募るエリサ。そして今は行ってしまったルイスの事も気になる。


 もしまた争いが起きたら………そう思うと急に頭の中が真っ白になり今は何も考えれない。


 エリサはついさっき首に掛けてもらったネックレスを祈るように両手で握りしめ小刻みに震える身体を抑えることができないでいた。


 アンネは何も言わず震えるエリサの肩を優しく抱きしめると少し間を置いてから「………きっと大丈夫、夜お店に行くって言ってたからちゃんと準備して待ってないと!」優しく囁くようにアンネは言った。

 しかし頭ではわかっていても中々身体は言う事をきいてくれないものだ、両手でネックレスを握りしめたまま何度も何度も深呼吸を繰り返し落ちこうとするエリサ。


このまま平和な日々が送れると喜んでいた矢先の出来事だけになかなか落ち着くことができないエリサ。

 ………しばらくすると街の賑わいが耳に入るようになり少しずつ身体に力が入るのを感じてくる。まだ公にはなっていないようで周りのお祭り騒ぎは続いている。

「も、もう大丈夫です…もう…、そろそろ店に戻ります…今日はありがとうございましたアンネさん」なんとか笑顔を見せエリサは一人走り出した。


 アンネの頭に不安がよぎる、呼びに来た兵士はルイスの事をルイス様と呼んでいた、今まで気にしていなかったがルイスという名前に聞き覚えがあったからだ。

「まさか…あり得ないと思うけど…」アンネは走るエリサの後ろ姿を不安そうに見送るしかできなかった。


 一旦家に戻りいつものように髪を後ろに束ね上げ、ズボンにベージュのシャツに着替える、着替える時にネックレスを外そうとしたが少し考えそのままシャツの中にしまった。帽子とエプロンは手に持ち自分の店へと向かうが足取りは重い。

 店に着くとエリックとセヴィの二人はそつなく準備を終わらせてくれていたのでいつも通りに開店できそうだ。そう思いホッと一息つき安心するのも束の間どうしても胸のザワつきが治らないでいた。

「どうしよう、もう開店する時間なのに落ち着かない…」

 陽が傾き始めお客が入り始める頃合いになってもまだ開店できないでいた、エリックとセヴィは静かで無口なエリサを不安そうに見ている。しかし気の利いた言葉の一つもかけれず開店するのを静かに待っている状態がしばらく続く。


陽が落ち始める頃になってもエリサは「心ここにあらず」といった様子でシャツの胸の辺りを掴んでカウンターに座ったままでいる。


「オーナーそろそろ開店を…」エリックは待ちきれなくなり伺うように問いかけた。


「…う、うん…そうだね…開けないと、うん開けましょう…」今は店を開けないといけない、ただそんな使命感のような気持ちだけだったが自分に気持ちを入れるため「お願いします!」と虚勢をはるように少し大きな声を出した。


 今日もエリサの酒場は順調に繁盛している、忙しいとなんとなく気持ちも紛れるものでただひたすらに何も考えず料理を作っていた。


 陽も完全に沈み、いつもならルイスとバルサが来る時間なのに今日は来ていない。

 ルイスの事を思い出すたび深呼吸をして気持ちを落ち着かせようとするエリサ。そんな光景をエリックとセヴィラックは何度も目にしている

「なぁセヴィ、オーナー調子悪いのかな?」

「いや、なんだか思い詰めた様子だし……街で何かあったのかな?」

不安に思いながらもいつも通りに振る舞うことしかできず逆にぎこちない空気がたちこめていた。


エリサの酒場は連日大繁盛だ、しかしこの日は結局ルイス達は来ないまま閉店を迎えようとしていた。

 

エリサはいつも以上に疲れた気がしていた、しかし、もしかしたらルイス達が来るかもしれないと思いいつもより遅くまで店を開けていた。


 お客も居なくなりそろそろ店じまいかなと思っていたとき見慣れない一人の男性が入ってきた。その手には何故か鍋を持っている。何やら不審な男だったのでエリックとセヴィに目配せをし男の方へ向かわせた。


「すいません、エリサさんはいらっしゃいますか?」男はハッキリとした口調でしかも礼儀正しくエリサを呼んだ。とても姿勢正しく入り口のところに立ち止まり、そのまま待っている。


「なんだろう…」エリサはその男に見覚えが無い、しかしこんな時に怯えていたら酒場の店主など勤まらない、今日は厄日か?そんな事を考えながら背筋を伸ばし胸を張り、男から目をそらさずゆっくりと入り口の方へ歩いた。

「私がここのオーナーのエリサです。どのようなご用件でしょうか?」エリックの少し後ろで立ち止まり少し大きめの声を出した。嫌な緊張感だ、背中に変な汗が流れるのがわかった。


「よかった! あなたがエリサさんですか、あの…料理をこれに作っていただきたいのです」男は安心したそうにホッと一息つき持っていた鍋をエリサに見せた。


「…?」3人とも面を食らってしまい何が何だかわからなかった。ただこの人は料理を持って帰りたいのだという事だけは理解できる。


「私はアレフと言います、ルイス様の使いでやってまいりました」突然の事に戸惑い唖然としているとルイスは今日忙しくて外へ出ることができず、どうしてもエリサの料理が食べたいためこの男に頼んだのだそうだ。

 

エリサは驚き男の前に駆け寄った。


「ルイスは無事なんでしょうか?」慌てるエリサに驚きながらもアレフは冷静にルイスもバルサも無事で怪我一つしていないと答えた、ただ本当に忙しくて外へ出れないだけらしい。


 「よかった………」力が抜けたように息を一つ吐くとエリサの顔には笑顔が戻っていた。


 頼まれた料理はこの前食べた「魚貝と野菜の煮込み」だったが残っている材料を見て他にも出来る料理を作ってアレフに渡すことにした。


 アレフが持ってきた鍋は一つだったので店の食器に入れてそのまま渡してやった、割れてしまってもいいと思った、今日もルイスに料理を食べてもらえる、何より無事なことがわかっただけでも嬉しかったのだ。


 気を病んでいたエリックとセヴィも一安心していた、今日は仕込みなど開店準備から任されていた為ヘトヘトになっていたが最後にオーナーのエリサが笑顔になったので疲れも吹き飛んだようだ。

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