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酒場のエリサ  作者: smile
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ジェノベーゼを作ろう


くんくん!「うん、バジルのいい匂い」荷馬車の中に漂うバジルの香りを嗅ぎ幸せそうな表情を見せるラウラ。時折口の中に溜まる生唾を飲み込むのがエリサにもわかるくらいだ。


そんなラウラの目の前ではエレナがバジルとニンニクをオイルと一緒にすり潰してペースト状にしている。すでにニンニクは臭みを抜くために数回茹でてあり、バジルも色が黒く変色しないために一度茹でてあった。


「でもエリサさん、いつの間に用意していたんですか?」


「あぁ、これ?時間があったから朝食の時に茹でておいたの!」


「へぇ、さすがですね。私は全く気がつきませんでした」


「エレナちゃんには食器の片付けをお願いしていたからね」


「あ、そろそろどうでしょうか?どれくらいまですり潰したらいいものか…」


「うん、そのまま、もう少し滑らかになるまですり潰して!」エリサが様子を見ながらペティナイフを使ってインゲンのヘタとスジを取っている、それも揺れる馬車の中でとても器用に。それを感心するような目で見るラウラ。

「あ、それくらいで良いわよ。あとは塩で味をつけておいて」


「は、はい…」エレナが急に緊張した顔をする。それはこの味付けで出来上がりの味がほとんど決まってしまうからだ。エリサの作るバジルソースはバジルとニンニクだけで作るとてもシンプルなものなので誤魔化しが難しい。しかもバジルの香りを活かすためにオイルはオリーブオイルではなく普通のオイルを使っているのでなおさらだ。

そんなエレナに気がついたエリサだったが何も言わずに作業を続けている、あまりにもひどい味になっていなければ修正する自信があるからだ。ここはあえてエレナに作らせようと思っていた。


「あ、あ、あ〜〜。私も味見したい!」出来上がったソースを見てラウラが近寄ってきた。


「じゃぁ…一緒に味見しましょうか」


3人で同時に味見をするとエレナはよくわからないような顔をした、その隣ではラウラが目を細め何か言いたそうな顔をしたがすぐに我慢できずに声を出した「うぅ〜〜なんかしょっぱい〜」


「うん、ちょっと塩っぱいかな」エリサもそう言うとエレナの顔を見て『でも大丈夫』というかのように優しく微笑む。


「あぁ、すいません」


「大丈夫だよ!まだバジルとニンニクはあるからもう少しすり潰して足せば良いから!」


「あ、はい」


「あ、それとニンニクをもう少し入れたほうが良いかな」


「はい!」


すり潰したバジルの香りは荷馬車の中いっぱいに広がる。さらに荷馬車の後ろを馬に乗って進む兵士達にもその香りが届き、その爽やかな香りを嗅いだ兵士達は昼食が待ち遠しくなる。




今日は朝から時間を取られてしまったため予定より遅れていた、しかし空腹はいつもと変わらず同じ時刻に襲ってくる。しかもサウナのような蒸し暑さが体力を容赦なく奪っていく。

ラット川沿いに進む道の途中で少し開けた河原が見えてくると、そこで昼食をとることになった。


先ほどルークからの伝言があり「予定より遅れてしまっているのであまり昼食に時間を取れません、できるだけ早めにお願いします」とのことだ。


馬車が止まるとエリサ達は急いで河原へ向かい火を起こす。この炎天下では火起こしの作業はかなりキツイ。

額からにじむ汗は頬をつたいポタポタと止めどなく流れ落ちる、そんなエリサが火を起こしている間に食材や食器を運ぶエレナ、ついでに暇そうにしていたのでラウラさんにも運ぶのを手伝ってもらった。


「お、おい…あのラウラ様がエリサさんの手伝いをしているぞ!」

「げ、しかもエリサさんがラウラ様に何か指示を出していないか?」

「あ、ああ…エリサさんって何者だ?」

「俺、ラウラ様が殿下以外の命令をきいているところを始めて見ました」


少し離れた所で兵士達が不思議そうにエリサ達を見ているがさすがに話し声までは届かない。


「あ、ラウラさんその鍋に水を汲んできてもらえます?」


「は〜い」


「エレナちゃんちょっと変わってもらえるかな?」


「はい」


すでにソースを作っておいたためお湯さえ沸けば直ぐに作れる。


沸騰したお湯に約3%の塩を入れてパスタを茹でる。そのお湯で一緒にインゲンとサイコロ状に切ったジャガイモも茹でる。


茹でている間、サラダの代わりにトマトとキュウリをザク切りにしてエリサの特製ドレッシングで和える。

トマトとキュウリは身体を冷やしてくれるので今日のような暑い日にはちょうど良い。


皆、パンも食べるので、すり潰したニンニクとオリーブオイルを塗って焼き網で軽く炙る、ニンニクは暑さで消耗した体力を回復させるのにはちょうど良く、しかも焼けて香ばしい匂いが食欲をそそる。


