もうすぐ出発
ハーブティーを飲んだラウラは全てを満たされたような満面の笑みを浮かべ、エリサの近くで静かにしている。
さっきまでの騒動がまるで嘘のように平和で穏やかな空気が漂う。
「ただいま戻りました!!」後ろの方で大きな声が聞こえたので振り返るとアルミン、フール、アレンの3人が馬車の車輪を担いで戻ってきた。どうやら同じ大きさの車輪を譲ってもらえたようだ。
「……」あまりアルミンとは関わり合いたくないのですぐに見るのを止めてハーブティーを飲むエリサ。
しかしこの暑い中、ベルニの村まで戻って大変だっただろう、まぁこっちはもっと大変だったが……。
しかしそれはそれとして、3人にもハーブティーを飲ませてあげないと不公平だよな…
「はぁ…仕方ない……」小さくため息をつき振り返ろうとしたちょうどそのとき、3人がエリサの近くを通り過ぎようとしていたので声をかけることにした。
「あ、お疲れ様でした。ちょうどハーブティーを淹れたんですけどどうですか?」エリサは自然体で接しようと思えば思うほど変に緊張してしまいなんとなくぎこちなくなってしまう。
「やった!いただきます」真っ先にアランが駆け寄ってきた。
「おお、ありがとうございます!」フールも嬉しそうにやってきた。
「ぜひ!頂きます」アルミンはエリサを見ると『ニヤリ』と口元を上げ姿勢良く胸をはった。やっぱりアルミンも来た。
アルミンの態度にエリサの顔が少し強張ったとほぼ同時だった、目の前にいるラウラに気がつく3人。
「ん?……」
「ぅわあ!」
「え、ぇえ?」
「ラウラ様ですか?」アルミンが何故という顔をして尋ねる。
「ん〜? だからなに?」3人のその反応が気に入らなかったのか、どうかはわからないが、何故か無愛想で3人を睨むように見るラウラ「せっかく美味しいハーブティーを飲んでいるんだから邪魔しないで」さらに無愛想で突き放すように言うとまた自分の世界に入っていった。
「おい行こうぜ!」小声でアランが言うとフールとアルミンは無言で頷き離れていった。
「ふぅ……」なんだかわからないけど良かった。エリサはそう思いラウラを見ると何故か夢見心地な笑顔を浮かべている。
「??…」やっぱり変な人かな?……
「……」エリサは湯を沸かしていた火を消しながらラウラに目をやると何事も無かったように静かにハーブティーを飲んでいる(……ぅぅ…なんだか気まずい……会話も何も無いし…そもそも何を考えているのかがわからない……それに…)
「あ!」ラウラが突然何かを思い出したように顔を上げるとエリサの顔を『じぃ…』っと見つめた。エリサがその視線に気がつくが思わず視線をそらしてしまう。
「ところで…アンネさんは変わりないですか?」
「へ?」ラウラの唐突な質問にエリサは理解できなかった。何故さっきからアンネさんを気にするのか理由が見当たらない、確かにディベスでは意気投合をしてはいたけど……
不思議に思いながらもエリサは「は、はい!」と一言答えるとラウラは「そう、良かった!」とまた何事もなかったかのようにまたハーティーを美味しそうに飲み始めた。
「あ、あの…どうしてアンネさんを?」
「ん〜……ちょっと約束したから!」エリサの問いに少し考えたがラウラは笑顔でそう答えた。
約束という言葉が気になり尋ねようとしたもののハーブティーのお代わりを求めて兵士達がひっきりなしにやってくる。しかしラウラが側にいるせいかお代わりを受け取るとそそくさと離れていく。
それでも以外と忙しく尋ねるタイミングを逃してしまい時間だけが過ぎていく。何か不思議な人だ…
「あ、エリサさ〜ん、そろそろ出発できそうなので準備しておいてくださぁい」しばらくすると馬車が無事に直ったとカロンが言いに来た。
「ラウラさんはどうしますかぁ?」
「ん〜、私はエリサさんと一緒の馬車に乗る!」ラウラがまた笑顔でカロンに答えた。
「…へ?」エリサが何故?という顔をする。
「はい〜、じゃあエリサさん、ラウラさんをよろしくお願いしますねぇ」
「へ?」
「じゃぁ馬車に行きましょう!エリサさん!」ラウラが急に楽しげな表情に変わり、エリサの手を取り馬車へと歩き始めた。
「え?あ、ちょっと…」淹れていたハーブティーが、まだそのままなのでエレナが慌てて片ずけをして後を追う。
え?なんなの?この人…
ラウラに手を引かれるエリサを近くにいたアルミンとフールが不思議そうに見ていると突然ラウラが立ち止まる。
「あ、そこのキツネ目!」
「は、はい」
「この先に私の馬が繋いであるからバリエまで連れて行って!」
「はい!!了解しました!」