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酒場のエリサ  作者: smile
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必死なんです


直射日光がジリジリと焼けるように降り注ぐ午後、城にある書斎の窓からは生温かい風が湿気とともに入りこんでくる。額に滲んだ汗は頬を伝い、そのまま机の上にポタリと落ちる。

そんなことを気にもせずルイスは睨むように書類を見つめている。苦虫を噛み潰したような険しい顔をして机に向かっているところに一人の兵士が手紙を手渡しに入ってきた。


「ルイス殿下、文が届いております」


「あ、ああ」少し我に帰り疲れた顔でそれを受け取るルイス。


「…………」受け取った手紙に目を通すと次第に張り詰めていた気持ちが解けるように小さな吐息を吐いた。「ふぅ……………やっと来たか!」そして少し安堵した表情で椅子にもたれかかり天井を仰ぐように見つめたまましばらく考え込む。



「ラウラ!」


「はい」ルイスの呼ぶ声とほぼ同時に音も無くドアが開くと風のように静かに入ってくるラウラ。城の中にいるため他の兵士と同じく正装を着ている。ラージュにいた時とは違って立派な女騎士といった感じだ。ただ小柄なためか後ろ姿は少年騎士のようでもある。


「明日の午後バルサが帰ってくる今朝コンクスを発ったらしい、悪いがちょっと様子見がてら迎えに行ってやってくれ。ここまで来ていればもう安全だと思うがな…」


「…はーい」それほど重要な任務ではなかったのでぶっきらぼうに返事をするラウラ。


「なんだ? 嫌そうだな?」


「はぁ…まぁ…嫌ではないですけど…」最近の任務といったら誰かへ手紙を届けたり、買い物に行かされたり、人を呼んできてほしいなど、ほとんどパシリ扱いだ。 ルイスが城で政務の仕事をするときは毎度こんな感じになるのでウンザリしていたところだったので外へ出る任務はまだマシなほうだ。


「はは、頼むよ! あいつが来てくれないと書類がまとまらないんだ」


「わかってますよ〜! こんな書類、ちゃっちゃとまとめてまたラージュに連れて行ってください!」


「ん? お前…ラージュがそんなに気に入っていたのか?」


「…ええ!」ラウラは少し考えてから普段見せないような可愛らしい笑顔で返事をし、静かに部屋から出て行った。


そんなラウラを不思議に思ったが、今はそれどころではなかった。ルイスの提示した復興のために必要な支援の許可が下りないのだ。

「しかし、これで状況を変えることができれば良いんだが…」


部屋を出てラウラの背後にあるドアの奥から聞こえるルイスの独り言に「はぁ…」と小さく吐息を漏らし、つまらなそうな顔をする。

与えられる仕事が雑用ばかりというのも原因の1つだが、ここ最近のルイスは書斎に籠り思い詰めた表情ばかりしているので揶揄う事が出来ないのが非常につまらない。


「ぁあああああああ…………………………た・い・く・つ・だ〜〜」ルイスの書斎を出たラウラは歩きながら腕を高く伸ばし、周囲にいる兵士達の視線も気にせず大きな声で呟いた。


「あぁ……そう言えばアンネさんと飲んだハーブティー美味しかったなぁ…バリエにハーブティーの店なんてあったかなぁ〜?」小声で独り言を言いながら馬小屋へ向かうラウラ。


馬に乗りながら、せっかく城の外へ出るのだから寄り道してから行くことにしたラウラ。それ程重要な任務でもないしハーブティーの味を思い出したため無性に飲みたくなったのも理由の1つだ。




ファルネシオ国の中心であるバリエはとても平和だ、治安は良く東西南北に続く街道の中心になっているため経済も発展し、多種多様な民族や異文化が混じり合い新しい文化を生み出している。