あとは簡単だ、茹で上がったパスタとインゲン、ジャガイモをバジルのソースで和えれば完成だ!


「おお〜〜!」隣では手際よく料理を作るエリサとエレナの動きをラウラが何かの芸でも見るかのように目を輝かせていた。


「ラウラさん、お皿をとってもらえる?」


「ん? はい」


「ありがとう」エリサがそのお皿にパスタを盛り付けエレナに渡すとチーズを少しふりかけ、和えておいたトマトとキュウリとパンを添える。


急に暑くなった気候のせいで疲れ気味の兵士達も、このバジルの爽やかな香りとニンニクの香ばしい香りに期待の眼差しをエリサ達に向ける。



「よし、みんなを呼ぼう!」時間が無いせいか、皆、見えるところにいてくれたので大きな声を出さなくても直ぐに集まってくれた。しかし出来上がった料理を渡していくとなぜか遠慮しがちに受け取る人が多い。

「あれ?」どうしたんだろう?いつもなら我先に料理を取りに来るのに…


不思議に思ったがそれは直ぐに理解できた、エリサの隣にいるラウラさんに恐縮しているみたいだ。たまに「ラウラ様、お先に頂きます」なんて言いながら受け取る兵士がいるので間違いなさそうだ。


そういえばラウラさんって偉いんだっけ?…そう思いラウラに目をやるがあまりにも偉そうに感じないので気にするのを止めた。


最後に私達3人の分を盛り付けラウラさんにも手渡す。


「はい、ラウラさん!手伝ってくれて有難うございました」


「おお!!良い匂い〜」エリサのお礼の言葉など無視するかのように渡された料理に目を輝かせるラウラ。そして我慢の限界と言わんばかりに、すぐさま食べ始めた。

「はむ、あむ……あぁ……幸せ〜」


口いっぱいに頬張りながら美味しそうに食べるラウラを見て嬉しく思うと同時にホッとするエリサ。

(なんか期待されていたけど大丈夫みたい、よかった)

「あ、ラウラさん、口の周りが緑色になっているわよ」そう言うとエリサがラウラの口の周りを拭くと同時に周りの兵士達に緊張が走る。


「あ…」

「げっ?」

「あれはやばいだろう?」



「ん、ありがと」しかし何事もなくラウラはまた食べ始める。


バルサとカロン以外の兵士が食べるのを止めてエリサとラウラを見ている。その嫌な空気と静けさに気がつき不思議に思うエリサ。

「あ、あのー…今日は口に合わなかったかしら?」


「い、いや、いえ、そ、そ、そんなことは!」

「き、今日も、すすごくおい、おいしいです!」

「な、なあ?」

「あ、はい!」


「……」兵士達の反応があまり良くないので落ち込むエリサ。


……野菜しか無いから男性には少し物足りなかったかなぁ?…はぁ……生ハムでも乗せれば良かったのかな?……美味しくできたと思ったんだけど…


気がつくとラウラはすでに完食していて満足そうにしている、その姿だけが唯一の救いだった。


「ところでエリサさん?」


「え?はい」


「エリサさんはあそこのキツネ目のやつが苦手なんですか?」ラウラが近寄り、小声で耳打ちをしてきた。


「ひぇ?ひ、い、いや…あの…」


「やっぱりですね!?」


「どうしてわかるんですか」エリサも小声で耳打ちをする。


「ん〜〜? 今朝、ハーブティーを飲んでいる時の態度を見ればなんとなく」エリサは口を半開きで唖然としているがそのまま気にせず続けるラウラ「あいつには私の馬を預けているからしばらくは手が離せない筈なので安心してくださいね」笑顔のままエリサの耳元でそう囁くラウラに驚いて声も出なかった。





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