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酒場のエリサ  作者: smile
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味方でしたぁ〜

それは一瞬の出来事だった。エリサがいつものようにハーブティーを淹れていた時に突然起こった事件だ。

まさかこんなところで兵の中でも一二を争うと言われているカロンの剣の腕前を見る事になるとは思ってもいなかった。


カロンが林の茂みに突入するとすぐに他の兵士も駆けつけ、カルロスが的確に指示を出している。おそらくカロンに耳打ちされた時に作戦のようなものを聞いていたのだろう。私達もすぐさま荷馬車の中に避難させてもらい身を低くして荷物の中に隠れた。


訳もわからないまま恐怖だけが容赦なく襲いかかってくる。クラウスの反乱もつい最近の出来事だ、まだ記憶に新しくその時の恐怖も、それまでの海賊の恐怖も、ほんの少しのきっかけがあれば思い出すことは容易すぎるのだ。突然の出来事にエレナは怯え、声も出せずに震えている。

林の中に怪しい人間が隠れていた。それだけでエリサ達が恐怖に怯え、兵士達が怪しみ警戒するには十分すぎる内容だ。


「大丈夫!」エリサは小声でそう言うと怯えて震えているエレナの手を握りしめた。しかしこの言葉は自分に言い聞かせているようなところもある。

不思議なもので少し前の自分はエレナと同じか、もっとひどく怯えていたような気がする。多分、今は目の前にエレナちゃんのような年下で妹のような後輩がいるからだろう、自分がしっかりしないといけないんだと無意識に感じているのかもしれない。

ただ、ひたすらにエレナちゃんを守ることしか頭には浮かんでこなかった。



私達が荷馬車に隠れると同時に全ての兵士達が馬車の周りに集まっていた。ジリジリと焼けるような陽射しの中、辺りは静けさに包まれ嫌な緊張感が走る。聴こえるのは風の音とセミの声だけだ。

その時、茂みの方から女性の叫ぶ声が聞こえエリサとエレナは『ビクッ』と全身で驚き息を呑む。

「な、なに?」エリサが顔だけ持ち上げ耳を澄ます。

「う〜………」エレナはさらにその声に怯えて縮こまってしまう。


……………◇◇………………



他の兵士達は剣を構えながら茂みの方へ少しづつにじり寄っていく。その後ろでは数人の兵士が弓を引きいつでも援護できるように矢先を茂みに向けている。さらにその後ろでバルサが周辺へ気を配りながら様子を伺う。


あと少しでバリエに着くため緊張感の薄れてきたところだった。今回の旅の中で一番嫌な空気が辺りに漂う。


全員が暑さも気にせず目の前の見えない何かに集中している中、茂みから剣を納めノンビリと出てくるカロン。


「いやぁ〜、すいませ〜ん…味方でしたぁ!」出てきたカロンが頭を掻きながらいつもの調子で歩いてきた。


その言葉の意味が理解できず、武器を構えたまま誰も動こうとしない。理解できないというより信じられないのかもしれない、確かに剣を交える音が数回聞こえ、その後女性の叫ぶような声が聞こえた。この状況だけで判断するには不自然なことが多いのだ。


しかしその疑問はすぐに解決する。カロンの後ろからバツの悪そうな顔でラウラが出てきたからだ。

バルサと同じくルイスの側近であるラウラの顔を知らない兵士は一人もいない。その場にいた全ての兵士は自分の目を疑ったのだ。


「え?」

「……?」

「………おい、あれって?」

「そう…だよな?」

「どういうことだ?」


その場が急に騒つく、一番前にいたカルロスが剣を鞘に収めると他の兵士達も剣と弓を下ろし始めた。そのままカロンは柔かな表情のままバルサのところへ向かう、そしてその後ろを何故かラウラは胸を張り不機嫌そうに歩いていた。


「……ラウラか?…なにやっているんだ、お前は?」バルサが前へ出ると不思議な顔で聞いてきた。


「ん〜、なに?って迎えに来たんです!バルサさんを!」そんなバルサを気にもせず不機嫌そうに答えるラウラ。


「俺を?」


「そうです!!ルイス様に言われて様子見がてら迎えに来たら、いきなり切りつけられるし! 危うく死ぬところでしたよ」


「いやぁ〜、間違えてしまいました…面目無い」カロンは申し訳なさそうにラウラとバルサに頭を下げている。


「いや、迎えに来たのならなんで林の中に居たんだ?」バルサがいとも当たり前のことを聞いてきた。


「はぁ? 馬車が壊れてて様子がおかしいから盗賊にでも襲われたのかと思ったのよ、あんたの姿も見えなかったし!」


「いやぁ、剣を持ちながら木の上に隠れていたからかなり怪しかったですよぉ〜」


「いやいや、そもそも私に気がつけるのはカロンくらいでしょう!? 普通なら気がつかないわよ……はぁ」呆れた感じでため息まじりに話すラウラ。


「えぇ?だってラウラさんの声が聞こえましたよぉ『あ』だか『な』だか…」カロンのその言葉で大事なことを思い出すラウラ。


「そうだ!! どぉーーして、エリサさんがここにいるの??」そう言ってバルサに突っかかるラウラ。


「えっ…あ、いやそれはその…料理人?として……」バルサが困った顔になる。


「ん〜〜?」鋭い目つきでバルサを上目遣いで睨むラウラ。その時、荷馬車から隠れていたエリサが顔を出す、急に皆がざわつき始め自分の名前が出てきたので不思議に思ったらしい。そして、そのまま目の前にいたクロードに状況を聞いた。彼は真面目な人間なので安心して話かけられる。

「あの〜、大丈夫でしょうか?」


「あ、エリサさん。はいもう出てきて大丈夫ですよ、何事もなくおさまりました」


クロードのその言葉を聞いてエリサは一気に安心できた、すぐに振り向きエレナに声をかける。

「エレナちゃん、もう大丈夫だよ!」


「え?……ほんとう…ですか…?」エレナはまだ信じられない様子でこの暑い中、毛布にくるまって怯えている。


エリサがエレナの怯えるその手を取り馬車から降ろしてやると不意にラウラと目があった。


あ……たしか…ディベスで会った、変な人?


「あっーーーー!いたーーー!」エリサを見つけ大きな声を出して駆け寄るラウラ。その声にビックリしたエレナはまた慌てて荷馬車に駆け上がった。


「なにやっているんですか!?エリサさん?」


「え?何って…」何故この人がここに居るのか理解できないエリサ。全く状況が理解できない。(どうしてこの人と会う時は突然なんだ?しかもまた状況が良くわからない)


しかもこの状況の中、変な話し声が聞こえてきた。

「なぁ、おい…どうしてラウラ様とエリサさんが顔見知りなんだ?」

「ああ、どういうことだ?」

「やっぱり、あれじゃないか?」

「あの話は本当だったのか?」

「エリサさんって、やっぱり…」


「殿下の…」


「……愛人」ヒソヒソと話す声がエリサの耳に突き刺さるように聞こえてくる。



…いやぁ…聞こえているんですけどねぇ…

戸惑いながら周りを見ると全員がこちらを見ている…視線が痛い…

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