それらを上手くまとめているのが現国王アルドフIII世とルイスの兄姉である。

第一皇子レミは次期国王としてすでに父アルドフIII世の代理で玉座に座ることも多く、ほとんどの政策の決議はレミ皇子によって決めるられている。

第二皇子リュカは財務管理に優れ、難しい政策であっても上手く予算を算出させレミの決める政策を支えている。

第一皇女ミレーユは対外交渉を得意とし近隣諸国や国内の貴族との繋がりを強固なものとしファルネシオ国をより安定した国へと成長させた。


そんな兄姉と比べられてしまうのが第三皇子ルイスだ、剣技に優れ紛争や野党の討伐などで数々の功績を残しているが国創りの政策に関しては全くの役立たずである。

特に平和になればなるほどルイスのような武芸を取り柄とする人間はそれ程重宝されないものだ。ゆえにバリエでは肩身の狭い思いをすることもある。

しかし裏表のない性格で人間味あふれ、多くの兵士から敬愛されるほど人徳があるのも事実だ。






………◇◇………


数日前のファルネシオ国、国王の書斎


………


「お前の言い分はわかった、支援はする。何が問題だ?」ルイスの兄である第一皇子レミは書斎で政務の仕事を行いながらルイスの話に耳を傾けている。姿勢正しく椅子に座るレミは整った顔立ちと赤茶色のサラサラな髪を持ち、あまり感情を表に出さないように静かに話すタイプの男だ。現国王アルドフIII世も並んで政務を行っているが、兄のレミが国王の座に就くのも時間の問題だと言われているためまずは兄の意見が重要視される。



「レミ兄さんの提示されている予算では復興など到底無理です、私は現状を見てきているのです。今一度ご検討を!」必死に訴えるルイス。


「……街の1/4が焼失または崩壊、それはわかった。で?死者はでていないのだろう?物資さえあればなんとかなろう?近隣のディベスや………ルヒアナは…少し遠いか…!? なら、ディベスの先にある町のポートからなら船で運べるだろ?」


いや、それはそうなのだが…それでは無理なのだ、まだ漁も再開できていない…あ、ラージュの魚は旨いんだ!あれをバリエで食べたくはないのか?


「知っている!! だが今は南の港町フルルからも魚は届いている。味はそんなに変わらないぞ」レミは呆れた表情で静かに口を開いた。



「いや、全く違うんだ!あそこで食べた料理は全くの別物なんだ…」


「はぁ…お前は食い物のために支援を求めているのか?」ため息混じりで呆れたように聞くレミ。


「いや、そうではなく…」思うように伝えることが出来ず言葉に詰まるルイス。それを見かねてか父アルドフIII世が話し始めた。その嬉しそうでもあり困ったようでもある顔は王としてというより子供にオモチャをねだられる父親のような顔をしていた。



「まったく……お前は小遣いをせびる子供のようだな、まず具体的な内容がわからんのだ。まず新しい領主をバルサにしたのだろう!? 賢い者が領主をやることは良い、お前にしては賢明な判断じゃ。 しかし、察するに治安はかなり悪かろう?今は盗人に略奪、それにまた別の海賊や盗賊の集団が入り込むには丁度いい状態じゃろうな、ラージュにいる兵士だけでは手が回らんだろう?人員はどれ位必要じゃ?どこから連れてくる? それに漁ができないのであれば何が必要なのじゃ?金があれば漁ができるのか?違うじゃろ?その金をどう使う?……それがわからなければ予算は出せんぞ」


「っ………」何も答えることが出来ず黙ってしまうルイス。そもそもルイスの提示した内容はラージュを発つときにバルサと相談して決めたおおよその金額だけだった。


「それとじゃ、何故たった1日半の戦いで街の1/4が焼け野原になる?どういう戦い方をすればそうなるのか…?………もう少し詳しく報告しなさい!」ルイスをたしなめるように父アルドフIII世が言う。


「……は、はい…」ルイスはぐうの音もでないといった感じで悔しそうにうに垂れることしかできなかった。


隣で兄のレミが甘い言葉をかける父を見て「はぁ」と仕方なさそうに吐息を吐く。






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