で?
何故かこのラウラという変な女性に詰め寄られて、どうして良いか悩むエリサ。しかも周りの視線とヒソヒソと話す声がその場の居心地を悪くする。
「いやぁ……ぁはは……」とりあえず笑ってみたがその場の空気は変わりそうもない。
えっと……どうしよう…何から話したら良いのかな?…愛人っていう誤解?…いや…その前にこのラウラって人に何をしているのかって聞かれたような………いやいやそれよりエレナちゃんが…
エリサが振り返り荷馬車を見ると毛布に包まったままエレナがこっちを見ている。
大丈夫そうかな?………でも、なんだかエレナちゃんにも見られているような……
「で? どうしてここに居るんですか? ディベスで何かあったんですか?」さらにラウラはエリサに近寄る。しかも小柄なためどうしても上目遣いになってしまうのだがこれがまた威圧感がある。
「え?…ディベスは関係ないけど…あのぉ、バルサさんがバリエへ行っている間の料理人として雇ってもらって…」エリサがそう言うとラウラは急に振り向きバルサのところへ駆け寄る。
離れてくれたので安心し、ため息とは違う安堵の息を大きく吐いた。
「ふ〜ん…料理人として…ねぇ?……」今度はバルサを上目遣いに睨み詰め寄る。
「いや…ほらエリサさんの料理は旨いだろう?それに………」言葉に詰まるバルサ。
「それに?」さらに詰め寄るラウラ。
「いや…それに……ルイスを驚かせてやろうかなぁと…」項垂れながら申し訳なさそうに本音が出てしまうバルサ。
「ん〜〜?……」そのままの状態で思案するラウラ。そして振り返りエリサを見るとまたバルサの顔を見上げる「それだけ?」
「え?…あ、ああ」
「ディベスやエリサさんと一緒にいたアンネさん達に何かあった訳じゃないの?」
「?…アンネさんは関係ないぞ!」
「………なぁ〜んだ……」ラウラは何か勘違いをしていたらしく安心した趣で改めてエリサを見る。
ふ〜ん…なるほど…エリサさんをバリエに連れてきてルイス様を驚かせようってことね………………ぇ……………え?…………それって…………めちゃくちゃ面白そう!!
ラウラはまた振り返りバルサの顔を見上げるとニンマリと笑い親指を立てて言った。
「グッジョブ!!」
「そうと決まればバリエに急ぎましょう!」ラウラは何やら新しいオモチャを見つけた子供のようにはしゃぎ始めた。
しかし誰もが困った顔をして動こうとしない。
「ん?どうしたの?」ラウラは不思議そうに周りを見る。
「馬車がまだ治っていないんですよぉ〜」カロンが笑顔で応える。
「ぶー」頬を膨らませてつまらなそうにするとエリサが沸かしていた湯の方へ歩いていくのが目に入った。
『たったった!』と子供のような走り方で、すかさずエリサの方へ駆け寄るラウラ。
「何しているんですか?」
「あはは…さっきハーブティーを淹れていたんだけど、少し冷めてきちゃったかな…」
「あーあーあーーーっ!!」ラウラは目を丸くして前に乗り出して来た「それー! わたしも飲みたい!」
「え?…あぁ…それじゃぁ…」ラウラの子供のように自由に動き回る性格に戸惑うが、それよりもこの人と仲良くしていると『愛人説』がより強くなっていくような気がして恐ろしくも感じていた。すでにこの状況を数人の兵士が不思議そうに見ている。
はぁ、しかし何をどう説明したらいいの?…
エリサは上手く説明する自信もないので、とりあえずハーブティーを淹れることにした。
まぁそのうちほとぼりも冷めるだろう……
「はい、えっと…ラウラさん…でしたよね」まず先に、何故か一番飲みたそうにしているラウラに手渡した。
「あ、あ、あ!! ん〜〜〜………これ!この香り、これってディベスでアンネさんが淹れてくれたのと同じですよね!」ラウラは香りを嗅ぐと、とても嬉しそうに飲み始めた。
その言葉を聞いてディベスのことを思い出したエリサ。
あ、そう言えばディベスで会ったとき、何故かアンネさんと意気投合していたような…たしか一緒にお茶を飲んでいたような気も……あれ!?…もしかしたら、さっきはディベスやアンネさんのことが気になって詰め寄ってきたのかな?…心配?してくれたの??…かな……。
「ぁ〜、あのときと同じかわからないけどレモングラスにミントを少し入れる飲み方はアンネさんに教えてもらったのよ」
「うん、うん、これがまた飲みたかったんですよ! バリエじゃハーブは売っていても美味しいハーブティーが飲めるお店が無くて!」
「ぁ………」ハーブティー一杯でものすごく幸せそうな顔をするものだと思わずラウラの顔を見入ってしまったが、こんなに嬉しそうに飲んでくれるとは思っていなかった。
この人の性格ってルイス達のように裏表のないところが似ているのかな?……『変な人⇨素直な人』となんとなく見方も変わってきた。そう思うと彼女の態度もあまり気分の悪くないものだと感じ、なんだか心が和らいできて、なんとなく変な噂のことも気にならなくなってきた。
しばらくするとエレナちゃんも落ち着きを取り戻したようなので手伝ってもらいハーブティーを配ることができた、やっと慌ただしい朝が静かになり始める。あとは馬車が治るのを待つだけだ。
「あ、そうだこれハーブティーのお礼にどうぞ!」ラウラはそう言うと胸につけていたクワガタをエリサの肩に乗せた。
「ひっ!…ひひゃぁぁああああ」その瞬間エリサの声が辺り一面に響き渡る。
少しこの先が不安になるような1日がまだ始まったばかりだ。